異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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悪役令嬢ルートを回避したのにヒロインが寄ってきましたが、悪役令嬢に仕立て上げられるわけではないようです

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わたくしはナタリア。

この乙女ゲーム「救済の乙女と貴公子たち」の世界に悪役令嬢として転生した、元日本人の女子高生だ。

わたくしは悪役令嬢ルートを回避すべく、前世の記憶を思い出した十五歳の時点で親に貴族籍は残したまま分籍してもらった。

親は公爵の他にいくつかの爵位を持っていたので、伯爵位をもらって女伯爵となったのだ。

ついでに金にもならない廃村のいらない領地ももらった。

前世の記憶を思い出す前のわたくしは問題児だったので、追い出せるならこれ幸いと承諾してくれた両親and兄。

私は今日から、廃村の領地だけを持つ女伯爵となった。

そんなわたくしが今日、廃村に辿り着いて最初にしたこと。

それは乙女ゲームの悪役令嬢として、ラスボス故のチート級の魔力を持つわたくしの能力で廃村にある建物全部を〝元の状態に戻す〟こと。

廃村にあった一番大きなお屋敷も、潰れた家も、商店も、病院も…。

建物と中の家具や食器、ぼろぼろになった放置されたままの服、特殊な機材なんかも…。

全て全てを、廃村になる前の綺麗な状態に戻した。

これでわたくしはお屋敷に何不自由なく暮らせるし、人々を呼び込める。

ここまでの作業でおよそ一時間。

公爵家からこの廃村に来るまで朝出発してから夕方まで掛かったから、その後の廃村の回復で暗くなってしまった。

お屋敷に入って、魔術で屋敷内全体を明るくする。

そして前世の知識を駆使して生まれて初めて自分でご飯を作って食べた。

材料は廃村に着く前に途中で買い溜めした食品たちだ。

自分で作ったご飯は、なかなか美味しい。

「やっぱり自炊っていいわよね。自分好みに味付けできるし」

さて、食事が終わったらお風呂だ。

バスタブに水魔術で水を張り、火魔術でお湯を沸かす。

シャンプーやボディソープも買い溜めしてあるので、それを使って身体を清潔にする。

お風呂から上がると風魔術で身体や髪を乾かして、事前に持って来た着替えに着替える。

そして、ここからは徹夜の作業だ。

有り余る魔力を使って魔力石という魔力を結晶化した宝石を作りまくる。

魔力が枯渇した頃には朝日が出ていて、目の前には大量の高品質な宝石。

わたくしは、そこで意識を手放した。

ソファーで寝落ちしてしまったのだ。




















そして目が覚めると、わたくしは隣町の商人に魔力石を全部売りつけた。

最上級の品質の魔力石を、最低価格で売り捌く。

薄利多売で、それでもかなりの利益を得た。

わたくしが持ち出した私財はとても心許ない金額しかなかったが、これでしばらくの生活費は安泰だ。

さてそうなると、次は廃村の復興が必要だ。

悪役令嬢ルートを回避すべく女伯爵になったわたくしだが、お金があっても領地が廃村状態では格好がつかない。

そこでわたくしは、あるボランティア団体を訪ねた。

「すみません、事前に連絡も入れずお伺いしてしまって」

「いえいえ!それで伯爵様は寄付をしてくださりに?」

「ええ、まずは寄付を」

「まずは?」

大量に魔力石を売ってお金持ちになったわたくしにとって、端金と言える程度のお金を寄付する。

それだけでボランティア団体の会長は涙を流して喜んだ。

彼の涙が止まるのを待ち、そして本題に入った。

「このボランティア団体は、他国の戦争孤児を引き取って育てているのでしょう?」

「はい、戦争とはいえ子供達に罪はありません。だからこそ子供達を助けることが我々の使命なのです」

「わたくしは今、女伯爵として隣にある廃村を任されています」

「あの廃村を?」

「ですが廃村とはいえ、家家は綺麗にしてありますし商売を始められる施設も整っています。一度見に来てください」

「はぁ…」

訝しむ彼を連れて廃村に行く。

彼は廃村を見て、目を輝かせた。

「一夜にして…ここまで綺麗になるなんて!」

「ここにね、その戦争孤児たちを住まわせたいのですがどうですか?」

「え、そこまでしていただけるのですか!?」

「ええ、それでね、もう既に成人して巣立った戦争孤児たちもいるでしょう?その中で生活に困っている子がいたら、その子達も呼び寄せてほしいのです。そしてここで、好きなお店を持って商売もして欲しい」

