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母は強い(確信)
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「両親に無理矢理結婚を押し付けられたが、私が愛するのはルルだけだ!貴様を愛することは無い!」
だったら駆け落ちでもなんでもしろよ、子供も出来てないうちから愛人作んなカス。
「子供はルルとの間に作る!貴様を抱くことは無い!」
白い結婚ですか、上等だクソ野郎。
「私はルルの元へ行く。一人寂しく過ごすんだな!」
愛するはずの夫は部屋を出て行く。ひどい罵倒と共に残された私は…。
「やったー!クソ野郎に触られずに済んだわー!」
元々大嫌いだった陰険クソ野郎と本当の意味で夫婦にならずに済みホッとしていた。
「ミキャエルのクソ野郎は早死にして保険金を私に寄越しなさいよね。愛人との子供は絶対に奪い取って私が育ててやるわ。良い嫌がらせになるでしょう」
子供に罪はない。愛人なんかに育てられるより余程幸せにすると誓う。
「…とはいえ、まだ先の話よね。なーんかこの家の使用人たちも仕事はするけど、私を馬鹿にした雰囲気感じるし。ストレス発散したーい」
ということで何かないかと考える。
「…平民達に混ざって成金ムーブしーよおっと」
良いことを思いついたので、さっさと寝た。
翌朝、支度をして出かける。使用人は付けずに一人で。なんか文句を言われたが、誰の金で給料貰ってると思うかと聞けば黙った。
私、マノンは成金男爵家の末の娘だった。政略結婚で金目当ての子爵家に嫁ぐも、不遇な扱いを受けるのでストレス発散することにした。結婚する時に実家の両親から貰ったお金で散財するのだ。ちなみにお小遣いはこれからもくれることになっている。卑劣なミキャエルは結婚資金だけでなくそのお金の半分をも要求しているが、あげても困らないくらいには大金だ。
「さあ、愚民どもにお金の価値を見せつけてあげましょう!」
そのために一人で来たのだ!
近くの街に馬車を止め、何をして見せつけようかなーとウロウロしていると。
「助けてください!助けてください!」
大怪我をした父親らしき人を必死に助けようとする子供、遠巻きに見る大人達。…良いシチュエーションじゃない!
「良いわ!助けてあげる!」
「え」
私は手持ちの特級ポーションを父親らしき人に飲ませる。すると瞬く間に彼は回復した。
「ん、んん…ここは…」
「パパー!」
父と子の感動の瞬間に、見ているだけだった観衆も湧く。
「嬢ちゃんすごいな!どうやった!?」
「手持ちの特級ポーションを飲ませてやっただけよ?」
「特級ポーション!?あの貴族でもなかなか手が出ない高級な!?」
「嬢ちゃん商人か!?」
「馬鹿ね、私は貴族の夫人よ?まあ、祖父は商人だったけど。だから、今回はただの施しよ。お金は取らないわ。そもそも私、大金持ちだもの!」
そう言って踏ん反り返れば、観衆も拍手をくれた。そうそう、もっとお金を崇めなさい。そしてお金を持つ私を崇めなさい!
「ふふふ!」
気分が良い!気分が良いわ!拍手が、歓声が、心地が良い!
