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望んだ人と婚約し直すお話
私の婚約者は、幼い頃聖女様に救われた。
病気で長くはもたないだろうと言われた婚約者を、聖女様が救った。
彼の家族も、彼を婿にもらう予定の私の家族も、そして彼自身も聖女様の信奉者になった。
可憐で清廉で、強い力を持つ聖女様。
そんな聖女様に幼い私は嫉妬して「私のことも見て!」と言った。結果、周りの大人みんなに叱りつけられ彼からは嫌われた。
…正直、聖女様に意地悪をしたり言ったりしたなら怒られるのもわかる。けれど「私のことも見て」と言うだけで叱られ嫌われるのは、私が幼かったことも考えれば結構理不尽じゃなかろうか。
少なくとも私は理不尽に感じた。それでもう諦めた。
私は家族と仲良くするのを諦めた。私は彼の家族と仲良くするのを諦めた。私は彼と仲良くするのを諦めた。
そのうちほとぼりが冷める頃、私の家族や彼の家族は私が冷めた子供になったことに気付いた。自分たち大人に全然甘えないのに気付いた。
けれど猫なで声で可愛がろうとする彼らに甘えるどころか明確な拒絶もせず、特に何の感慨も持たない私に「やらかした」と思ったのだろう。
彼らは私への罪滅ぼしか、私に甘くなった。聖女様を信奉するのはやめないが、私を大切にするどころか本当に甘やかすようになった。
私はそれを利用して、学問を身につけた。この国では女性は「何も知らない無垢な乙女」でいることを求められるが、私は例外となった。
さらに私は、お小遣いをドレスや宝石に使わず領内の孤児院や養老院に寄付した。運営はだいぶ楽になったらしくお礼を言われ、ある時から「叡智と慈愛の天使」と呼ばれるようになった。
実際には全てを諦めた時から学問以外何にも興味を持てなくなり、せめてお小遣いは人の為に使おうと思っただけだが…人からの評判は良くなり、国全体の意識改革にも繋がったらしい。
結果的に女性も学問を身につけた方がいいと言う人が増え、国にとって良い流れになった。
「自慢の娘」となった私。けれど両親の期待を超えた「出来の良い子」になって両親の愛を受けるようになっても、私はもう両親を愛せない。彼の家族も同じこと。
婚約者である彼も、私を「高嶺の花である聖女様に並び立とうとした生意気な女」という謎のレッテル…は、外さないものの「下々への理解や優しさはあるし学もある」と謎の上から目線の評価はしてくれているらしいが、私は彼を「聖女の狂信者」としか見ていないのでなんかもうお互い様である。
そんな面白くもない幼少期や思春期を過ぎ、やがて私達も十九歳。成人して結婚適齢期になった。
彼の家族や私の家族は、国王陛下や王妃殿下から「国を良い方向へ導いた」「本人も優秀」「素行もいい」「魔法学を一人でかなり躍進させた」となんだかんだで気に入られている私になんとか昔のような関係に戻れないかと試行錯誤しているが私の気持ちは動かない。するといつのまにかこちらにばかりかかりきりになった彼らは聖女の信奉者をやめていた。
彼は聖女の信奉者を続けている。彼は常に聖女のそばにいて、聖女を守る。護衛騎士ごっこだろうか。見ていてイタイ。婚約者がいる男だと知りながら彼をそばに置いて、姫プレイしてる聖女もなかなかにイタイが。
さて、そんな彼は聖女にかまけて我が家の婿になるということをすっかり忘れているらしい。
これはもう、無理だろうと誰もが悟っていた。
私は彼の家族と私の家族を呼んだ。結婚適齢期になっても改善しないこの件を、いい加減動かすために。
「率直に申し上げます」
「…」
「婚約者である彼は、我が家の入り婿になるより聖女様の護衛騎士になる方が向いています。婚約は白紙に戻し、彼に護衛騎士になる道を示して差し上げてください」
彼の家族は青ざめるが、覚悟もしていたらしい。
「…どうしてもですか」
「はい」
「わかりました…今まですみませんでした」
両親に向き直る。
「いいですよね?」
「仕方あるまい…だが…」
「そして、国王陛下と王妃殿下の〝期待〟もご存知ですよね?」
「それは…」
「国の意識改革をした私が、この国では初の女公爵となる…それをお二人は密かに期待していらっしゃると噂です。…今更優秀な婿をといっても、私は結婚適齢期ですしもう難しいでしょう?」
父と母は顔を見合わせて頷いた。
「わかった…」
「ですが、元々私と彼の婚約は政略的なもの。家同士の利益あってのものですし、やはり婿はそちらのお家から女公爵となった私の配偶者として来ていただきたいのです」
