妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ

下菊みこと

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久しぶりに会う妹

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やっぱりあの子は、可愛い俺の妹だ。

私はマクシミリアン・セヴラン。両親が不慮の事故に遭い、予定より数日早く公爵家の当主となった。まあ、手続きもほぼ終わっていたため面倒はなかった。

問題はただ一つ。私の可愛い妹、エレナの処遇のみ。一応、エレナは将来政略結婚に使うため妾の子ということは伏せられているし、病弱ということにされているのであの別邸から救い出せさえすれば対外的には問題ないだろう。また、どこまで進んでいるかはわからないが淑女としての教育は受けていると小耳に挟んでいる。

だが…問題は多分、あの子の心のケアになるだろう。おそらく…いや、間違いなく病弱なんて嘘だ。それなのに別邸に監禁されるだなんて、活発なあの子にはストレスだっただろうに。それに、あの子の母が亡くなった後別邸の使用人は一気に変わった。心優しいあの子を大切に思っていた使用人達は一斉に解雇され、私の母の息がかかった使用人達が配属された。孤立無援の状況で、あの子は今までどう過ごしてきたのだろう。

とにかく、私はここ最近爵位を継ぐにあたって色々準備を進めてきた。父と母は爵位を私に譲って飛び地にある田舎の領地に移り住む予定だったので、母には秘密にしていたが密かに本邸の一室を妹のための部屋として用意していた。今のあの子の趣味がわからないため、あの子の母に充てられていた部屋を思い出しながら、高級ながらも温かみのある上品な部屋を意識してみた。気に入ってくれたら嬉しいと思う。

本邸の使用人達は妹の境遇を可哀想に思ってくれる者も多かったし、私がいつも妹を気にかけていて、最近では爵位を継ぐにあたって妹のためにと尽力する姿を見て「ならば我々も」と妹を迎え入れる気になってくれる者も多かった。母の使用人達は例外だったが、母に付いて田舎の領地に移り住むはずだったので問題はなかったのだが…。まあ、こうなった以上紹介状だけ渡して解雇するしかなかった。要らないし。解雇された母の使用人達にはそれなりの手切れ金も渡したのだから問題はないだろう。

昨日の突然の訃報から慌ただしく過ごしていたが、やっとその辺りも含めてやることが全部片付き、妹を別邸に迎えに行く。妹の侍女が顔色を悪くして私を迎え入れた時点で、妹の境遇はおそらく私が思っている以上に悪いと悟った。

別邸の中庭で妹を待つ。やっと現れた妹は、何年も会えなかった私をお兄様と呼んでくれた。

やっと出会えた妹は、とても美しく成長していた。まだあどけなさは残るものの、あの子の母に良く似て目鼻立ちのはっきりとした美少女になっていた。ただ、線が細すぎる。ちゃんと食事を摂っているのか心配になるような細さだ。本邸に連れて帰ったらたくさん食べさせよう。あと背が小さい。うん、肉をたくさん食べさせよう。ただ、髪や肌や爪はとても良く手入れされているようで美しい。その点に関しては使用人達の功績を認めてもいい。

だが、そんなことは二の次だった。私は、気付けば妹に走り寄り、あの頃のように抱きしめようと手を伸ばしていた。

あの頃のように無邪気に喜んで受け入れてくれるはずの妹は、しかしその手を拒絶した。身を竦めて怯えていた。そしてなにより、そんな反応をしてしまった自分を恥じるように、責めるように目を閉じて俯いた。私は伸ばした手を引っ込めた。本当は心配することなど何もないとその頭を撫でてやりたかったが、今のこの子には負担だろう。

その代わり、誰にやられたかを聞いた。本当ならもっと優しく聞いてやりたかったが、今の俺…私には無理だった。妹は、使用人達から暴言を吐かれ、家庭教師からは暴力まで振るわれたらしい。勇気を出して告白してくれた妹に、たかだか侍女風情が声を荒らげる。妹はそれに対してまた身を竦めて怯えていた。…本当に、気に食わない。妹がびくりと震えるのも構わず抱き寄せる。私に対しても怖がっていた妹は、しかし優しく抱きしめられてほっとしているようでもあった。

妹の言葉を被害妄想扱いした侍女に、剣を突きつけると面白いほど顔を歪める。妹は何年もお前達にこれ以上の恐怖を与えられてきたというのにな。

馬鹿な侍女に言いたいだけ言うと、妹を抱えて本邸に戻る。妹に部屋を用意したことを伝えて、その部屋のベッドに妹を下ろすと、妹はどこか落ち着かない表情を見せながらもほっとしているようだった。また、部屋の内装も気に入ってくれたらしくか細い声でお礼を言われた。…活発な子だったのに、ここまで壊されてしまうなんて。可哀想な、可愛いエレナ。俺が今度こそ、お前を守るよ。
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