「お姉ちゃん」
「なあに、お嬢ちゃん」
私が歓声と拍手を浴びる理由になった少女。気分が良いから、優しくお話してあげる。
「ありがとう!」
「うん、お礼を言えて偉いわ」
優しく頭を撫でれば、笑う。やはり、子供は可愛い。子供に罪はない。…私も、子供が欲しいな。それを叶えるには、夫に恵まれなかったけれど。
「あんた、貴族の夫人とか言ってたけど良い人だな」
「ええまあ。なあに?貴族に痛い目に遭わされた?」
「ついさっき、愛人とのデートに来てた領主様の息子に目を付けられてな。ストレス発散とか言ってたけど、とにかく派手に殴られた」
「あら、夫がごめんなさいね」
「…は?」
観衆も目を丸くする。
「でも、私も被害者なのよ?昨日嫁いだと思ったら、抱いても貰えず夫に罵倒されるし。本人は愛人のいる別館に入り浸りなんだもの」
「それはまた、お気の毒だなぁ…」
被害者である父親がそう言えば、観衆も私に同情した。しかし私が欲しいのは同情ではない。
「でも、私がたまたま街に来て良かったでしょ?やっぱりお金持ちは世の中の役に立つわよねー!」
「そうだな!あんたにはタダでこんな良い薬を奢って貰って本当に感謝だな!」
観衆はまたも私に拍手を送る。私は再び気分が良くなった。
「また街に遊びに来るわ!今日は、夫が迷惑をかけたようだからもう帰るわね。またね!」
賞賛を浴びて満足し、適当な理由をつけて帰る。そんな私を、どうやら一人の少年が見つめていたらしいが気付くことはなかった。
翌週、私は再び街に来た。私の顔を覚えていた人々は、割と歓迎ムードだ。
「ふふっ」
その雰囲気に気分が良く、さて今日は何をして見せつけてやろうと私は思案する。すると、ナイフを持った少年が私に勢いよく向かってきた。刃を立てて。けれど、ね。私、金持ちなの。
お腹を刺される。が、ドレスはそのナイフを弾き返した。
「え」
少年は驚いてそのままナイフを落とす。ナイフは誰かが回収してゴミ箱に捨てたのを確認した。さて。
「僕、どうしてこんなことしたの?私のドレスがオリハルコン製だから良かったけど、怪我じゃ済まないかもしれなかったのよ?」
私がそう言えば観衆は湧いた。
「オリハルコン製!?」
「すげぇ!」
「あの子やっぱりやべぇ!」
「お金持ち万歳!」
良い!気分が良い!すごく満たされた気持ちになった私は、目の前で泣き出した少年にも優しく接した。
「父様の、お嫁さんなんでしょ?母さんは平民だから、父様に捨てられたのに。ひどいよ…」
話をよくよく聞けば、あのクソ野郎の隠し子だった。この子の母はあのクソ野郎の愛人だったが、新しい愛人の登場で捨てられたらしい。しかも母は病気で亡くなり、彼は今独りぼっちで盗みをして生きているとのこと。
「なら、私が僕のお母様になるわ」
「え」
「だってお父様のお嫁さんだもの。お母様になれるでしょう?一緒に屋敷においで。お祖父様とお祖母様とお会いして、どうするか決めましょう?」
義父と義母は舅姑としてはクソだが、貴族としてはまともな方だ。なんとかなるでしょう。子供に罪はないのだから、私がなんとかするわ。
「…うん!」
少年が頷けば、観衆も湧いた。うん、心が満たされる!