「しかし長男はウチを継ぐので…」
「三男の彼をください」
「え!?」
彼らはみな驚くが、私の決意は固い。
「私は彼がいいのです」
「…わかりました」
そうして婚約の白紙化と、新たな婚約は決まった。
「アリスティア!君が婚約者になってくれるなんて!」
「私こそピーター様と婚約できるなんて幸せです!」
私の婚約者となった、彼の弟のピーター様。
ピーター様はイケメンで優秀で気遣い上手な素敵な人。
そして、女の子らしい可愛い格好をするのが好き。
ただそういう趣味なだけなのに、親から頭ごなしに叱られてそれでも自分を曲げずに生きてきた人。
破天荒な私にはぴったりな人とも言えるし、性格的にも合う。
「ピーター様の婚約者になれたのですから、これまでの人生も無駄ではありませんでしたね」
「ふふ、僕もそう思う!…一方の兄上は聖女様の護衛騎士になろうとして、予想外の鍛錬の厳しさに心が折れそうになってるけど自業自得だし頑張って欲しいよね」
「ですわね。聖女様の方も、今までちやほやしてくれていた彼が鍛錬のためそばにいられなくなって泣き言を仰られているとのことですが…頑張って欲しいですね」
「その上細身のイケメンだった兄上がガチムチになるに連れて聖女様の目が冷たくなってるとか。どう転んでも兄上には辛いかもねー。アリスティアを大事にしない奴なんてそうなって当然だけど」
「彼にも彼の事情もありますから、幸せになってくれるならそれでもいいんですけど…難しそうですね。なんでもしてくれる都合のいい彼が居なくなってからの聖女様は精神的に不安定だそうですから、そちらも辛そうですが…」
正直ざまぁみろと思ってしまうのはご愛嬌。
「それよりもピーター様、私の配偶者となるからには自由に生きていいですから!どんどん可愛さを極めてください!」
「うん、公式な場以外では極める!アリスティアが自慢の夫って言えるくらい可愛くなるよ!」
「私もピーター様の自慢の妻となれるよう、領地経営も魔法学の研究も頑張ります!」
こうして私達はそれぞれ、収まるところに収まった。
ちょっと可哀想なことになっている人たちもいるがそれはともかく、これからは私達はお互いを理解し尊重するオシドリカップルを目指して頑張ろうと思う。
病気で長くはもたないだろうと言われた婚約者を、聖女様が救った。
彼の家族も、彼を婿にもらう予定の私の家族も、そして彼自身も聖女様の信奉者になった。
可憐で清廉で、強い力を持つ聖女様。
そんな聖女様に幼い私は嫉妬して「私のことも見て!」と言った。結果、周りの大人みんなに叱りつけられ彼からは嫌われた。
…正直、聖女様に意地悪をしたり言ったりしたなら怒られるのもわかる。けれど「私のことも見て」と言うだけで叱られ嫌われるのは、私が幼かったことも考えれば結構理不尽じゃなかろうか。
少なくとも私は理不尽に感じた。それでもう諦めた。
私は家族と仲良くするのを諦めた。私は彼の家族と仲良くするのを諦めた。私は彼と仲良くするのを諦めた。
そのうちほとぼりが冷める頃、私の家族や彼の家族は私が冷めた子供になったことに気付いた。自分たち大人に全然甘えないのに気付いた。
けれど猫なで声で可愛がろうとする彼らに甘えるどころか明確な拒絶もせず、特に何の感慨も持たない私に「やらかした」と思ったのだろう。
彼らは私への罪滅ぼしか、私に甘くなった。聖女様を信奉するのはやめないが、私を大切にするどころか本当に甘やかすようになった。
私はそれを利用して、学問を身につけた。この国では女性は「何も知らない無垢な乙女」でいることを求められるが、私は例外となった。
さらに私は、お小遣いをドレスや宝石に使わず領内の孤児院や養老院に寄付した。運営はだいぶ楽になったらしくお礼を言われ、ある時から「叡智と慈愛の天使」と呼ばれるようになった。
実際には全てを諦めた時から学問以外何にも興味を持てなくなり、せめてお小遣いは人の為に使おうと思っただけだが…人からの評判は良くなり、国全体の意識改革にも繋がったらしい。
結果的に女性も学問を身につけた方がいいと言う人が増え、国にとって良い流れになった。
「自慢の娘」となった私。けれど両親の期待を超えた「出来の良い子」になって両親の愛を受けるようになっても、私はもう両親を愛せない。彼の家族も同じこと。
婚約者である彼も、私を「高嶺の花である聖女様に並び立とうとした生意気な女」という謎のレッテル…は、外さないものの「下々への理解や優しさはあるし学もある」と謎の上から目線の評価はしてくれているらしいが、私は彼を「聖女の狂信者」としか見ていないのでなんかもうお互い様である。
