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初めて気に入った女の子
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今日はお忍びでとある教会の視察にきた。しかし、教会には星辰の神々のご加護が全く見えない。星辰の神々への信仰が足りない証拠だ。これでは文句の一つも言いたくなるもの。
聖王である俺は、神官たちを集めて説教を開始。しかし、そこに邪魔が入った。
「あの、私達も中に入って大丈夫…でしょうか」
空気の読めない小娘だ。顔立ちこそ可愛らしいが、どうせ顔だけの貴族の娘だろう。
「なんだお前」
「その、出家したくてご相談にきたんですけど」
神官になりたいらしい。だが、神官とは甘やかされてきた貴族の娘に務まる仕事ではない。
「はっ!お前のような小娘に神官が務まるか!」
「私は光魔法も使えますし、星辰語の翻訳もできます。バカにされる覚えはないです」
どうせ、ほんのちょっとできる程度だろう。少しいじめて現実を見せてやろう。
「…ほう?なら見せてもらおうか」
「はい?」
俺は自分の腕を、懐から取り出した短刀で切りつけた。それもすごく深く、大きく。並みの光魔法では治しきれないほどに。
「え?は?なにしてるんですか!」
「ほら、光魔法が使えるんだろう?治してみろ」
「…あーもう!」
貴族の娘は光魔法を展開する。魔力を注ぎ込めば、俺の傷は塞がった。俺の着ていた白い服に染み付いた血も、浄化される。
俺は驚き興奮して、娘に話しかける。
「お前、こんな技術どこで身につけた!どこの神学校出身だ!?」
「ジェムゥ神学校出身です」
「専攻は!?」
「星辰語です」
「よし、じゃあこの星辰語を翻訳してみろ!」
俺はもしや結構使える人材かもしれないと、興奮したまま娘に星辰語で書かれた古い資料を渡した。その場で翻訳して音読する娘。その才能に、俺は虜になった。これは、育ててやれば花が開くように国の宝となるだろう。
「やるじゃないか!お前、もしかしてベルとかいう星辰語の翻訳家じゃないか!?」
あ、という顔を見て確信する。この娘がベルだ。
「…ええっと」
「こんな教会で出家などもったいない!俺の元に来い!」
「俺の元に?」
よくわからないといった顔の娘。察しの悪さは、これからの課題か。
「失礼。お嬢様、我が主人が絡んでしまってすみません」
「あ、いえいえ」
俺の護衛が娘に話しかける。
「我が主人は、とある高貴な…」
「もったいぶるな!全部話して良い!」
「…我が主人は、皇帝陛下の大叔父である聖王猊下です」
「…え?」
「聖王猊下です」
ぽけっとした顔はとても可愛らしい。
「…え?」
「聖王猊下は今日はお忍びで教会の視察に来ておりまして」
わかってるのかわかっていないのか、頷いてはいる。
「聞いたことはあると思いますが、聖王猊下は皇族にも珍しい先祖返りのハーフエルフで、齢七十五歳の御老体です」
「体はまだ若い!」
御老体と言われて護衛を蹴る。
「ハーフエルフのため寿命が長く、身体の成長が遅くまだ少年に見えますがお爺ちゃんです」
さらに護衛を蹴る。まだまだ若いぞ!
「…まさか、本物ですか?」
「はい」
娘とその侍女はその場に這い蹲る。しかし俺は、娘の頭を上げさせる。
「いい。そんな畏まるな」
「は、はい」
「ほら、立て」
「はい」
娘と侍女は立ち上がる。満を持して俺は言った。
「お前を俺の妻兼星辰語翻訳の弟子にしてやる!」
「…はぃ?」
「結婚しろ!そして俺の元で働け!」
「…?」
なぜか理解できていない様子の娘。
「妻にしてやると言っているんだ」
「な、なんでですか?」
「気に入ったからだ!」
目が泳いでいる。どうしたんだろうか。光栄だろうに。光栄過ぎて狼狽えているのか?
「その…あの…聖王猊下…」
「うんうん、光栄だろう?」
「は、はい、とても光栄です」
「そうだろうそうだろう」
「ですがその…辞退させていただきます」
俺はその言葉に驚いて、でも言いたいことは言わせてやる。
「…何故だ?」
「その、私は元婚約者に捨てられたばかりでして…今はそんな気にはなれなくて…」
「そんな男、俺が忘れさせてやる」
まったく、こんな可愛らしい娘を捨てるとはバカな奴だ。こんなに有能なのに気づかなかったのか?それとも…優秀過ぎて、荷が重くなったか。
「それに、星辰語翻訳も私には荷が重いと言いますか…」
「大丈夫だ、安心しろ!ベルという翻訳家の能力は俺も知るところだ!お前ほどの実力があれば、魔法書の翻訳もすぐにできるようになる!光魔法も得意なようだしな!」
娘はなおも続ける。
「お互い名前も名乗ってませんし…」
「俺はユルリッシュ・ナタナエル!ナタナエル皇国の現皇帝の大叔父で、聖王だ!」
「は、はい」
「お前は?」
「…イザベル・ヤニックです。伯爵家の娘です。ベルという名で星辰語の翻訳家もしています」
やはりベルは娘のペンネームらしい。しかしイザベルか…良い名だな。
「これでもう不安はないだろう!さあ、俺と結婚しろ!」
「…ええっと」
なぜ困った顔をするのか。
「申し訳ございません。やはり私では荷が重いです…」
「…むう。強情だな。ならばこうしよう」
俺はイザベルの手を掴み、手の甲に手をかざした。…そして、星痕を宿す。
「え?猊下?」
「うむ。これでいい」
「なにしたんです?」
「星痕をつけた」
「え」