その後少年、モルガンを連れて帰り義父と義母に直談判。モルガンの血を魔法で調べられ、義父と義母との血縁が証明された。結果、モルガンは私の養子となりこの家の正式な子供になることになった。今までクソだった義父と義母がここで初めて私に頭を下げて、孫を頼むと言ってきた。なので言ってやった。
「貴方方も一緒に育てるんですよ?分かってます?」
「い、いいのか!?」
「逆に私一人でどうしろと!?」
「お祖父様、お祖母様、お義母様、よろしくね」
ということで、私達は家族になった。除け者は今や、夫と愛人の方である。ちなみに、後々夫の隠し子がまだいないか調査したが幸か不幸かモルガンだけだった。
「とりあえずモルガンの血の証明も出来たことだし、養子縁組の手続きも無事済んだし。モルガンの必要な物も色々買い揃えないといけないから、ついでにみんなで美味しいものを食べに行かない?今なら私の奢りよ」
「いいわよ、私達が奢るわ」
「いえ、せっかく初孫と対面出来たんですからお祝いさせてください」
「いいの?お義母様」
「可愛い息子には美味しいものを食べさせてあげたいもの!レストランを貸し切りにしましょう?貸し切りならマナーとかモルガンが気にする必要もないし」
ということで私達は家族でレストランを貸し切りにして食事を摂ることにした。
「わあ…!お義母様、美味しそうだね!」
「お母様のお気に入りのお店だもの、当たり前よ。これからは、モルガンにとってもこれが当たり前になるのよ」
「ふぇぇぇぇ…僕大丈夫かな…」
「大丈夫、そのうち慣れるわ。さあ、好きなだけ召し上がれ」
「うん…!」
モルガンはキラキラした瞳でぎこちなく手を動かし、ハンバーグを口に運ぶ。
「美味しい…!お義母様、美味しいね!」
「でしょう?たくさん食べなさい」
「うん!」
私達の様子を見て、義父母が口を開く。
「まるでずっと一緒にいた親子のようだな」
「親子ですもの。お二人ももっとモルガンを構って差し上げてくださいな」
「そ、そうね。…モルガン、美味しい?」
「美味しいよ!お祖父様とお祖母様も食べて!」
ニッコニコのモルガンに心を撃ち抜かれた様子の義父母に笑う。私の息子は可愛いでしょう?
「モルガン、ソースが口元に付いてるわよ。お母様が取ってあげる」
「ありがとう、お義母様」
「この後は一緒に家具や服を見に行きましょうね。あー、楽しみだわ」
「?」
食事を終えると家具を買いに行く。最高級のものを扱うお店に行き、お金をたくさん落として必要な家具を全て揃えた。
「…まあ、こんなものかしら。モルガン、他に必要なものはあるかしら?」
「な、ない!」
「そう?遠慮はいらないわよ?私お金だけはあるもの」
「大丈夫!」
「そう。必要になったら言ってね」
義父母が信じられないものを見る目で見てくるがお金さえあればなんでも出来るのよ!
「さて、あとは服ね」
「楽しみだわ」
「わしらも選んでいいだろうか?」
「もちろんです。モルガンに似合うものをガンガン買いましょう!」
「ありがとう、お義母様。お祖父様とお祖母様も、嬉しいよ」
ということで服を買いに行く。とりあえず片っ端から似合いそうなものを試着させるけど、我が息子ながら可愛い。世界一可愛い。
「モルガン、可愛い!」
「我が孫ながらなんと愛くるしい…!」
「も、モルガン!お祖母様が、お祖母様が買って差し上げます!」
「いいえ私が買います!」
「いやここはわしが払おう!」
きょとんとしているモルガンもまた可愛い。やっぱり、我が息子は磨けば光る原石だったわけね!磨かなくても光ってたけど!
「…えへへ」
モルガンがそんな私達の様子を見て、さらに可愛い笑顔を見せてくれるものだから結果的に私はめちゃくちゃモルガンに貢ぐことになった。幸せ。
