妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ

下菊みこと

文字の大きさ
85 / 103

久しぶりに幼い頃の皇太子殿下を思い出す

しおりを挟む
異変に気付いたのはナタリアだった。

「旦那様!エル様の様子がおかしいのです!」

「なに?すぐに行く」

使い魔の異変は所有者の異変。エレナになにかあったのかとエルの様子を見に行く。

「エル様、大丈夫ですか?」

「みゅう…」

「…これ、魔力不足か?」

ということは、エレナからの魔力の供給が途切れているということになる。つまり。

「エレナの身になにかあったということか…」

「…え。お嬢様は大丈夫なんですか!?」

ナタリアの顔が青ざめる。

「エルが消えていないから、まだ大丈夫だ。所有者が…亡くなったりしたら、使い魔は消えるからな。エルが生きていれば大丈夫だ」

「そ、そうですか…」

ほっとしたような心配そうな複雑な表情のナタリア。エレナは使用人に恵まれたな。

「エル。応急処置で私の魔力を注ぐぞ」

「みゅう」

私の魔力を受け取ったエルは元気になった。

「とりあえず皇太子殿下に連絡を取って、エレナは…おそらく魔力封じでも受けているのだろうからそれをなんとかしないとな。セバスチャン」

「今すぐ魔力封じの魔道具の効力を打ち消すための、別の魔道具を探して参ります」

「頼んだ」

そんなことをしていたら皇太子殿下が血相を変えて屋敷に飛び込んできた。皇太子殿下も相当焦っているらしい。それでもなんとか冷静になろうとして、必死に考えを巡らせる皇太子殿下。

そんな皇太子殿下の指示を受ける。不甲斐ないと落ち込む皇太子殿下を慰めつつ指示通りに動く。

学園に馬車を出して、門番に事情を説明した。門番に案内されて職員室に真っ直ぐに向かい、もう一度事情を説明する。新校舎と旧校舎、体育館の鍵をお借りして、エルにエレナの匂いを探ってもらう。

「エレナはいそうか?」

「みゅう」

とりあえず新校舎の中を片っ端から探すが見つからない。エルも首を振る。

「新校舎は外れか。旧校舎に行くぞ」

「みゅう」

旧校舎に行くも、結果は同じだった。エルが悲しそうな顔をするので頭を撫でてやる。

「みゅう」

そこに皇太子殿下が現れた。お互い状況を確認し合い、エレナを探して体育館に行く。中に入るとエルが鳴き出した。そして真っ直ぐに倉庫に向かって飛ぶ。その様子に私と皇太子殿下はここにエレナがいるのだとすぐにわかった。

私は皇太子殿下の指示を受け倉庫の鍵を開ける。真っ暗なその中にはエレナがいた。マットの上でブランケットを掛けて、ぐったりしている。

エレナに駆け寄ると、意識はまだあった。そんなエレナに皇太子殿下は薬を飲ませる。

そして、私は魔力封じの魔道具の効力を打ち消すための、別の魔道具を使ってエレナを解放する。これでもう大丈夫だ。

そうすると、安堵からか泣き出すエレナ。お礼を言われてこちらもほっとする。

皇太子殿下は、多分自分のせいだと自分を責めているため少しバツの悪そうな表情をした。それでもすぐにエレナを安心させるように微笑んでエレナの涙を拭ってくれる。

屋敷に帰ろうと言うと、安心して眠ってしまうエレナ。エレナをお姫様抱っこして運ぶのは皇太子殿下の役目だった。屋敷に戻ってエレナを自室のベッドに寝かせる。

皇太子殿下はその後、私に懺悔する。こうなったのは自分のせいだと。私は大丈夫だと声を掛けるが謝られた。なので許すと答える。子供の頃のように皇太子殿下の頭を撫でる。こうしていると少し懐かしいな。

よく頑張りましたと褒める。少しだけ皇太子殿下の顔色が良くなる。やっぱり自分を追い込んでいたらしい。

そして皇太子殿下は、エレナに皇室の影をつけるという。エレナが目を覚ましたら直接言うらしい。あまり気負う必要はないと言えば、少し穏やかな表情を見せる皇太子殿下。エレナの目が覚めるまでは屋敷にいてくださるらしい。エレナもその方が安心できるだろう。かえって助かる。

ナタリアがすかさずエレナのベッドのすぐ近くに、二人分の椅子を置く。私と皇太子殿下はそれに腰掛ける。

私達はエレナが目を覚ますまで話をした。何か別のことに意識を逸らさないとなんとなく不安だった。その間にセバスチャンがリナリー女医を呼ぶ手配をしてくれて、リナリー女医が眠っているエレナを寝かせたまま診察してくれた。

「大丈夫ですよ、セヴラン公爵様。エレオノール様の体調は落ち着いています。応急処置も必要ありません。あとはゆっくり休んで体力を回復すればすぐに良くなりますよ」

「助かった。礼を言う」

「いえいえ。また何かありましたらすぐに呼んでください」

リナリー女医は帰って行った。エレナが大丈夫そうでほっと安心する。

「今のがエレナの主治医かい?信頼出来そうな人だね」

「ええ、口も堅いので安心して任せられます」

「それはいい。エレナをお嫁さんにもらったら、彼女をエレナのために皇宮に雇い入れようかな」

「彼女の幼馴染も腕の良い薬師のようです」

「なら、その人も雇い入れよう」

そんなことを話しているとだいぶ気が楽になった。なんだかんだで私もだいぶ気を張りつめていたらしい。

「エレナ、はやく目を覚ましてよ」

皇太子殿下がそう呟くと、それに応えるようにエレナの目が覚めた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...