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お父様、わたくしキレましたわーちょっと『足りない』子のお父様は、娘を優しく見守るー
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「お父様、わたくしキレましたわ」
「え」
「ここまで我慢したんですもの。もう自由にさせていただきます」
「待て待て待て、一旦ちゃんと話をしよう」
私、ギルベルトは愛娘マリンをソファーに座らせる。
私はこの国の公爵家の当主だ。妻は愛娘が生まれた時に亡くした。だがだからこそ、愛娘には一心に愛情を注いでいる。
そんな娘の突然の言葉に、やっと来た反抗期か?いやでも素直で可愛いマリンに限って反抗期…?と内心混乱しつつマリンの話を聞く。
「それで、何に『キレた』んだ?」
「王太子殿下に対してですわ!」
「ああ…」
マリンの言いたいことは、それでわかった。
「第一王子殿下の『政策のアイディア』をそのまま自分のものにしてしまう件だね」
マリンは婚約者のために、大変ご立腹なのである。
マリンはこの国の国王たるヤン陛下の嫡子だった…亡くなった元王太子ヤニック殿下の庶子である第一王子イヴォン殿下の婚約者だ。
だが我が国には亡くなったヤニック殿下の嫡子である現王太子ヴァンサン殿下がいる。
なのでイヴォン殿下は一応王位継承権はなくもなくもないが、王族としては大変身軽な身の上なのでほぼ恋愛婚約…のような形で、マリンとイヴォンは婚約した。
『第一王子殿下と結婚したいわ!お父様、いいでしょう?』
『おじ上、お願いします』
そう二人に言われた時は涙が出るほど嬉しかったものだ。
元々仲の良かった二人だ。
いつかは言われると思っていたが、めでたいめでたいと小躍りしてしまいそうだった。
ちなみに私はマリンの父だがイヴォン殿下の叔父ではない。
正しくは再従妹の夫にあたる。ヤン陛下の妹ヨランド様の娘イヴェットの夫だ。
「…お父様、聞いてますの?」
「あ、ああ。もちろん。えっと、それで第一王子殿下のアイディアを王太子殿下に横取りされているのが面白くないと」
「ええ!」
そうは言うが、色々あるのだ。
色々。
色々が多すぎる。
まず、イヴォン殿下とマリンはほぼ恋愛婚約でマリンの『能力』はどうせイヴォン殿下が庶子だからと度外視されている。
だが、もしイヴォン殿下がヴァンサン殿下より優秀だと周りにバレたら…『やんややんや言う外野』が出て来かねないのだ。
イヴォン殿下を王とするべきだ、とか…その場合、マリンの能力がイヴォン殿下に比べて低すぎるとか。
マリンは王妃になれる器ではない。
優しくて可憐だが、純粋すぎるし単純に頭の出来が普通程度かそれより少し………なのだ。
だから二人の将来を考えるなら、手柄はヴァンサン殿下に譲った方がいい…イヴォン殿下の考えそうなことである。
祖父から冷遇されてますよアピールを貴族達に欠かさないイヴォン殿下は伊達ではないのだ。
だから多分ヴァンサン殿下は、イヴォン殿下の同意を得て手柄をもらっているか…そのようにイヴォン殿下に誘導されたかのどちらかだろう。
とはいえ、そんな話が『キレた』娘に伝わるとも思えない。
さてどうしたものか…と思っていると。
「姪っ子よー!話は聞かせてもらったぞー!」
「伯父様!」
面倒な人物の登場に私は頭を抱えた。
マリンに伯父様と呼ばれた男は、まさにマリンにとって伯父である…私にとって妻イヴェットの兄、つまり義兄だ。
名をユルリッシュ。
王妹の息子、という立ち位置である彼は私と爵位は同じく公爵。
ただし王の愛した愛妹の息子というだけで誰よりも優遇される。
そして、彼もまた彼の愛した愛妹の娘というだけでマリンを実の子たち同様に溺愛していた。
この国の王の血筋は案外と、情が深いのかもしれない。
「なら私に考えがある」
「まあ、伯父様素敵!」
「義兄上、何をなさるおつもりですか…」
「どうせ来月にはイヴォン殿下はマリンの婿になるだろう!」
そう、イヴォン殿下とマリンの結婚式は近い。
イヴォン殿下は王位継承権を返上して、マリンの婿として嫁いでくる。
能力が低いながらも優しく可憐なマリンの代わりに、公爵家を継ぐのだ。
「それまで待てるか?」
「んー…伯父様がそう言うなら、待つわ」
「義兄上、本当に一体何を…」
「まあそう心配するな、我が弟よ!!!」
義弟なのだが。
すっかり『弟』として接してくれる義兄に、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑だ。
ともかく、この義兄が何をやらかすか…今から不安でたまらないが、義兄は口を割ることはなかった。
イヴォンとマリンの結婚式は盛大に行われた。
綺麗なマリンの姿に思わず男泣きする。
義兄も同じくだった。
なんなら国王陛下も二人を祝福して泣いていた。
…あと、ヴァンサンも。こちらは、祝福の涙ではないけれど。
「幸せね、イヴォン様!」
「幸せだね、マリン」
幸せすぎて涙を流すマリンの涙をそっと拭うイヴォンは、とても優しい表情だった。
そして夫婦になった二人を和やかに見守る日々がしばらく続くと…街で、『とある劇』が流行り出した。
内容は『冷遇される庶子の第一王子が国王から愛される嫡子の第二王子に功績を奪われるも、健気に過ごしやがて幸せな結婚をする話』…まんまうちのことだこれ!?
