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ざまあみなさい、過去の可哀想なわたくし!
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わたくしはこの国の筆頭公爵家の娘。
兄妹は爵位を継ぐ兄だけ。
その兄はとても優しい人で、わたくしを愛してくれた。
わたくしが寂しい時、悲しい時、常に励ましてくれたのは兄だった。
父は公爵として、この国の宰相として…非常に優秀な人。
その能力の高さは兄にも受け継がれており、兄も次期公爵として非常に優秀な人だ。
将来はきっと兄も宰相となるだろう。
わたくしも、淑女の中の淑女と言われるほど立ち回りが上手く、それほど優秀でもないが周りから慕われている。
母は年齢を重ねてもなお美しく、その美貌はわたくしとお兄様にも継承されているので感謝ばかりだ。
そんなわたくしだけど、一つだけ家族に不満がある。
それは、本来なら不満に思うようなことでもないのかもしれないけれど。
『ねえ、二人とも。今日は何が食べたい?』
『わたくしはハンバーグ!』
『僕はエビフライ!』
『じゃあエビフライにしましょうか』
そういうことが、何度も何度も。
一度もわたくしのリクエストが選ばれたことはなかった。
なら最初から聞かないでくれと思った。
母も父も、兄の好物は知っている。
エビフライとペペロンチーノとフレンチトースト。
さりげなく聞いてみたら、即答だった。
それはわたくしと同じ意見で。
わたくしの好物は、同じくさりげなく聞いてみたことがあるが二人とも答えられなかった。
落胆したが、その場は笑顔で乗り切ったのを覚えている。
後継である兄が優先されるのは当たり前。
けれどその当たり前が、わたくしには不満だった。
けれどそんなわたくしを愛してくれたのは、そんな不満の原因のお兄様。
『リリーは可愛いね』
『リリーにはお兄様がいるから寂しくないよ』
『リリー、悲しかったね。大丈夫、お兄様の胸の中でたくさん泣いて良いよ』
『リリーはチョコレートが好きだよね。僕の分も一口あげる』
『リリー、リリー、可愛いリリー。僕がずっと、そばにいるからね』
わたくしは、兄を恨めなかった。
わたくしの恨みは、父母に向かった。
けれどそんな父母のことも、結局憎みきれず、なにをするでもなく笑顔でやり過ごすだけ。
ああ、こんなだからわたくしは貧乏くじばかりを引くのね。
けれど人生悪いことばかりでもない。
もうすぐ兄の結婚式。
翌年にはわたくしの結婚式。
ようやく家を出られる。
肩の荷が降りた気がした。
僕はこの国の筆頭公爵家の長男。
兄妹は家の利益になる相手に嫁ぐことが最初から決まっていた妹だけ。
その妹はとても可愛い子で、僕を慕ってくれた。
僕が次期当主としての教育の過程で辛いことがあった時、苦しんでいた時、常に励ましてくれたのは妹だった。
父は公爵として、この国の宰相として…完全無欠に見える人だ。
その能力の高さは僕にも受け継がれており、僕も次期当主として非常に優秀だと言われている。
将来は僕もこの国の宰相となるべく教育を受けた。
妹も相当優秀なのだが、立場を弁え前に出過ぎないためそれが表に出て来辛い。
それでもわかってくれる人はわかってくれるので、淑女の中の淑女と褒め称えられるまでになったが。
母は年齢を重ねてもなお美しく、その美貌は僕と妹にも継承されているので恨みしかない。
この美しい顔のせいで、何度年上の女に襲われかけたことか…!
