異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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異世界転移したらなんか良い人に拾われた

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「…わあお」

高校の卒業式が終わった。

さあ帰ろうと思って足を一歩踏み出したら目の前が真っ暗になり、次の瞬間にはファンタジーな世界にいた。

「異世界転移なんて聞いてないんですけど」

まあでも、現実世界に未練なんてないから…困りはしないけど。

「どうしようかな、これ」

周りの人達はぎょっとした様子で私を見つめる。

珍しい格好だから?

いきなり現れたから?

答えはどちらもだろう。

「おい、人間。なにしてる」

「迷子でーす」

「迷い人か、厄介だな。こっちにこい」

「はーい」

「…あのな、危機感皆無か?警戒心くらい持て」

そうは言っても、他に頼るあてもない。

他の人はみんな遠巻きに見てるだけだし。

「助けてくれる人他にいませんし、警戒しててもしょうがないじゃないですか」

「それはそうだが…」

「それより早く助けてくださーい」

「やっぱり助けるのやめようかな…」

「ヘルプミー!」

そして私はこの人…狼の獣人の、ルーヴさんに助けてもらうことになった。

ルーヴさんはとても親切な人で、この世界のことと迷い人について説明してくれた。

この世界は私がいた世界とは本来隔絶した世界だそうだ。

化け物も人間もいて、共存しているのだそう。

迷い人は本来繋がることのないはずの化け物がいない世界から突然現れる、化け物を恐る面倒くさい存在だそうで。

「面倒くさいとわかっててよく拾いましたね」

「お前化け物恐れてないじゃん」

「それはそう」

「もっと怖がったりしないわけ?」

「怖がって何になるんですか?」

はぁ…とため息をつくルーヴさん。

「まあいいや。ほら、ここが俺の家」

「普通のアパートだぁ」

「文句あるなら帰れ!」

「うそうそ冗談、素敵なお住まいですね」

「もうこの人間やだぁ…」

中に上がると、中々に良いお家。

「え、これケーキ?」

「俺の好物だがなにか?」

「完全に偏見ですけど好きそうに見えないです」

「よく言われるよ」

「美味しそー」

いいなぁ、いいなぁと絡みまくってたら一口だけくれた。

駄々捏ねて正解だった。

「で。迷い人が元の世界に帰る手段は今のところないから、この世界で自立する努力をしろ」

「わあい」

「手始めに家事手伝いからだな。励めよ」

「はぁい」

ということでルーヴさんの家の家事手伝いを任されることになった。















「…」

「…美味い」

「やったー!」

「お前すごいな。家事に掃除に洗濯に、全て完璧だ。料理は美味い、皿はピカピカ、掃除は細部に渡って行き届き、果ては洗濯物もシワひとつない!」

「一人暮らししてたもので」

ふふんと胸を張る。

ルーヴさんは感心した目でこちらを見つめる。

「なあ、それだけ出来るなら家政婦の仕事をしてみないか」

「家政婦ですか?」

「その…お前になら任せたいんだが」

「是非是非!どこのお宅ですか?」

「俺の実家」

ほほう、悪くない。

「やります!」

「良かった、助かる。父も母もバリバリ働いて稼ぐのはいいが、家事が疎かになっていてな。ゴミ屋敷と化しているから家政婦を雇ってもすぐに根を上げて出ていくんだ。だがお前になら頼めそうだ」

