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知らない女の子

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「あれぇ?叶くん?」

「…あ、こんにちは。お疲れ」

急に知らない女の子が夏希に話し掛けてきた。そしてそれを受けて急に夏希が真顔になった。夏希の勤め先の女の子かな。

「えー、この人だぁれぇ?彼女さんだったりしてぇっ!」

きゃぴっ!…と効果音が付きそうな感じ。…知らないんだろうなぁ、夏希の苦手なタイプだよそれ。顔は可愛いんだから普通にしとけばいいのに。

「そうだよ」

「え」

「僕の恋人。来年入籍する」

真顔でぴしゃりと言い切る夏希。相手の女の子は笑顔が引き攣っている。

「…うわぁ。そうなんだぁ。身の程知らずって感じだねぇ」

ジト目を向けられましても。まあこんなのは幼馴染時代から、夏希の側にいると多かれ少なかれ必ずあるのでスルースルー。というか、私が怒らなくても…ね。

「それ、どういう意味」

「え?」

「僕のこと?僕がゆめに相応しくないって?」

「いや、逆だよぉ…?」

「はぁ?」

ほらスイッチ入った。

「お前さっきからなんなの?」

「え、か、叶くん?」

「お前みたいなぶりっ子女より、ゆめの方が百倍可愛いから。お前マジでふざけんなよ」

「夏希、勤め先の子なんでしょ。いじめちゃダメだよ」

ヒートアップしすぎる前に止める。さすがに女の子に暴力は振るわないだろうけど、普段優しい夏希のブチ切れは女の子には怖いだろうからなぁ…。

「別に仕事なんかしなくてもお金ならあるし、不労所得もあるから問題ない。こんな女を庇うような会社なら見切りつける」

「ダメだよ夏希。仕事してる夏希はかっこいいんだから」

「…え」

ブチ切れモードだった不機嫌丸出しの夏希が止まる。そして。

「か、かっこいい?本当?」

「本当本当。スーツ着てると様になるし、仕事の話してる時とかめちゃくちゃかっこいいよ」

「ゆめがそう言うならまだ仕事頑張るね!」

パッと表情が変わって明るくなる夏希。どうやら真顔の夏希しか知らないらしい女の子は、ぽかーんとしていた。そんな女の子に夏希は向き直る。

「あ、お前これからはもう話し掛けてくるなよ。業務に関係ない話を仕事中にしてくるのも迷惑だから」

「夏希」

「次ゆめを悪く言ったらお前の弱み探り出して周りに広めてやるからな」

「いい加減にしなさい!」

一喝すると、さすがに夏希もシュンとなって止まる。

「ごめんなさい、えっと、夏希もちょっと気が立ってて。ただ、夏希はしつこくされるの苦手なので程よい距離で付き合ってあげてくださいね」

私がそう言えば、悔しそうに顔を歪めて甘味処を出て行く女の子。あちゃあ。逆効果だったか。

「すみませんでした」

たまたま他にお客様はいなかったけれど、甘味処の従業員さんに謝っておく。大丈夫ですよと微笑んでくれた。

「夏希もごめんね。フォローするつもりが火に油注いだかも」

「別にいいよ、あんな女」

「こら、そんな言い方しないの」

普段穏やかな分、嫌いになるととことん嫌うからなぁ。

「ゆめ、あんな奴の言うこと間に受けないでね」

「え?」

「僕の隣を歩くのは、ゆめ以外あり得ないから」

ぴしゃりと言い切る夏希が、なんだかおかしくて笑ってしまった。
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