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誰が一番悪かったのか
どうでもいい。
もうどうでもいい。
婚約者からもらった婚約指輪を外す。
さすがに捨てるわけにもいかないのでケースにしまって、自室の机の引き出しにいれておく。
別に彼は恋人なんかじゃなく、親同士の決めた許嫁。
だから浮気をされたところで、家のためを思うなら我慢するほかなくて。
だいたい浮気と言っても、彼の従妹が彼に甘えて彼がそれを甘やかすだけの関係。
ちょっと行き過ぎた仲のいい親戚と言われて仕舞えばそれまでだ。
だからもうなにも言わない。
いや、今日最初で最後にお願いしたのだ。
あまり異性と仲良くし過ぎるのはやめてほしいと。
でも彼は自分を疑うのかと静かに怒って、だから何故か私が謝って。
それで終わり。
もういい。
もうどうでもいい。
なんか疲れてしまった。
「…まあ、いいか」
いずれ彼と結婚して、数人子供を産んで、そうしたら私も愛人を作ろう。
それでいいや。
彼らのことはもう、何も言わずに受け入れてあげよう。
恋は将来、義務を果たしてから別の人とすればいい。
「この間は冷たくしてしまってすみませんでした」
「え?いえ」
「でもその、従妹とは本当にそんな仲ではないんです」
「そうですか」
彼とは、従妹への苦言の件以降初めて会った。
そこで謝られた。
謝られてもどうしたらいいかわからない。
「…許してくれますか?」
「はい」
許すもなにも、もうなにも言う気はない。
「よかった…今日は久しぶりに会えたのですし、デートを楽しみましょう」
「あ、大丈夫です」
「え?」
「デートより、お茶でもどうですか」
「ですが…いえ、君がそれでいいなら」
彼を誘って中庭でお茶にする。
一時間くらいそうして過ごすと、私は言った。
「そろそろお開きにしましょうか」
「え?せっかく会えたのですからもう少し…」
「お気遣いなく」
彼を追い返す。
彼は戸惑ったような表情を浮かべた。
けれど、私が彼にわざわざ付き合う理由があるだろうか。
いや、ない。
「では、お気をつけて」
「…あの、やっぱり怒っていますか?」
「いえ、全然」
特に怒ってはいないと思う。
多分。
なんか、冷たい空気が血に流れているような感覚がするだけ。
無感情に近い。
「…あ、え。ねえ、僕のあげた婚約指輪は?」
「部屋の机の引き出しにちゃんとしまってありますよ」
「あの」
「早く帰らないとクロエ様が心配しますよ」
彼の従妹の名前を出せば、彼は大人しく帰っていった。
彼の従妹は、ネグレクトを受けていたとかでお人好しな彼の両親に引き取られているので一緒に住んでいるから。
可哀想だとは思うよ、クロエ様は。
でもだからって、私の婚約者に縋るのはどうかと思う。
でももういい。好きにすればいい。私もその分好きにするから。
やがて私は婚約者と結婚した。
私は子供を三人産んだ。
男の子二人と女の子。
全員健康かつ優秀。
これでもう義理は果たした。
ちなみにクロエ様は結局誰とも結婚せずに修道院に行った。
彼はそれ以降は私を大事にするそぶりを見せるが特になにも思わない。
私が目指したのはただ一つ。
「子供達も健康に育ってなによりです」
「親バカと言われるかもしれませんが、優秀ですし性格も良いですからね」
「ええ」
「ですからそろそろいいですよね」
「なにがですか?」
彼に一応確認する。
「愛人を作ってもいいですか?」
「…え?」
「もう必要な義理は果たしましたし、そろそろいいかと思うのですが」
「待ってください、どうしてそんな突然…」
「貴方が従妹とイチャイチャしている間、ずっと将来は素敵な人と恋をしようと思って自分を鼓舞して過ごしてきました。だからそろそろ、もういいでしょう?私にも恋をさせてください」
彼は目を見開いて、そのあと目を伏せてから笑った。
「…ええ、そうですね。わかりました」
「ありがとうございます」
「でも、子供達には隠してくださいね」
「そうですね」
そうして私は愛人を作る許可を得た。
「貴女は本当に優しい人だ」
「そんなことはありません」
「いえ、俺には貴女だけ…貴女だけが俺を助けてくれた」
適当に顔のいい貧民をお金で掬い上げて愛人にした。
けれど彼は、私に助けられたと心から感謝して忠誠を誓ってくれる。
