婚約破棄されたので、貴方の弟さんと婚約しますね

下菊みこと

文字の大きさ
1 / 1

王太子には後悔しか残らなかった

しおりを挟む
「ベルティーユ・オルフェウス!貴様との婚約は破棄させてもらう!そして今ここで、私の愛しいニコル・ペトロニーユとの婚約を宣言する!」

学園の卒業パーティーで、いきなりベルティーユに婚約破棄を言い渡すのは婚約者である王太子。対するベルティーユは公爵令嬢であるが、実はこの展開を覚悟していた。なぜなら前世の記憶によって、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知っていたからである。

前世で毎日のようにこの乙女ゲームをプレイして、いつも王太子ルートを選んでいたベルティーユ。ベルティーユは本気で王太子が好きだった。二次元とわかっていても、本気で恋をしていた。

それを見た異世界の神があまりの彼女の執着ぶりに一周回って感服し、彼女の次の人生を王太子の婚約者にしたのだ。だが、哀しきかな彼女が望んでいたのはヒロイン転生。彼女はヒロインに向ける柔らかな笑顔、花を愛でるような優しい声、温かな指先、それらを求めていたのだが。

「承知いたしました」

えっ、と驚くニコルと王太子。

「ま、待て、貴様の断罪を…」

「婚約者として至らなかった私を身分剥奪の上国外追放されるのでしょう?」

またしてもえっ、と情け無い表情。仮にも王太子とその婚約者がしていい表情ではない。

「そ、そうだ。だが貴様への断罪は婚約者として至らなかったからだけではなく、ここにいるニコルへの嫌がらせの結果だ!」

「そうです!最後に一言謝ってください!」

「あら、それはごめんあそばせ。だって私、婚約者であったのにも関わらず、ニコル様に向けるような愛を向けていただいたことが一度もないんですもの」

せめて。せめてニコルと出会う前に、少しだけの間でもその愛を向けて貰えればベルティーユは我慢できたのだ。喜んで身を引いたし、なんなら本当に悪役令嬢を演じてもよかったとベルティーユは心から言える。だが王太子は、ベルティーユとはあくまでも政略結婚だと割り切っていた。愛を育むつもりなんてなかったのだ。例えヒロインによる魅了魔法にかかっているとしても、もう情状酌量の余地もない。

「ふん!だからといってニコルに嫌がらせを行うなど、公爵令嬢として恥ずかしくないのか!」

「勘違いしないでくださいませ」

ベルティーユの声は冷たい。絶対零度の声に王太子も固まる。

「私は嫌がらせなどただの一度も行っておりませんわ。証言も証拠もありましてよ。ニコル様が事前に王太子殿下に対し私に虐められたと証言された日、私はいつも早くに帰って王城で王太子妃教育を受けていましてよ」

「なっ…な、」

王太子が口を開く前に終わりにすることにしたベルティーユ。

「では、国王陛下。裁定を。」

「っ!?…父上!?」

ベルティーユの王太子に対する告発を受け、別室で待機し今までの様子を投影魔法を使ってみていた国王陛下がパーティー会場に入ってくる。

「バカ息子め!一体何をしておる!」

「わ、私は…っ!私はただ、婚約者として相応しくないベルティーユを断罪し、愛するニコルを婚約者としようと!」

来るはずのなかった、怒り心頭気味の父王にややたじろいだものの、すぐにそう切り返す王太子。

「それがバカだといっておる!簡単に魅了魔法なんぞにかかりおって!大体ベルティーユ嬢以上に王太子妃に相応しいものはいないだろうが!」

父王のあまりの怒りにちょっと冷静になったのか、王太子は魅了魔法、という言葉に反応した。

「魅了魔法?」

「ああ、そうだ!お前はそこな娘を愛してなどいない!」

「ちょっとま…」

ニコルが会話に入ってこようとするが、国王に俺は発言を許していない!と一喝されて黙った。

「神官長!こやつの魅了魔法を解いてやれ!」

「はい!」

そうして王太子にかかっていた魅了魔法は解かれた。王太子の顔色は真っ青になる。

「王太子殿下…」

ニコルが縋るような瞳で王太子を見つめる。しかし王太子は自分の腕に胸を当てるように抱きついているニコルを突き飛ばす。

「きゃっ…」

「貴様っ!よくも私を謀ったな!」

「王太子殿下…!」

「ベルティーユ、すまなかった。迷惑をかけて…」

「いえ、王太子殿下との関係もここまでですもの。最後の置き土産ですわ」

「え?」

呆然とした様子の王太子。いくら推しキャラだったとはいえ、あれだけバカにされて元鞘に戻る者はいないのだ。

「バカ息子が!ここまで迷惑をかけたのだ、ベルティーユ嬢とお前の婚約は解消だ!そしてお前は廃嫡だ!第二王子を王太子とし、ベルティーユ嬢の婚約者とする!」

「なん…で」

「自分の胸に手を当てて考えよ!」

「ベルティーユ!」

「私はここで失礼しますわ。それでは皆様、ご機嫌よう」

最後に綺麗にカーテシーを決め、学園を後にするベルティーユ。ニコルが急に暴れ出したが知らない振りをした。

…ニコルが狙っていたのは王太子ルート後の隠しキャラルートだ。ベルティーユはいつもフラグを折って王太子ルート一直線だったが、王太子ルートの最後の選択肢に王城で第二王子に会えるルートがあるのだ。

隠しキャラの第二王子アンセルムは王太子と正反対。王太子が天才系溺愛王子なら、アンセルムは努力型俺様王子だ。第二王子でありながら、その立場に甘んじずに、ひたすら努力を積み重ねて父や兄の背中を追いかける。そのため自分にも他人にも厳しく、プライドが高い俺様キャラ。

ベルティーユにとってはあまり好みではないのだが、本当は優しくて一途なちょっと不器用なタイプである。ベルティーユも将来の義弟として接したことは何度かあるが、好みでないだけで苦手なタイプではない。ベルティーユの嫁ぎ先としては悪くないはずである。あとは愛を育むことが出来れば完璧だ。
















「ベルティーユ!今日も可愛いな、愛しているぞ!」

「ベルティーユ!俺だけのものになってくれ!」

「ベルティーユ!他の男を見るなとは言わないが、俺のことももっと見てくれ!」

実はベルティーユを密かに想っていたアンセルム。押しが強い愛情表現でガンガン攻めてくる。

ちなみに、ニコルへの処罰は内乱罪で打ち首のち晒し首となった。魅了魔法の乱用は元から刑罰が厳しいが、なによりもアンセルムがベルティーユを傷つけたニコルを許さず厳しい処罰を求めたのだ。

ここまで愛されるとそれはそれで悪い気はしないベルティーユである。

「アンセルム殿下、私もアンセルム殿下を愛しております」

「…!そうか、挙式が楽しみだ!」

「ふふ、そうですわね」

なんだかんだで相性が良いかもしれない二人であった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。

ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。 しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。 こんな謎運命、回避するしかない! 「そうだ、結婚しよう」 断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや

婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?

冬吹せいら
恋愛
 伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。  しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。  侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。  ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。 「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」  アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。  侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。 「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」  伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
同じ学園に通う婚約者に婚約破棄を言い渡される しかし、その相手は既に貴族ではなくなっていた。それに学園に居る事自体おかしいはずなのに とっくに婚約は破棄されているのに、それに気づいていないのかしら? ※この作品は、旧題:婚約破棄? いえ、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていますよ? を加筆修正した作品となります。

処理中です...