そんな僕には、いくつも家族に不満がある。
僕だけを依怙贔屓して妹を蔑ろにすること。
僕を次期当主としてしか見てくれないこと。
僕にだけ、特別厳しい教育をしたこと。
『また魔術の授業で失敗したらしいな。来なさい、躾だ』
『や、やだ!鞭打ちはやめて!父上っ』
『お前の出来が悪いのが悪い』
『やだぁ!!!』
そういうことが、何度も何度も。
まあおかげで歯を食いしばって勉強し続けて、嫌でも能力は身についたけど。
母は見てみぬふり。
唯一庇ってくれたのは、止めてくれたのは妹だけ。
母も、使用人たちも…止めてくれなかった。
そして、蔑ろにされるばかりの妹がいくら父に訴えたところで躾という名の虐待は止まらなかった。
僕が、これ以上ない完璧な次期当主となるまで…虐待は続いた。
けれど、それでも。
妹だけが庇ってくれたことは、忘れられない。
小さな身体で、小さな手で、必死に僕を父から守ろうとしてくれた。
実際、僕の代わりに鞭打ちされたことさえある。
僕はそれがトラウマになる寸前まで行ったから、その後は僕を打ってくれと父に泣きついたものだったが。
妹は、自分が愛されない原因を僕に求めているだろう。
でもね、リリー。
だからこそこんな家では愛されない方が幸せなんだよ。
愛された結果がこれなのだから。
お前は外で愛されなさい。
『お兄様、わたくしね、お兄様がとってもとっても大好きよ!』
『みんなから愛されるお兄様が羨ましいけれど、でもそれ以上にお兄様が大好きなの!』
『だからね、お兄様。わたくし、お父様からきっとお兄様を守るわ』
『お兄様のためなら、わたくし代わりに鞭打ちされたって構わない!』
『わたくしの大好きなお兄様。どうか、苦しい時はいつでもリリーを頼ってね』
僕は、虐待されない安全圏にいた妹を恨めなかった。
僕の恨みは、父母に向かった。
妹を愛さず、僕ばかり依怙贔屓して、そのくせ僕を虐待したクズども。
来年妹が他所に嫁いだら爵位と宰相の地位を本来の予定より早く無理やり奪い取り、田舎に押し込めてやるつもりだ。
それだけ、我が愛しの妹を傷つけた罪は重いのだと嫌というほど自覚させてやる。
もうすぐ僕の結婚式。
結婚相手は僕なんかには勿体ない可愛らしい女性だ。
そして翌年には妹の結婚式。
ようやく妹は家を出られる。
そうしたらようやく、僕の肩の荷も降りるだろう。
…そうしたら、僕は………幸せになれるんだろうか。
私はこの国の侯爵家の娘。
兄弟は兄が二人ほど。
兄二人はちょっとシスコン気味だが気のいい人たち。
父は侯爵として可もなく不可もなしと言われるような、平凡だが愛情たっぷりの人。
母はおちゃめで可愛らしい人だった。
私はこの幸せな家族を普通だと思っていた。
だから、婚約者が家族から受けた仕打ちを知った時は言葉を失った。
『それって虐待じゃない!』
『そうだね』
『そうだねって…』
『周りに助けを求めたこともあるが無駄だった。折檻が余計に酷くなっただけだった。結局妹だけが唯一の味方なのさ』
『…そんな』
『もし憐れむのなら、助けてくれ…とは言わない。ただ、僕たちが将来結婚した後…君の言う、普通の家庭を…僕と作って欲しい』
『…うんっ、ごめんね、何も出来なくてごめんなさい!でもきっと、大きくなったら貴方に貴方の欲しかった全てをあげるから!』
そして婚約者は、理想の次期公爵となった。
彼はリリーちゃんが家を出たら家を乗っ取るつもりだ。
私もそれに加担する。
リリーちゃんを邪険にして、私の愛するシエルを虐げた彼らは田舎に押し込める。
そこで惨めな暮らしを強いるのだ。
彼らのやったことは、私は絶対に許さない。
私の大好きなシエルのためにも、私は公爵家の乗っ取りを全力で後押しする。
『アンはどうしてそこまで僕に尽くしてくれるの?』
『将来の旦那様だからよ。愛してるの』
『それは僕が将来の旦那様だから?』
『そうよ。でもね私、将来の旦那様が貴方でよかった』
『え』
『リリーちゃんを愛しむときの貴方はとっても素敵なの!いつか私のこともそんな風に愛してくれたら嬉しいわ』
もうすぐ私の結婚式。
翌年にはリリーちゃんの結婚式。
ようやく計画を進められる。
少しだけ怖いけど、これでみんなで前に進めるはずだから。
…やってのけてやる。
俺はこの国の王弟。
最近戴冠した兄の補佐みたいなことをしている。
兄はとても為政者に相応しい人で、国の宝だ。
その兄の補佐をできることがとても誇らしい。
父は国王として素晴らしい人だった。
兄は父そっくりだ。
父や兄を支える宰相も…宰相としては素晴らしい人材だが、家庭は複雑だと婚約者の言葉から知った。
俺の婚約者は宰相の娘。
歳の差婚という奴だ。
幸い彼女は、俺との結婚を嫌がる素振りはないが…。
話を戻すと、彼女の家族関係は歪だ。
だから俺は、義兄となる人の公爵家の乗っ取り計画を知っても何も言わない。
止めないし、むしろ密かに準備に手を貸すことくらいはした。
何故なら、俺は真実かなり年下の我が婚約者を愛しているからだ。
『わたくし、お父様とお母様にどうしたら愛してもらえるのかしら』
『んー…無理じゃね?』
『やっぱり?』
『だからこそ、今愛してくれる人を大切にしたらいいさ』
『…お兄様、とか?』
『俺とか、な』
『………ロリコン?』
