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私は彼を想う心を、すぱっと切り捨てた。
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わたくしメイベルは伯爵家の娘として生まれた。
両親は仕事で忙しく、歳の離れた兄は爵位と領地を継ぐための勉強で忙しく。
誰にも構ってはもらえなかった。
使用人たちは義務的な接し方しかしてくれないから、使用人たちに甘えても心が満たされることはなかった。
孤独な幼少期を過ごしたわたくしにとって、唯一の存在がいた。
それは婚約者のアルビオン様。
アルビオン様だけは、定期的な二人きりのお茶会の時だけだけど構ってくれた。
構ってくれる人がいるだけで、天にも昇る心地だった。
でもアルビオン様は、我が国の王女であらせられるモルガン様の乳兄弟で幼馴染で…そして、いつも話に出てくるのはモルガン様のことばかり。
誰に言われずとも、アルビオン様がモルガン様を好きだというのは明白だった。
隠れて思い合う二人を引き裂く悪役令嬢。
いつからかわたくしは、人々からそんな風に言われるようになった。
そして、最近は。
アルビオン様は、定期的な二人きりのお茶会の時間もキャンセルするようになった。
会えない日が続き、気付いた。
―…わたくし、アルビオン様に依存しすぎていたんだわ。
会えないだけで不安になり、落ち込んで、悲しむ。
そんなの不毛だ、だってアルビオン様の心は私にはない。
アルビオン様が好きなのはモルガン様なのだ。
そう思うと、ふと腑に落ちた。
そうだそうだ、全部不毛だったんだ。
もう、アルビオン様を想うのはやめにしよう。
別に好きじゃなくても結婚はできるし子供は産める。
子供達には惜しみなく愛情を注ぎ、アルビオン様のことは家族として尊重するくらいでちょうどいいだろう。
想い人が他にいるアルビオン様にとってもその方が都合がいいだろう。
私はアルビオン様を想う心を、この日からすぱっと切り捨てた。
最近、モルガン様の身の回りが忙しい。
何故ならモルガン様が立太子するからだ。
この国は女王制なので、これからモルガン様は立太子して…いずれは女王となり、国を盛り立てる。
だからモルガン様の乳兄弟兼幼馴染兼護衛の俺も忙しくて、なかなか婚約者を構ってやれない。
デートはもちろん、贈り物や手紙のやり取りも忙しさにかまけてサボっていた。
だが婚約者は何も言ってこない。
俺のことをよくわかってくれているのだと、嬉しく思う。
そんな婚約者が、愛おしいとさえ感じる。
だがその話をモルガン様の護衛をともに務める同僚たちにしたところ、怪訝な顔をされた。
そして、本当に大丈夫か?と問われた。
何のことかわからないと聞けば、婚約者の気持ちにもっと寄り添った方がいいと言われた。
メイベルは俺のことを理解して支えてくれているのだから問題ないと言えば、彼らは心配そうにしつつも話を切り上げた。
俺はこの時、同僚たちの話をもっと真面目に聞くべきだったのだと後で知った。
「久しぶりにデートに行こうか」
アルビオン様から誘われたのは、モルガン様が立太子なされた半年後のことだった。
この一年、アルビオン様はモルガン様にかかりきりだったのでわたくしのことなど忘れているものだと思っていた。
だからわたくしはわたくしで普段他のご令嬢方が婚約者と仲睦まじく過ごしている時間に、親からもらったお小遣いを吟味して吟味して色々な魔道具の開発に投資したりして時間を潰していた。
投資はあくまでお小遣いからお金を出していただけなので、損をしてもよかったのだが…暇つぶしとして吟味して吟味して投資した結果、我が家は「普通」の伯爵家だったのが一気に「成金」貴族となったのだ。
とはいえ堅実な両親や兄は散財はせず、さらなる投資や領地の改革、貯蓄にお金を回しているのでお金遣いに心配はないが。
さらにわたくしは投資に関する知識情報を仕入れる以外の日には、領内の孤児院や養老院に慰問に行った。
成金貴族となったおかげで前より増えたお小遣いも投資に回す分以外は、孤児院や養老院への多額の寄付金として渡しておいた。
結果家族からは今までが嘘のように急に溺愛され、領民たちからは今まで以上に尊敬を集めるようになった。
