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悪役令嬢、母になる
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私はこの乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢だ。
レティシア・ルーヴ・アルテミス。
燃えるような赤い髪に紅茶色の瞳、キリッとした顔のせいで性格を誤解されることが多い。
だが本来の私は弱気で臆病者だ。
だから私は、悪役令嬢になることを全力で避けた。
知識チートを駆使して勉強をほぼ免除され、将来公爵家を継ぐことを約束され、空いた時間は婚約者と仲良くしようと努力した。
しかし婚約者は、父の再婚相手の娘…ヒロインであるナタリアを選んだ。
ナタリアは水色の髪に水色の目のキュートな元気っ子。
まあ、可愛い系だから私と真反対なわけで…婚約者の趣味はよくわかった。
そして私はなにも悪いことをしていないのに、いつの間にかヒロインである妹を虐めた〝悪役令嬢〟に仕立て上げられてしまった。
妹も転生ヒロインだったのだ。
そして妹を溺愛していた継母のお願いを聞き入れた父は私を勘当して家を追い出し、本来爵位を継ぐ権利のない妹を女公爵にしようとした。
追い出された私は、親切なパン屋のお爺ちゃんに助けられて住み込みで働かせてもらっているので無事だしむしろ今は幸せ。
もう婚約とか結婚は懲り懲りだから、独身貴族を謳歌するつもりだけど…結婚だけが女の幸せでもあるまい。
だから恨みはそこまで深くないからこそ、心配が勝る。
あの転生ヒロインの妹に、今更女公爵が務まるだろうか…いや、あるいは私の元婚約者…今は妹の婚約者である彼を公爵に据えるとか?
どっちにしろ継ぐ権利無いと思うんだけど…まあ、心配だけどもう関係ないし…見捨てるしかないよね、可哀想だけど。
ああ…そもそも元婚約者って今まであんまり意識してなかったけど、私の父方の遠縁の親戚だって話だっけ。
じゃあセーフか。
セーフであってくれ。
そう思っていた。
そして今日、妹と元婚約者の浮気が発覚して逆に私が断罪され婚約破棄されてから七年の月日が経ち…パン屋さんに、家の使いの者が現れた。
「は…?妹と元婚約者が死んだ…?」
「はい、馬車での不幸な事故で…」
「それで…跡取りは…どうするの…?」
嫌な予感がして恐る恐る聞いてみる。
「その、旦那様と奥様の間に双子の男の子と女の子がおりまして…シリル様とシエル様というのですが」
「それで…?」
「お二人とも旦那様の血を引いているのは魔術で確認済みですので、血縁的に公爵家を継ぐのに問題ありません。大旦那様ともかなり薄いですが血の繋がりがあります故」
「うん、でもまだ五歳くらいだよね」
「はい、ちょうど明日で五歳です」
待て待て待て待て待て。
「まさかと思うけど、中継ぎをやれとか言わないよね」
「…すみません、そのまさかです!!!」
家の使いの者が土下座する。
「奥様が今際の際に言っていました、本当はお嬢様に虐められてなんていなかったと!!!本当にあの頃は、申し訳ございませんでした!」
「いや、うん、まあ…」
「戻ってきてくださいお願いします!!!」
いや、まぁ…うーん。
「戻ってやれや、お嬢ちゃん」
「お爺ちゃん」
パン屋のお爺ちゃんがそう言うなら…。
「わかった、私戻るよお爺ちゃん」
「おう」
「でも時々、パン買いに来て良い?」
「好きにせい」
ということで、私は屋敷に戻ることになった。
「すまなかったレティシア!」
「あの…ごめんなさいね…」
「「「お嬢様、申し訳ありませんでした!!!」」」
ナタリアの今際の際の言葉を聞いて反省したのはどうやら使用人全員だけでなく、父と継母も同じだったらしい。