別館に入り浸りの夫と、その愛人。彼等は放置で、私達は家族の時間を過ごした。モルガンはすぐにとはいかないが、徐々に貴族としての教養を身に付けつつあり幼いので順応も早かった。義父と義母は今では良い祖父母であり、私とも和解している。が、一難さればまた一難というものだ。
「マノン!ルルに子供が出来た!別れろ、ルルと再婚する!」
「ミキャエル…ついにやらかしたわね…」
まあ、こんな事態も予想していた。義父と義母は今では孫可愛さに私の味方である。
「ミキャエル」
「パパ、ママ!」
気持ち悪い。が、我慢だ。
「パパ、ママ、ね、いいでしょ?孫が生まれるんだよ?」
「孫はもういる」
「え?」
「お前の隠し子を引き取ったと前に話しただろう」
「で、でも…」
私には高圧的な態度の癖に、両親にはこの赤ちゃん返りした態度。本当に気持ち悪い…。
「だが、離婚は認める」
「本当に!?」
「ああ。お前には生殖機能を失わせる魔法を医者にかけてもらう」
「え」
「その上で、愛人の子供が生まれたら取り上げてマノンさんの養子にする。で、お前とは離婚だ。お前は勘当する。好きに生きなさい」
呆然とする夫を、義父母は別館に追い出した。
「バカ息子がごめんなさい」
「子供が増えるのは嬉しいのでいいです。流石にこれ以上無計画に増やされたらブチ切れるので、生殖能力は絶対奪って欲しいですが」
「任せてくれ」
ということで、ある程度の月日元馬鹿夫と愛人の面倒を見た後二人を捨てて子供だけ養子として引き取った。もちろん馬鹿夫とは離婚済みである。
「弟が出来て、嬉しい!」
モルガンは無邪気に喜ぶので、まあいいだろう。モルガンの弟、私の次男には私がノエルと名を付けた。
「モルガン。ノエルのお世話もいいけど、お勉強は?」
「もう予習復習も終わったよ!だから、ノエルのおてて握っててもいいでしょう?」
「やるべきことをやってるならいいわ。好きになさい」
「わーい!」
「でも、お祖父様とお祖母様にも少しはノエルを譲ってあげてね?」
モルガンはちょっとむすっとしたが、ノエルを抱っこして義父母に渡す。
「ノエルのお兄ちゃんは僕だからね!」
そう言いながらノエルの手を握ってそばを離れないモルガンに、義父母は完全にノックアウトされていた。可愛いもんね、わかります。
「あの…お義母様」
「ん、なあに?モルガン」
「あのね、お母様って呼んでいい?」
なんとなく、モルガンが私を頑なに義母と呼んでいるのには気付いていたけれど。やっと母と呼んでもらえると思うと、やはり喜びは大きい。
「いいわよ。呼んでみなさい」
「…お母様」
「なあに?私の可愛いモルガン」
「…お母様ぁっ!!!」
抱きついてくる可愛い息子をしっかりと抱きしめる。幸せというのは、こういうことを言うのだろう。あ、忘れてたけど実家の両親にもそろそろモルガンとノエルを会わせてあげないと。孫を早く見せろと煩いからね。
「ふふ、モルガン。お母様はモルガンのお母様になれて幸せよ」
「…僕も!」
「そう。なら良かったわ」
「マノンさん、ちょっといいか」
「なんです?」
「あのバカ息子を勘当したので、遠縁の優秀な青年を跡取りとして引き取ることにした。その次の代は無論モルガンに継がせるつもりだ。そこで、もしマノンさんが良ければ彼…モデストと再婚しないか?」
まあ、それも悪くない。モデストとやらが、息子達と仲良く出来るのが条件だけれど。
「とりあえず、会って話して親交を深めてから決めても良いですか?」
「勿論だ」
ということで、私はモデストと出会った。
「モデストと申します。マノンさん、これからよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。こちら、私の息子達よ」