そんな面白くもない幼少期や思春期を過ぎ、やがて私達も十九歳。成人して結婚適齢期になった。
彼の家族や私の家族は、国王陛下や王妃殿下から「国を良い方向へ導いた」「本人も優秀」「素行もいい」「魔法学を一人でかなり躍進させた」となんだかんだで気に入られている私になんとか昔のような関係に戻れないかと試行錯誤しているが私の気持ちは動かない。するといつのまにかこちらにばかりかかりきりになった彼らは聖女の信奉者をやめていた。
彼は聖女の信奉者を続けている。彼は常に聖女のそばにいて、聖女を守る。護衛騎士ごっこだろうか。見ていてイタイ。婚約者がいる男だと知りながら彼をそばに置いて、姫プレイしてる聖女もなかなかにイタイが。
さて、そんな彼は聖女にかまけて我が家の婿になるということをすっかり忘れているらしい。
これはもう、無理だろうと誰もが悟っていた。
私は彼の家族と私の家族を呼んだ。結婚適齢期になっても改善しないこの件を、いい加減動かすために。
「率直に申し上げます」
「…」
「婚約者である彼は、我が家の入り婿になるより聖女様の護衛騎士になる方が向いています。婚約は白紙に戻し、彼に護衛騎士になる道を示して差し上げてください」
彼の家族は青ざめるが、覚悟もしていたらしい。
「…どうしてもですか」
「はい」
「わかりました…今まですみませんでした」
両親に向き直る。
「いいですよね?」
「仕方あるまい…だが…」
「そして、国王陛下と王妃殿下の〝期待〟もご存知ですよね?」
「それは…」
「国の意識改革をした私が、この国では初の女公爵となる…それをお二人は密かに期待していらっしゃると噂です。…今更優秀な婿をといっても、私は結婚適齢期ですしもう難しいでしょう?」
父と母は顔を見合わせて頷いた。
「わかった…」
「ですが、元々私と彼の婚約は政略的なもの。家同士の利益あってのものですし、やはり婿はそちらのお家から女公爵となった私の配偶者として来ていただきたいのです」
「しかし長男はウチを継ぐので…」
「三男の彼をください」
「え!?」
彼らはみな驚くが、私の決意は固い。
「私は彼がいいのです」
「…わかりました」
そうして婚約の白紙化と、新たな婚約は決まった。
「アリスティア!君が婚約者になってくれるなんて!」
「私こそピーター様と婚約できるなんて幸せです!」
私の婚約者となった、彼の弟のピーター様。
ピーター様はイケメンで優秀で気遣い上手な素敵な人。
そして、女の子らしい可愛い格好をするのが好き。
ただそういう趣味なだけなのに、親から頭ごなしに叱られてそれでも自分を曲げずに生きてきた人。
破天荒な私にはぴったりな人とも言えるし、性格的にも合う。
「ピーター様の婚約者になれたのですから、これまでの人生も無駄ではありませんでしたね」
「ふふ、僕もそう思う!…一方の兄上は聖女様の護衛騎士になろうとして、予想外の鍛錬の厳しさに心が折れそうになってるけど自業自得だし頑張って欲しいよね」
「ですわね。聖女様の方も、今までちやほやしてくれていた彼が鍛錬のためそばにいられなくなって泣き言を仰られているとのことですが…頑張って欲しいですね」
「その上細身のイケメンだった兄上がガチムチになるに連れて聖女様の目が冷たくなってるとか。どう転んでも兄上には辛いかもねー。アリスティアを大事にしない奴なんてそうなって当然だけど」
「彼にも彼の事情もありますから、幸せになってくれるならそれでもいいんですけど…難しそうですね。なんでもしてくれる都合のいい彼が居なくなってからの聖女様は精神的に不安定だそうですから、そちらも辛そうですが…」
正直ざまぁみろと思ってしまうのはご愛嬌。
「それよりもピーター様、私の配偶者となるからには自由に生きていいですから!どんどん可愛さを極めてください!」
「うん、公式な場以外では極める!アリスティアが自慢の夫って言えるくらい可愛くなるよ!」
「私もピーター様の自慢の妻となれるよう、領地経営も魔法学の研究も頑張ります!」
こうして私達はそれぞれ、収まるところに収まった。
ちょっと可哀想なことになっている人たちもいるがそれはともかく、これからは私達はお互いを理解し尊重するオシドリカップルを目指して頑張ろうと思う。
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