偽りの天使と偽りとかどうでも良くなった王太子のお話

下菊みこと

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偽りの天使は自分達孤児を傷つけた王族のただ一人に純粋に懐く

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「リオン様!今日も来てくださったのですね!」

「うん。リリーは今日も元気だね」

「リリーは天使ですから!」

リリーと呼ばれた幼い少女は、美しい真っ直ぐな銀の髪に紫の瞳の神秘的な姿をしている。だが、なによりも目を引くのはその背中に生えた大きな白い羽根。彼女は天が遣わした贈り物として、中央教会から保護されて大切に育てられている。

しかし、その実態はあまりにも酷いものである。これは中央教会にも伝えられていない極秘事項であるが…リリーは、紛い物の天使だ。度重なる人体実験の結果、偶然にも出来た副産物である。

リオンが王太子を務めるこの王国では、かつて隣国であった強大な帝国に打ち勝つため秘密裏に孤児を使った人体実験が行われていた。結果王国は帝国に打ち勝ち広大な領地を手に入れ世界最強の国となったのである。その人体実験で、ある毒薬を服用したリリーは看病もされないまま三日三晩苦しんだが死なず、背中に翼が生えた。そして天使として中央教会に保護されたのである。

そんなリリーは、中央教会と王族との間にある深い溝を埋めるため王太子リオンの婚約者となった。王太子妃教育も順調に進んでいる。リオンはこの偽りの天使を溺愛しており、リリーはリオンに懐いていた。

だが、最近リリーは王太子妃教育で人体実験のことを知り、自分達孤児が国にされたことをようやく理解した。それからリオンの前では元気に振舞っているが、食事の量も減り睡眠も取れず身体が辛い。これも人体実験の副産物なのか、顔色が悪くなったり頬がこけたりはしない。

だから誰も気付かない。リリーの精神も身体も限界だと。

ー…

「うぅん…」

「リリー!目が覚めた!?リオンだよ、わかるかい!?」

「リオン様…?」

「ああ、よかった…っ!睡眠は大分取れたはずだし、栄養も点滴で入れた。もう大丈夫だからね!」

リリーは、ある日突然倒れた。そして睡眠不足と栄養失調と診断され適切な処置を受けている。リオンは、ただただリリーが目を覚ましてほっとしていた。だから、リリーの目から涙が溢れたのを見て固まってしまった。

「リリー…?」

「リオン様。リリーは紛い物の天使なの。福を招くことはできないの。リリーを捨ててください」

リリーのとっては迷いに迷った懺悔の言葉。だが、リオンは一言。

「そんなの最初から知っているよ」

そういって優しく微笑んだ。

「え」

「リリーのことは、婚約が決まる前から報告は受けていた。私は、愚かしくも『偽りの天使などと婚約とは』と嘆いていた。だが、リリーと出会い、言葉を交わした時私は後悔した。リリーに失礼なことを思ってしまったと。君は偽りの天使だが…その優しい心は、なによりも尊い。天使と呼ぶのにこの世で最も相応しいのは、リリー、君だ」

「リオン様…」

「リリー。初めて会った日に君は言ったね。『忙しいからって無理はしちゃダメです!寂しい時や疲れた時にはリリーが側にいてあげますから、その分リリーの言うことを聞いてお身体を大切にしてくださいね!』って。だからね、捨ててくださいなんて言わないで。最後まで私の側にいておくれ」

「…はい!」

「それとね」

「?」

「私はリリーのような戦争のための人体実験の被害者を救済する制度を作りたい。協力してくれるかい?」

「もちろんです!」









賢王リオン。彼の功績は大きい。王国の闇を暴きその被害者を救済する制度を作り、他にも災害や飢饉などから無力な民を救い続けてきた。その傍には必ず、幸運を運ぶ天使が妃として寄り添っていたという。二人は非常に仲が良く、子宝にも恵まれたという。
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