冷徹だと噂の公爵様は、妹君を溺愛してる

下菊みこと

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妹を捨てろと遠回しにいったのが運の尽き

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「ティナ」

「フレッド兄様ー!!!」

ティナと呼ばれた少女が、呼びかけた青年の元へ駆け寄る。

彼女はオーギュスティナ。九歳。冷徹公フレデリックの十二歳ほど歳の離れた妹君。

フレデリックの父であった公爵がまだ健在であった時に、娼婦が生んだ私生児だ。

しかしフレデリックは、オーギュスティナの母である娼婦が養育費を求めて爵位を継いだフレデリックの元に来た時に手切れ金を払ってオーギュスティナを引き取った。

それからずっとオーギュスティナを溺愛している。

フレデリックは貴族の間では冷徹公として有名だ。何故ならフレデリックに楯突いた者は皆悉く苛烈な仕置きを受けているから。

だから、フレデリックがオーギュスティナを溺愛し始めた時には貴族は皆戦慄したらしい。

「お茶会は楽しめたか?」

「うん、とっても素敵だったわ!」

オーギュスティナのため、フレデリックが開いたお茶会。

オーギュスティナと歳の近い貴族の子女を集めたそれに、オーギュスティナは大変満足していた。

オーギュスティナはまだフレデリックに引き取られて半年だが、礼儀作法やマナーはしっかりと身につけていた。

教養も他の子供達と変わらない程度には身につけている。

オーギュスティナは元々娼婦である母に公爵様の娘だと聞かされて育ってきたため、読み書きだけ近くの教会の神父に教わってから自主的に図書館に行って色々と勉強していたのだ。

元々地頭も良かった上他に娯楽もなかったオーギュスティナは、それなりの知識を培っていた。

なのでまあそれもあって、お茶会の席でも他の子供達と楽しく時間を過ごせた。

「いじめられたりはしなかったか?」

「うん、大丈夫!」

「そうか。だがお前を悪く言う者や虐げようとする者が現れたらすぐに俺に言え。自らの行いを心から後悔させてやろう」

「ふふ、フレッド兄様ったら」

オーギュスティナは冗談だと思って笑う。

だが、フレデリックは本気である。

ありとあらゆる拷問にかけてやろうとすら考えていた。

「それよりもフレッド兄様、聞いた?」

「ん?」

「聖女様が、フレッド兄様に気があるんですって!」

目を輝かせてそう言うオーギュスティナだが、フレデリックは辟易した様子だ。

「アレは俺は好かない」

「え?どうして?」

「お前のことを…」

「?」

「いや、なんでもない」

優しくオーギュスティナの頭を撫でて、話題を変えるフレデリック。

「それよりもティナ、そろそろ魔術の練習の時間だろう?先生が待っているぞ」

「え、もうそんな時間?急いで行かなきゃ!」

パタパタと忙しなく走り回る妹を見てフレデリックは微笑む。

妹がフレデリックに手を振ったあと家庭教師の元へ走ると、フレデリックはため息をついた。

「…聖女、か」

フレデリックは心の中で、あんな女のどこが聖女なのかと悪態を吐く。

聖女はどうもフレデリックに想いを寄せているらしいのだが、フレデリックと結婚するのにオーギュスティナの存在が邪魔だと思っているらしい。

顔を合わせるたびに、フレデリックにオーギュスティナを孤児院に入れてはどうかと言ってくる。

そんな女を妹を溺愛するフレデリックが好きになるはずもなかった。

「いい加減になんとかしないとな」

フレデリックは聖女をどうにかする方法を考えた。

そして、ひとりの男を使うことを思いついた。

フレデリックは昔から付き合いのある軟派な男を、聖女に友人として紹介した。














フレデリックが聖女に友人を嗾けて数日後、フレデリックの友達…アルフレッドは見事に聖女の心を射止めた。

アルフレッドは女誑しで有名な侯爵家の次男だ。爵位を継ぐことはないものの、魔術が得意なため宮廷魔術師として働いているので地位も名誉もある。その上女心を熟知しており、イケメンだ。そのため女性人気が高いのだが、聖女も見事にハマったらしい。

だがアルフレッドは最初からその気はなく、心を寄せてくる聖女に質問の体で色々聞き出して聖女をその地位に相応しくないと聖王猊下に進言した。全ては『可愛い可愛いオーギュスティナちゃん』のためである。

結果聖王は聖女をその地位から引きずり下ろした。この国において聖女とは、高貴な生まれの者の中で魔力の一番強い者が選ばれる名誉職。一応かえはきく。

そうしてフレデリックはアルフレッドを使って、妹に危害を与えかねない聖女を追い落としたのだった。

「フレッド兄様、みてみて!花かんむりを作ったの!フレッド兄様にあげる!」

「ありがとう、ティナ。…似合うか?」

「うん、フレッド兄様可愛い!」

「そうか、よかった」

オーギュスティナは可愛らしい花かんむりを作り、フレデリックの頭に乗せる。

どうみても冷徹公には似合わないのだが、オーギュスティナは自信満々に似合うと言い放った。

そんなオーギュスティナにフレデリックは微笑む。

フレデリックが誰かに微笑むなど、オーギュスティナ以外にはありえないことだった。

「そういえばね、フレッド兄様を好きだって言ってた聖女様がどこかに行ってしまったんですって」

「そうか」

「残念ね」

「俺にはお前がいればそれでいい」

フレデリックの言葉にオーギュスティナは笑う。

「ふふ、フレッド兄様ったら。でも、私もフレッド兄様と一緒にいられたらそれで幸せだわ!」

フレデリックはオーギュスティナの頭をなでる。

年の離れた妹に、心の中ではデレデレなフレデリックだった。
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