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婚約者
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ニノンの婚約者、エドガール・ドナ・セザール。セザール辺境伯家の三男である彼は、この日悩んでいた。
「女性の好みはわからん…朝摘みの花でブーケなど、やはり俺には荷が重い」
「坊ちゃんがニノン様を喜ばせたいと仰られたのではありませんか」
「むむ…うーん。すまない。わがままを言ったのはこちらだったな。…では、白薔薇を中心に白い花でブーケを作ってくれ。ニノンには白がよく似合う」
「ほほ。ベタ惚れですな」
「言うな。俺だって照れる」
ファルマンが勧めてくる縁談の中で、ニノンが実際に会って自分の目で相手を確かめ選び抜いたのがエドガール。実際、エドガールはニノンの見抜いた通り実直で真面目、優しい少年だ。ニノンの二つ上だが、ニノンを婚約者として大切にしている。
見た目はやや垢抜けないが、ゴテゴテと飾り立てることはないのに存在感のある彼ならおしゃれに気を使えばすぐに化けるだろう。もっとも、ニノンとしてはエドガールにモテて欲しくないのでおしゃれをさせる気は無いが。
ファルマンからも認められている彼は、今日はニノンと仲を深めるために二人きりのお茶会を開く。ニノンを喜ばせるべく色々と準備していた。
「お前達。ニノンが好きだと言っていた茶葉は手に入ったな」
「はい、坊ちゃん」
「美味い茶を期待している。ニノンを喜ばせろ」
「もちろんです」
「お茶菓子はニノンの好きなチョコプリンやガトーショコラなどを用意しているな?お茶会に間に合うか?」
「ご用意はできておりますよ」
「ふむ。…あとできることは、ニノンを待つだけか」
普段辺境伯家の三男として武芸を嗜むエドガールの手は、幼いと言えどもしっかりがっしりしていた。血豆が出来ていて、傷も多い。その手が、珍しく汗ばむ。
「…緊張する」
「ニノン様は幼いながらにお美しいですからなぁ」
「ああ。とても愛らしい。ニノンの将来の夫として、俺もさらに武芸に磨きをかけねば」
エドガールの様子にうんうんと頷く彼の侍従。真面目過ぎるのが玉に瑕のエドガールがまさかここまで一人の女の子に夢中になると思っていなかった彼は、いい変化だとニノンに感謝していた。
「坊ちゃん、ニノン様の馬車が御到着しました」
「出迎える」
「はい」
エドガールはニノンを出迎える。ニノンはエドガールを見てぱっと笑顔になった。そんなニノンにエドガールの頬は自然と緩む。
「エド!ご機嫌よう、会いたかった!」
「ニノン、ご機嫌よう。よかった、会いたかったのは俺だけじゃなかったんだな」
幼い二人の睦まじい様子に使用人たちも和む。
「さあ、中庭でお茶会にでもしよう」
「うん!」
ニノンはエドガールのエスコートで中庭に向かう。そして、出てきた紅茶とお茶菓子に舌鼓をうち思わず頬を押さえた。
「んー!紅茶もお茶菓子も美味しい!」
「気に入ったならよかった」
準備に気合を入れていたエドガールは、心の中でガッツポーズをした。
「ニノン。朝摘みのバラでブーケを作った。よかったら受け取ってくれ」
「わあ!エドありがとう!大好き!」
「俺も君が好きだ」
笑顔で花束を受け取るニノン。ローズがニノンから花束を預かる。
「それでね、パパったら寝癖のついたままお部屋を出そうになって」
「寝ぼけていると時々あると思う。俺も気をつけよう」
基本的にはニノンが話しかけてエドガールが聞き役に徹しているが、二人ともそれが心地よい。落ち着く空間に、エドガールはニノンに感謝していた。
「じゃあ、今日はもう帰らなきゃ。楽しい時間はあっという間だね」
「そうだな。本当ならもう少し一緒にいたいが…またな」
「うん、またね!」