「モルガンです。よろしくお願いします!」
「あーう!」
「モルガンさんと、ノエルさんですね。よろしくお願いしますね」
モデストは非常に理解のある人で、息子達とも仲良くしてくれる。最初だけかと思ったけど、息子達との関係は長く良好だったので私は息子達さえ良ければ再婚しようという気になった。
「…モデスト。私、貴方となら再婚してもいいわ」
「マノンさん…!」
「でも、息子達が納得するのが条件よ」
「もちろんです!」
その後、モデストはモルガンに父親になりたいと告げた。モルガンは歓迎したので、私達は夫婦になることにした。
そして数年も経つと、彼との子供も出来た。長女、次女、三女は私の実子だ。息子達も妹達に押し負けつつも仲良くしている。
なんだかんだで私は今、とても幸せだ。
「お母様」
「なあに、モルガン」
「お母様の息子になれて、よかった」
可愛い長男の頭を撫でる。これからも私が、この子達を守るのだ。
だったら駆け落ちでもなんでもしろよ、子供も出来てないうちから愛人作んなカス。
「子供はルルとの間に作る!貴様を抱くことは無い!」
白い結婚ですか、上等だクソ野郎。
「私はルルの元へ行く。一人寂しく過ごすんだな!」
愛するはずの夫は部屋を出て行く。ひどい罵倒と共に残された私は…。
「やったー!クソ野郎に触られずに済んだわー!」
元々大嫌いだった陰険クソ野郎と本当の意味で夫婦にならずに済みホッとしていた。
「ミキャエルのクソ野郎は早死にして保険金を私に寄越しなさいよね。愛人との子供は絶対に奪い取って私が育ててやるわ。良い嫌がらせになるでしょう」
子供に罪はない。愛人なんかに育てられるより余程幸せにすると誓う。
「…とはいえ、まだ先の話よね。なーんかこの家の使用人たちも仕事はするけど、私を馬鹿にした雰囲気感じるし。ストレス発散したーい」
ということで何かないかと考える。
「…平民達に混ざって成金ムーブしーよおっと」
良いことを思いついたので、さっさと寝た。
翌朝、支度をして出かける。使用人は付けずに一人で。なんか文句を言われたが、誰の金で給料貰ってると思うかと聞けば黙った。
私、マノンは成金男爵家の末の娘だった。政略結婚で金目当ての子爵家に嫁ぐも、不遇な扱いを受けるのでストレス発散することにした。結婚する時に実家の両親から貰ったお金で散財するのだ。ちなみにお小遣いはこれからもくれることになっている。卑劣なミキャエルは結婚資金だけでなくそのお金の半分をも要求しているが、あげても困らないくらいには大金だ。
「さあ、愚民どもにお金の価値を見せつけてあげましょう!」
そのために一人で来たのだ!
近くの街に馬車を止め、何をして見せつけようかなーとウロウロしていると。
「助けてください!助けてください!」
大怪我をした父親らしき人を必死に助けようとする子供、遠巻きに見る大人達。…良いシチュエーションじゃない!
「良いわ!助けてあげる!」
「え」
私は手持ちの特級ポーションを父親らしき人に飲ませる。すると瞬く間に彼は回復した。
「ん、んん…ここは…」
「パパー!」
父と子の感動の瞬間に、見ているだけだった観衆も湧く。
「嬢ちゃんすごいな!どうやった!?」
「手持ちの特級ポーションを飲ませてやっただけよ?」
「特級ポーション!?あの貴族でもなかなか手が出ない高級な!?」
「嬢ちゃん商人か!?」
「馬鹿ね、私は貴族の夫人よ?まあ、祖父は商人だったけど。だから、今回はただの施しよ。お金は取らないわ。そもそも私、大金持ちだもの!」
そう言って踏ん反り返れば、観衆も拍手をくれた。そうそう、もっとお金を崇めなさい。そしてお金を持つ私を崇めなさい!
「ふふふ!」
気分が良い!気分が良いわ!拍手が、歓声が、心地が良い!