…まあ、貴族社会では相変わらずモルガン様とアルビオン様を引き裂く〝悪役令嬢〟と呼ばれているがそれはもういい。
とにかくそんなふうに忙しく過ごしているのだから、いきなりデートに誘われても困るのだ。
今日は投資した魔道具がついに完成したため、発表会があるそうでそれを見に行く日なのだ。
「申し訳ありません、予定がありますので…」
「…予定?それは婚約者を放置するほどのことなのか?」
「投資した魔道具の開発がようやく成功したんです。その発表会に招待されておりまして」
「それなら何故俺を呼ばない」
「え?だって関係ないでしょう?」
彼は投資に関わっていない。
関係ないはずだ。
「関係ないって…」
「だって、アルビオン様は投資に関わってないでしょう?」
「だが、エスコート役は必要だろう」
「一人でいけますわ。主催者の方がお一人で構いませんとおっしゃってくださいましたもの」
「な…」
彼に向けて微笑む。
「どうぞ貴方様は、大切な大切なモルガン様とのお時間を優先なさってくださいませ」
「えっ…」
「わたくしは一人で大丈夫ですわ。それでは」
「あっ…待って…!待ってくれっ!」
わたくしは彼に背を向けて歩いた。
彼には彼の想い人がいるのだ、邪魔をしてはいけない。
婚約者は…メイベルは、俺のことをわかってくれていたわけではなかった。
むしろ、モルガン様との関係を邪推されていたのだと知った。
そして、俺がとっくに愛想を尽かされているのだということも知った。
同僚たちに相談したら、それはもう諦めるしかないと言われた。
そしてそこで知らされた。
彼女は…メイベルは、悪役令嬢と蔑まれていたそうだ。
貴族社会では俺とモルガン様が恋仲だと邪推する者が多いらしい。
そんな俺とモルガン様を引き裂く〝悪役令嬢〟だと…メイベルは、批判されていた。
ここまで拗れたら、諦めて仮面夫婦になるか、自分の有責で婚約を破棄してもらうか。
それしか出来ることはない。
…彼女の実家は今、彼女の投資の才能に助けられて裕福になったらしい。
彼女自身の私財もたんまりとあるそうだ。
だったら、この婚約は正直言って俺にしか利益がない。
彼女の家は俺の家の結納金を当てにする理由ももうないし、彼女は一人で生きていけるだけのお金がある。
彼女のために、俺ができることは。
アルビオン様から婚約を破棄された。
アルビオン様の有責で。
アルビオン様には理由は明かしてはもらえなかったが、きっとモルガン様への想いが強いからこそ婚約を続けられなかったのだろう。
わたくしは多額の賠償金と慰謝料をもらった。
そのお金は全部投資に回して、さらに多額の利益を生んだ。
この魔道具開発への投資は我が家やわたくし自身を豊かにしてくれるだけではない。
様々な魔道具が開発されることで、人々の生活そのものも豊かになる。
実際農具となる自動種まき機や自動水やり機、自動収穫機なんかの魔道具は農家の生活をかなり楽にしたと聞く。
他にも冷蔵庫や洗濯機、掃除機など様々な魔道具の台頭で庶民の生活は楽になったと聞いた。
だからアルビオン様からの賠償金や慰謝料は巡り巡って国を、世界を豊かにしたのだ。
アルビオン様には誇ってほしいくらいだ。
アルビオン様はその後、婚約者は持たずに独身のままモルガン様の護衛として働き詰めらしい。
だからこそ、わたくしへの賠償金と慰謝料を払うため借りたらしい借金もすぐに返済し切ったのだとか。
さすがはアルビオン様。
モルガン様はそんなアルビオン様を腹心の部下として相変わらず重宝している。
お二人が少しでも幸せだといいな。
わたくし自身はフリーになったので早速婚約者探しを…と思ったのだが、こちらから望まなくても大量の釣り書きが来た。
おそらくお金持ちとなったわたくしと結婚して、玉の輿狙いなのだろう。
その中で一人興味深い人を見つけた。
「お父様、わたくしこの方とお見合いしたいわ」
お見合いの席はすぐに用意された。
「お久しぶりです、エドウィン様」
「お久しぶりです、メイベル様」
エドウィンさんは、子爵家の長男だ。
だが、子爵である父君の手伝いをしながら領地経営などを学びつつ…魔道具の開発もしている。
わたくしも何度かこの方に投資して、その度に儲けさせてもらった。
この方の発明は非常に画期的で、漁師が海に行く時魚がどこに多くいるか探してくれるセンサーや家畜たちの体調管理をしてくれる魔道具などを作っている。
