妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ

下菊みこと

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救助

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私はルーヴに魔力を回しその身体を大きくして背中に乗る。ルーヴは私が振り落とされるようなヘマはしないとわかっていて、全速力で走る。しばらく走ると洪水のせいで本来ならボートか何かが必要な状況が広がっていた。

夫婦から預かった家への地図は、夫婦には申し訳なくて言えなかったがこの大洪水では無意味だった。

それでも、ルーヴに魔力を回して上手いこと私を乗せたまま泳いでもらう。嗅覚を強化して夫婦の子供である少年を探し回る。まだ俺たちの魔力は保つ。大丈夫、助けられる。

そして、少年を見つけた。どうやって登ったのか、家の屋根の上で必死に服で作った旗を振っていた。俺を見つけて嬉しそうな泣きそうな顔をして、でも歯を食いしばって泣くのを耐えている。偉い。もう大丈夫だぞ。

ルーヴの上に少年を乗せて少年が落ちないようにしっかりと俺が支える。ようやく陸地に上がれた頃にはとうとう安堵の涙を流していたが見ないふりをしてやる。ルーヴは少年を気遣って控えめに走る。やっと我が家に着くと俺もホッとした。

少年を連れて夫婦の元へ行く。夫婦は涙を流してお礼を言う。少年は今度こそ声を上げてわんわん泣いて、両親から抱きしめられていた。…俺たちの親もこうであればよかったのにな、エレナ。いや、エレナの母君はそういう人だったか。

戻ってすぐにセバスチャンから状況を聞くが、良くはない。だが、セバスチャンは最大限出来る限りの指示を出してくれていた。被害は甚大だが、人命は守れている。良く頑張ってくれた。

ここからは私に出来ることをするだけだ。避難所に向かい病人と怪我人に治癒魔法を掛けて出来る限り多くを助ける。貴族に出来る、最大限の領民達への奉仕だ。

エレナには構ってやれなくて申し訳ないが、すぐにルーヴに乗って避難所に向かう。エレナはわかってくれているようで、微笑んで頷いてくれた。優しい妹に恵まれて幸せだ。

避難所で出来る限り多くの病人と怪我人に治癒魔法を掛ける。全員を救った頃には魔力はほとんど残っていなかった。あとはルーヴに分け与える分しかない。さてやることもやったし帰って他に出来ることをやらなければと思ったところで、避難所が騒がしくなった。

「誰か!この子を助けてください!」

明らかに死にそうな少女を抱き抱える少年。

「大切な妹なんです!泳いで陸地まで来たけど、身体の温度がすごく低くて!痙攣してて!」

そう言う少年も震えている。

「助けてください!誰か!誰か!」

みんなが俺を見る。俺にはもう魔力がない。見捨てるしかない。何もできない。

ルーヴは指示を待ち俺を見つめる。その目は、自分へ回す魔力を少女に使えと言っているようだった。

「ルーヴ…俺は…」

「お兄様ー!」

その時、聞こえるはずのない声が聞こえた。
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