「お姉ちゃん」
「なあに、お嬢ちゃん」
私が歓声と拍手を浴びる理由になった少女。気分が良いから、優しくお話してあげる。
「ありがとう!」
「うん、お礼を言えて偉いわ」
優しく頭を撫でれば、笑う。やはり、子供は可愛い。子供に罪はない。…私も、子供が欲しいな。それを叶えるには、夫に恵まれなかったけれど。
「あんた、貴族の夫人とか言ってたけど良い人だな」
「ええまあ。なあに?貴族に痛い目に遭わされた?」
「ついさっき、愛人とのデートに来てた領主様の息子に目を付けられてな。ストレス発散とか言ってたけど、とにかく派手に殴られた」
「あら、夫がごめんなさいね」
「…は?」
観衆も目を丸くする。
「でも、私も被害者なのよ?昨日嫁いだと思ったら、抱いても貰えず夫に罵倒されるし。本人は愛人のいる別館に入り浸りなんだもの」
「それはまた、お気の毒だなぁ…」
被害者である父親がそう言えば、観衆も私に同情した。しかし私が欲しいのは同情ではない。
「でも、私がたまたま街に来て良かったでしょ?やっぱりお金持ちは世の中の役に立つわよねー!」
「そうだな!あんたにはタダでこんな良い薬を奢って貰って本当に感謝だな!」
観衆はまたも私に拍手を送る。私は再び気分が良くなった。
「また街に遊びに来るわ!今日は、夫が迷惑をかけたようだからもう帰るわね。またね!」
賞賛を浴びて満足し、適当な理由をつけて帰る。そんな私を、どうやら一人の少年が見つめていたらしいが気付くことはなかった。
翌週、私は再び街に来た。私の顔を覚えていた人々は、割と歓迎ムードだ。
「ふふっ」
その雰囲気に気分が良く、さて今日は何をして見せつけてやろうと私は思案する。すると、ナイフを持った少年が私に勢いよく向かってきた。刃を立てて。けれど、ね。私、金持ちなの。
お腹を刺される。が、ドレスはそのナイフを弾き返した。
「え」
少年は驚いてそのままナイフを落とす。ナイフは誰かが回収してゴミ箱に捨てたのを確認した。さて。
「僕、どうしてこんなことしたの?私のドレスがオリハルコン製だから良かったけど、怪我じゃ済まないかもしれなかったのよ?」
私がそう言えば観衆は湧いた。
「オリハルコン製!?」
「すげぇ!」
「あの子やっぱりやべぇ!」
「お金持ち万歳!」
良い!気分が良い!すごく満たされた気持ちになった私は、目の前で泣き出した少年にも優しく接した。
「父様の、お嫁さんなんでしょ?母さんは平民だから、父様に捨てられたのに。ひどいよ…」
話をよくよく聞けば、あのクソ野郎の隠し子だった。この子の母はあのクソ野郎の愛人だったが、新しい愛人の登場で捨てられたらしい。しかも母は病気で亡くなり、彼は今独りぼっちで盗みをして生きているとのこと。
「なら、私が僕のお母様になるわ」
「え」
「だってお父様のお嫁さんだもの。お母様になれるでしょう?一緒に屋敷においで。お祖父様とお祖母様とお会いして、どうするか決めましょう?」
義父と義母は舅姑としてはクソだが、貴族としてはまともな方だ。なんとかなるでしょう。子供に罪はないのだから、私がなんとかするわ。
「…うん!」
少年が頷けば、観衆も湧いた。うん、心が満たされる!
その後少年、モルガンを連れて帰り義父と義母に直談判。モルガンの血を魔法で調べられ、義父と義母との血縁が証明された。結果、モルガンは私の養子となりこの家の正式な子供になることになった。今までクソだった義父と義母がここで初めて私に頭を下げて、孫を頼むと言ってきた。なので言ってやった。
「貴方方も一緒に育てるんですよ?分かってます?」
「い、いいのか!?」
「逆に私一人でどうしろと!?」
「お祖父様、お祖母様、お義母様、よろしくね」
ということで、私達は家族になった。除け者は今や、夫と愛人の方である。ちなみに、後々夫の隠し子がまだいないか調査したが幸か不幸かモルガンだけだった。
「とりあえずモルガンの血の証明も出来たことだし、養子縁組の手続きも無事済んだし。モルガンの必要な物も色々買い揃えないといけないから、ついでにみんなで美味しいものを食べに行かない?今なら私の奢りよ」
「いいわよ、私達が奢るわ」
「いえ、せっかく初孫と対面出来たんですからお祝いさせてください」
「いいの?お義母様」
「可愛い息子には美味しいものを食べさせてあげたいもの!レストランを貸し切りにしましょう?貸し切りならマナーとかモルガンが気にする必要もないし」
ということで私達は家族でレストランを貸し切りにして食事を摂ることにした。
「わあ…!お義母様、美味しそうだね!」
「お母様のお気に入りのお店だもの、当たり前よ。これからは、モルガンにとってもこれが当たり前になるのよ」
「ふぇぇぇぇ…僕大丈夫かな…」
「大丈夫、そのうち慣れるわ。さあ、好きなだけ召し上がれ」
「うん…!」
モルガンはキラキラした瞳でぎこちなく手を動かし、ハンバーグを口に運ぶ。
「美味しい…!お義母様、美味しいね!」
「でしょう?たくさん食べなさい」
「うん!」
私達の様子を見て、義父母が口を開く。
「まるでずっと一緒にいた親子のようだな」
「親子ですもの。お二人ももっとモルガンを構って差し上げてくださいな」
「そ、そうね。…モルガン、美味しい?」
「美味しいよ!お祖父様とお祖母様も食べて!」
ニッコニコのモルガンに心を撃ち抜かれた様子の義父母に笑う。私の息子は可愛いでしょう?