『うるせぇ、婚約者だけは特別って奴だ』
愛されたがりで、幼くて、でも兄が折檻されていれば泣いて止める…時には代わりに折檻を受けることさえあった強い子。
一時期何をやっても兄には敵わないと荒んでいたばかりの俺の心を落ち着かせてくれた天使。
早く結婚して、あんな家から連れ出したかったが…双方の家の事情もありそうもいかず。
でもやっと、あの家から連れ出せる。
『ねえ、王子様。貴方は何をやっても兄上には敵わない!というけれど、一つだけ兄上様にも勝てる部分があるわ』
『あ゛?なんだとコラ!言ってみろや!』
『わたくしが婚約者ということよ』
『…は?』
『わたくしが貴方を、世界一愛して差し上げるわ!だから貴方は世界一の幸せな男になる!ね、これなら兄上様にも勝てるのではなくて?』
普段は遠慮がちで、貞淑な少女。
でも時々すごく勝ち気なところがあって。
案外彼女の本質はそこにあるのかもしれない。
そんな彼女に呆気に取られて、毒気を抜かれて、俺は真っ当な第二王子として…今は王弟として、兄を支える側に回れた。
もうすぐ義兄となる人の結婚式。
翌年には俺たちの結婚式。
ようやく彼女をあの家から引き離せる。
やっと彼女に恩返しができる。
わたくしはこの国の王弟殿下と結婚した。
結婚して、家を出て、初めて見えて来たものもある。
まずあんな家で愛されることに幸せなんて無い。
お兄様は本当によく耐えたと思う。
そしてわたくしは、両親には愛されなかったが兄や義姉、旦那様となった王弟殿下には深く愛されていた。
その幸せに気付かなかったわたくしがバカみたい。
今は両親は田舎に押し込められ、兄と義姉は子供を抱いて幸せそう。
わたくしと王弟殿下の子供も、今わたくしのお腹にいる。
わたくし…今がとっても幸せだわ。
さようなら、悲しむだけで周りが見えていなかった被害者意識の塊のわたくし。
これからわたくしは、周りの人みんなを巻き込んでみんなで幸せになってみせるわ!
ざまあみなさい、過去の可哀想なわたくし!
貴女はもう、『愛されない子』なんかじゃなくてよ!
兄妹は爵位を継ぐ兄だけ。
その兄はとても優しい人で、わたくしを愛してくれた。
わたくしが寂しい時、悲しい時、常に励ましてくれたのは兄だった。
父は公爵として、この国の宰相として…非常に優秀な人。
その能力の高さは兄にも受け継がれており、兄も次期公爵として非常に優秀な人だ。
将来はきっと兄も宰相となるだろう。
わたくしも、淑女の中の淑女と言われるほど立ち回りが上手く、それほど優秀でもないが周りから慕われている。
母は年齢を重ねてもなお美しく、その美貌はわたくしとお兄様にも継承されているので感謝ばかりだ。
そんなわたくしだけど、一つだけ家族に不満がある。
それは、本来なら不満に思うようなことでもないのかもしれないけれど。
『ねえ、二人とも。今日は何が食べたい?』
『わたくしはハンバーグ!』
『僕はエビフライ!』
『じゃあエビフライにしましょうか』
そういうことが、何度も何度も。
一度もわたくしのリクエストが選ばれたことはなかった。
なら最初から聞かないでくれと思った。
母も父も、兄の好物は知っている。
エビフライとペペロンチーノとフレンチトースト。
さりげなく聞いてみたら、即答だった。
それはわたくしと同じ意見で。
わたくしの好物は、同じくさりげなく聞いてみたことがあるが二人とも答えられなかった。
落胆したが、その場は笑顔で乗り切ったのを覚えている。
後継である兄が優先されるのは当たり前。
けれどその当たり前が、わたくしには不満だった。
けれどそんなわたくしを愛してくれたのは、そんな不満の原因のお兄様。
『リリーは可愛いね』
『リリーにはお兄様がいるから寂しくないよ』
『リリー、悲しかったね。大丈夫、お兄様の胸の中でたくさん泣いて良いよ』
『リリーはチョコレートが好きだよね。僕の分も一口あげる』
『リリー、リリー、可愛いリリー。僕がずっと、そばにいるからね』
わたくしは、兄を恨めなかった。
わたくしの恨みは、父母に向かった。
けれどそんな父母のことも、結局憎みきれず、なにをするでもなく笑顔でやり過ごすだけ。
ああ、こんなだからわたくしは貧乏くじばかりを引くのね。
けれど人生悪いことばかりでもない。
もうすぐ兄の結婚式。
翌年にはわたくしの結婚式。
ようやく家を出られる。
肩の荷が降りた気がした。
僕はこの国の筆頭公爵家の長男。
兄妹は家の利益になる相手に嫁ぐことが最初から決まっていた妹だけ。
その妹はとても可愛い子で、僕を慕ってくれた。
僕が次期当主としての教育の過程で辛いことがあった時、苦しんでいた時、常に励ましてくれたのは妹だった。
父は公爵として、この国の宰相として…完全無欠に見える人だ。
その能力の高さは僕にも受け継がれており、僕も次期当主として非常に優秀だと言われている。
将来は僕もこの国の宰相となるべく教育を受けた。
妹も相当優秀なのだが、立場を弁え前に出過ぎないためそれが表に出て来辛い。
それでもわかってくれる人はわかってくれるので、淑女の中の淑女と褒め称えられるまでになったが。
母は年齢を重ねてもなお美しく、その美貌は僕と妹にも継承されているので恨みしかない。
この美しい顔のせいで、何度年上の女に襲われかけたことか…!
