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悪役姫様、今世を謳歌する
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王女タイスは絶叫して目を覚ます。
「はっ…はっ…夢…?」
タイスは周りを見回した。そこは、まだ子供の頃に使っていた子供部屋。
「わ、私…長い夢を見ていましたのね…随分長い夢でしたわ。大人になって、お兄様に処刑されるなんて…」
そこまで言って、タイスはハッとする。
「…今までのが夢?本当に?」
そしてタイスは気付いた。
「私の魔力が枯渇していますわ。私は、魔力の多さだけが自慢ですのに」
出来損ないの自分の唯一の自慢。魔力が枯渇しているのに気付いてタイスは仮説を立てた。
「私、死ぬ直前に過去に戻ってきましたの?」
時戻しの魔法は人一人に使えるものではない。だが、自分一人であれば?自分の過去に魂、あるいは記憶だけを飛ばしたのであれば。
「ありえる…のかしら」
だが、それが本当なのだとしたら。
「私は、王太子になった兄から断罪されて処刑される…」
そんなの、真っ平御免である。
「タイス様は本当に優秀でいらっしゃる」
「そんなことはございませんわ。先生方のおかげですわ」
「謙虚なところも素晴らしいですね」
タイスは、前回の人生では王家の面汚しとまで言われるほど絶望的に出来損ないだった。しかし、十六歳までの記憶がある今のタイスは、充分過ぎる教養が身についていた。そして今のタイスはあの未来を回避するため、嫌っていた勉強にも積極的に取り組む。
「姫様、今日もダンスレッスンが捗りますね」
「ええ、だいぶ上達したかしら?」
「もちろんです!努力する姫様は素敵ですよ」
さらに、前回の人生では鳶が豚を生んだと言われるほどぶくぶくと肥えて醜い見た目だったので、食べるのは好きだがぐっと我慢して食べ過ぎないように節制した。そしてちょっとぽっちゃり程度の今、ダンスの練習などを積極的に行いダイエットを行った。その結果、前世の自分では考えられないほど可愛らしい外見になっていた。
「王女様、今日は何して遊びますか?」
「ふふ、みんなの好きな遊びでいいですわ」
「じゃあおままごとをしましょう!」
「ええ。みんなで仲良く遊びましょうね」
そして、人徳がなければあの腹違いの兄から即処刑されると悟り優しくなったフリをした。具体的には使用人たちを気遣う、同じ年頃の貴族の子供たちを可愛がる、孤児院や養老院などにお小遣いを寄付するなどだ。慈悲深い姫君と持て囃されるようになった。
「姫君は本当に皆から愛されていらっしゃる」
「当たり前だろう。王家の宝玉だぞ?」
「まさか第一王子殿下に負けないほど優秀になられるとは。今年の誕生日の後から本当に変わられたな」
おかげで今世では王家の宝玉とまで呼ばれるほど大切にされている。厄介者扱いだった前世とは大違いだ。王妃の子供である兄は、優秀であること、第一子であることから王太子になるだろうと言われていた。しかし最近では寵妃の娘で第二子のタイスを王太子に推す動きもある。
「王女殿下、もし王太子になれるとしたらなりたいですか?」
「いえ、私などより弟の方が向いていますわ」
「弟君ですか」
タイスは王太子になる気は無い。しかし、兄を王太子にするつもりはもっとない。ならば、可愛い弟を王太子にすげ替えて仕舞えばいい。弟も優秀だった。そして王家の面汚しであった自分にも優しかった。弟の方がなにかと都合が良い。
「私の弟はもうここまで教育が進んでいますのよ?そしてとてもしっかりした性格で、とても優しい。弟は絶対名君になりますわ。私も、弟のためならば色々と尽力するつもりですのよ?」
「なるほど…」
自分を磨くだけでなく、幼い弟にも英才教育を施す。そしてその弟の優秀さを周りにも見せびらかす。
全ては処刑を回避するため。そして未来は確実に変わっていく。
そして、タイスが処刑されるはずだった今日。タイスはまだ生きている。だが、とてもとても危ない立ち位置だ。
「王太子が、兄になるか弟になるかまだ決まらないなんて。お兄様は王妃の子。弟はお兄様より王に向いていると言われている。第一王子派と第二王子派でバチバチにやり合っていて、私もいつ巻き込まれるかわかりませんわ」
そして、第一王子である兄には聖女が付いている。そう、前回の人生で自分が処刑される原因だった聖女。
たくさんの貴公子を誘惑して逆ハーレムを作っていた彼女に嫉妬して虐めて、聖女ラブだった兄に断罪されたのだ。
「聖女が付いている兄の方が今は優勢。でも…逆に、聖女が付いているからダメだと主張すれば?」
そう、聖女は性に奔放だ。それは公然の秘密。しかしそんな女、王妃に相応しくない。それを突けばいい。
「シリル」
「はい、姫君」
タイスは自分の愛用の〝情報屋〟に声をかけた。
「聖女の性の奔放さを突いて、王妃に相応しくないと世論を誘導して。そんな女に誑かされる第一王子では王太子に相応しくないと」
「かしこまりました」
彼は金さえ払えばなんでもやってくれる。情報操作ならお手の物だ。
「その代わり、今夜は…」
