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無意識に沈む

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ニノンは目を開ける。たしかに、神の言う通り泉の中は聖なる湧き水の中と同様に息ができる。目を開けて頭が浸かるまで深く入っても特に異常もなく、身体の疲れも癒えるようだ。そして、浸かっていると段々と眠くなってくるような気さえする。まるで、無意識に溶けていくような…。

「ぐるる!」

そこまで考えて、ホワイトドラゴンの唸り声に目を覚ました。泉の中でも聞こえるのだなと呑気に思いながら、ニノンは湖の奥を目指す。

「…ブロン。無意識の泉に溶けないように、ニノンを助けたのか?」

「ぐるる」

「ニノンの意識が溶けて消えたら、俺の望んだものも見られないだろうって?…ははっ。そりゃそうだが、そのくらいの難関あの子なら突破したんじゃないか?この短時間で随分と過保護になったものだな、ブロン。見ていて思ったが、あの子の周りはみんなそうだな。貧しい孤児院時代の仲間でさえそうだ。…ニノンの何が、人をそんなに虜にするんだろうな?」

「ぐるる」

「ああ、はいはい。ブロンは人じゃなくホワイトドラゴンだもんな。わかってるよ。ちょっとした言葉の綾だろう」

ニノンには、神とホワイトドラゴンの言葉は届かなかった。

「奥へ、奥へ」

ニノンは神の言葉に従い奥を目指す。泉は最初、聖なる湧き水と同じでとても気持ちが和らいだ。しかし、奥へ進めば進むほど何故か恐怖が心を支配する。これ以上進むのは危険だと頭が警笛を鳴らす。しかし、神に逆らう選択肢などない。

「…奥へ、奥へ」

ニノンは自分を励ますように、ただ神の命令を口にする。何もない。ただ、暗闇が続くばかり。けれど、それがとても恐ろしいように思えた。

「…奥に行って、何があるんだろう。出会いってなんだろう」

ニノンは神の言葉を思い出して、気になった。そんなニノンの疑問はすぐに晴れる。

「…あれ?誰かいる」

泉のさらに奥、誰かの姿を見つけた。これがきっと、神の言う出会いだとすぐにわかった。これこそが、神の目的なのだ。けれどニノンは、足がすくむ。本能的に、ダメだと思った。アレは、見たくないと。

「…なんで、そんな風に思うんだろう。誰かもまだわからないのに」

ニノンは、すくむ足を無理矢理動かした。奥へ奥へ進む。誰かわからない、その人を目指して。そして、近付いて気付いた。アレは…。

「…私?」

そう。自分自身だった。

「そうだよ」

自分自身が振り向いた。その姿は、孤児院時代のみすぼらしい自分自身。

「ねえ、今どんな気分?」

無意識の底で出会った自分自身は、随分と敵意の高い目を向けてきた。ニノンは、思わず身体を竦ませてた。
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