「まっかせてくださーい!」

ということでルーヴさんの実家で通いの家政婦さんをしに行くことになった。












「はじめまして!家政婦の百合です!よろしくお願いします!」

「あらあら、可愛らしいお嬢さんね。よろしくね。私たちはこれから仕事だから、できる範囲でよろしくね!」

「はい!」

ということで家政婦業開始。

まずはお片付け。勝手に物を捨てるのはまずいので、収納という形で綺麗にしていく。結果半日かけて大分整頓された。その後掃除機などもかけて空いたスペースを綺麗にした。

こんもりと積み上がった洗濯物もお片付けと並行して行ったのでオーケー。シワひとつない仕上がりにして、きちんと畳んでしまう。

そして同じくこんもり積み上がった食器も片付ける。

ここまででもう夕方。しかしまだ終業時刻まで時間があるので買い物も済ませてご飯も作っておいた。ラップをしておいておく。

「初日にしては完璧!」

そしてルーヴさんから預かっている合鍵で玄関を施錠してからルーヴさんのアパートに帰る。

忙しいご両親に代わってルーヴさんに仕事内容を報告して終了!

「お疲れ様」

「超頑張りました!」

「ありがとさん。じゃあ夕飯にしようか」

「わーい!今作りますね!」

「え、作ってくれるのか?」

きょとんとするルーヴさんに言った。

「ルーヴさんもさっき帰ってきたばかりでしょう?私がやりますよ」

「…ありがとう、百合」

「いえいえ」

なんだか、初めて居場所ができた気分だ。
















「百合ちゃーん!」

「奥様!どうされました?」

「めちゃくちゃ家が綺麗になってるのー!ありがとう!ほら、貴方も!」

「世話になったね百合さん、すごく綺麗になってびっくりしたよ」

「そ、そうですか」

なんかめちゃくちゃ喜ばれてる…。

「これからもよろしくね!」

「出来れば末長くな」

「は、はい!」

こうして異世界での生活は、すごく順調にいっていた。













「…え、なにここ!?あ、百合じゃん!ねえ、ここなに!?どうして行方不明のアンタがいんの!?」

「え、あー…」

この世界に慣れて、幸せに生きてきた中で。

唐突に、前の世界でのいじめっ子に再会してしまった。

とりあえずこの世界について説明する。

いじめっ子は頭をボリボリ掻いて、そして言った。

「まあいいや、アンタこの世界で安定した生活してるのよね?私を養いなさいよ」

「え…」

「アンタみたいな底辺に私を養わせてあげるって言ってんのよ!喜びなさいよ!」

「…」

面倒くさいなぁ、どうしようかなぁ。

一応家政婦業のおかげでお金はある。

ただ、私はまだルーヴさんの家に居候している状態だ。

ルーヴさんが、家事をやってくれるならずっと居ていいって言ってくれたから…甘えてる。

だから養うのは百歩譲って良いにしても、ルーヴさんの家に連れていくのは…ちょっと…。

「百合」

「あ、ルーヴさん」

「なんだ、この高圧的な女。知り合いか?」

「ああ、前の世界で私をいじめてた子ですよ」

「…は?」

ルーヴさんの目つきが鋭くなる。

「百合、そんな女放っておけ。行くぞ」

「え、でも…」

ふといじめっ子を見ると、ルーヴさんにびびって粗相をしていた。

化け物に睨まれたらそりゃあ普通は怖いか。

結局彼女は助けることなく、帰ってきてしまった。

「大丈夫ですかね、あの子」

「知らん。それより百合」

「はい」

「他人より自分を大切にしろ。あんな奴気にかけるな」

「…ふふ、はい」

ルーヴさんはいつも私に優しい。

なんとなく満たされた気持ちになる。

その後いじめっ子と遭遇することはなく、この世界での生活もさらに安定して、順当に幸せになっていった私。

ある日見世物小屋で彼女によく似たキメラを見かけたが、見なかったことにした。

ルーヴさんのところでの居候生活はいつのまにか同棲生活になり、結婚して子供にも恵まれた。

この世界に来て良かったと、心から思った。

「ルーヴさん」

「うん?」

「私、今すごく幸せです」

「俺もだ」

「ふふ」

この幸せが、ずっと続いて欲しい。

そんなささやかな願いは、きっとルーヴさんが叶えてくれるだろう。

ルーヴさんにそっと寄りかかる。

モフモフの毛並みに、心底安心した。
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