「モルガン、ソースが口元に付いてるわよ。お母様が取ってあげる」
「ありがとう、お義母様」
「この後は一緒に家具や服を見に行きましょうね。あー、楽しみだわ」
「?」
食事を終えると家具を買いに行く。最高級のものを扱うお店に行き、お金をたくさん落として必要な家具を全て揃えた。
「…まあ、こんなものかしら。モルガン、他に必要なものはあるかしら?」
「な、ない!」
「そう?遠慮はいらないわよ?私お金だけはあるもの」
「大丈夫!」
「そう。必要になったら言ってね」
義父母が信じられないものを見る目で見てくるがお金さえあればなんでも出来るのよ!
「さて、あとは服ね」
「楽しみだわ」
「わしらも選んでいいだろうか?」
「もちろんです。モルガンに似合うものをガンガン買いましょう!」
「ありがとう、お義母様。お祖父様とお祖母様も、嬉しいよ」
ということで服を買いに行く。とりあえず片っ端から似合いそうなものを試着させるけど、我が息子ながら可愛い。世界一可愛い。
「モルガン、可愛い!」
「我が孫ながらなんと愛くるしい…!」
「も、モルガン!お祖母様が、お祖母様が買って差し上げます!」
「いいえ私が買います!」
「いやここはわしが払おう!」
きょとんとしているモルガンもまた可愛い。やっぱり、我が息子は磨けば光る原石だったわけね!磨かなくても光ってたけど!
「…えへへ」
モルガンがそんな私達の様子を見て、さらに可愛い笑顔を見せてくれるものだから結果的に私はめちゃくちゃモルガンに貢ぐことになった。幸せ。
別館に入り浸りの夫と、その愛人。彼等は放置で、私達は家族の時間を過ごした。モルガンはすぐにとはいかないが、徐々に貴族としての教養を身に付けつつあり幼いので順応も早かった。義父と義母は今では良い祖父母であり、私とも和解している。が、一難さればまた一難というものだ。
「マノン!ルルに子供が出来た!別れろ、ルルと再婚する!」
「ミキャエル…ついにやらかしたわね…」
まあ、こんな事態も予想していた。義父と義母は今では孫可愛さに私の味方である。
「ミキャエル」
「パパ、ママ!」
気持ち悪い。が、我慢だ。
「パパ、ママ、ね、いいでしょ?孫が生まれるんだよ?」
「孫はもういる」
「え?」
「お前の隠し子を引き取ったと前に話しただろう」
「で、でも…」
私には高圧的な態度の癖に、両親にはこの赤ちゃん返りした態度。本当に気持ち悪い…。
「だが、離婚は認める」
「本当に!?」
「ああ。お前には生殖機能を失わせる魔法を医者にかけてもらう」
「え」
「その上で、愛人の子供が生まれたら取り上げてマノンさんの養子にする。で、お前とは離婚だ。お前は勘当する。好きに生きなさい」
呆然とする夫を、義父母は別館に追い出した。
「バカ息子がごめんなさい」
「子供が増えるのは嬉しいのでいいです。流石にこれ以上無計画に増やされたらブチ切れるので、生殖能力は絶対奪って欲しいですが」
「任せてくれ」
ということで、ある程度の月日元馬鹿夫と愛人の面倒を見た後二人を捨てて子供だけ養子として引き取った。もちろん馬鹿夫とは離婚済みである。
「弟が出来て、嬉しい!」
モルガンは無邪気に喜ぶので、まあいいだろう。モルガンの弟、私の次男には私がノエルと名を付けた。
「モルガン。ノエルのお世話もいいけど、お勉強は?」