人々の生活に直結した魔道具を作るのが得意なのだ。
「まさか本当にお見合いに応じてくださるとは…」
「あら、婚約してくれるんじゃありませんの?」
「も、もちろんメイベル様が婚約を承諾してくださるなら…是非とも!メイベル様が僕に投資してくれたおかげで、うちの子爵家は発明品の売り上げで大分お金持ちになれました…メイベル様には感謝してもしきれません。だから、今度は僕が貴女を幸せにしたい!」
「あらあら…」
熱っぽい目、熱いセリフ、そのどれもがわたくしの心を満たす。
「では、ぜひよろしくお願いしますわ」
「はい!」
こうしてわたくしは、新たな婚約者を得たのでした。
「メイベルは、あの発明王と婚約したのか…」
一人で酒を飲んで、泣く。
婚約破棄の賠償金や慰謝料は、借金をしたが一括で払った。
借金も、すぐ返せた。
モルガン様の護衛も続けられている。
モルガン様を守る日々は、たしかに充実した日々ではある。
なのに、虚しい。
「金はある。爵位も騎士爵を賜ったし、結婚しようと思えばいくらでもできる…でも」
でも、結婚なんてする気にならない。
メイベルがどれだけいい女だったか、今更になって分かるなんて。
メイベルは実家を金持ちにして、自分も金持ちになって、発明家たちも金持ちにした。
でもそれだけじゃない。
メイベルの投資のおかげで実現した魔道具たちは確実にこの国の人々の暮らし向きを良くした。
この国に、いやむしろこの世界に大きな改革をもたらしたのだ。
「…だからこそ、手放してよかったんだろうな」
俺の手の中で飼い殺しにするより、相性のいい発明王と一緒になる方が何倍もいいだろう。
「でも…やっぱり、君を大切にしておくべきだった」
そうしたら、今俺は君の隣にいられただろうか。
馬鹿な男の後悔なんて、何の意味もないかもしれないけれど。
「…どうか、君の才能が枯れることなくずっと咲き誇っていられますように」
この祈りを捧げることだけが、君に愛想を尽かされた俺の出来る精一杯だ。
「…よし!今日も仕事だ!」
モルガン様のため、今日も尽くす。
それしかすることがないから。
「いってきます!」
本当ならいつか君と住むはずだった部屋で、一人そう言ってから仕事に出かける。
寂しさには、もう慣れてしまった。
昔の俺よ、このザマを見ろ。
これが婚約者を蔑ろにした末路だ。
両親は仕事で忙しく、歳の離れた兄は爵位と領地を継ぐための勉強で忙しく。
誰にも構ってはもらえなかった。
使用人たちは義務的な接し方しかしてくれないから、使用人たちに甘えても心が満たされることはなかった。
孤独な幼少期を過ごしたわたくしにとって、唯一の存在がいた。
それは婚約者のアルビオン様。
アルビオン様だけは、定期的な二人きりのお茶会の時だけだけど構ってくれた。
構ってくれる人がいるだけで、天にも昇る心地だった。
でもアルビオン様は、我が国の王女であらせられるモルガン様の乳兄弟で幼馴染で…そして、いつも話に出てくるのはモルガン様のことばかり。
誰に言われずとも、アルビオン様がモルガン様を好きだというのは明白だった。
隠れて思い合う二人を引き裂く悪役令嬢。
いつからかわたくしは、人々からそんな風に言われるようになった。
そして、最近は。
アルビオン様は、定期的な二人きりのお茶会の時間もキャンセルするようになった。
会えない日が続き、気付いた。
―…わたくし、アルビオン様に依存しすぎていたんだわ。
会えないだけで不安になり、落ち込んで、悲しむ。
そんなの不毛だ、だってアルビオン様の心は私にはない。
アルビオン様が好きなのはモルガン様なのだ。
そう思うと、ふと腑に落ちた。
そうだそうだ、全部不毛だったんだ。
もう、アルビオン様を想うのはやめにしよう。
別に好きじゃなくても結婚はできるし子供は産める。
子供達には惜しみなく愛情を注ぎ、アルビオン様のことは家族として尊重するくらいでちょうどいいだろう。
想い人が他にいるアルビオン様にとってもその方が都合がいいだろう。
私はアルビオン様を想う心を、この日からすぱっと切り捨てた。
最近、モルガン様の身の回りが忙しい。
何故ならモルガン様が立太子するからだ。
この国は女王制なので、これからモルガン様は立太子して…いずれは女王となり、国を盛り立てる。
だからモルガン様の乳兄弟兼幼馴染兼護衛の俺も忙しくて、なかなか婚約者を構ってやれない。