「いや、いいですよ。でも、シリルくんとシエルちゃんでしたっけ?二人が成人するまでの中継ぎですよ」
「助かる!すまない!ありがとう!」
「本当に…ごめんなさいね…」
「…お義母様は、無理せず休んでいてください。色々ショックだったでしょう?」
「レティシアちゃん…っ」
わっと泣き出した義母を父に任せて、とりあえず現状把握。
執事の言うことには、家は旦那様…私の元婚約者が継いだそうな。
ナタリアには女公爵は無理と判断されたとのこと。
まあ残念ながら当然だ、あの子に公爵は向いてない。
で、婚約者は要領が良かったのと父の監督でまあまあ上手く〝公爵様〟をやっていたようで問題はないと。
あとはうまく引き継いで、シリルくんに橋渡しするだけみたいだ。
ただ、領地経営とかはそうなのだが…。
「家のお金食い潰してたかぁ」
なんと元婚約者とナタリア、〝公爵〟としては合格点だったものの人としてダメだったらしい。
この七年でほぼ貯金を食い潰していた。
まあ我が公爵家には色々収入源はあるからこれからまた貯金していけばいいんだけど…本当になにやってるんだあいつら。
まあでも、天国では幸せでいて欲しいとは思うけども。
この責任はどう取ってくれるんだ。
まあ借金がないのは救いか…これからは生活費は節制しないとな。
使用人たちの雇用にも影響が出ない程度にね。
さてまあそんなわけで、手続きも済ませて見事に〝公爵〟となった私レティシアですが。
公爵としての仕事は父に完璧と太鼓判を押されてるし、貴族間での色々なお付き合いも…まあ〝悪役令嬢〟に仕立て上げられた時の醜聞はあれど…なんとかなってるし、家の貯金もまあ細々と積み立てている。
パン屋のお爺ちゃんにも時々会いに行って、可愛がってもらって美味しいパンも食べたりしてる。
だからストレスはまあ程々なのだが…悩みはある。
双子ちゃんの養育だ。
「ほぼ乳母に任せて、乳母も充分乳を与えてくれているし愛情たっぷりに育ててくれている」
とはいえ一応伯母なわけで、やっぱり可愛がってあげないと…。
とは思うのだが、シリルくんもシエルちゃんももう五歳。
自我は芽生えてるし、お父さんとお母さんの記憶はバリバリあるし、お父さんとお母さんが居なくなっちゃったこともなんとなくわかってるみたいだし、どう接していいかわからない…。
だが逃げてばかりもいられないので、そろそろと近づいてみた。
とりあえず話しかけず様子見。
「…あ、伯母さま!」
「伯母さまー!」
悩み、即解決。
私が帰ってきた初日に乳母が私を伯母…お母様の義姉だと紹介したのを覚えていたシリルくんとシエルちゃんは、私が二人を避けていたのが馬鹿馬鹿しく感じるほど無邪気に懐いてきた。
多分、両親を亡くして寂しいのもあるのだろう。
父と継母はいつもしくしくめそめそしていて構ってくれないようだし。
「…えっと、一緒に遊ぶ?」
「遊ぶー!」
「遊んでー!」
そんなこんなで、忙しい公爵としての仕事をこなす毎日の中に癒しが生まれた。
シリルくんとシエルちゃんと仲良くなってからさらに月日が経ち、シリルくんとシエルちゃんは十三歳にして反抗期という難しいお年頃に突入。
なのだが…。
「伯母さま、俺貴族学院の中等部に入っても成績トップってすごくない!?」
「すごいすごい、さすがはシリルくん!!!」
頭を撫でてやれば素直に喜ぶ。
可愛い。
「あ、シリルずるーい!伯母さま、私もシリルと同じで成績トップよ!」
「すごいすごい、さすがはシエルちゃん!!!」
同じように褒めて頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
可愛い。
あれ、うちの子達どうしてこんなに素直で可愛いんだろう。
