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久しぶりに会うお兄様
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お父様が、そして正妻であるお義母様が馬車の事故で亡くなられた。
そんな話が耳に入ったのは、朝早くのことでした。別邸の使用人達が朝から慌ただしく、耳を澄ますとそんなことを言っていたのです。
公爵家の爵位はお兄様が継ぐことになったそうです。といっても、元々お兄様は嫡男ですし、最近爵位を継ぐための準備を進めていてあと数日で爵位を継ぐ予定だったので問題はないそうです。
…お兄様は、私のことを覚えていてくださるでしょうか。大きくなっても私を心配しては別邸に来て私に会わせろと毎日大騒ぎしていたお兄様は、このところ急に別邸に来なくなっていました。
もちろん爵位継承のために忙しかったのはわかっています。これから公爵になるお兄様は今までのように私を甘やかすことなどないというのもわかっています。ただ、一目でいいから、政略結婚でここから離れる前にお会いしたいのです。あの頃、妾の子である私を可愛がってくれたことに対する感謝を私の言葉で伝えたいのです。
…なんて、やっぱり過ぎた願いでしょうか。
そんなことを考えていたら、いつも詰ってくる侍女が顔色を悪くしてこちらに近寄ってきました。どうしたのでしょうか?大丈夫でしょうか?
「エレオノール様、お兄様がお呼びです」
「…え?」
私はその後、急いで身支度を整えました。お兄様は既に別邸の中庭で待っているとのことです。今まででしたら別邸の中庭には絶対に入れなかったお兄様ですが、今のお兄様は当主。問題なく案内されたようです。私も中庭に向かいます。ずっと監禁されていたので、中庭に行くのも本当に久しぶりです。
「…お兄、様?」
お兄様はすっかり大人の男性になっていました。目鼻立ちのはっきりした顔は、幼さが抜けてとってもとっても格好良いです。身内贔屓無しに素敵です。背丈も高くなって、程よく筋肉もついて、とっても見目麗しいです。
「エレナ…エレナ!」
お兄様は私を見つけると走り寄ってきました。そして私を抱きしめようとしましたが…私は、お兄様が伸ばした手に思わず身を竦めてしまいました。ずっとずっと、誰からも詰られ暴力を振るわれてきた私は、自分が思っている以上に過敏になっていたようです。優しいお兄様が、私を心配してくれていたお兄様が私に何かをすることなどあり得ないのに、怖がってしまうなんて…最低です。
「お、お兄様…あの…ごめんなさい…」
私自身の情け無さに涙が溢れそうになり、ぎゅっと目をつぶって堪えます。お兄様は中途半端に伸ばした手を引っ込めたらしく、代わりに地を這うような声で言いました。
「…誰にやられた?」
「え?」
「手を伸ばされて怯えるほど、暴言や暴力を振るわれていたんだろう。誰にやられた。言え」
お兄様は怖い顔をしていました。ああ、お兄様に嫌われてしまったと余計に泣きたくなりましたが、ぐっと涙を堪えて正直に答えます。
「…暴言は使用人達全員から、暴力は家庭教師の先生からです」
「嘘です!お嬢様、何をおっしゃるのですか!」
侍女が叫びます。また私はびくっとしてしまいます。情け無い…。
「お前…俺の…私の妹が嘘を吐いたと言うのか?」
お兄様が再度手を伸ばして私を抱きしめてくれました。私はまたもびくっとしてしまいましたが、優しく腕に閉じ込められて少しほっとしました。
「ぼ、坊っちゃま…」
「私はもう当主だが?」
「…旦那様、お嬢様はその、被害妄想が激しく…病気の療養のために部屋から出てはいけないと言われていたのを、閉じ込められたと思い…何気ない言葉にも過敏に反応されてですね…」
「…」
お兄様が私を抱きしめる力が強くなります。
「そうか」
「は、はい、そうなのです!」
「そんなに死にたいのか」
「え?」
お兄様が剣を抜いたのが分かりました。片手で私を抱きしめ、片手で剣を侍女に突きつけます。
「私の可愛い妹は優しい子だ、正直な子だ。エレナがそんな嘘を吐くことはないし、ましてや被害妄想などあり得ない。いや、もしかしたら今はお前達の行いのせいで過敏になっているかもしれないがな、それは私が癒していく。…お前達別邸の使用人と家庭教師には追って沙汰を下す。覚悟しておくんだな」
「そんな、旦那様!お嬢様はただの妾の子なのですよ!大奥様から大旦那様を奪った女狐の産んだ子なのです!大奥様がどれだけ泣いて過ごしたかご存知のはずでしょう!」
「だからわざわざ母上の侍女から外れてエレナの侍女になってまで、エレナを傷つけ続けたのか。それを母上に嬉々として伝えていたのか。頭がおかしいんじゃないか?」
「なっ」
「エレナを傷つける奴は私が許さない。もう、この家の当主は私だ。父上も母上もいない。自分の天下は終わったことを、自覚するんだな」
「…っ!」
お兄様は私をお姫様抱っこして、別邸から本邸に向かいました。私は、本邸の私のために設えたという部屋のベッドの上に寝かされました。その間、別邸の使用人達からは青ざめた悲鳴が、本邸の使用人達からは何故か温かく優しい視線が送られてきました。私はこれからどうなるのでしょうか。
そんな話が耳に入ったのは、朝早くのことでした。別邸の使用人達が朝から慌ただしく、耳を澄ますとそんなことを言っていたのです。
公爵家の爵位はお兄様が継ぐことになったそうです。といっても、元々お兄様は嫡男ですし、最近爵位を継ぐための準備を進めていてあと数日で爵位を継ぐ予定だったので問題はないそうです。
…お兄様は、私のことを覚えていてくださるでしょうか。大きくなっても私を心配しては別邸に来て私に会わせろと毎日大騒ぎしていたお兄様は、このところ急に別邸に来なくなっていました。
もちろん爵位継承のために忙しかったのはわかっています。これから公爵になるお兄様は今までのように私を甘やかすことなどないというのもわかっています。ただ、一目でいいから、政略結婚でここから離れる前にお会いしたいのです。あの頃、妾の子である私を可愛がってくれたことに対する感謝を私の言葉で伝えたいのです。
…なんて、やっぱり過ぎた願いでしょうか。
そんなことを考えていたら、いつも詰ってくる侍女が顔色を悪くしてこちらに近寄ってきました。どうしたのでしょうか?大丈夫でしょうか?
