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手放した女性の価値を知る
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捨てた女が、突然聖王猊下の婚約者になった。
しかもその後一週間で挙式するという。
それだけでも情報を処理しきれないのに、時はあっという間に過ぎて結婚式当日。大聖堂に多くの貴族が集められた。もちろん、僕も。僕の婚約者まで。
大人姿の聖王猊下に、彼女への思いは本気なのだと悟る。聖王猊下は滅多に大人姿にはならないから。
そして、僕が捨てたはずの女は美しく着飾りバージンロードを歩く。着飾ればあんなに美しくなるなんて、聞いてない。しかもあんな、幸せそうな顔みたことない。
「…なによあれ」
小さく聞こえたのは、今の婚約者の嫉妬に濡れた声。美しいはずの彼女は、醜く顔を歪めていた。
イザベルの幸せそうな顔と見比べてしまって、後悔が押し寄せる。本当にイザベルを捨てたのは正解だったのか。手元に置いておくべきだったのではないか?
そこで二人の幸せそうなやりとりが聞こえた。
「ユルリッシュ様…」
「イザベル。俺が世界一幸せにするから。指輪をはめてもいいか?」
「…はい!今私、もう世界一幸せですっ…!」
「…本当に可愛い」
まだ誓いのキスには早いのに、イザベルの額にキスをする聖王猊下。そして二人は指輪をお互いにつけて、誓いのキスを交わした。
その幸せそうな雰囲気に。僕は、何故か打ちのめされたような気分になる。悔しい、悔しい。本来なら僕の女だったのに。僕が捨ててやった女なのに!
憎くて、悔しくて、でも万雷の拍手が聞こえて慌てて拍手を送る。…本当は、嫌だけど。
ふと、イザベルと聖王猊下がこちらを見た。こそこそと何か話している。
…馬鹿にされているような、そんな気がした。さすがに被害妄想だろうけど。
その後は、大聖堂内の別の部屋に移動して披露宴に移る。結婚式の厳かな雰囲気と違い、和やかなムードで祝福が飛び交う。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
みんな口々にイザベルと聖王猊下を祝福している。
嫌だけど、僕も行かなければ。醜い嫉妬も隠さない今の婚約者を連れて、イザベルの前に出る。
「…イザベル」
「…」
少しイザベルの身体が強張ったのがわかった。よかった、まだ意識されている。
「おっと、俺の愛おしい妻を勝手に呼び捨てにしないでもらおうか」
聖王猊下に言われて、失態を自覚した。
「…っ!も、申し訳ありません、聖王猊下。…ご結婚、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。お前がこの素晴らしい女性に〝捨てられてくれた〟おかげで、俺はこんなにも幸せだ」
捨てたのは僕の方。でも、聖王猊下がそう言ったら誤解する人もいるだろう。わかっていて、やられている。そして僕に言い返す権利はない。
「イザベルは凄いんだぞ?光魔法をそれはもう素晴らしく使いこなすし、星辰語の翻訳の腕も相当だ。俺はプロポーズを受けてもらえなければ、聖女として認定してもいいと思ったくらいの実力者だ」
大きな声でイザベルを自慢する聖王猊下。待ってくれ、そんな話今まで聞いていない。隠されていた?それとも嘘?でも、こんなところでそんな嘘吐く理由はない。なら、イザベルは僕に自分の価値を隠していたのか?