「ぜひ!」

ということで、この廃村は親から引き取って二日目にしていきなり賑やかな村になった。

しばらくの子供達の生活費はわたくしが出す。

それだけのお金は余っているから。

成人した子達の生活費と商売を始める初期費用もしばらくはわたくしが出す。

それだけのお金は余っているから。

それもこれも昨日徹夜したおかげである。

昨日のわたくしに感謝。

村長にはあのボランティア団体の会長である彼…カインを選んだ。

彼は喜んで引き受けてくれて、村長としてのお仕事をしつつ子供達の面倒を見てくれることになった。

さてさて、これからどうなるか…。


















悪役令嬢ルート回避計画から一年が経った。

わたくしの村は村長となったボランティア団体の会長や商人となった元戦争孤児たち、そして何の罪もない可愛い子供達の活躍で見事わたくしの資金面のバックアップなしでも生活できるようになり、むしろ税金も納めてもらえるまでになった。

魔力石の生産と売買もわたくしの無理のない範囲で続けているので、税金と魔力石の売買のおかげでわたくしは成金貴族となっている。

今まで迷惑をかけた両親や兄にも、もう分籍して家族ではなくなっているとはいえ今までの迷惑料としていくらか仕送りをしているくらいだ。

結果として両親や兄はやっと自立して改心してくれたと喜んでくれた。

うん、まあ前世の記憶を思い出したから改心はした。

わがまま放題で申し訳なかったと思っている、うん。

そしてわたくしは前世の記憶を取り戻してから最初は社交界の鼻つまみ者だったが、今では廃村を立て直し隣国の戦争孤児を助けた慈愛の人として有名になっている。

改心したのだなとみんな今では受け入れてくれているのだ。

ちなみにわたくしの婚約者は決まっていない。

事前に婚約破棄されていたとかではない。

乙女ゲームの設定で、ヒロインが攻略対象の個別ルートに入るとその攻略対象の婚約者になるのである。

一部例外はいて、戦争で疲弊した隣国の王太子ルートにヒロインが入ると隣国の王太子の婚約者にはならないが。

それでも悪役令嬢として登場はするけどね。

さて、これからいよいよ乙女ゲームの本編が始まる年。

わたくしは乙女ゲームの設定と違い、王都から離れてこの辺境の村のお屋敷に閉じこもっているが…巻き込まれることはあるのだろうか?




















「あんたも転生者でしょ」

「…あー、はい」

ある日ヒロインが我が家に突撃して来た。

わたくしが迎え入れると開口一番そう言われた。

「まあでも、悪役令嬢ルートを回避する気持ちはわかるわ。悪役令嬢ルート回避おめでとう」

「あ、ありがとう…」

「でも、あんたが勝手なことをしたから色々困ってるのよね。隣国の王太子ルートに行こうと思ってるんだけど、隣国の王太子が聖女である私より孤児を救ったあんたに興味を持ってて」

「あー…」

「私、これから隣国を復興させて王太子を攻略して、お金持ちの玉の輿計画を考えてるのよ」

明け透けだなぁ。

「だからあんた、協力しなさい」

「え」

「これから私は、復活した魔王を倒しに行くわ。そしてその功績で隣国の王太子と結婚する」

「あ、うん」

「もちろんその旅に、隣国の王太子も巻き込むわ。これは隣国の王太子ルートそのままね」

そうだね?

「で、世界を救った乙女とそれを庇護した隣国の王太子は世界中から多額のお金をお礼として受け取って、隣国は再興してお金持ち国家に。私は王妃として幸せな生活が保障される!」

うん、隣国の王太子ルートはそういうルートだね。

「ということで、私の幸せのために協力しなさい」

「というと?」

「隣国の王太子はあんたに興味がある。あんたの推薦で私と王太子を旅立たせなさいよ」

「はぁ…」

ということで、慈愛の人として社交界のでも人気になったわたくしの伝を駆使して隣国の王太子と会った。

そして聖女と共に救済の旅に出てほしいと厚かましいお願いを懇願した。

結果彼は戦争孤児たちを救ってくれた慈愛の人の頼みならと受け入れてくれて、聖女であるヒロインと救済の旅に出た。




















そして一年後、聖女であるヒロインは見事魔王を倒した。

隣国の王太子ともうまく行ったらしく、そのまま結婚した。

隣国の王太子ルート通り、隣国は再興してお金持ち国家になったのでヒロインも安泰だろう。

一方でわたくしは、わたくしの村の村長となったボランティア団体の会長と恋仲になっていた。

彼は伯爵家の次男でもあったので、わたくしの婿として迎え入れることになっている。

今は結婚式まで、秒読みだ。

「悪役令嬢ルートを回避しただけで、こんなに色々変わるなんてね」

今や社交界の華となったわたくし。

分籍してしまったとはいえ、両親や兄とも仲直りできた。

素敵な婚約者もいる。

「ああ、前世の記憶を取り戻せてよかった」

今のわたくしは、まさに幸福だ。

「ナタリア」

「なに?」

「愛してるよ」

最愛の人に不意打ちで頬にキスをされて、思わず笑みが浮かぶ。

「もう、仕方のない人」

わたくしも彼の頬にキスをする。

こんな戯れ合いもまた楽しい。

ああ、悪役令嬢ルートを回避して本当によかった。
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