デートはもちろん、贈り物や手紙のやり取りも忙しさにかまけてサボっていた。
だが婚約者は何も言ってこない。
俺のことをよくわかってくれているのだと、嬉しく思う。
そんな婚約者が、愛おしいとさえ感じる。
だがその話をモルガン様の護衛をともに務める同僚たちにしたところ、怪訝な顔をされた。
そして、本当に大丈夫か?と問われた。
何のことかわからないと聞けば、婚約者の気持ちにもっと寄り添った方がいいと言われた。
メイベルは俺のことを理解して支えてくれているのだから問題ないと言えば、彼らは心配そうにしつつも話を切り上げた。
俺はこの時、同僚たちの話をもっと真面目に聞くべきだったのだと後で知った。
「久しぶりにデートに行こうか」
アルビオン様から誘われたのは、モルガン様が立太子なされた半年後のことだった。
この一年、アルビオン様はモルガン様にかかりきりだったのでわたくしのことなど忘れているものだと思っていた。
だからわたくしはわたくしで普段他のご令嬢方が婚約者と仲睦まじく過ごしている時間に、親からもらったお小遣いを吟味して吟味して色々な魔道具の開発に投資したりして時間を潰していた。
投資はあくまでお小遣いからお金を出していただけなので、損をしてもよかったのだが…暇つぶしとして吟味して吟味して投資した結果、我が家は「普通」の伯爵家だったのが一気に「成金」貴族となったのだ。
とはいえ堅実な両親や兄は散財はせず、さらなる投資や領地の改革、貯蓄にお金を回しているのでお金遣いに心配はないが。
さらにわたくしは投資に関する知識情報を仕入れる以外の日には、領内の孤児院や養老院に慰問に行った。
成金貴族となったおかげで前より増えたお小遣いも投資に回す分以外は、孤児院や養老院への多額の寄付金として渡しておいた。
結果家族からは今までが嘘のように急に溺愛され、領民たちからは今まで以上に尊敬を集めるようになった。
…まあ、貴族社会では相変わらずモルガン様とアルビオン様を引き裂く〝悪役令嬢〟と呼ばれているがそれはもういい。
とにかくそんなふうに忙しく過ごしているのだから、いきなりデートに誘われても困るのだ。
今日は投資した魔道具がついに完成したため、発表会があるそうでそれを見に行く日なのだ。
「申し訳ありません、予定がありますので…」
「…予定?それは婚約者を放置するほどのことなのか?」
「投資した魔道具の開発がようやく成功したんです。その発表会に招待されておりまして」
「それなら何故俺を呼ばない」
「え?だって関係ないでしょう?」
彼は投資に関わっていない。
関係ないはずだ。
「関係ないって…」
「だって、アルビオン様は投資に関わってないでしょう?」
「だが、エスコート役は必要だろう」
「一人でいけますわ。主催者の方がお一人で構いませんとおっしゃってくださいましたもの」
「な…」
彼に向けて微笑む。
「どうぞ貴方様は、大切な大切なモルガン様とのお時間を優先なさってくださいませ」
「えっ…」
「わたくしは一人で大丈夫ですわ。それでは」
「あっ…待って…!待ってくれっ!」
わたくしは彼に背を向けて歩いた。
彼には彼の想い人がいるのだ、邪魔をしてはいけない。
婚約者は…メイベルは、俺のことをわかってくれていたわけではなかった。
むしろ、モルガン様との関係を邪推されていたのだと知った。
そして、俺がとっくに愛想を尽かされているのだということも知った。
同僚たちに相談したら、それはもう諦めるしかないと言われた。
そしてそこで知らされた。
彼女は…メイベルは、悪役令嬢と蔑まれていたそうだ。
貴族社会では俺とモルガン様が恋仲だと邪推する者が多いらしい。
そんな俺とモルガン様を引き裂く〝悪役令嬢〟だと…メイベルは、批判されていた。
ここまで拗れたら、諦めて仮面夫婦になるか、自分の有責で婚約を破棄してもらうか。
それしか出来ることはない。
…彼女の実家は今、彼女の投資の才能に助けられて裕福になったらしい。
彼女自身の私財もたんまりとあるそうだ。
だったら、この婚約は正直言って俺にしか利益がない。
彼女の家は俺の家の結納金を当てにする理由ももうないし、彼女は一人で生きていけるだけのお金がある。
彼女のために、俺ができることは。
アルビオン様から婚約を破棄された。
アルビオン様の有責で。
