エステル家のお姫様は、今日も大切に愛される。

下菊みこと

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ドラゴンの話

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一つの生命が誕生した。

神秘に包まれた北の果て、森の奥の大きな巣でドラゴンが卵を産んだ。

その卵が孵化した矢先、その成長を見守るはずだった母龍は命を落とした。

残された子龍は北の果ての森を彷徨って。

人間の味を、覚えてしまった。











「北の果ての森に迷い込んだ者たちが、帰ってこないらしい」

ジェイドがそう言えば、ナハトも頷いた。

「主が、北の果ての森にはしばらく近寄るなとおっしゃっていた」

可憐なアンリエットのためのお茶会には相応しくない話題だが、アンリエットは興味深そうに耳を傾けていた。

「北の果ての森で何かあったのでしょうか」

アンリエットの言葉に、ジェイドとナハトは首をひねる。

「そもそも、あの森は神秘に包まれた異世界も同然だ。まだ失われた聖域の方がマシだ。俺も、失われた聖域にはたまに遠征するがあの森には滅多に行かないぞ」

「何故そんなところに迷い込む人間が最近続出しているのか。そちらの方が気になるところだ」

「なるほど…」

アンリエットは紅茶を飲む。ジャンヌの淹れてくれた美味しいミルクティーにホッとする。

そこでルロワが手を挙げた。

「ぴゃっ」

「お、どうした?ルロワ」

「ルロワさんは、何故そんなに北の果ての森を警戒するのか不思議がっています」

ルーヴルナの通訳に、ジェイドは納得して頷いた。

「たしかに、知らなきゃ不思議だよな。あの森には、ドラゴンが住んでいると言われているんだ」

「ドラゴンが…」

「ああ。今では御伽噺の存在として語られているが、実際のところはるか昔は大陸全土に居たものだそうだ。今ではもう、北の果ての森にしか生息していないが」

アンリエットはキラキラと目を輝かせる。

「だから神秘に包まれた異世界、なのですね」

「…危険だから、アンリエットは行くんじゃないぞ?」

「はい、もちろんです」

心配そうな目を向けたジェイドに、アンリエットは微笑んだ。

「ならいいが」

「ところで、本物のドラゴンは本当に絵本に出てくるような見た目なのですか?」

「アンリエットが思っているよりはでかいだろうな」

「まあ!」

目を丸くするアンリエットに、ジェイドは続ける。

「ドラゴンは、すごくでかい。北の果ての森にいるドラゴンはおそらくホワイトドラゴンだろうと言われているが、白い鱗に青い瞳でとても神秘的な見た目だ」

「わあ…!」

「だが、その美しさからは想像もつかないほど食欲が旺盛だ。俺たち人間が近付けば、間違いなく食い殺される。特に、一度人の味を覚えたドラゴンならば尚更な」

ジェイドのその説明に、アンリエットは身震いした。

「…まあ、北の果ての森に近寄らなければいいだけの話だ。そこまで警戒は必要ないさ」

ジェイドの言葉に、アンリエットはこくこくと頷いた。
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