妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ

下菊みこと

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女医、リナリー

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屋敷に着きエレナを寝室のベッドに横たえると、ちょうどのタイミングでリナリー女医がきた。私は出来ることがないので、エレナの病状だけ伝えて部屋の外に出る。ナタリアがエレナの側に付いているし、心配ないだろう。そう思いつつも心配で、結局はエレナの寝室の近くをうろうろするはめになった。

ー…

「ううっ…お嬢様、私が付いていながらごめんなさい…っ」

「主人が体調を崩した時には、本人が大丈夫と言い張っても心を鬼にして休ませて医者に見せるのも大事よ」

「おっしゃる通りです…このナタリー、もう二度と繰り返しません!お嬢様には無理はさせません!」

「ええ、それがいいわ。特にエレオノール様は人に甘えるのが苦手そうだもの。こんなに美人なのに、損よね」

「本当に…ですから、こちらから甘やかして差し上げなければ!」

「そうね。応援するわ」

言いながら、私は血液検査の準備をする。歩き方がふらふらとして、意識は上の空。色々な可能性はあるけれど、私は多分魔力膨張症だと思う。顔色も悪くないし、熱もないから。

魔力膨張症。普通の人間は生まれ持った魔力が全てなのだけど、たまに後天的に膨大な魔力を得る人がいる。その場合、慣れてないせいで魔力のコントロールが難しいため体内に魔力が貯まり続けて体調を崩す。早めに対処すれば全く問題ないので、あとはコントロールの仕方を学んでいただければそれでいい。たまに、なんらかの事情で生まれ持った膨大な魔力を持て余して発症する人もいるけれど。

「じゃあ、エレオノール様の血液検査をします。まあ、正しくは血液中の魔力濃度を調べるのだけど。ナタリーさんは血は平気?目を逸らしても良いのよ」

「い、いえ、頑張ります!」

「そう。苦手なのね。頑張って」

「は、はい!」

血液を採取して、特殊な機械に通す。しばらく待つと、検査結果が出る。やっぱり、血液中の魔力濃度は異常に高い。魔力膨張症で間違いない。

「原因がわかりました」

「本当ですか!?お嬢様は大丈夫ですか!?」

「ええ。魔力膨張症よ」

「あ、なら魔力を少し使えば!」

「多分少しじゃなくてたくさん使わないとダメだけど、すぐ良くなるわ」

「よかったぁっ!先生、ありがとうございます!」

「ふふ。とりあえず応急処置として、魔石を作るわ。セヴラン公爵様に許可を取ってもらえるかしら」

「はい!」

ナタリーさんは元気に飛び出す。セヴラン公爵様は近くにいたらしく、一生懸命に説明して許可を得ようとするナタリーさんが可愛らしい。

魔石は、魔力を凝縮することで作られる宝石のような美しさを持った石。高額で売買される。一つ作るのにもかなりの魔力を消費するので、価値は高いがそれを作るために魔力欠乏症になる人が多く、基本的には魔力膨張症の対策の医療行為としてしか作るのを認められない。保護者の同意も必要。

「先生!やっていいと許可をいただきました!」

「なら、やるわね」

エレオノール様の手の指先に機械をいくつも取り付けて、準備が出来たらスイッチを入れる。指先から魔力が抜けて行き、綺麗な魔石が三つ出来た。これだけ魔力を使えば魔力膨張症の応急処置としては充分だ。あとは、本人が魔力のコントロールを覚えるだけでいい。

「これでもう大丈夫です。よかったわね、ナタリーさん」

「はい!ありがとうございます、先生!」

最後にセヴラン公爵様に結果をご報告して、報酬として三つの魔石をすべていただき帰る。普通なら一つか二つは公爵家にお返しすべきなのだが、さすがはセヴラン公爵様。懐が深い。これで幼馴染と一緒にもっと良い生活が出来る。女二人だけの生活は、意外と大変なのだ。偏見とか、男関係とか、色々と。だから、お金は相当大事。この魔石を売ったお金も、大切に…でも、思い切って使うつもり。ああ、本当に有難いなぁ。

それにしても、エレオノール様は本当に愛されていらっしゃる。セヴラン公爵様の溺愛ぶりは見ていればわかるほどだし、ナタリーさんにあんなに懐かれて、皇太子殿下との仲も今では私の耳にすら入ってくる。…良い方のようだし、幸せになっていただきたいなぁ。
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