ニノンの乗る馬車が見えなくなるまで見送るエドガール。すっかり婚約者にぞっこんな主人に、エドガールの侍従は微笑ましく思っていた。
「女性の好みはわからん…朝摘みの花でブーケなど、やはり俺には荷が重い」
「坊ちゃんがニノン様を喜ばせたいと仰られたのではありませんか」
「むむ…うーん。すまない。わがままを言ったのはこちらだったな。…では、白薔薇を中心に白い花でブーケを作ってくれ。ニノンには白がよく似合う」
「ほほ。ベタ惚れですな」
「言うな。俺だって照れる」
ファルマンが勧めてくる縁談の中で、ニノンが実際に会って自分の目で相手を確かめ選び抜いたのがエドガール。実際、エドガールはニノンの見抜いた通り実直で真面目、優しい少年だ。ニノンの二つ上だが、ニノンを婚約者として大切にしている。
見た目はやや垢抜けないが、ゴテゴテと飾り立てることはないのに存在感のある彼ならおしゃれに気を使えばすぐに化けるだろう。もっとも、ニノンとしてはエドガールにモテて欲しくないのでおしゃれをさせる気は無いが。
ファルマンからも認められている彼は、今日はニノンと仲を深めるために二人きりのお茶会を開く。ニノンを喜ばせるべく色々と準備していた。
「お前達。ニノンが好きだと言っていた茶葉は手に入ったな」
「はい、坊ちゃん」
「美味い茶を期待している。ニノンを喜ばせろ」
「もちろんです」
「お茶菓子はニノンの好きなチョコプリンやガトーショコラなどを用意しているな?お茶会に間に合うか?」
「ご用意はできておりますよ」
「ふむ。…あとできることは、ニノンを待つだけか」
普段辺境伯家の三男として武芸を嗜むエドガールの手は、幼いと言えどもしっかりがっしりしていた。血豆が出来ていて、傷も多い。その手が、珍しく汗ばむ。
「…緊張する」
「ニノン様は幼いながらにお美しいですからなぁ」
「ああ。とても愛らしい。ニノンの将来の夫として、俺もさらに武芸に磨きをかけねば」
エドガールの様子にうんうんと頷く彼の侍従。真面目過ぎるのが玉に瑕のエドガールがまさかここまで一人の女の子に夢中になると思っていなかった彼は、いい変化だとニノンに感謝していた。
「坊ちゃん、ニノン様の馬車が御到着しました」
「出迎える」
「はい」
エドガールはニノンを出迎える。ニノンはエドガールを見てぱっと笑顔になった。そんなニノンにエドガールの頬は自然と緩む。
「エド!ご機嫌よう、会いたかった!」
「ニノン、ご機嫌よう。よかった、会いたかったのは俺だけじゃなかったんだな」
幼い二人の睦まじい様子に使用人たちも和む。
「さあ、中庭でお茶会にでもしよう」
「うん!」
ニノンはエドガールのエスコートで中庭に向かう。そして、出てきた紅茶とお茶菓子に舌鼓をうち思わず頬を押さえた。
「んー!紅茶もお茶菓子も美味しい!」
「気に入ったならよかった」
準備に気合を入れていたエドガールは、心の中でガッツポーズをした。
「ニノン。朝摘みのバラでブーケを作った。よかったら受け取ってくれ」
「わあ!エドありがとう!大好き!」
「俺も君が好きだ」
笑顔で花束を受け取るニノン。ローズがニノンから花束を預かる。
「それでね、パパったら寝癖のついたままお部屋を出そうになって」
「寝ぼけていると時々あると思う。俺も気をつけよう」
基本的にはニノンが話しかけてエドガールが聞き役に徹しているが、二人ともそれが心地よい。落ち着く空間に、エドガールはニノンに感謝していた。
「じゃあ、今日はもう帰らなきゃ。楽しい時間はあっという間だね」
「そうだな。本当ならもう少し一緒にいたいが…またな」
「うん、またね!」
ニノンの乗る馬車が見えなくなるまで見送るエドガール。すっかり婚約者にぞっこんな主人に、エドガールの侍従は微笑ましく思っていた。
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