異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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ある日天使を拾った

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世間では今日はバレンタインデー。

この世界では、百年に一度異世界から聖女様が召喚される。

前回の召喚で現れた聖女様が、バレンタインデーなるお祭りを制定したのだが…これが実に面白い。

愛する異性や、仲のいい家族や友達、それから自分自身への日頃のご褒美にチョコを贈る習慣…このバレンタインデーのおかげで、洋菓子店を営む我が家は毎年潤っていた。

それは、家族を亡くし私が独りぼっちで店を守るようになった今年も同じことだった。

「父さん、母さん、お兄ちゃん。私は今日もお店を守ったよ。老後のしばらく分の貯金もできた!まだまだお店も続けられるからね!」

先代の聖女様がバレンタインデーを制定してくれて本当に良かった。

今代の聖女様はなんだか塞ぎ込んでいて、バレンタインデーを楽しむ素振りもないそうだけど。

「聖女様が、少しでも元気になれたらいいな」

今年、こっそり聖女様に贈ったチョコの焼き菓子。

ちゃんと聖女様に届いてるといいな。

「さてと、明日の準備もしなくちゃ!」

バレンタインデーの次にはホワイトデーなるお祭りもある。

一旦今日で落ち着くはずだがまた徐々に忙しくなるのはわかっているので、今日も気合を入れてから眠った。

明日の朝も早いぞと。













「…あれま」

早起きして、お菓子の仕込みをしなければと店の前に行けば。

天使が店の前に座り込んでいた。

金髪に碧眼の天使。

私は栗色の髪に栗色の目の至って普通の見た目なので、天使様の色合いが羨ましい。

そして、この天使は顔も整っていた。

………でも、こんな綺麗な天使がなんでここに。

「綺麗な天使様」

「…」

「こんなところでどうしました?」

「…お腹が、空いて」

「でしたらお茶とお茶菓子などいかが?」

お店に天使様を入れて、お茶を淹れてあげる。

「廃棄寸前のものでもよろしければ」

値引シールの貼られた包装を剥がして、良いお茶菓子になるだろうとお菓子を差し出す。

どうせ今日開店前に捨てなければいけなかったものだ。

たくさん食べても困らない。

なのでたくさんの廃棄寸前のお菓子を天使様に捧げた。

天使様はなんと、全て食べ切った。

「ありがとう、美味しかった」

「はい、どういたしまして。お茶のおかわりは?」

「もう一杯だけ」

「どうぞ」

天使様はお茶を飲むと、私に頭を下げた。

「ありがとうございました。助かりました」

「いえいえ」

「それであの…」

天使様は言いづらそうに口をもごもごさせる。

私は粘り強く、待った。

結果。

「ぼ、僕をここで雇っていただけませんか!?」

天使はそう言った。

私はただ頷いた。













しばらくして。

天使は我が家の空いている一部屋を使うことになった。

天使との共同生活は楽しかった。

家族を亡くしてからなかった団欒が戻ってきた、ような。

まだ幼い天使をお風呂に入れたり、一緒にご飯を食べたり、一緒に寝たり。

プライベートだけでなく、お店の方も潤った。

天使は看板娘ならぬ看板天使となって、うちの売上に貢献してくれた。

「あの店にこの世のものとも思えない美丈夫がいるぞ」

と評判になったのだ。

おかげでイベントが無い月でもある程度のお金は稼げるようになった。

うちの天使は本当に、天使様だ。

そう思っていた。

まさか、本当に本当の意味で天使だなんて思っていなかった。









「ヨランド」

「サフィエル?」

「今までありがとう。羽が戻ったから、そろそろ天界に帰るよ」

にこっと微笑む天使。

星空に浮かぶ彼に、なんとなく腑に落ちた。

そうか、本当に天使様だったのか。

大人の姿に戻って羽を背負っていても、彼が彼なのはわかる。

「お礼に、冥界にいる君のご両親や兄君によろしくと冥界の主に言っておくよ。上手く贔屓してくれるだろう」

「……!!!」

家族の役に立てた。

今更だけど、事故からは守れなかったけど。

やっと、罪滅ぼしができた、気がした。

「君も冥界に行ってからは贔屓してもらえるようにするからね」

「ありがとう…!」

「こちらこそありがとう。じゃあさようなら。あと数十年後の、バレンタインまで」

「…?」

最後に言われたことがよくわからなかったが、ともかく。

天使は天に帰って行った。

私はその日からまた孤独に戻ったが、天使のくれた素敵な思い出と家族の役に立てたと言う幸福感で幸せでいっぱいになっていた。












天使が天に帰って数十年。

あれからも私は一人で店を守ってきた。

今は私に弟子入りした女の子が、店を継いでくれている。

よぼよぼになった私は、バレンタインデーの今日、お迎えを待っていた。

なんとなく、今日。

来るような、気がして。

「ヨランド、迎えにきたよ」

「サフィエル様」

「様、なんて水臭いな。サフィエルと昔のように呼んでよ」

「サフィエル」

「うん、ヨランド。今日までお疲れ様。さあ、僕と一緒に帰ろう」

そして私は、天使に連れられて冥界へ逝った。













冥界に行くと若くして亡くなった父と母と兄がいて、店を守り続け次世代に繋げた私を労ってくれた。

私もその家族に合わせて、魂を若い頃の姿に調整してもらった。

そんなサービス精神旺盛な冥界の主様も、父と母と兄を大事にしてくれていた様子ですっかり家族と仲良しさんだ。

そして私は冥界で…サフィエルに言い寄られている。

「ねぇ、僕と結婚しよう?」

「だめだって」

「なんで?」

「私はただの洋菓子店の経営者!貴方は天使様!」

「だからなに?」

サフィエルは私を見つめる。

「恋に立場なんて関係ない」

「それはそうだけど…」

「そうそう、これ」

「え、お菓子?」

「うん、チョコレートのお菓子だよ」

サフィエルは言う。

「約束、したでしょ」

「あー…ありがとう」

「うん」

「じゃあそういうことで」

「いや、そこは『私も好き!』って抱きついてくれるところじゃ無いの」

そうは言われても。

「私の中のサフィエルは幼い子だし」

「まあそう擬態していたのは僕だけど」

「だからいきなり恋愛感情は無理かな」

「ぐぬぬぬぬ…なら、次のバレンタイン!」

叫ぶサフィエルを見れば、真剣な表情。

「次のバレンタインデーには、きっちり答えをもらうから!」

「はいはい」

「僕は本気だからね!」

そしてサフィエルの本気アプローチを受けまくり、次のバレンタインデーにとうとう折れて求婚を受け入れたのは良い思い出となった。
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