妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ

下菊みこと

文字の大きさ
84 / 103

無事で良かった

しおりを挟む
僕はすごく後悔している。父上と母上の言うことを聞いておけばよかった。

放課後、エレナがいつまで待っても来ない。迎えにいくともう教室を出ていた。真面目なエレナが皇太子妃教育をさぼるなんてあり得ない。

まさか誘拐か?僕は自分が青ざめるのがわかった。とにかく落ち着いて、冷静にならないと。

僕はマックスの元へ急いだ。

「マックス!エレナは帰ってきていない!?」

「帰ってきていません!エルが魔力不足でぐったりしたのでエレナの兄である俺の魔力を与えました。エレナからの魔力の供給が止まっています!ただ、エルが消滅していないので無事だとは思いますが…」

とりあえずエレナ本人は無事なら良かった…本当によかった。はやく探し出してあげないと。でも、突然エルに魔力の供給が止まるなんて…何があった?

「本人は無事なのに魔力の供給が止まる…魔力封じか!魔力膨張症の危険があるな…一応エレナは父上から魔力膨張症の際に飲む薬は貰っている。僕は追加で父上から魔力膨張症の薬をもらってくるから、マックスはエレナを探して欲しい」

「もちろんです。エル、エレナの匂いを辿れるか?」

「みゅう!」

エルがいて本当によかった。エレナの無事はエルの存在で確認出来たし、匂いも追ってくれるし。

「じゃあ、僕は急いで皇宮に戻る。すぐに薬を持ってくるから。マックスはまずは学校内から探して欲しい。頼めるかい?」

「わかりました。私も急ぎます」

「頼んだよ。…ごめんよ、不甲斐ない皇太子で」

「何をおっしゃる。エレナの選んだ男です。今からでもエレナを救ってくださると信じていますよ」

「それはもちろんさ」

僕は急いで皇宮に戻る。父上と母上はすでに僕についている影から連絡を受けたらしく、魔力膨張症の薬を持ってきてくれた。

「父上、母上。やはり、お二人の言うことを聞くべきでした。エレナの自由を尊重するあまり、選択を間違えました。申し訳ございません」

「クリス。今はとりあえず余計なことはいいから、エレナを助けることだけを考えなさい。あとで幾らでもお話はできるからね」

「エレナはきっと心細い思いをしているはずです。母はクリスがエレナの心を救うのを信じていますよ」

「…はい。お任せください」

魔力膨張症の薬を預かって、急いで学園に戻る。マックスがちょうど旧校舎から出てきたところだった。

「皇太子殿下。魔力封じの魔道具の効力を打ち消すための、別の魔道具をセバスチャンから渡されたので持ってきました。これですぐにエレナを助けられます」

「君のところの使用人は本当に優秀だね」

「調べましたが、新校舎にも旧校舎にもエレナはいません。学内にいるとするなら、後は体育館くらいかと。学園には事情を話して鍵は預かっていますので、行きましょう」

「ありがとう。こっちは魔力膨張症の薬を預かってきた。すぐに対処できると思う」

「みゅう!」

体育館に向かう。中に入るとエルが鳴き出した。

「みゅう!みゅう!」

そして真っ直ぐに倉庫に向かって飛ぶ。その様子に僕とクリスはここにエレナがいるのだとすぐにわかった。

「マックス!」

「はい!」

マックスが倉庫の鍵を開ける。真っ暗なその中にはエレナがいた。マットの上でブランケットを掛けて、ぐったりしている。

エレナに駆け寄ると、意識はまだあった。そんなエレナに薬を飲ませる。

そして、マックスが魔力封じの魔道具の効力を打ち消すための、別の魔道具を使ってエレナを解放する。これでもう大丈夫だ。

そうすると、安堵からか泣き出すエレナ。お礼を言われたが、僕がエレナに影をつけることを反対したせいで起こったことなのでいたたまれない。

それでも、ここでそんなことを言っても仕方がない。エレナの涙を僕のハンカチで拭って、安心させるように微笑んだ。

生きていてくれてありがとう。これは紛れもなく本心だ。

お姫様抱っこでエレナを連れて帰り、マックスの屋敷に戻ってエレナを自室のベッドに寝かせる。

「マックス、こんなことになったのは僕の責任だ。本当にごめん」

「いえ。エレナも皇太子妃教育を受けている以上、覚悟はしていたでしょうから。大丈夫です」

「それでもごめん」

「…エレナが恨んでいないのに、私が皇太子殿下を恨むはずもありません。許しますよ」

マックスに、子供の頃のように頭を撫でられる。

「本当は皇太子殿下も不安でいっぱいだったのでしょう?よく頑張りましたね」

「…僕は自分が不甲斐ない」

「大丈夫です。皇太子殿下がエレナのために心を砕いたのは、私が誰よりも知っていますよ。皇太子殿下は本当によくやってくださいました」

こういう時にはやっぱり、マックスが幼馴染でよかったと思う。

「…マックス。エレナに皇室の影をつけようと思う。エレナにも目が覚めたら直接僕が言う」

「ええ。わかりました。あまり気負う必要はありませんからね」

「ありがとう、マックス。エレナの目が覚めるまでお邪魔していいかな」

「もちろんです」

すかさずエレナのベッドのすぐ近くに、二人分の椅子が置かれた。僕とマックスはそれに腰掛ける。

「エレナはいつも、笑顔で皇太子殿下とのお茶会の話をするんです。皇太子妃教育を受けるのも楽しいようで、いつもご機嫌で帰ってくるのですよ」

「ふふ、エレナは本当に新しいことを知るのが好きだよね。お茶会の時なんて好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、苦手なこと。なんでも聞いてくるよ。それだけ僕に興味を持ってくれてると思うと、悪くはないけどね」

「うちの妹のそういうところがとても可愛いと思います」

「僕もそう思うよ」

僕達はエレナが目覚めない焦りを会話で誤魔化した。エレナにはやく目を開けて欲しい。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...