星痕とは、星辰聖王が妻とする相手につける印。浮気防止や危機回避などの色々な魔法を付与される。
「え、消してください!」
「いやだ」
「聖王猊下!?」
「結婚式が楽しみだな」
にっこり笑う。反対にイザベルは頭を抱える。素直に喜べばいいのに。
聖王である俺は、神官たちを集めて説教を開始。しかし、そこに邪魔が入った。
「あの、私達も中に入って大丈夫…でしょうか」
空気の読めない小娘だ。顔立ちこそ可愛らしいが、どうせ顔だけの貴族の娘だろう。
「なんだお前」
「その、出家したくてご相談にきたんですけど」
神官になりたいらしい。だが、神官とは甘やかされてきた貴族の娘に務まる仕事ではない。
「はっ!お前のような小娘に神官が務まるか!」
「私は光魔法も使えますし、星辰語の翻訳もできます。バカにされる覚えはないです」
どうせ、ほんのちょっとできる程度だろう。少しいじめて現実を見せてやろう。
「…ほう?なら見せてもらおうか」
「はい?」
俺は自分の腕を、懐から取り出した短刀で切りつけた。それもすごく深く、大きく。並みの光魔法では治しきれないほどに。
「え?は?なにしてるんですか!」
「ほら、光魔法が使えるんだろう?治してみろ」
「…あーもう!」
貴族の娘は光魔法を展開する。魔力を注ぎ込めば、俺の傷は塞がった。俺の着ていた白い服に染み付いた血も、浄化される。
俺は驚き興奮して、娘に話しかける。
「お前、こんな技術どこで身につけた!どこの神学校出身だ!?」
「ジェムゥ神学校出身です」
「専攻は!?」
「星辰語です」
「よし、じゃあこの星辰語を翻訳してみろ!」
俺はもしや結構使える人材かもしれないと、興奮したまま娘に星辰語で書かれた古い資料を渡した。その場で翻訳して音読する娘。その才能に、俺は虜になった。これは、育ててやれば花が開くように国の宝となるだろう。
「やるじゃないか!お前、もしかしてベルとかいう星辰語の翻訳家じゃないか!?」
あ、という顔を見て確信する。この娘がベルだ。
「…ええっと」
「こんな教会で出家などもったいない!俺の元に来い!」
「俺の元に?」
よくわからないといった顔の娘。察しの悪さは、これからの課題か。
「失礼。お嬢様、我が主人が絡んでしまってすみません」
「あ、いえいえ」
俺の護衛が娘に話しかける。
「我が主人は、とある高貴な…」
「もったいぶるな!全部話して良い!」
「…我が主人は、皇帝陛下の大叔父である聖王猊下です」
「…え?」
「聖王猊下です」
ぽけっとした顔はとても可愛らしい。
「…え?」
「聖王猊下は今日はお忍びで教会の視察に来ておりまして」
わかってるのかわかっていないのか、頷いてはいる。
「聞いたことはあると思いますが、聖王猊下は皇族にも珍しい先祖返りのハーフエルフで、齢七十五歳の御老体です」
「体はまだ若い!」
御老体と言われて護衛を蹴る。
「ハーフエルフのため寿命が長く、身体の成長が遅くまだ少年に見えますがお爺ちゃんです」
さらに護衛を蹴る。まだまだ若いぞ!
「…まさか、本物ですか?」
「はい」
娘とその侍女はその場に這い蹲る。しかし俺は、娘の頭を上げさせる。
「いい。そんな畏まるな」
「は、はい」
「ほら、立て」
「はい」
娘と侍女は立ち上がる。満を持して俺は言った。
「お前を俺の妻兼星辰語翻訳の弟子にしてやる!」
「…はぃ?」
「結婚しろ!そして俺の元で働け!」
「…?」
なぜか理解できていない様子の娘。
「妻にしてやると言っているんだ」
「な、なんでですか?」
「気に入ったからだ!」
目が泳いでいる。どうしたんだろうか。光栄だろうに。光栄過ぎて狼狽えているのか?
「その…あの…聖王猊下…」
「うんうん、光栄だろう?」
「は、はい、とても光栄です」
「そうだろうそうだろう」
「ですがその…辞退させていただきます」
俺はその言葉に驚いて、でも言いたいことは言わせてやる。
「…何故だ?」
「その、私は元婚約者に捨てられたばかりでして…今はそんな気にはなれなくて…」
「そんな男、俺が忘れさせてやる」
まったく、こんな可愛らしい娘を捨てるとはバカな奴だ。こんなに有能なのに気づかなかったのか?それとも…優秀過ぎて、荷が重くなったか。
「それに、星辰語翻訳も私には荷が重いと言いますか…」
「大丈夫だ、安心しろ!ベルという翻訳家の能力は俺も知るところだ!お前ほどの実力があれば、魔法書の翻訳もすぐにできるようになる!光魔法も得意なようだしな!」
娘はなおも続ける。
「お互い名前も名乗ってませんし…」
「俺はユルリッシュ・ナタナエル!ナタナエル皇国の現皇帝の大叔父で、聖王だ!」
「は、はい」
「お前は?」
「…イザベル・ヤニックです。伯爵家の娘です。ベルという名で星辰語の翻訳家もしています」
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なぜ困った顔をするのか。
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「…むう。強情だな。ならばこうしよう」
俺はイザベルの手を掴み、手の甲に手をかざした。…そして、星痕を宿す。
「え?猊下?」
「うむ。これでいい」
「なにしたんです?」
「星痕をつけた」
「え」
星痕とは、星辰聖王が妻とする相手につける印。浮気防止や危機回避などの色々な魔法を付与される。
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