そんな僕には、いくつも家族に不満がある。
僕だけを依怙贔屓して妹を蔑ろにすること。
僕を次期当主としてしか見てくれないこと。
僕にだけ、特別厳しい教育をしたこと。
『また魔術の授業で失敗したらしいな。来なさい、躾だ』
『や、やだ!鞭打ちはやめて!父上っ』
『お前の出来が悪いのが悪い』
『やだぁ!!!』
そういうことが、何度も何度も。
まあおかげで歯を食いしばって勉強し続けて、嫌でも能力は身についたけど。
母は見てみぬふり。
唯一庇ってくれたのは、止めてくれたのは妹だけ。
母も、使用人たちも…止めてくれなかった。
そして、蔑ろにされるばかりの妹がいくら父に訴えたところで躾という名の虐待は止まらなかった。
僕が、これ以上ない完璧な次期当主となるまで…虐待は続いた。
けれど、それでも。
妹だけが庇ってくれたことは、忘れられない。
小さな身体で、小さな手で、必死に僕を父から守ろうとしてくれた。
実際、僕の代わりに鞭打ちされたことさえある。
僕はそれがトラウマになる寸前まで行ったから、その後は僕を打ってくれと父に泣きついたものだったが。
妹は、自分が愛されない原因を僕に求めているだろう。
でもね、リリー。
だからこそこんな家では愛されない方が幸せなんだよ。
愛された結果がこれなのだから。
お前は外で愛されなさい。
『お兄様、わたくしね、お兄様がとってもとっても大好きよ!』
『みんなから愛されるお兄様が羨ましいけれど、でもそれ以上にお兄様が大好きなの!』
『だからね、お兄様。わたくし、お父様からきっとお兄様を守るわ』
『お兄様のためなら、わたくし代わりに鞭打ちされたって構わない!』
『わたくしの大好きなお兄様。どうか、苦しい時はいつでもリリーを頼ってね』
僕は、虐待されない安全圏にいた妹を恨めなかった。
僕の恨みは、父母に向かった。
妹を愛さず、僕ばかり依怙贔屓して、そのくせ僕を虐待したクズども。
来年妹が他所に嫁いだら爵位と宰相の地位を本来の予定より早く無理やり奪い取り、田舎に押し込めてやるつもりだ。
それだけ、我が愛しの妹を傷つけた罪は重いのだと嫌というほど自覚させてやる。
もうすぐ僕の結婚式。
結婚相手は僕なんかには勿体ない可愛らしい女性だ。
そして翌年には妹の結婚式。
ようやく妹は家を出られる。
そうしたらようやく、僕の肩の荷も降りるだろう。
…そうしたら、僕は………幸せになれるんだろうか。
私はこの国の侯爵家の娘。
兄弟は兄が二人ほど。
兄二人はちょっとシスコン気味だが気のいい人たち。
父は侯爵として可もなく不可もなしと言われるような、平凡だが愛情たっぷりの人。
母はおちゃめで可愛らしい人だった。
私はこの幸せな家族を普通だと思っていた。
だから、婚約者が家族から受けた仕打ちを知った時は言葉を失った。
『それって虐待じゃない!』
『そうだね』
『そうだねって…』
『周りに助けを求めたこともあるが無駄だった。折檻が余計に酷くなっただけだった。結局妹だけが唯一の味方なのさ』
『…そんな』
『もし憐れむのなら、助けてくれ…とは言わない。ただ、僕たちが将来結婚した後…君の言う、普通の家庭を…僕と作って欲しい』
『…うんっ、ごめんね、何も出来なくてごめんなさい!でもきっと、大きくなったら貴方に貴方の欲しかった全てをあげるから!』
そして婚約者は、理想の次期公爵となった。
彼はリリーちゃんが家を出たら家を乗っ取るつもりだ。
私もそれに加担する。
リリーちゃんを邪険にして、私の愛するシエルを虐げた彼らは田舎に押し込める。
そこで惨めな暮らしを強いるのだ。
彼らのやったことは、私は絶対に許さない。
