異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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私は怒った、怒り狂った

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私は怒った、怒り狂った。

何故ならば。

私は悪役令嬢に転生してしまったのを「今になって」思い出したからだ。

そう、断罪後、エピローグの後…貴族籍も戸籍も消されて、棄民として国外追放処分を受けた今になって。

「こんなのあんまりじゃない!あのクソ女神!!!絶対許さない!!!」

財産すらない、無一文。

隣国には関所で訳を話すと特別に通行証無しで通された。

何故ならば私の境遇は、死ねと言われているようなものだから。

関所の人が、哀れんで上に掛け合ってくれたのだ。

そんな優しさに触れた私は嬉しかった。

日本円に換算して五百円程度の価値のあるコインも貰った。

それを使ってとりあえずその辺のパン屋でパンを買って食べていて、ふと前世の記憶を取り戻したのだ。

「せっかく優しさに触れて良い気分だったのに…っ」

…クソがぁぁぁああああああ!!!

許すまじ暇を持て余した女神!

私をこんな目に遭わせやがって!!!

交通事故で死んだ私を暇つぶしで作った世界の悪役に抜擢して、無理矢理契約を結んでこんな目に遭わせて!

こうなったら徹底的に、あの女神に嫌がらせしてやる!











私はまず、金策に走った。

私は腐っても悪役令嬢。

魔術に関しては特にトップクラスの成績を残していたのもあって、魔女と名乗り何でも屋をやった。

魔獣退治に、怪我人や病人の治癒、錬金術に、本当にどんなことでもした。

さすがに、アングラ案件は断ったが…それ以外なんでもした。

「魔女さん、おはよー」

「おはよう、今日も良い朝ね」

 「魔女さん、いつもありがとうね。ほら、パンを持って行きなさい」

「おばさんありがとう!」

「魔女さん、なんか偉い人が魔女さんと会いたいってー」

「…え?」

その内、気付いたら何故か貴族のおじさんを治癒することになって。

「公爵閣下が持ち直したぞ!」

「万歳、万歳、魔女様万歳!公爵閣下万歳!」

「んん…おや、体が楽だ…何故…?」

「パパー!よかったよぉ、うわぁあああん!」

「魔女様、本当にありがとうございます!旦那様を助けてくださって…本当に、本当にありがとうございます!」

その内、気付いたら呪われていたこの国の皇女様を浄化することになって。

「妹の体から、モヤが!?」

「皇女殿下がお美しいお身体を取り戻された!?」

「え、これ…わたくし?わたくしってこんなに綺麗なの?」

「魔女殿、感謝する!妹を、本当にありがとう!お礼に宮廷魔術師に抜擢しよう!」

その内、気付いたら宮廷魔術師になって衣食住とお金には困らなくなったのは予想外だったけど。











金策に成功した私は、この国で新たな…宮廷魔術師という地位と称号と権力も手にしたわけだが。

目的はそこではない。

単に金策のための行動でしかなかった。

が、地位や権力にはそれなりの責任がある。

なので私は、今日も宮廷魔術師として毎日責務に励んでいる。

結果、私は皇女様からも皇太子殿下からも皇帝陛下からも全幅の信頼を寄せられている。

―…これを利用しない手はない。

私は、皇族直轄の騎士団や魔術師団の強化を進言した。

私の目的はあの女神への嫌がらせ。

つまり、ハッピーエンドになったあの女神のお気に入りの「聖女の国」…祖国を滅ぼしてやればいい。












魔術師団の強化は簡単だった。

魔術師団の連中に得意の魔術を教えてやればいい。

皇国の魔術師団は祖国より弱かったからこそ、鍛え上げれば成長スピードは早かった。

自画自賛ではなく、祖国の魔術師団より圧倒的に強くなったと断言できる。

「宮廷魔術師殿のおかげで我らも見違えましたな」

「ええ、ここまで強くなればひとまず安心ですな!」

「いやいや、ここまで育ててくださった宮廷魔術師殿のためにももっと強くならねば」

「それもそうだな」

「頑張ってくださいね、皆様」

騎士団の強化は、骨が折れた。

とても辛い辛いものだった。

だって…あいつら脳筋すぎて私も筋トレに巻き込んでくるから…。

でも、やる気は人一倍。

だから、元々祖国の騎士団より強い方ではあった。

それを私の身体強化魔術を使って、トレーニングにトレーニングを重ねた結果…祖国より圧倒的な武力を手に入れた。

そして皇国は、この大陸のどの国よりも圧倒的な武力と魔術を手に入れたのだ。

「宮廷魔術師殿のトレーニングのおかげで皆様ますますマッスルになられましたな!」

「マッスル!」

「これからも頑張りマッスル!」

「「「マッスル!!!」」」

「…ええっと、皆様素晴らしいと思いま…マッスル」

結果。