「エレオノール様、お兄様がお呼びです」
「…え?」
私はその後、急いで身支度を整えました。お兄様は既に別邸の中庭で待っているとのことです。今まででしたら別邸の中庭には絶対に入れなかったお兄様ですが、今のお兄様は当主。問題なく案内されたようです。私も中庭に向かいます。ずっと監禁されていたので、中庭に行くのも本当に久しぶりです。
「…お兄、様?」
お兄様はすっかり大人の男性になっていました。目鼻立ちのはっきりした顔は、幼さが抜けてとってもとっても格好良いです。身内贔屓無しに素敵です。背丈も高くなって、程よく筋肉もついて、とっても見目麗しいです。
「エレナ…エレナ!」
お兄様は私を見つけると走り寄ってきました。そして私を抱きしめようとしましたが…私は、お兄様が伸ばした手に思わず身を竦めてしまいました。ずっとずっと、誰からも詰られ暴力を振るわれてきた私は、自分が思っている以上に過敏になっていたようです。優しいお兄様が、私を心配してくれていたお兄様が私に何かをすることなどあり得ないのに、怖がってしまうなんて…最低です。
「お、お兄様…あの…ごめんなさい…」
私自身の情け無さに涙が溢れそうになり、ぎゅっと目をつぶって堪えます。お兄様は中途半端に伸ばした手を引っ込めたらしく、代わりに地を這うような声で言いました。
「…誰にやられた?」
「え?」
「手を伸ばされて怯えるほど、暴言や暴力を振るわれていたんだろう。誰にやられた。言え」
お兄様は怖い顔をしていました。ああ、お兄様に嫌われてしまったと余計に泣きたくなりましたが、ぐっと涙を堪えて正直に答えます。
「…暴言は使用人達全員から、暴力は家庭教師の先生からです」
「嘘です!お嬢様、何をおっしゃるのですか!」
侍女が叫びます。また私はびくっとしてしまいます。情け無い…。
「お前…俺の…私の妹が嘘を吐いたと言うのか?」
お兄様が再度手を伸ばして私を抱きしめてくれました。私はまたもびくっとしてしまいましたが、優しく腕に閉じ込められて少しほっとしました。
「ぼ、坊っちゃま…」
「私はもう当主だが?」
「…旦那様、お嬢様はその、被害妄想が激しく…病気の療養のために部屋から出てはいけないと言われていたのを、閉じ込められたと思い…何気ない言葉にも過敏に反応されてですね…」
「…」
お兄様が私を抱きしめる力が強くなります。
「そうか」
「は、はい、そうなのです!」
「そんなに死にたいのか」
「え?」
お兄様が剣を抜いたのが分かりました。片手で私を抱きしめ、片手で剣を侍女に突きつけます。
「私の可愛い妹は優しい子だ、正直な子だ。エレナがそんな嘘を吐くことはないし、ましてや被害妄想などあり得ない。いや、もしかしたら今はお前達の行いのせいで過敏になっているかもしれないがな、それは私が癒していく。…お前達別邸の使用人と家庭教師には追って沙汰を下す。覚悟しておくんだな」
「そんな、旦那様!お嬢様はただの妾の子なのですよ!大奥様から大旦那様を奪った女狐の産んだ子なのです!大奥様がどれだけ泣いて過ごしたかご存知のはずでしょう!」
「だからわざわざ母上の侍女から外れてエレナの侍女になってまで、エレナを傷つけ続けたのか。それを母上に嬉々として伝えていたのか。頭がおかしいんじゃないか?」
「なっ」
「エレナを傷つける奴は私が許さない。もう、この家の当主は私だ。父上も母上もいない。自分の天下は終わったことを、自覚するんだな」
「…っ!」
お兄様は私をお姫様抱っこして、別邸から本邸に向かいました。私は、本邸の私のために設えたという部屋のベッドの上に寝かされました。その間、別邸の使用人達からは青ざめた悲鳴が、本邸の使用人達からは何故か温かく優しい視線が送られてきました。私はこれからどうなるのでしょうか。
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