私の大好きなシエルのためにも、私は公爵家の乗っ取りを全力で後押しする。
『アンはどうしてそこまで僕に尽くしてくれるの?』
『将来の旦那様だからよ。愛してるの』
『それは僕が将来の旦那様だから?』
『そうよ。でもね私、将来の旦那様が貴方でよかった』
『え』
『リリーちゃんを愛しむときの貴方はとっても素敵なの!いつか私のこともそんな風に愛してくれたら嬉しいわ』
もうすぐ私の結婚式。
翌年にはリリーちゃんの結婚式。
ようやく計画を進められる。
少しだけ怖いけど、これでみんなで前に進めるはずだから。
…やってのけてやる。
俺はこの国の王弟。
最近戴冠した兄の補佐みたいなことをしている。
兄はとても為政者に相応しい人で、国の宝だ。
その兄の補佐をできることがとても誇らしい。
父は国王として素晴らしい人だった。
兄は父そっくりだ。
父や兄を支える宰相も…宰相としては素晴らしい人材だが、家庭は複雑だと婚約者の言葉から知った。
俺の婚約者は宰相の娘。
歳の差婚という奴だ。
幸い彼女は、俺との結婚を嫌がる素振りはないが…。
話を戻すと、彼女の家族関係は歪だ。
だから俺は、義兄となる人の公爵家の乗っ取り計画を知っても何も言わない。
止めないし、むしろ密かに準備に手を貸すことくらいはした。
何故なら、俺は真実かなり年下の我が婚約者を愛しているからだ。
『わたくし、お父様とお母様にどうしたら愛してもらえるのかしら』
『んー…無理じゃね?』
『やっぱり?』
『だからこそ、今愛してくれる人を大切にしたらいいさ』
『…お兄様、とか?』
『俺とか、な』
『………ロリコン?』
『うるせぇ、婚約者だけは特別って奴だ』
愛されたがりで、幼くて、でも兄が折檻されていれば泣いて止める…時には代わりに折檻を受けることさえあった強い子。
一時期何をやっても兄には敵わないと荒んでいたばかりの俺の心を落ち着かせてくれた天使。
早く結婚して、あんな家から連れ出したかったが…双方の家の事情もありそうもいかず。
でもやっと、あの家から連れ出せる。
『ねえ、王子様。貴方は何をやっても兄上には敵わない!というけれど、一つだけ兄上様にも勝てる部分があるわ』
『あ゛?なんだとコラ!言ってみろや!』
『わたくしが婚約者ということよ』
『…は?』
『わたくしが貴方を、世界一愛して差し上げるわ!だから貴方は世界一の幸せな男になる!ね、これなら兄上様にも勝てるのではなくて?』
普段は遠慮がちで、貞淑な少女。
でも時々すごく勝ち気なところがあって。
案外彼女の本質はそこにあるのかもしれない。
そんな彼女に呆気に取られて、毒気を抜かれて、俺は真っ当な第二王子として…今は王弟として、兄を支える側に回れた。
もうすぐ義兄となる人の結婚式。
翌年には俺たちの結婚式。
ようやく彼女をあの家から引き離せる。
やっと彼女に恩返しができる。
わたくしはこの国の王弟殿下と結婚した。
結婚して、家を出て、初めて見えて来たものもある。
まずあんな家で愛されることに幸せなんて無い。
お兄様は本当によく耐えたと思う。
そしてわたくしは、両親には愛されなかったが兄や義姉、旦那様となった王弟殿下には深く愛されていた。
その幸せに気付かなかったわたくしがバカみたい。
今は両親は田舎に押し込められ、兄と義姉は子供を抱いて幸せそう。
わたくしと王弟殿下の子供も、今わたくしのお腹にいる。
わたくし…今がとっても幸せだわ。
さようなら、悲しむだけで周りが見えていなかった被害者意識の塊のわたくし。
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