もう反抗期なのに。
「それでさ、公爵家を継ぐのにそろそろ色々教えてよ!」
「私も花嫁修行しなくちゃ」
「そうね、普通のお勉強だけじゃもう二人とも物足りないわよね」
向上心の強い二人は、学びに積極的だ。
ならばいくらでも教えよう。
家庭教師も増やさなければ。
「そうだ伯母さま、またパン屋のお爺ちゃんのところに一緒に行こうよ!」
「楽しみー!あのお爺ちゃんのパンは絶品だもの!」
ちなみにパン屋のお爺ちゃんは二人を孫のように可愛がってくれていて、二人とも懐いている。
そしてシリルくんとシエルちゃんはその後も順調に成長した。
向上心の強い二人はあっという間に十八歳となり、シリルくんは公爵家を継ぐに相応しい…シエルちゃんは可愛いお嫁さんになるに相応しい素敵な子に育った。
そろそろ中継ぎはもう良いだろう。
「ということでシリルくん。そろそろ十九歳も近いし、爵位継承しようか」
「わかったよ、伯母さま!俺…私は立派な公爵になります!」
「よろしい」
頭を撫でれば素直に喜ぶ。
こういうところはまだ子供だな。
「シエルちゃんももうすぐ輿入れだね。おめでとう」
「ありがとうございます、伯母さま!それでね、ご相談なのだけど…」
「なに?」
シリルくんとシエルちゃんは声を揃えて、大声で言った。
「「私達の本当のお母さんになってください!!!」」
「え…?」
「レティシア」
「レティシアちゃん…」
「お父様、お義母様」
父と継母まで登場した。
なんなんだ。
「レティシア、二人はお前の養子になりたいそうだ」
「え?でも普通に勘当も解いてもらって家に貴族籍あるからもう家族だよ」
「「でもちゃんと親子になりたいの!」」
「いやいやいや…」
「私からもお願い、レティシアちゃん」
継母の言葉に驚く。
「え」
「娘が…私も、レティシアちゃんに酷いことをしたわ。それなのにレティシアちゃんは、二人が本当のお母さんになって欲しいというほど二人を愛してくれた。そんなレティシアちゃんに、二人のお母さんになってあげて欲しいの…」
「お義母様…」
「伯母さま、色々な人から聞いたわ。お母様がごめんなさい」
「本当にごめんなさい、伯母さま。でも、伯母さまにお母さんになって欲しいんだ」
真剣な表情の二人を見て、考える。
それが本当に二人の幸せになるか。
でも、ふと春先に亡くなったパン屋のお爺ちゃんの遺言を思い出した。
『レティシア、迷ったときは自分の意思を優先せいよ。お前は少し引っ込み思案すぎるからな』
…自分の意思を優先、するなら。
「…うん、二人を養子にしても良い?」
「もちろんだよ!」
「伯母さまありがとう…ううん、お義母様ありがとう!!!」
「お義母様…義母上って呼ぶべきかな?ありがとう!!!」
こうして私達は手続きをして、本当に親子になった。
その後シリルくんは公爵家を継いだ。
お父様や私が見守りつつ、立派に公爵家を回している。
シエルちゃんは幸せそうにお嫁に行って、今でも幸せそうな手紙をくれる。
時々会いに帰ってきてくれるのが、最近の楽しみだ。
パン屋のお爺ちゃんのお墓参りにも、みんなでよく行く。
妹と元婚約者のお墓参りにも、みんなでよく行く。
色々あった人生だけど、子供には恵まれたし、仲違いしていた家族とも仲直りできたし、爵位を息子に継いでからは自由な時間も増えて独身貴族バリバリ謳歌してるし。
今は強がりではなく本当に幸せだ。
助けてくれて可愛がってくれたパン屋のお爺ちゃんにも、可愛い子供達を産んでくれた妹にも、可愛い子供達の父である元婚約者にも感謝だ。
さすがに妹と元婚約者には思うところはあるけれど、でも心から感謝できる今になったのは本当にありがたいことだと思う。
それは子供達が素直で優しい子に育ってくれたからで…乳母にも感謝だな。