「もう予習復習も終わったよ!だから、ノエルのおてて握っててもいいでしょう?」
「やるべきことをやってるならいいわ。好きになさい」
「わーい!」
「でも、お祖父様とお祖母様にも少しはノエルを譲ってあげてね?」
モルガンはちょっとむすっとしたが、ノエルを抱っこして義父母に渡す。
「ノエルのお兄ちゃんは僕だからね!」
そう言いながらノエルの手を握ってそばを離れないモルガンに、義父母は完全にノックアウトされていた。可愛いもんね、わかります。
「あの…お義母様」
「ん、なあに?モルガン」
「あのね、お母様って呼んでいい?」
なんとなく、モルガンが私を頑なに義母と呼んでいるのには気付いていたけれど。やっと母と呼んでもらえると思うと、やはり喜びは大きい。
「いいわよ。呼んでみなさい」
「…お母様」
「なあに?私の可愛いモルガン」
「…お母様ぁっ!!!」
抱きついてくる可愛い息子をしっかりと抱きしめる。幸せというのは、こういうことを言うのだろう。あ、忘れてたけど実家の両親にもそろそろモルガンとノエルを会わせてあげないと。孫を早く見せろと煩いからね。
「ふふ、モルガン。お母様はモルガンのお母様になれて幸せよ」
「…僕も!」
「そう。なら良かったわ」
「マノンさん、ちょっといいか」
「なんです?」
「あのバカ息子を勘当したので、遠縁の優秀な青年を跡取りとして引き取ることにした。その次の代は無論モルガンに継がせるつもりだ。そこで、もしマノンさんが良ければ彼…モデストと再婚しないか?」
まあ、それも悪くない。モデストとやらが、息子達と仲良く出来るのが条件だけれど。
「とりあえず、会って話して親交を深めてから決めても良いですか?」
「勿論だ」
ということで、私はモデストと出会った。
「モデストと申します。マノンさん、これからよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。こちら、私の息子達よ」
「モルガンです。よろしくお願いします!」
「あーう!」
「モルガンさんと、ノエルさんですね。よろしくお願いしますね」
モデストは非常に理解のある人で、息子達とも仲良くしてくれる。最初だけかと思ったけど、息子達との関係は長く良好だったので私は息子達さえ良ければ再婚しようという気になった。
「…モデスト。私、貴方となら再婚してもいいわ」
「マノンさん…!」
「でも、息子達が納得するのが条件よ」
「もちろんです!」
その後、モデストはモルガンに父親になりたいと告げた。モルガンは歓迎したので、私達は夫婦になることにした。
そして数年も経つと、彼との子供も出来た。長女、次女、三女は私の実子だ。息子達も妹達に押し負けつつも仲良くしている。
なんだかんだで私は今、とても幸せだ。
「お母様」
「なあに、モルガン」
「お母様の息子になれて、よかった」
可愛い長男の頭を撫でる。これからも私が、この子達を守るのだ。
応援ありがとうございます!
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地位も自由になる金も持っててメンタルも強いならクソ夫とかどーでも良いわな𝕨𝕨𝕨𝕨
嫌味じゃない気持ちいい成金ブームもうちょい見たかった。
他人を幸せに出来る女は自分も最高に幸せになれる。
感想ありがとうございます。成金だからこそ成せる技でしたね。