義兄にやりやがったなと思いつつ、どうするどうすると頭を悩ませる。
やがて、『義兄と私とマリン』に国王陛下からお呼び出しがかかった。
「どういうことだ?あれは」
「…」
「えっと、国王のおじいさま…そんなに真っ赤なお顔をして、怖いわ」
「伯父上、落ち着いて。あれが真実だと伯父上も本当はご存知でしょう?私はそれを広めただけです」
「それはっ……!!!それは、そう…だが………」
ああ、お労しや…国王陛下。
「え、国王のおじいさま知ってましたの?王太子殿下の功績が実はイヴォン様のものだって!!」
娘の目が据わる。
「そ、それはだな」
「国王のおじいさま酷い!!!」
「うぐぅっ………!」
ああ、本当にお労しや。
溺愛する孫世代の子にそう言われたらさぞ悲しかろう。
「だがな、イヴォンが功績を上げたらマリンとイヴォンが結婚できなくされていたかも知れないのだ」
「なんで?」
「その…マリンは、ちょっと純粋すぎる故な?」
「…わたくしが至らない子だから、イヴォン様が活躍しすぎると………ってこと?」
おお、それに気付けるようになるとは!
我が娘は少し大人になったらしい!
「そう、そうなのだ、それで」
「だからって第一王子殿下の手柄にする必要あった?」
「それはな…」
「マリン、王太子殿下はマリンのことが好きだから、気を引きたくてそんなことをしたんだよ」
そこに颯爽と現れたのは我が家の跡取り、イヴォン…そして、王太子殿下。
「国王陛下、お久しゅうございます」
「あ、ああ…久しぶりだな」
「イヴォン様、今のご発言はどういうことですの?」
「ヴァンサン、自分の言葉で伝えてごらん」
イヴォンはあえて『兄』として王太子殿下に声をかける。
王太子殿下は口を開いた…と思ったら、愛を叫んだ。
「俺は、マリンが好きだ!愛してる!」
「…はぃ?」
「だから、兄上の真似をしたらマリンに振り向いてもらえるかもって…本当にごめん!」
がばっと頭を下げる王太子殿下。
マリンはそれを複雑そうな目で見つめる。
本来、王族が頭を下げるなどあってはならないことだが…。
「…まず、王太子殿下」
「はい」
「わたくし、イヴォン様が好きですの。その気持ちには応えられませんわ」
「はい」
「そして、そんなことをしても貴方を好きにはなりません」
「…はい」
そして、娘は叫んだ。
「そして…この大馬鹿者!!!」
暴力を振るったりこそしていないが、しこたま叱責した。
「王太子殿下にはネイ様という素敵な婚約者がいらっしゃるのにどうしてよそ見をなさってるの?」
「わたくしにはイヴォン様がいらっしゃるのに!」
「ネイ様に今まで失礼はなかったですわよね?まさかね?」
「ネイ様に今すぐ謝っていらっしゃい!今からでも関係を修復なさい!」
「本当にこのお馬鹿!!!」
好きな人にしこたま詰られてようやくネイ嬢の気持ちを察したらしいバカ…失礼、王太子殿下。
どこへ行くとも告げず走って行った。
まあ、行き先は分かりきっているが。
ちなみにネイ嬢は控えめだが極めて優秀な才女だ。
人格者でもあるし、きっとどうにかなるだろう。
「お父様、国王のおじいさま、まさか知っていて見て見ぬふりでしたの?王太子殿下にはまだお小言は必要でしてよ」
「それは…すまない、だが聞く耳を持ってくれなくてなぁ…」
「右に同じく」
「お父様も国王のおじいさまも…二人揃って…」
「まあ、私が劇で民衆に真実を伝えたのだ。それで許してくれ」
義兄の言葉にマリンは困ったように笑った。
「イヴォン様がいいなら、わたくしはもういいですわ」
「僕は元々あの子を『利用』したようなものだし、かまわないよ」
「利用ですの?」
「君は分からなくていいことだ」
ニコニコ微笑むイヴォン。
マリンは頭にクエスチョンマークを付けつつも、イヴォンに微笑み返した。