もしかしたら外面だけで、内心は違うかもしれないけれどそれでもいい。
彼との関係は心地がいい。
「いっそ貴女をここから連れ出せたらいいのに」
「それはダメよ」
「貴女の心をこんなにも冷たく凍えさせたなんて、信じられない。これからは貴女は、俺が守るから」
口だけかもしれない。
でもそれでよかった。
「貴女が好きです」
「私も貴方が好きよ」
このままぬるま湯に浸っていたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
「彼とはどうですか」
「楽しいですよ」
「それはそれは」
にっこり笑う旦那様。
それはどういう感情なんだろうか。
「旦那様はクロエ様を呼び戻したりしないんですか?」
「呼び戻してどうするんです?」
「またイチャイチャして過ごすとか」
彼は一瞬目を伏せてから、また笑みを作った。
「信じてもらえないのでしょうけれど、僕は昔から君一筋です」
「へえ」
「本当ですよ。彼女にはただ、家庭の温かさを教えたかっただけです。兄のような気分でした」
「ふうん…」
「ただ、彼女はそうではなかったようです。身体で誘惑しようとしてきたので、修道院に押し込めました」
なるほど、それはそれは。
「お可哀想に」
「結局僕は、大切にするべきものを間違えたのでしょう」
「そうですね」
「だから君の邪魔はしません。でも、たまには愛人だけでなく僕にも愛情のおこぼれを頂戴できたら嬉しいです」
その言葉には、曖昧に笑って誤魔化す。
彼が何と言おうが、多分私は彼を好きになることはもうないのだろう。
「…では、私は部屋に戻りますね」
「ええ。愛していますよ」
結婚して以来毎日言われる、リップサービスだと思っていたその言葉。
本心だと知って、何故だか気分が重くなる。
でも、旦那様より愛人と過ごす時間の方が今の私には大切で。
だからまた今度、愛人の元に私は通うのだろう。
もう旦那様とやり直しなんて、きっと無理だ。
なんだかとてもやりきれない気持ちになって、でも自分で選んだことだから。
私はせめて、少しでも幸せだと思えるように動こう。
今更だ、それしか出来ることはない。
もうどうでもいい。
婚約者からもらった婚約指輪を外す。
さすがに捨てるわけにもいかないのでケースにしまって、自室の机の引き出しにいれておく。
別に彼は恋人なんかじゃなく、親同士の決めた許嫁。
だから浮気をされたところで、家のためを思うなら我慢するほかなくて。
だいたい浮気と言っても、彼の従妹が彼に甘えて彼がそれを甘やかすだけの関係。
ちょっと行き過ぎた仲のいい親戚と言われて仕舞えばそれまでだ。
だからもうなにも言わない。
いや、今日最初で最後にお願いしたのだ。
あまり異性と仲良くし過ぎるのはやめてほしいと。
でも彼は自分を疑うのかと静かに怒って、だから何故か私が謝って。
それで終わり。
もういい。
もうどうでもいい。
なんか疲れてしまった。
「…まあ、いいか」
いずれ彼と結婚して、数人子供を産んで、そうしたら私も愛人を作ろう。
それでいいや。
彼らのことはもう、何も言わずに受け入れてあげよう。
恋は将来、義務を果たしてから別の人とすればいい。
「この間は冷たくしてしまってすみませんでした」
「え?いえ」
「でもその、従妹とは本当にそんな仲ではないんです」
「そうですか」
彼とは、従妹への苦言の件以降初めて会った。
そこで謝られた。
謝られてもどうしたらいいかわからない。
「…許してくれますか?」
「はい」
許すもなにも、もうなにも言う気はない。
「よかった…今日は久しぶりに会えたのですし、デートを楽しみましょう」
「あ、大丈夫です」
「え?」
「デートより、お茶でもどうですか」
「ですが…いえ、君がそれでいいなら」
彼を誘って中庭でお茶にする。
一時間くらいそうして過ごすと、私は言った。
「そろそろお開きにしましょうか」
「え?せっかく会えたのですからもう少し…」
「お気遣いなく」
彼を追い返す。
彼は戸惑ったような表情を浮かべた。
けれど、私が彼にわざわざ付き合う理由があるだろうか。
いや、ない。
「では、お気をつけて」
「…あの、やっぱり怒っていますか?」
「いえ、全然」
特に怒ってはいないと思う。
多分。
