エステル家のお姫様は、今日も大切に愛される。

下菊みこと

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とある星の下での呟き

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人狼は、ヴァンパイヤを敵視する。

その理由は、彼ら人狼が古くよりヴァンパイヤの下僕…奉仕種族として生かされてきたから。

今は、ヴァンパイヤの力がなくとも自分達だけで生きていけるようになった魔族、人狼。

というより、ヴァンパイヤが三日月教の信徒という新たな奉仕種族を得て自分達は捨てられ、結果自立するしかなくなったのだが。

幸か不幸か、そのおかげで魔族の中での地位は上がったが、ヴァンパイヤに使役されていてある時理不尽に捨てられたという歴史は彼らにとっては重い。

「だが、ここまで来た」

一人の人狼が、呟いた。

長かった。ここまで来るのにこんなにも時間を有した。

それでも、我々人狼はここまできたのだ。

ヴァンパイヤと同じように、人間の少数民族を奉仕種族として取り込み力を蓄えることによって。

自分達を使うだけ使いあっさりと捨てた憎きヴァンパイヤ。それと同じ手段を用いて力を付けるというのは屈辱ではあったが、たしかに効率は良かった。おかげで今、三日月教というヴァンパイヤの奉仕種族にちょっかいをかけられるほどになったのだ。

「だが…それだけでは済まさない」

今まではちょっかいをかけて奉仕種族を減らす程度だった。

だが、ここからは全面戦争に打って出よう。

「これからは、人狼の時代だ。まだ魔族の上位に食い込む憎きヴァンパイヤどもを排して、我ら人狼が魔族の上位に入る時だ」

だが、そんなことを呟く彼の手は震えていた。

彼は未だに忘れられない。ヴァンパイヤの奉仕種族として生きてきた時代を。

そのヴァンパイヤに牙を剥く。その恐ろしさを押し隠せない。

それでも。

「これは我ら人狼の、一族の悲願。そして、満月教…今は星見教だったか。我らが信徒の望みでもある」

今更、後になんて引けない。

「新月教の伝説では、なぜか我ら人狼は満月の夜変身するとの話もあると聞くが…我ら人狼はいつだって、凶暴な狼の本性を引き出せる。そう…今日のような、満月ではない中途半端な月の夜にだって」

彼は、三日月を睨みつけた。

「星を見よ。憎き三日月教の奴らを、あの星に還せ。星を見よ。憎きヴァンパイヤを、あの星に飾れ」

彼は己を鼓舞する。

「さあ…全面戦争の、始まりだ」

魔族同士の戦い、その信徒達の戦い。

それが、彼の手で始まろうとしている。
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