アルビオン様には理由は明かしてはもらえなかったが、きっとモルガン様への想いが強いからこそ婚約を続けられなかったのだろう。
わたくしは多額の賠償金と慰謝料をもらった。
そのお金は全部投資に回して、さらに多額の利益を生んだ。
この魔道具開発への投資は我が家やわたくし自身を豊かにしてくれるだけではない。
様々な魔道具が開発されることで、人々の生活そのものも豊かになる。
実際農具となる自動種まき機や自動水やり機、自動収穫機なんかの魔道具は農家の生活をかなり楽にしたと聞く。
他にも冷蔵庫や洗濯機、掃除機など様々な魔道具の台頭で庶民の生活は楽になったと聞いた。
だからアルビオン様からの賠償金や慰謝料は巡り巡って国を、世界を豊かにしたのだ。
アルビオン様には誇ってほしいくらいだ。
アルビオン様はその後、婚約者は持たずに独身のままモルガン様の護衛として働き詰めらしい。
だからこそ、わたくしへの賠償金と慰謝料を払うため借りたらしい借金もすぐに返済し切ったのだとか。
さすがはアルビオン様。
モルガン様はそんなアルビオン様を腹心の部下として相変わらず重宝している。
お二人が少しでも幸せだといいな。
わたくし自身はフリーになったので早速婚約者探しを…と思ったのだが、こちらから望まなくても大量の釣り書きが来た。
おそらくお金持ちとなったわたくしと結婚して、玉の輿狙いなのだろう。
その中で一人興味深い人を見つけた。
「お父様、わたくしこの方とお見合いしたいわ」
お見合いの席はすぐに用意された。
「お久しぶりです、エドウィン様」
「お久しぶりです、メイベル様」
エドウィンさんは、子爵家の長男だ。
だが、子爵である父君の手伝いをしながら領地経営などを学びつつ…魔道具の開発もしている。
わたくしも何度かこの方に投資して、その度に儲けさせてもらった。
この方の発明は非常に画期的で、漁師が海に行く時魚がどこに多くいるか探してくれるセンサーや家畜たちの体調管理をしてくれる魔道具などを作っている。
人々の生活に直結した魔道具を作るのが得意なのだ。
「まさか本当にお見合いに応じてくださるとは…」
「あら、婚約してくれるんじゃありませんの?」
「も、もちろんメイベル様が婚約を承諾してくださるなら…是非とも!メイベル様が僕に投資してくれたおかげで、うちの子爵家は発明品の売り上げで大分お金持ちになれました…メイベル様には感謝してもしきれません。だから、今度は僕が貴女を幸せにしたい!」
「あらあら…」
熱っぽい目、熱いセリフ、そのどれもがわたくしの心を満たす。
「では、ぜひよろしくお願いしますわ」
「はい!」
こうしてわたくしは、新たな婚約者を得たのでした。
「メイベルは、あの発明王と婚約したのか…」
一人で酒を飲んで、泣く。
婚約破棄の賠償金や慰謝料は、借金をしたが一括で払った。
借金も、すぐ返せた。
モルガン様の護衛も続けられている。
モルガン様を守る日々は、たしかに充実した日々ではある。
なのに、虚しい。
「金はある。爵位も騎士爵を賜ったし、結婚しようと思えばいくらでもできる…でも」
でも、結婚なんてする気にならない。
メイベルがどれだけいい女だったか、今更になって分かるなんて。
メイベルは実家を金持ちにして、自分も金持ちになって、発明家たちも金持ちにした。
でもそれだけじゃない。
メイベルの投資のおかげで実現した魔道具たちは確実にこの国の人々の暮らし向きを良くした。
この国に、いやむしろこの世界に大きな改革をもたらしたのだ。
「…だからこそ、手放してよかったんだろうな」
俺の手の中で飼い殺しにするより、相性のいい発明王と一緒になる方が何倍もいいだろう。
「でも…やっぱり、君を大切にしておくべきだった」
そうしたら、今俺は君の隣にいられただろうか。
馬鹿な男の後悔なんて、何の意味もないかもしれないけれど。
「…どうか、君の才能が枯れることなくずっと咲き誇っていられますように」
この祈りを捧げることだけが、君に愛想を尽かされた俺の出来る精一杯だ。
「…よし!今日も仕事だ!」
モルガン様のため、今日も尽くす。
それしかすることがないから。
「いってきます!」
本当ならいつか君と住むはずだった部屋で、一人そう言ってから仕事に出かける。
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