「そうだ、ユルリッシュ。それで劇の件はどうしてくれるのだ。さすがにお前でも限度があるぞ」
「それですが伯父上。私はヴァンサンの摂政となって欲しいとのご相談を受けておりましたよね?それをお受けしようかと思います」
「は?やらかしておきながら今更か?」
「やらかしたからやるんですよ。伯父上が安心して楽隠居できるようにね。そのためにも身の丈に合わないあの子の功績の秘密を明かす必要があった。あれだけの実績のある子に『摂政』など要らないはずでしたからね?」
「………」
「あの子もかなり反省しているはずです。今後は私の背中を見て、成長してくれることでしょう」
「…すまない、よろしく頼む」
ということで、この騒動は幕引きとなった。
その後、ヴァンサン殿下はネイ嬢と仲直りして少しずつ関係をやり直しているらしい。
マリンもその様子にほっと胸を撫で下ろす。
実は娘はあの後、こっそりとネイ嬢に謝罪していた。
二人の仲が拗れたのは自分のせいだと。
しかしネイ嬢は笑って言ったらしい。
『これから教育していきますから、大丈夫ですわ』
控えめそうなお嬢さんは、その実芯のしっかりした女性だったらしい。
イヴォンとマリンは相変わらず仲良しだ。
「今日も可愛いね、マリン」
「うふふ、イヴォン様も素敵ですわ!」
可愛い娘夫婦の様子に、はやくも初孫を抱ける妄想をしてしまう。
孫はやっぱり可愛いんだろうなぁ…とワクワクしながらその日を待ちつつ、今日も仕事に励んだ。
「え」
「ここまで我慢したんですもの。もう自由にさせていただきます」
「待て待て待て、一旦ちゃんと話をしよう」
私、ギルベルトは愛娘マリンをソファーに座らせる。
私はこの国の公爵家の当主だ。妻は愛娘が生まれた時に亡くした。だがだからこそ、愛娘には一心に愛情を注いでいる。
そんな娘の突然の言葉に、やっと来た反抗期か?いやでも素直で可愛いマリンに限って反抗期…?と内心混乱しつつマリンの話を聞く。
「それで、何に『キレた』んだ?」
「王太子殿下に対してですわ!」
「ああ…」
マリンの言いたいことは、それでわかった。
「第一王子殿下の『政策のアイディア』をそのまま自分のものにしてしまう件だね」
マリンは婚約者のために、大変ご立腹なのである。
マリンはこの国の国王たるヤン陛下の嫡子だった…亡くなった元王太子ヤニック殿下の庶子である第一王子イヴォン殿下の婚約者だ。
だが我が国には亡くなったヤニック殿下の嫡子である現王太子ヴァンサン殿下がいる。
なのでイヴォン殿下は一応王位継承権はなくもなくもないが、王族としては大変身軽な身の上なのでほぼ恋愛婚約…のような形で、マリンとイヴォンは婚約した。
『第一王子殿下と結婚したいわ!お父様、いいでしょう?』
『おじ上、お願いします』
そう二人に言われた時は涙が出るほど嬉しかったものだ。
元々仲の良かった二人だ。
いつかは言われると思っていたが、めでたいめでたいと小躍りしてしまいそうだった。
ちなみに私はマリンの父だがイヴォン殿下の叔父ではない。
正しくは再従妹の夫にあたる。ヤン陛下の妹ヨランド様の娘イヴェットの夫だ。
「…お父様、聞いてますの?」
「あ、ああ。もちろん。えっと、それで第一王子殿下のアイディアを王太子殿下に横取りされているのが面白くないと」
「ええ!」
そうは言うが、色々あるのだ。
色々。
色々が多すぎる。
まず、イヴォン殿下とマリンはほぼ恋愛婚約でマリンの『能力』はどうせイヴォン殿下が庶子だからと度外視されている。
だが、もしイヴォン殿下がヴァンサン殿下より優秀だと周りにバレたら…『やんややんや言う外野』が出て来かねないのだ。
イヴォン殿下を王とするべきだ、とか…その場合、マリンの能力がイヴォン殿下に比べて低すぎるとか。
マリンは王妃になれる器ではない。