ともかく、色々と満たされている今を楽しんで幸せを謳歌させてもらおう。
それが悪役令嬢から〝母〟となった私への、ご褒美だと思って。
レティシア・ルーヴ・アルテミス。
燃えるような赤い髪に紅茶色の瞳、キリッとした顔のせいで性格を誤解されることが多い。
だが本来の私は弱気で臆病者だ。
だから私は、悪役令嬢になることを全力で避けた。
知識チートを駆使して勉強をほぼ免除され、将来公爵家を継ぐことを約束され、空いた時間は婚約者と仲良くしようと努力した。
しかし婚約者は、父の再婚相手の娘…ヒロインであるナタリアを選んだ。
ナタリアは水色の髪に水色の目のキュートな元気っ子。
まあ、可愛い系だから私と真反対なわけで…婚約者の趣味はよくわかった。
そして私はなにも悪いことをしていないのに、いつの間にかヒロインである妹を虐めた〝悪役令嬢〟に仕立て上げられてしまった。
妹も転生ヒロインだったのだ。
そして妹を溺愛していた継母のお願いを聞き入れた父は私を勘当して家を追い出し、本来爵位を継ぐ権利のない妹を女公爵にしようとした。
追い出された私は、親切なパン屋のお爺ちゃんに助けられて住み込みで働かせてもらっているので無事だしむしろ今は幸せ。
もう婚約とか結婚は懲り懲りだから、独身貴族を謳歌するつもりだけど…結婚だけが女の幸せでもあるまい。
だから恨みはそこまで深くないからこそ、心配が勝る。
あの転生ヒロインの妹に、今更女公爵が務まるだろうか…いや、あるいは私の元婚約者…今は妹の婚約者である彼を公爵に据えるとか?
どっちにしろ継ぐ権利無いと思うんだけど…まあ、心配だけどもう関係ないし…見捨てるしかないよね、可哀想だけど。
ああ…そもそも元婚約者って今まであんまり意識してなかったけど、私の父方の遠縁の親戚だって話だっけ。
じゃあセーフか。
セーフであってくれ。
そう思っていた。
そして今日、妹と元婚約者の浮気が発覚して逆に私が断罪され婚約破棄されてから七年の月日が経ち…パン屋さんに、家の使いの者が現れた。
「は…?妹と元婚約者が死んだ…?」
「はい、馬車での不幸な事故で…」
「それで…跡取りは…どうするの…?」
嫌な予感がして恐る恐る聞いてみる。
「その、旦那様と奥様の間に双子の男の子と女の子がおりまして…シリル様とシエル様というのですが」
「それで…?」
「お二人とも旦那様の血を引いているのは魔術で確認済みですので、血縁的に公爵家を継ぐのに問題ありません。大旦那様ともかなり薄いですが血の繋がりがあります故」
「うん、でもまだ五歳くらいだよね」
「はい、ちょうど明日で五歳です」
待て待て待て待て待て。
「まさかと思うけど、中継ぎをやれとか言わないよね」
「…すみません、そのまさかです!!!」
家の使いの者が土下座する。
「奥様が今際の際に言っていました、本当はお嬢様に虐められてなんていなかったと!!!本当にあの頃は、申し訳ございませんでした!」
「いや、うん、まあ…」
「戻ってきてくださいお願いします!!!」
いや、まぁ…うーん。
「戻ってやれや、お嬢ちゃん」
「お爺ちゃん」
パン屋のお爺ちゃんがそう言うなら…。
「わかった、私戻るよお爺ちゃん」
「おう」
「でも時々、パン買いに来て良い?」
「好きにせい」
ということで、私は屋敷に戻ることになった。
「すまなかったレティシア!」
「あの…ごめんなさいね…」
「「「お嬢様、申し訳ありませんでした!!!」」」
ナタリアの今際の際の言葉を聞いて反省したのはどうやら使用人全員だけでなく、父と継母も同じだったらしい。
「いや、いいですよ。でも、シリルくんとシエルちゃんでしたっけ?二人が成人するまでの中継ぎですよ」
「助かる!すまない!ありがとう!」
「本当に…ごめんなさいね…」
