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なんでやねん、と突っ込みたい

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「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」

公爵家の娘とも思えぬひっどい声を上げてベッドに崩れ落ちるのは神童とも讃えられるアザレア。

類稀な闇魔法を人々のために使う慈悲深さ、その美貌も相まって人々から愛される姫君だ。

そんな彼女の中身は、テンプレ悪役令嬢転生を果たした元干物OLである。

「ここまで上手くいってたのにぃ…」

彼女は天涯孤独な身の上の末に、ブラック企業に就職するとストレスから病気で亡くなり何故かお気に入りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生したとんでもないアンラッキーガールである。

しかし生き汚い…もとい生に執着している彼女は、確実にバッドエンド直行で必ず死罪になる悪役令嬢に転生しても諦めなかった。

その前世の知識を活かして闇魔法を駆使して前世の便利アイテム(スマートフォンとかパソコンとか)を作り上げ王家に献上。神童であると証明し国に必要不可欠な存在となった。

さらに庶民向けの便利アイテム(冷蔵庫やエアコンなどの家電)を闇魔法にて作り上げ商人たちに安く卸す代わりになるべく安値で庶民たちに売らせ、商人たちからも庶民からも愛される存在となった。

攻略対象とは関わらず、設定と違い王太子との婚約も結ばず、誰とも婚約せぬまま。人々からの愛と尊敬だけを集めて、上手くやってきた。なのに。

「あのクソ転生ヒロインがぁっ!」

最悪なことに、ヒロインであるブカネーヴェも転生者だった。

それも性格が悪い。

攻略対象を味方につけ、やたらとアザレアに食ってかかる。

幸か不幸か頭は緩いらしく、巧妙な策略でアザレアを嵌めて追い込む…ということはなかったが、めちゃくちゃ絡んでくるしいちゃもんをつけてくる。

うざいし迷惑だ。

「このままじゃいつか絶対キレるぅ…それを理由に断罪されるぅ…」

アザレアはただただ震えていた。












「アザレア様!いい加減にしてください!」

「え」

「ブカネーヴェが近くにいるのに無視するなんて、イジメです!」

うざい。

うざい!

が、ぐっと我慢する。

攻略対象たちが、ブカネーヴェを囲んでいるから。

アザレアの信奉者はこの貴族の子女の通う学園には多いが、王太子を含めた攻略対象たちに物を言える人は少ない。

「アザレア嬢。いい加減にブカネーヴェをイジメるのはやめてもらおうか」

「そ、そんなつもりはっ」

「なんだ、私に意見か?」

このクソ王太子ー!!!

ゲームで攻略してた頃から貴様は嫌いだったんじゃボケー!

てめーが今使ってるそのスマートフォン、誰がくれてやったと思っとるんじゃカスー!!!

「おや、この国の王太子殿下は下の者の意見は聞かないのかい?」

そこに、花の香りがブワッと広がった。

と、思ったら抱きしめられていた。

「な、君は…」

「クリザンテーモ殿下っ!?」

「クリス様っ!?」

攻略対象たちが狼狽え、ヒロインが目を見張る。

突然抱きしめられた私は、きょとんとしてしまう。

見上げれば、このカラフルなイケメンどものひしめくこの世界でも珍しい綺麗な虹色の髪に紫水晶の瞳のイケメン。

我が国に留学に来ている同盟国の第二王子にして、隠し攻略対象のクリザンテーモだ。

おかしいなぁ、ヒロインが逆ハーレム形成してから出てくるはず…既にしてたか!!!じゃあなんのためにヒロインが私に絡んでたかって言えば、クリザンテーモの出現のためか。守ってくれる優しい王子様として登場するもんね。

「オレの可愛いアザレア、大丈夫かい?」

「はぃ…?」

今なんつったこいつ。

「え、クリス様、オレのって…」

「おや。たかだか男爵家の養子の娘に愛称で呼ぶことを許した覚えはないなぁ」

「っ、ブカネーヴェ、彼に謝るんだ」

「え、ご、ごめんなさい…」

クリザンテーモは私を抱きしめたまま彼らに告げる。

「ちょうど今日ね、アザレアとの婚約が両家の両親から認められたんだ。その報告をアザレアにしに来てみれば…よくもアザレアを貶めるような真似を。アザレアは我が国の第二王子妃となる女の子。乱暴な扱いは許さないよ」

「…はぁ!!?」

その場にいた全員が叫ぶ。

もちろん私も。

「え、え、アザレアと婚約!?私は!?」

「なんでオレが君なんかとよろしくしないといけないの?」

「いや、でも…だって、私はヒロインでっ」

「ヒロイン?…もしかして、物語の主人公にでもなった気分だった?あー、高位貴族の男に囲まれてその気になっちゃったのかぁ」

彼は乙女ゲームでは決して見せなかった恐ろしい顔をして、ブカネーヴェを見据えた。

「悪いけど、オレはそいつらのように籠絡されはしない。あと、お前に籠絡されたそいつらは罰こそ受けないが再教育だってさ。学園はしばらく休学させて、それぞれの家で鍛え直すそうだよ。国に尽くしたアザレアへのあまりの仕打ちにそれぞれの親がブチギレしてる」