優しくて可憐だが、純粋すぎるし単純に頭の出来が普通程度かそれより少し………なのだ。
だから二人の将来を考えるなら、手柄はヴァンサン殿下に譲った方がいい…イヴォン殿下の考えそうなことである。
祖父から冷遇されてますよアピールを貴族達に欠かさないイヴォン殿下は伊達ではないのだ。
だから多分ヴァンサン殿下は、イヴォン殿下の同意を得て手柄をもらっているか…そのようにイヴォン殿下に誘導されたかのどちらかだろう。
とはいえ、そんな話が『キレた』娘に伝わるとも思えない。
さてどうしたものか…と思っていると。
「姪っ子よー!話は聞かせてもらったぞー!」
「伯父様!」
面倒な人物の登場に私は頭を抱えた。
マリンに伯父様と呼ばれた男は、まさにマリンにとって伯父である…私にとって妻イヴェットの兄、つまり義兄だ。
名をユルリッシュ。
王妹の息子、という立ち位置である彼は私と爵位は同じく公爵。
ただし王の愛した愛妹の息子というだけで誰よりも優遇される。
そして、彼もまた彼の愛した愛妹の娘というだけでマリンを実の子たち同様に溺愛していた。
この国の王の血筋は案外と、情が深いのかもしれない。
「なら私に考えがある」
「まあ、伯父様素敵!」
「義兄上、何をなさるおつもりですか…」
「どうせ来月にはイヴォン殿下はマリンの婿になるだろう!」
そう、イヴォン殿下とマリンの結婚式は近い。
イヴォン殿下は王位継承権を返上して、マリンの婿として嫁いでくる。
能力が低いながらも優しく可憐なマリンの代わりに、公爵家を継ぐのだ。
「それまで待てるか?」
「んー…伯父様がそう言うなら、待つわ」
「義兄上、本当に一体何を…」
「まあそう心配するな、我が弟よ!!!」
義弟なのだが。
すっかり『弟』として接してくれる義兄に、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑だ。
ともかく、この義兄が何をやらかすか…今から不安でたまらないが、義兄は口を割ることはなかった。
イヴォンとマリンの結婚式は盛大に行われた。
綺麗なマリンの姿に思わず男泣きする。
義兄も同じくだった。
なんなら国王陛下も二人を祝福して泣いていた。
…あと、ヴァンサンも。こちらは、祝福の涙ではないけれど。
「幸せね、イヴォン様!」
「幸せだね、マリン」
幸せすぎて涙を流すマリンの涙をそっと拭うイヴォンは、とても優しい表情だった。
そして夫婦になった二人を和やかに見守る日々がしばらく続くと…街で、『とある劇』が流行り出した。
内容は『冷遇される庶子の第一王子が国王から愛される嫡子の第二王子に功績を奪われるも、健気に過ごしやがて幸せな結婚をする話』…まんまうちのことだこれ!?
義兄にやりやがったなと思いつつ、どうするどうすると頭を悩ませる。
やがて、『義兄と私とマリン』に国王陛下からお呼び出しがかかった。
「どういうことだ?あれは」
「…」
「えっと、国王のおじいさま…そんなに真っ赤なお顔をして、怖いわ」
「伯父上、落ち着いて。あれが真実だと伯父上も本当はご存知でしょう?私はそれを広めただけです」
「それはっ……!!!それは、そう…だが………」
ああ、お労しや…国王陛下。
「え、国王のおじいさま知ってましたの?王太子殿下の功績が実はイヴォン様のものだって!!」
娘の目が据わる。
「そ、それはだな」
「国王のおじいさま酷い!!!」
「うぐぅっ………!」
ああ、本当にお労しや。
溺愛する孫世代の子にそう言われたらさぞ悲しかろう。
「だがな、イヴォンが功績を上げたらマリンとイヴォンが結婚できなくされていたかも知れないのだ」
「なんで?」
「その…マリンは、ちょっと純粋すぎる故な?」
「…わたくしが至らない子だから、イヴォン様が活躍しすぎると………ってこと?」
おお、それに気付けるようになるとは!