「…お義母様は、無理せず休んでいてください。色々ショックだったでしょう?」
「レティシアちゃん…っ」
わっと泣き出した義母を父に任せて、とりあえず現状把握。
執事の言うことには、家は旦那様…私の元婚約者が継いだそうな。
ナタリアには女公爵は無理と判断されたとのこと。
まあ残念ながら当然だ、あの子に公爵は向いてない。
で、婚約者は要領が良かったのと父の監督でまあまあ上手く〝公爵様〟をやっていたようで問題はないと。
あとはうまく引き継いで、シリルくんに橋渡しするだけみたいだ。
ただ、領地経営とかはそうなのだが…。
「家のお金食い潰してたかぁ」
なんと元婚約者とナタリア、〝公爵〟としては合格点だったものの人としてダメだったらしい。
この七年でほぼ貯金を食い潰していた。
まあ我が公爵家には色々収入源はあるからこれからまた貯金していけばいいんだけど…本当になにやってるんだあいつら。
まあでも、天国では幸せでいて欲しいとは思うけども。
この責任はどう取ってくれるんだ。
まあ借金がないのは救いか…これからは生活費は節制しないとな。
使用人たちの雇用にも影響が出ない程度にね。
さてまあそんなわけで、手続きも済ませて見事に〝公爵〟となった私レティシアですが。
公爵としての仕事は父に完璧と太鼓判を押されてるし、貴族間での色々なお付き合いも…まあ〝悪役令嬢〟に仕立て上げられた時の醜聞はあれど…なんとかなってるし、家の貯金もまあ細々と積み立てている。
パン屋のお爺ちゃんにも時々会いに行って、可愛がってもらって美味しいパンも食べたりしてる。
だからストレスはまあ程々なのだが…悩みはある。
双子ちゃんの養育だ。
「ほぼ乳母に任せて、乳母も充分乳を与えてくれているし愛情たっぷりに育ててくれている」
とはいえ一応伯母なわけで、やっぱり可愛がってあげないと…。
とは思うのだが、シリルくんもシエルちゃんももう五歳。
自我は芽生えてるし、お父さんとお母さんの記憶はバリバリあるし、お父さんとお母さんが居なくなっちゃったこともなんとなくわかってるみたいだし、どう接していいかわからない…。
だが逃げてばかりもいられないので、そろそろと近づいてみた。
とりあえず話しかけず様子見。
「…あ、伯母さま!」
「伯母さまー!」
悩み、即解決。
私が帰ってきた初日に乳母が私を伯母…お母様の義姉だと紹介したのを覚えていたシリルくんとシエルちゃんは、私が二人を避けていたのが馬鹿馬鹿しく感じるほど無邪気に懐いてきた。
多分、両親を亡くして寂しいのもあるのだろう。
父と継母はいつもしくしくめそめそしていて構ってくれないようだし。
「…えっと、一緒に遊ぶ?」
「遊ぶー!」
「遊んでー!」
そんなこんなで、忙しい公爵としての仕事をこなす毎日の中に癒しが生まれた。
シリルくんとシエルちゃんと仲良くなってからさらに月日が経ち、シリルくんとシエルちゃんは十三歳にして反抗期という難しいお年頃に突入。
なのだが…。
「伯母さま、俺貴族学院の中等部に入っても成績トップってすごくない!?」
「すごいすごい、さすがはシリルくん!!!」
頭を撫でてやれば素直に喜ぶ。
可愛い。
「あ、シリルずるーい!伯母さま、私もシリルと同じで成績トップよ!」
「すごいすごい、さすがはシエルちゃん!!!」
同じように褒めて頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
可愛い。
あれ、うちの子達どうしてこんなに素直で可愛いんだろう。
もう反抗期なのに。
「それでさ、公爵家を継ぐのにそろそろ色々教えてよ!」
「私も花嫁修行しなくちゃ」
「そうね、普通のお勉強だけじゃもう二人とも物足りないわよね」
向上心の強い二人は、学びに積極的だ。
ならばいくらでも教えよう。