なんか、冷たい空気が血に流れているような感覚がするだけ。
無感情に近い。
「…あ、え。ねえ、僕のあげた婚約指輪は?」
「部屋の机の引き出しにちゃんとしまってありますよ」
「あの」
「早く帰らないとクロエ様が心配しますよ」
彼の従妹の名前を出せば、彼は大人しく帰っていった。
彼の従妹は、ネグレクトを受けていたとかでお人好しな彼の両親に引き取られているので一緒に住んでいるから。
可哀想だとは思うよ、クロエ様は。
でもだからって、私の婚約者に縋るのはどうかと思う。
でももういい。好きにすればいい。私もその分好きにするから。
やがて私は婚約者と結婚した。
私は子供を三人産んだ。
男の子二人と女の子。
全員健康かつ優秀。
これでもう義理は果たした。
ちなみにクロエ様は結局誰とも結婚せずに修道院に行った。
彼はそれ以降は私を大事にするそぶりを見せるが特になにも思わない。
私が目指したのはただ一つ。
「子供達も健康に育ってなによりです」
「親バカと言われるかもしれませんが、優秀ですし性格も良いですからね」
「ええ」
「ですからそろそろいいですよね」
「なにがですか?」
彼に一応確認する。
「愛人を作ってもいいですか?」
「…え?」
「もう必要な義理は果たしましたし、そろそろいいかと思うのですが」
「待ってください、どうしてそんな突然…」
「貴方が従妹とイチャイチャしている間、ずっと将来は素敵な人と恋をしようと思って自分を鼓舞して過ごしてきました。だからそろそろ、もういいでしょう?私にも恋をさせてください」
彼は目を見開いて、そのあと目を伏せてから笑った。
「…ええ、そうですね。わかりました」
「ありがとうございます」
「でも、子供達には隠してくださいね」
「そうですね」
そうして私は愛人を作る許可を得た。
「貴女は本当に優しい人だ」
「そんなことはありません」
「いえ、俺には貴女だけ…貴女だけが俺を助けてくれた」
適当に顔のいい貧民をお金で掬い上げて愛人にした。
けれど彼は、私に助けられたと心から感謝して忠誠を誓ってくれる。
もしかしたら外面だけで、内心は違うかもしれないけれどそれでもいい。
彼との関係は心地がいい。
「いっそ貴女をここから連れ出せたらいいのに」
「それはダメよ」
「貴女の心をこんなにも冷たく凍えさせたなんて、信じられない。これからは貴女は、俺が守るから」
口だけかもしれない。
でもそれでよかった。
「貴女が好きです」
「私も貴方が好きよ」
このままぬるま湯に浸っていたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
「彼とはどうですか」
「楽しいですよ」
「それはそれは」
にっこり笑う旦那様。
それはどういう感情なんだろうか。
「旦那様はクロエ様を呼び戻したりしないんですか?」
「呼び戻してどうするんです?」
「またイチャイチャして過ごすとか」
彼は一瞬目を伏せてから、また笑みを作った。
「信じてもらえないのでしょうけれど、僕は昔から君一筋です」
「へえ」
「本当ですよ。彼女にはただ、家庭の温かさを教えたかっただけです。兄のような気分でした」
「ふうん…」
「ただ、彼女はそうではなかったようです。身体で誘惑しようとしてきたので、修道院に押し込めました」
なるほど、それはそれは。
「お可哀想に」
「結局僕は、大切にするべきものを間違えたのでしょう」
「そうですね」
「だから君の邪魔はしません。でも、たまには愛人だけでなく僕にも愛情のおこぼれを頂戴できたら嬉しいです」
その言葉には、曖昧に笑って誤魔化す。
彼が何と言おうが、多分私は彼を好きになることはもうないのだろう。
「…では、私は部屋に戻りますね」
「ええ。愛していますよ」
結婚して以来毎日言われる、リップサービスだと思っていたその言葉。
本心だと知って、何故だか気分が重くなる。
でも、旦那様より愛人と過ごす時間の方が今の私には大切で。
だからまた今度、愛人の元に私は通うのだろう。
もう旦那様とやり直しなんて、きっと無理だ。
なんだかとてもやりきれない気持ちになって、でも自分で選んだことだから。
私はせめて、少しでも幸せだと思えるように動こう。
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