我が娘は少し大人になったらしい!
「そう、そうなのだ、それで」
「だからって第一王子殿下の手柄にする必要あった?」
「それはな…」
「マリン、王太子殿下はマリンのことが好きだから、気を引きたくてそんなことをしたんだよ」
そこに颯爽と現れたのは我が家の跡取り、イヴォン…そして、王太子殿下。
「国王陛下、お久しゅうございます」
「あ、ああ…久しぶりだな」
「イヴォン様、今のご発言はどういうことですの?」
「ヴァンサン、自分の言葉で伝えてごらん」
イヴォンはあえて『兄』として王太子殿下に声をかける。
王太子殿下は口を開いた…と思ったら、愛を叫んだ。
「俺は、マリンが好きだ!愛してる!」
「…はぃ?」
「だから、兄上の真似をしたらマリンに振り向いてもらえるかもって…本当にごめん!」
がばっと頭を下げる王太子殿下。
マリンはそれを複雑そうな目で見つめる。
本来、王族が頭を下げるなどあってはならないことだが…。
「…まず、王太子殿下」
「はい」
「わたくし、イヴォン様が好きですの。その気持ちには応えられませんわ」
「はい」
「そして、そんなことをしても貴方を好きにはなりません」
「…はい」
そして、娘は叫んだ。
「そして…この大馬鹿者!!!」
暴力を振るったりこそしていないが、しこたま叱責した。
「王太子殿下にはネイ様という素敵な婚約者がいらっしゃるのにどうしてよそ見をなさってるの?」
「わたくしにはイヴォン様がいらっしゃるのに!」
「ネイ様に今まで失礼はなかったですわよね?まさかね?」
「ネイ様に今すぐ謝っていらっしゃい!今からでも関係を修復なさい!」
「本当にこのお馬鹿!!!」
好きな人にしこたま詰られてようやくネイ嬢の気持ちを察したらしいバカ…失礼、王太子殿下。
どこへ行くとも告げず走って行った。
まあ、行き先は分かりきっているが。
ちなみにネイ嬢は控えめだが極めて優秀な才女だ。
人格者でもあるし、きっとどうにかなるだろう。
「お父様、国王のおじいさま、まさか知っていて見て見ぬふりでしたの?王太子殿下にはまだお小言は必要でしてよ」
「それは…すまない、だが聞く耳を持ってくれなくてなぁ…」
「右に同じく」
「お父様も国王のおじいさまも…二人揃って…」
「まあ、私が劇で民衆に真実を伝えたのだ。それで許してくれ」
義兄の言葉にマリンは困ったように笑った。
「イヴォン様がいいなら、わたくしはもういいですわ」
「僕は元々あの子を『利用』したようなものだし、かまわないよ」
「利用ですの?」
「君は分からなくていいことだ」
ニコニコ微笑むイヴォン。
マリンは頭にクエスチョンマークを付けつつも、イヴォンに微笑み返した。
「そうだ、ユルリッシュ。それで劇の件はどうしてくれるのだ。さすがにお前でも限度があるぞ」
「それですが伯父上。私はヴァンサンの摂政となって欲しいとのご相談を受けておりましたよね?それをお受けしようかと思います」
「は?やらかしておきながら今更か?」
「やらかしたからやるんですよ。伯父上が安心して楽隠居できるようにね。そのためにも身の丈に合わないあの子の功績の秘密を明かす必要があった。あれだけの実績のある子に『摂政』など要らないはずでしたからね?」
「………」
「あの子もかなり反省しているはずです。今後は私の背中を見て、成長してくれることでしょう」
「…すまない、よろしく頼む」
ということで、この騒動は幕引きとなった。
その後、ヴァンサン殿下はネイ嬢と仲直りして少しずつ関係をやり直しているらしい。
マリンもその様子にほっと胸を撫で下ろす。
実は娘はあの後、こっそりとネイ嬢に謝罪していた。
二人の仲が拗れたのは自分のせいだと。
しかしネイ嬢は笑って言ったらしい。
『これから教育していきますから、大丈夫ですわ』
控えめそうなお嬢さんは、その実芯のしっかりした女性だったらしい。
イヴォンとマリンは相変わらず仲良しだ。
「今日も可愛いね、マリン」
「うふふ、イヴォン様も素敵ですわ!」
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