家庭教師も増やさなければ。
「そうだ伯母さま、またパン屋のお爺ちゃんのところに一緒に行こうよ!」
「楽しみー!あのお爺ちゃんのパンは絶品だもの!」
ちなみにパン屋のお爺ちゃんは二人を孫のように可愛がってくれていて、二人とも懐いている。
そしてシリルくんとシエルちゃんはその後も順調に成長した。
向上心の強い二人はあっという間に十八歳となり、シリルくんは公爵家を継ぐに相応しい…シエルちゃんは可愛いお嫁さんになるに相応しい素敵な子に育った。
そろそろ中継ぎはもう良いだろう。
「ということでシリルくん。そろそろ十九歳も近いし、爵位継承しようか」
「わかったよ、伯母さま!俺…私は立派な公爵になります!」
「よろしい」
頭を撫でれば素直に喜ぶ。
こういうところはまだ子供だな。
「シエルちゃんももうすぐ輿入れだね。おめでとう」
「ありがとうございます、伯母さま!それでね、ご相談なのだけど…」
「なに?」
シリルくんとシエルちゃんは声を揃えて、大声で言った。
「「私達の本当のお母さんになってください!!!」」
「え…?」
「レティシア」
「レティシアちゃん…」
「お父様、お義母様」
父と継母まで登場した。
なんなんだ。
「レティシア、二人はお前の養子になりたいそうだ」
「え?でも普通に勘当も解いてもらって家に貴族籍あるからもう家族だよ」
「「でもちゃんと親子になりたいの!」」
「いやいやいや…」
「私からもお願い、レティシアちゃん」
継母の言葉に驚く。
「え」
「娘が…私も、レティシアちゃんに酷いことをしたわ。それなのにレティシアちゃんは、二人が本当のお母さんになって欲しいというほど二人を愛してくれた。そんなレティシアちゃんに、二人のお母さんになってあげて欲しいの…」
「お義母様…」
「伯母さま、色々な人から聞いたわ。お母様がごめんなさい」
「本当にごめんなさい、伯母さま。でも、伯母さまにお母さんになって欲しいんだ」
真剣な表情の二人を見て、考える。
それが本当に二人の幸せになるか。
でも、ふと春先に亡くなったパン屋のお爺ちゃんの遺言を思い出した。
『レティシア、迷ったときは自分の意思を優先せいよ。お前は少し引っ込み思案すぎるからな』
…自分の意思を優先、するなら。
「…うん、二人を養子にしても良い?」
「もちろんだよ!」
「伯母さまありがとう…ううん、お義母様ありがとう!!!」
「お義母様…義母上って呼ぶべきかな?ありがとう!!!」
こうして私達は手続きをして、本当に親子になった。
その後シリルくんは公爵家を継いだ。
お父様や私が見守りつつ、立派に公爵家を回している。
シエルちゃんは幸せそうにお嫁に行って、今でも幸せそうな手紙をくれる。
時々会いに帰ってきてくれるのが、最近の楽しみだ。
パン屋のお爺ちゃんのお墓参りにも、みんなでよく行く。
妹と元婚約者のお墓参りにも、みんなでよく行く。
色々あった人生だけど、子供には恵まれたし、仲違いしていた家族とも仲直りできたし、爵位を息子に継いでからは自由な時間も増えて独身貴族バリバリ謳歌してるし。
今は強がりではなく本当に幸せだ。
助けてくれて可愛がってくれたパン屋のお爺ちゃんにも、可愛い子供達を産んでくれた妹にも、可愛い子供達の父である元婚約者にも感謝だ。
さすがに妹と元婚約者には思うところはあるけれど、でも心から感謝できる今になったのは本当にありがたいことだと思う。
それは子供達が素直で優しい子に育ってくれたからで…乳母にも感謝だな。
ともかく、色々と満たされている今を楽しんで幸せを謳歌させてもらおう。
それが悪役令嬢から〝母〟となった私への、ご褒美だと思って。
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