危機感を感じた祖国が今更攻めてきた、と。

戦場は国境である皇国所有の森。

指揮を執るのはあの忌々しい聖女、女神の祝福まで受けている。

それをあの浮気者の元婚約者…王太子がサポートしている。

―…ならば、圧倒的な力で蹂躙してくれる。

それがあの女神への、そしてあの聖女と王太子への復讐になるのだから。












戦況は、最初は皇国の優勢だった。

だが、祖国は禁じ手を使ってきた。

女神の祝福による、聖女の魔獣操作。

祖国にいた野生の魔獣を全て、こちらへ差し向けてきたのだ。

絶体絶命のピンチである。

―…なぁんちゃって。

魔術師団も騎士団も焦る。

焦るが…私は私の持つ魔力全部を使って魔術師団と騎士団にバフを掛けまくった。

「皆様、私が強化魔術を掛けます!頑張って魔獣を殲滅してください!そうすれば優位に立てます!」

「殲滅ってそんな…」

「うぉおおおおお!頑張りマッスル!!!」

「騎士団やっば…」

「でも俺たちも…」

「「「…頑張りマッスル!!!」」」

結果、バフが効いている僅か一時間の間に魔獣は殲滅。

奥の手を失った祖国は敗走。

敗走する向こうの騎士団と魔術師団を後ろから追撃。

結果祖国の売ってきた戦争は皇国の勝利に終わった。

「やったー!勝ったー!」

「あの王国を下したぞー!」

「我が国の勝利だー!」

「これも宮廷魔術師殿のおかげだー!」

「いえいえ、皆様のお力ですわ」

そして祖国に多額の賠償金を吹っかけお金をむしり取った結果、祖国の王家はまさかの借金地獄からの破産。

皇国はお金持ちになり、祖国は王家を失い、指導者を失った祖国は皇国の属国になり、祖国の新しい指導者には王太子とは年の離れたまだ幼い第二王子が選ばれた。そしてその幼すぎる第二王子の補佐には私を溺愛していた兄が筆頭公爵家の息子として、王家の遠縁の親戚として、私をパイプとして繋がった皇国の犬として選ばれた。

「妹よ!ずっと心配していたのだぞ!」

「お兄様!」

「よくやった!お前がやらねば俺が王国に反旗を翻していた!」

「もう、お兄様ったら…手紙は役に立ちました?」

「ああ、事前にお前が皇国の勝利を確信した手紙をくれていたから、動きやすかったぞ」

「それはよかった」

兄が上手くやっていた裏で、国王と王妃と王太子と聖女は敗戦の、そして破産の責任を取らされてまさかの奴隷落ち。

「どうして私たちがこんな目に…」

「やはりバカ息子が聖女ではなくベティを選んでいれば…」

「私が一体何をしたって言うのよぉ!?」

「…ベティ、君は今何を思っているのか」

勝った、私は女神に勝った!!!

王太子と聖女を見返してやり、命までは奪わないものの地位を全て剥奪してやった!

女神もさぞご立腹だろう!!!

「そうですね、姉上は大層お怒りです」

「え、貴方は?」

「貴女を巻き込んだ馬鹿姉の弟神です」

「………」

突然現れた侵入者。

その言葉に、緊張する私に彼は微笑む。

「安心してください、僕は姉上の味方ではないのです」

「え」

「父上は神として、命を弄ぶ行為を禁止しています。ですが姉上は貴女を弄びました…他の方もね。だから今処罰されています…雑用係として、下級神からのやり直しです。この世界は僕がこれから管理します。なのでもう貴女への脅威はなにもありませんよ」

「え…なんで」

「貴女のおかげですよ」

彼はご機嫌そうに続ける。

「姉上が貴女に反旗を翻されたと父上に泣きついて、姉上の悪事が露呈。結果姉上は罰を下され、僕はこの世界を任された…貴女には本当に感謝してもし足りない」

「お姉様との仲が悪いのですか?」

「もちろん。あの性悪には煮え湯を飲まされ続けたのでね」

にっこり笑う彼は、大分恨みを募らせていたらしい。

「なので、貴女には今までのお詫びとお礼を兼ねて恋愛運を爆発的に上げて差し上げます」

「え」

「好みの殿方が方々から貴女を求めてやってきますよ」

「え」

「では」

そこから私の新たな苦労が始まった。













「ベティ、今日も可愛いですよ」

「ベティ、俺とそろそろ婚約する気はないか?」

「ベティ、そんな男より俺にしたほうがいいよ」

「ベティ、こんな小僧たちは放っておいてわしと竜の国に行かんかの?」

「黙れエセジジイ。ベティ、やはり皇国としては他国に恩人であるお前を嫁にやるのはどうかと思っている。よって僕と婚約してもらうつもりで君の兄君との話を進めている」

その言葉に各国の王子たちが騒ぐ。

「抜け駆けは禁止と言うたじゃろうが!」

「俺のベティなのにー!」

「ならこの際一妻多夫制でもいい、結婚しようベティ」

「ベティ、僕とも結婚しましょう」

「ベティのためのハーレムか…まあ、悪い話でもないかもな」

どうしてこうなった。

私は頭を抱えた。

だがまあ、あの女神に勝った責任としてこの逆ハーレムをなんとかするのも私の義務なのだろう。

…頑張ろう。
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