噂の神社と私の秘密

下菊みこと

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優しい孤独な神様のお話

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「ねえ、知ってる?『見えない神社』の話」

「見えない神社?」

「あ、やっぱり知らないかぁ。りっちゃんは外で育ったもんね」

「お母さんはこっちの育ちだし、前から村に来たりはしてたけどね」

「もうみんなとお友達だもんねー」

お父さんが転勤することになって、ちょうどよくお母さんの地元に行くことになった。

お母さんの地元には元からたまに遊びには来ていたから、知り合いばかりで疎外感もない。

けれど、まだまだ知らないことはあるらしかった。

初めて聞く噂にとてもワクワクする。

「それで見えない神社って?」

「選ばれた人にしか参道も神社も見えないの!でもすごく景色が綺麗なところらしいよ」

「へー」

「行ってみたいよねー」

「でもちょっと怖いかもね!」

そんなことをダラダラ喋って帰宅。

帰宅した後は宿題をちゃちゃっと済ませて、自宅付近を散歩することにした。

今住んでいる家は、亡き祖母の遺したもの。

色々あったのだ、最近は。

私が謎の奇病にかかって、それが治療方法のわかっていない難病だと発覚して。

かと思えばなんの前触れもなく治って、けれどそれと引き換えのように祖母が亡くなって。

その後急に父の転勤が決まって、こっちに来て。

悲しくなったり、喜んだり、また悲しんだり。

本当に、色々あった。

「…あれ?」

色々考えながら歩いていたら、知らない道を見つけた。

この辺りの地理は把握してあったはずなんだけど。

「…行ってみようかな」

そっと知らない道を進んでみる。

しばらくすると大きな鳥居があった。

「…もしかして」

見えない神社?

「…失礼します」

そのまま、好奇心の赴くままに進んでみる。

ドキドキと心臓がなる。

そしてしばらくすると、白い曼珠沙華の花畑に出た。

「わぁ…!」

白い曼珠沙華自体、本物は初めてみる。

ましてやこんなに群生してるのはテレビでもみたことがない。

奥には立派なお社が見えた。

「綺麗…!」

「あれ?りっちゃん?」

ふと懐かしい声が聞こえた気がした。

振り向くと、神主さんみたいな格好の人。

「えっと、神主さんですか?」

「ん?ああ、そう見えるのか…そうだね、そういうことにしておこう」

「…?」

不思議な言い回しに首をかしげる。

「それで、この神社に参拝にきてくれたのかな?」

「えっと、知らない道が見えたから…」

「知らない道?そっか、ふーちゃんが君を連れて参拝にきたのはもっと小さな頃だったからね」

「ふーちゃん…おばあちゃんのこと?」

「そうだよ、りっちゃん」

神主さんは優しく笑う。

「ねえ、りっちゃん。少しふーちゃんの話を聞いていくかい?」

「え、いいの?」

「もちろん」

神主さんは話し出す。

「この神社は参拝客が少なくてね。けれどふーちゃんは昔からお小遣いを握りしめて遊びに来て、参拝してはその曼珠沙華を愛でていたよ」

「へえ」

「思春期って言うんだっけ?そういう時期になると恋の相談を私に持ちかけてね」

「…?」

ちょっと待った。

神主さんは何歳?

「ん。もう何千年と生きてるからなぁ」

「わあ、思考を読まれた」

「ふふ、ごめんごめん。でも、ふーちゃんと同じような反応だね」

「そうなんだ」

「怖がらないでくれるところ、好きだよ」

懐かしそうな神主さん。

いや、神様。

「神様はここでずっと一人なの?」

「ふーちゃんやりっちゃんみたいな子がいるから、一人でずっといるわけではないけど…まあ、一人でいる方が多いかな」

「そっかぁ…あ、おばあちゃんの恋愛相談って?」

「あ、話を戻すんだね。えっと、そう。ふーちゃんってば君のおじいさんと両片思いしてて、なんかこう…応援したくなっちゃう空気でさ」

「へー」

おじいちゃんと両片思いだったんだ。

「だから当たって砕けろってアドバイスしたら、ふーちゃんったらその日のうちにりっくんに告白してさ」

「あらぁ~!!!」

「可愛いよね二人とも!で、りっくんも素直になって晴れて二人はくっついてさ」

「うんうん」

「そして二人は結婚して、君のお母さんが生まれた。君のお母さんは残念ながら参拝客にはなってくれなかったけど、すくすく育ってね。君のおじさんとおばさんもそうだった」

そうなんだなぁ。

なんかいい話が聞けたな。

「でね、君が生まれた。君は新たな参拝客に選ばれた」

「へー」

「ふーちゃんが君を連れて来た時、私はりっちゃんと呼ばれた可愛い君を絶対守ろうと決めた」

「…」

「けれど君は村の外の子だった。私の加護は上手く働かなかった」

…続きを聞きたくないと、私の中の私が言った。

続きを聞くべきだと、私の中の私が言った。

どちらに従うべきか、私にはわからなかった。

「君は病を患った。私の加護が及ばなかったから。ごめんね」

「えっと」

「そしてふーちゃんは私に祈った。りっちゃんを助けて欲しいと」

「…」

「ふーちゃんは、その選択を後悔することは最期までなかったけど…こんな形でしか力を発揮できなかった自分が情け無い」

…つまり、おばあちゃんは。

私のために。

「だから、これからは私が守り続ける。そのためにりっちゃんをここに呼んだんだ…私が嫌いになったかな」

「ううん、嫌いにならないよ。助けてくれてありがとう」

「…」

「ただ、悲しいね」

「人も神も、ままならないものだよね」

「ね」

白い曼珠沙華が風に揺れた。

「この曼珠沙華はね、何代か前の参拝客が用意してくれたんだ」

「…」

「また会う日を楽しみに、だって。花言葉。私はそれに縋って今日も明日もここにいる」

「…」

「りっちゃん。どうか『健やかに』」

その言葉を受けて、身体が妙に温かくなった。

嫌な感じはない。

「加護?」

「そうだね」

「ありがとう」

「うん。りっちゃん、また会えるかな」

「今度はおいなりさんでも持ってこようか?」

「私はふーちゃんの作ってくれた卵焼きが好きだった」

「練習してみるね」

こうして、一日にして私にはたくさんの秘密ができた。

とりあえず毎日参拝には行く予定。
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