49 / 62
ドラゴンの話
しおりを挟む
一つの生命が誕生した。
神秘に包まれた北の果て、森の奥の大きな巣でドラゴンが卵を産んだ。
その卵が孵化した矢先、その成長を見守るはずだった母龍は命を落とした。
残された子龍は北の果ての森を彷徨って。
人間の味を、覚えてしまった。
「北の果ての森に迷い込んだ者たちが、帰ってこないらしい」
ジェイドがそう言えば、ナハトも頷いた。
「主が、北の果ての森にはしばらく近寄るなとおっしゃっていた」
可憐なアンリエットのためのお茶会には相応しくない話題だが、アンリエットは興味深そうに耳を傾けていた。
「北の果ての森で何かあったのでしょうか」
アンリエットの言葉に、ジェイドとナハトは首をひねる。
「そもそも、あの森は神秘に包まれた異世界も同然だ。まだ失われた聖域の方がマシだ。俺も、失われた聖域にはたまに遠征するがあの森には滅多に行かないぞ」
「何故そんなところに迷い込む人間が最近続出しているのか。そちらの方が気になるところだ」
「なるほど…」
アンリエットは紅茶を飲む。ジャンヌの淹れてくれた美味しいミルクティーにホッとする。
そこでルロワが手を挙げた。
「ぴゃっ」
「お、どうした?ルロワ」
「ルロワさんは、何故そんなに北の果ての森を警戒するのか不思議がっています」
ルーヴルナの通訳に、ジェイドは納得して頷いた。
「たしかに、知らなきゃ不思議だよな。あの森には、ドラゴンが住んでいると言われているんだ」
「ドラゴンが…」
「ああ。今では御伽噺の存在として語られているが、実際のところはるか昔は大陸全土に居たものだそうだ。今ではもう、北の果ての森にしか生息していないが」
アンリエットはキラキラと目を輝かせる。
「だから神秘に包まれた異世界、なのですね」
「…危険だから、アンリエットは行くんじゃないぞ?」
「はい、もちろんです」
心配そうな目を向けたジェイドに、アンリエットは微笑んだ。
「ならいいが」
「ところで、本物のドラゴンは本当に絵本に出てくるような見た目なのですか?」
「アンリエットが思っているよりはでかいだろうな」
「まあ!」
目を丸くするアンリエットに、ジェイドは続ける。
「ドラゴンは、すごくでかい。北の果ての森にいるドラゴンはおそらくホワイトドラゴンだろうと言われているが、白い鱗に青い瞳でとても神秘的な見た目だ」
「わあ…!」
「だが、その美しさからは想像もつかないほど食欲が旺盛だ。俺たち人間が近付けば、間違いなく食い殺される。特に、一度人の味を覚えたドラゴンならば尚更な」
ジェイドのその説明に、アンリエットは身震いした。
「…まあ、北の果ての森に近寄らなければいいだけの話だ。そこまで警戒は必要ないさ」
ジェイドの言葉に、アンリエットはこくこくと頷いた。
神秘に包まれた北の果て、森の奥の大きな巣でドラゴンが卵を産んだ。
その卵が孵化した矢先、その成長を見守るはずだった母龍は命を落とした。
残された子龍は北の果ての森を彷徨って。
人間の味を、覚えてしまった。
「北の果ての森に迷い込んだ者たちが、帰ってこないらしい」
ジェイドがそう言えば、ナハトも頷いた。
「主が、北の果ての森にはしばらく近寄るなとおっしゃっていた」
可憐なアンリエットのためのお茶会には相応しくない話題だが、アンリエットは興味深そうに耳を傾けていた。
「北の果ての森で何かあったのでしょうか」
アンリエットの言葉に、ジェイドとナハトは首をひねる。
「そもそも、あの森は神秘に包まれた異世界も同然だ。まだ失われた聖域の方がマシだ。俺も、失われた聖域にはたまに遠征するがあの森には滅多に行かないぞ」
「何故そんなところに迷い込む人間が最近続出しているのか。そちらの方が気になるところだ」
「なるほど…」
アンリエットは紅茶を飲む。ジャンヌの淹れてくれた美味しいミルクティーにホッとする。
そこでルロワが手を挙げた。
「ぴゃっ」
「お、どうした?ルロワ」
「ルロワさんは、何故そんなに北の果ての森を警戒するのか不思議がっています」
ルーヴルナの通訳に、ジェイドは納得して頷いた。
「たしかに、知らなきゃ不思議だよな。あの森には、ドラゴンが住んでいると言われているんだ」
「ドラゴンが…」
「ああ。今では御伽噺の存在として語られているが、実際のところはるか昔は大陸全土に居たものだそうだ。今ではもう、北の果ての森にしか生息していないが」
アンリエットはキラキラと目を輝かせる。
「だから神秘に包まれた異世界、なのですね」
「…危険だから、アンリエットは行くんじゃないぞ?」
「はい、もちろんです」
心配そうな目を向けたジェイドに、アンリエットは微笑んだ。
「ならいいが」
「ところで、本物のドラゴンは本当に絵本に出てくるような見た目なのですか?」
「アンリエットが思っているよりはでかいだろうな」
「まあ!」
目を丸くするアンリエットに、ジェイドは続ける。
「ドラゴンは、すごくでかい。北の果ての森にいるドラゴンはおそらくホワイトドラゴンだろうと言われているが、白い鱗に青い瞳でとても神秘的な見た目だ」
「わあ…!」
「だが、その美しさからは想像もつかないほど食欲が旺盛だ。俺たち人間が近付けば、間違いなく食い殺される。特に、一度人の味を覚えたドラゴンならば尚更な」
ジェイドのその説明に、アンリエットは身震いした。
「…まあ、北の果ての森に近寄らなければいいだけの話だ。そこまで警戒は必要ないさ」
ジェイドの言葉に、アンリエットはこくこくと頷いた。
10
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる