ショタジジイ猊下は先祖返りのハーフエルフ〜超年の差婚、強制されました〜

下菊みこと

文字の大きさ
15 / 61

ショタジジイと一緒に平民達への施しを

しおりを挟む
「んん…」

「起きたか?おはよう、イザベル」

「おはようございます、ユルリッシュ様…ふぁ」

「ふふ、まだ眠いか?」

「んー、少しだけ」

せっかく起きたのに、瞼が重い。

「眠り姫には、王子様のキスが必要だな」

「…?」

チュッと軽いリップノイズ。柔らかな感触に、目が覚めた。

「わわわわわわ!ユルリッシュ様ったら!」

「ほら、目が覚めただろう?」

「もう!」

「ははは!」

子供姿のユルリッシュ様にそういうことをされると、なんとなくいけないことをしている気分になるので心臓に悪い。せめて大人姿でして欲しい。

それはそれとして、可愛いと思ってしまう甘い自分もいるんだけど。

「さあ、朝の支度をしてしまおう」

「はい、ユルリッシュ様」

ユルリッシュ様の侍従と、リリーを呼んでサクッと身支度を済ませる。朝ごはんも一緒に食べて、そうすると夫婦になったんだなぁと少しだけ実感した。

「さて、じゃあ平民達に我が妻のお披露目と行こうか」

「私は何をすればいいでしょうか」

「俺の仕事の大体の流れはわかるか?」

ユルリッシュ様の聖王としてのお仕事。午前中は平民達に向けての施しの時間。

平民達は私達皇族や貴族とは違って、魔力が少ない。そのため平民向けの治癒術師も当然貴族向けの治癒術師よりレベルが下がる。

どうしても平民向けの治癒術師では治しきれない怪我や病気を、聖王の光魔法で完全に治癒するのがユルリッシュ様のお役目。ただし、多額のお布施が必要になるので平民の中でも裕福な家庭しか受けられないけれど。

それでも貴族向けの治癒術師にお願いするよりは、もちろん安い。一応教会から平民達への施しではあるから。

午後は、星辰語の魔法書や神学書の翻訳。物によってはかなり重要な書籍の翻訳もあるので、国のために一番大切なお仕事だ。

「午前中は平民達への施し、午後は星辰語の翻訳です」

「その通りだ。イザベルにはこれから、その両方を手伝ってもらう」

「…頑張ります!」

まあつまり、光魔法で平民達に治癒を施して、星辰語の翻訳をするということだ。私なら出来る。大丈夫。

「じゃあ、早速まずは平民達への施しから始めようか」

「はい!」

ユルリッシュ様に連れられて、大聖堂に集まった平民の前に出る。

「皆に告ぐ!私は良き伴侶を得た!妻にならなければ聖女にしてもいいくらいの実力者だ!今日から妻にもお前たちの治癒を手伝ってもらうことになっている!異論はないな?」

ユルリッシュ様の言葉に、平民達はどう反応するだろうと怖かった。

でも、帰ってきたのは温かな祝福の言葉だった。

「ご結婚おめでとうございます!聖王猊下、聖妃様!」

「おめでとうございます!」

「聖王猊下万歳!聖妃様万歳!」

「治癒をよろしくお願いします!」

ちらりとユルリッシュ様を伺えば、頷いてくれた。なので、大聖堂内の広範囲に一気に光魔法を発動する。傷や病の症状が目に見えている人達は、それが治ったのがわかる。見えない怪我や病気の人も、表情が明るくなったので大丈夫だろう。

「聖妃様万歳!」

「ありがとうございます!」

「こんなに一気に治るなんて!」

…どうやら、役には立てたらしい。

「ほら、いつまでもここに残っていたら他の患者が入れないだろう。交代しろ」

「はい、聖王猊下!ありがとうございました!」

みんな口々にお礼を言って、大聖堂を出て行く。入れ替わるようにまた患者達が入ってきた。

「…ユルリッシュ様」

「なんだ?」

「数が多いと思うのですが」

「気付いたか?」

にんまりと笑うユルリッシュ様。まさか。

「お布施してない人もこっそりいますか?」

「お金がない平民達やスラムの棄民達もこっそり受け入れている。こっそり、な。まあ、ちゃんとお布施を払ってる平民達も文句はあるだろうが黙認してくれているし大丈夫だろう」

なるほど、通りで。

「ただし、いずれも平民向けの治癒術師の手に余る症状の者に限るがな。治癒術師の仕事を奪っては、意味がない」

「そうですね」

その辺はきっちりと線引きがあるらしい。

「俺とイザベルで、交代で光魔法を使っていこう。…出来るよな?」

「お任せください」

「我が妻は頼もしい限りだ」

ということで、午前中はずっと光魔法を使い続けた。終わる頃には魔力切れでヘトヘト。毎日これを一人でこなしていたなんて、ユルリッシュ様はすごい。

「よく頑張ったな、イザベル」

「えへへ。ありがとうございます、ユルリッシュ様」

「少し休んでから、星辰語の翻訳を始めようか」

「はい!」

ということで、午後。お昼ご飯を食べつつ労いあって、少し休憩にお昼寝を挟むことになった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...