その言葉に攻略対象たちが固まる。

「まあ、再教育だから後継から外されることはないだろう。ただ、身の振り方は気をつけた方がいい」

彼の言葉に、攻略対象たちは静かにブカネーヴェと距離を取る。

「あと、婚約者は大切にね」

その言葉で、ブカネーヴェに夢中になって存在を忘れていた彼女たちを思い出して真っ青になる彼ら。

クリザンテーモへの挨拶もそこそこに、ブカネーヴェを置いて走り出した。

そんな彼らにクリザンテーモは、廊下は走ってはいけないよー!と呑気に声をかけていた。いや怖い。

「さて」

「…!」

「家のことで精神攻撃をした後、婚約者のことを言った途端に顔色を変えた彼ら。もしかして君…彼らに魅了とか使ってないよね?」

「あ、あ…」

おやまあ。

ヒロインである彼女は光魔法の使い手で、熟練度が上がれば魅了も出来るんだっけ。

「あーあ。聖女候補として期待されていたのに、余計なことをしてしまったねぇ?」

「ちがっ…」

「オレのつけてるピアス。これ我が国のお守りで、魅了を防ぐ効果があるの。我が国も君みたいなので痛い目に遭ったことがあってね」

ちょんちょん、と彼がピアスを触る。

ブカネーヴェは青ざめる。

「ちなみに、魅了を防ぐだけじゃなくて誰が仕掛けたか記録してくれるんだよね。処罰に困らなくていいよね」

「…ひっ」

「確かこの国でも、魅了魔法の乱用は重罪…禁固刑じゃなかったかな。今牢屋に入ったら、花盛りが過ぎるまで出てこれないねぇ」

「い、いやっ」

「ま、諦めなよ。アザレア、一緒に校長室まで来て」

クリザンテーモに連行されて、一緒にブカネーヴェについて告発。

ブカネーヴェは魔法警察に逮捕された。

で、それを見届けて。

「いやー、上手く行ったなぁ」

「クリザンテーモ殿下、どういうことです」

「オレのことはクリスって呼んで?」

彼曰く。

彼の国にとって私の技術は喉から手が出るほど欲しいらしく。

我が国の王家と彼の国の王家で話し合い、同盟国の縁もあって嫁いでオーケーとなったらしい。

我が公爵家にとって、断る理由もないので両親と兄も快く受け入れたとか。

私の意思など、そもそも政略結婚なのであってないようなものだとか。

「…うぐぅ」

「ま、諦めて卒業後はオレと結婚してよ。我が国に尽くしてね」

「だ、第二王子妃教育は」

「幼い頃に神童と言わしめた君に、今更そんなもの必要かなぁ」

「ぐぬぅっ…」

愛のない結婚は嫌だが、貴族に生まれた以上仕方がない。

それに、私が闇魔法のイメージを払拭したとはいえこの属性の魔法を使う女を欲しがってくれるなんて有難い。

我が国の王家なら、我が公爵家との繋がりであり得ることだが他国の王家が欲しがってくれるなら光栄なこと。

この人のおかげでバッドエンド回避できたし、ヒロインざまぁもしてくれたし、実は被害者だった攻略対象たちも開放してくれたし…!

仕方がない、妃として彼の国に尽くそう。

「はい…」

「あ、それとオレ普通に君に惚れてるから。恋人としてもよろしくね」

「…はぁっ?」

見れば、紫水晶の瞳が私を捉えていた。

その目は蕩けるほど甘くて。

ああ、やべぇのに捕まったなぁと諦めるしかなかった。



















アザレアの噂は聞いていたし、是非我が国に欲しかった。

第二王子妃として迎えることに反対はなかった。

留学先でもある同盟国との話し合いが進む中で、彼女自身にも目を向けた。

彼女は自分の闇魔法を、悪用することなく人々のために使っていた。

本人も至って優秀。そして見目も美しい。だが、一番美しいのはやはりその心根だった。誰にでも分け隔てなく優しい。

「ブカネーヴェ…か」

そんな彼女が唯一避ける女の子。

ブカネーヴェ。

我が国の王家は魅了魔法で痛い目に遭ったことがあり、それもあってかオレは一目で彼女の本性を見抜いた。

アザレアを守るためブカネーヴェの罪を明らかにする準備を進めていく。

そんなことをしているうちに、自然とブカネーヴェでなくアザレアを目で追ってしまうようになった。

「…オレ、アザレアに魅了魔法でも使われてるのかなぁ」

そんなはずはない。

アザレアはオレの視線に気付いてもくれないし、ピアスも反応してない。

でも、それならば。

「純粋にアザレアを愛しちゃったとか、笑えるんだけど」

我が国の発展のために娶る。

それだけの女の子のはずなのに。

「手遅れなほど、惚れ込んじゃったかぁ…ねぇ、お前はどう思う?」

幼い頃から側にいる、乳兄弟の侍従に声をかける。

彼は呆れた目でオレを見て言った。

「いいんじゃないですか?可愛い人ですし」

「そう?」

「ただ、珍しい闇属性のお方です。我が国の王家でも相当浮くでしょう。愛してしまったのなら、守って差し上げねば」

私も頑張りますが、主人も頑張ってくださいね。

そう言って応援とともに忠告されたので、じゃあそうしようと誓う。

彼女はそもそもオレを認識していないし、色々と前途多難だがまあ頑張ろう、うん。
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