「ああ、勘違いしてくれるなよ?それだけで結婚するんじゃない。みてくれ、我が妻は美しいだろう。見た目に違わず心も綺麗だ。羨ましいだろう?」
たしかに着飾ったイザベルは綺麗だ。心の優しい子であることも知っている。…羨ましい。憎たらしい。悔しい。
「ま、そういうわけで、俺は妻を愛しているからお前はもう妻に近寄るなよ。しっしっ」
その後は問題も起こらず、穏やかに時間が過ぎた。無事披露宴も終了して、あとに残されたのは僕のモヤモヤした気持ちだけ。
しかもその後一週間で挙式するという。
それだけでも情報を処理しきれないのに、時はあっという間に過ぎて結婚式当日。大聖堂に多くの貴族が集められた。もちろん、僕も。僕の婚約者まで。
大人姿の聖王猊下に、彼女への思いは本気なのだと悟る。聖王猊下は滅多に大人姿にはならないから。
そして、僕が捨てたはずの女は美しく着飾りバージンロードを歩く。着飾ればあんなに美しくなるなんて、聞いてない。しかもあんな、幸せそうな顔みたことない。
「…なによあれ」
小さく聞こえたのは、今の婚約者の嫉妬に濡れた声。美しいはずの彼女は、醜く顔を歪めていた。
イザベルの幸せそうな顔と見比べてしまって、後悔が押し寄せる。本当にイザベルを捨てたのは正解だったのか。手元に置いておくべきだったのではないか?
そこで二人の幸せそうなやりとりが聞こえた。
「ユルリッシュ様…」
「イザベル。俺が世界一幸せにするから。指輪をはめてもいいか?」
「…はい!今私、もう世界一幸せですっ…!」
「…本当に可愛い」
まだ誓いのキスには早いのに、イザベルの額にキスをする聖王猊下。そして二人は指輪をお互いにつけて、誓いのキスを交わした。
その幸せそうな雰囲気に。僕は、何故か打ちのめされたような気分になる。悔しい、悔しい。本来なら僕の女だったのに。僕が捨ててやった女なのに!
憎くて、悔しくて、でも万雷の拍手が聞こえて慌てて拍手を送る。…本当は、嫌だけど。
ふと、イザベルと聖王猊下がこちらを見た。こそこそと何か話している。
…馬鹿にされているような、そんな気がした。さすがに被害妄想だろうけど。
その後は、大聖堂内の別の部屋に移動して披露宴に移る。結婚式の厳かな雰囲気と違い、和やかなムードで祝福が飛び交う。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
みんな口々にイザベルと聖王猊下を祝福している。
嫌だけど、僕も行かなければ。醜い嫉妬も隠さない今の婚約者を連れて、イザベルの前に出る。
「…イザベル」
「…」
少しイザベルの身体が強張ったのがわかった。よかった、まだ意識されている。
「おっと、俺の愛おしい妻を勝手に呼び捨てにしないでもらおうか」
聖王猊下に言われて、失態を自覚した。
「…っ!も、申し訳ありません、聖王猊下。…ご結婚、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。お前がこの素晴らしい女性に〝捨てられてくれた〟おかげで、俺はこんなにも幸せだ」
捨てたのは僕の方。でも、聖王猊下がそう言ったら誤解する人もいるだろう。わかっていて、やられている。そして僕に言い返す権利はない。
「イザベルは凄いんだぞ?光魔法をそれはもう素晴らしく使いこなすし、星辰語の翻訳の腕も相当だ。俺はプロポーズを受けてもらえなければ、聖女として認定してもいいと思ったくらいの実力者だ」
大きな声でイザベルを自慢する聖王猊下。待ってくれ、そんな話今まで聞いていない。隠されていた?それとも嘘?でも、こんなところでそんな嘘吐く理由はない。なら、イザベルは僕に自分の価値を隠していたのか?
「ああ、勘違いしてくれるなよ?それだけで結婚するんじゃない。みてくれ、我が妻は美しいだろう。見た目に違わず心も綺麗だ。羨ましいだろう?」
たしかに着飾ったイザベルは綺麗だ。心の優しい子であることも知っている。…羨ましい。憎たらしい。悔しい。
「ま、そういうわけで、俺は妻を愛しているからお前はもう妻に近寄るなよ。しっしっ」
その後は問題も起こらず、穏やかに時間が過ぎた。無事披露宴も終了して、あとに残されたのは僕のモヤモヤした気持ちだけ。
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