「ええ、もちろんよ」
しかし、彼がタイスに求めるのは金ではない。温もりを求めるのだ。けれど、タイスはそんな彼を気に入っている。だって彼は由緒正しい侯爵家の第二子であり、見目もいい。そんな男に求められて、嫌だとは思わなかった。また、タイスの政治的な立ち位置が微妙なため婚約者も決まっていないのも大きい。
「愛してるわ、シリル」
「俺も貴女を愛しています…」
タイスを心から愛するシリル。可愛いシリルを、タイスは手放す気は無い。
結局。シリルの情報操作は上手くいき、世論は第二王子を王太子に推した。結果、タイスの弟が王太子となった。第一王子は、他所の王家の跡継ぎの姫君に嫁ぐことになった。
そして、タイスは。
「シリル、貴方との婚約が決まって嬉しいわ」
「俺も、貴女と一緒になれるのはとても嬉しいです」
「あらあら、うふふふふ」
処刑は回避して、自分に懐く弟が王太子となった。そして愛する可愛いシリルを婚約者にすることが出来た。
何もかもが思惑どおり。
「これからも側にいてね、シリル」
「はい、貴女の側が俺の居場所です」
タイスが嫁ぐ際シリルは王家直轄領を領地として賜り、侯爵に叙爵されることが決まっている。
「だけどその代わり…」
「なにかしら?」
「魂ごと、俺のモノになってくださいね。そして、俺の魂も貰ってください」
「…本当に可愛い子。良いわ、貴方のモノになってあげる。貴方も私のモノよ」
シリルの頬にキスをしたタイス。シリルは恍惚とした表情でそれを受け入れた。
「はっ…はっ…夢…?」
タイスは周りを見回した。そこは、まだ子供の頃に使っていた子供部屋。
「わ、私…長い夢を見ていましたのね…随分長い夢でしたわ。大人になって、お兄様に処刑されるなんて…」
そこまで言って、タイスはハッとする。
「…今までのが夢?本当に?」
そしてタイスは気付いた。
「私の魔力が枯渇していますわ。私は、魔力の多さだけが自慢ですのに」
出来損ないの自分の唯一の自慢。魔力が枯渇しているのに気付いてタイスは仮説を立てた。
「私、死ぬ直前に過去に戻ってきましたの?」
時戻しの魔法は人一人に使えるものではない。だが、自分一人であれば?自分の過去に魂、あるいは記憶だけを飛ばしたのであれば。
「ありえる…のかしら」
だが、それが本当なのだとしたら。
「私は、王太子になった兄から断罪されて処刑される…」
そんなの、真っ平御免である。
「タイス様は本当に優秀でいらっしゃる」
「そんなことはございませんわ。先生方のおかげですわ」
「謙虚なところも素晴らしいですね」
タイスは、前回の人生では王家の面汚しとまで言われるほど絶望的に出来損ないだった。しかし、十六歳までの記憶がある今のタイスは、充分過ぎる教養が身についていた。そして今のタイスはあの未来を回避するため、嫌っていた勉強にも積極的に取り組む。
「姫様、今日もダンスレッスンが捗りますね」
「ええ、だいぶ上達したかしら?」
「もちろんです!努力する姫様は素敵ですよ」
さらに、前回の人生では鳶が豚を生んだと言われるほどぶくぶくと肥えて醜い見た目だったので、食べるのは好きだがぐっと我慢して食べ過ぎないように節制した。そしてちょっとぽっちゃり程度の今、ダンスの練習などを積極的に行いダイエットを行った。その結果、前世の自分では考えられないほど可愛らしい外見になっていた。
「王女様、今日は何して遊びますか?」
「ふふ、みんなの好きな遊びでいいですわ」
「じゃあおままごとをしましょう!」
「ええ。みんなで仲良く遊びましょうね」
そして、人徳がなければあの腹違いの兄から即処刑されると悟り優しくなったフリをした。具体的には使用人たちを気遣う、同じ年頃の貴族の子供たちを可愛がる、孤児院や養老院などにお小遣いを寄付するなどだ。慈悲深い姫君と持て囃されるようになった。
「姫君は本当に皆から愛されていらっしゃる」
「当たり前だろう。王家の宝玉だぞ?」
「まさか第一王子殿下に負けないほど優秀になられるとは。今年の誕生日の後から本当に変わられたな」
おかげで今世では王家の宝玉とまで呼ばれるほど大切にされている。厄介者扱いだった前世とは大違いだ。王妃の子供である兄は、優秀であること、第一子であることから王太子になるだろうと言われていた。しかし最近では寵妃の娘で第二子のタイスを王太子に推す動きもある。
「王女殿下、もし王太子になれるとしたらなりたいですか?」
「いえ、私などより弟の方が向いていますわ」
「弟君ですか」
タイスは王太子になる気は無い。しかし、兄を王太子にするつもりはもっとない。ならば、可愛い弟を王太子にすげ替えて仕舞えばいい。弟も優秀だった。そして王家の面汚しであった自分にも優しかった。弟の方がなにかと都合が良い。
「私の弟はもうここまで教育が進んでいますのよ?そしてとてもしっかりした性格で、とても優しい。弟は絶対名君になりますわ。私も、弟のためならば色々と尽力するつもりですのよ?」
「なるほど…」
自分を磨くだけでなく、幼い弟にも英才教育を施す。そしてその弟の優秀さを周りにも見せびらかす。
全ては処刑を回避するため。そして未来は確実に変わっていく。
そして、タイスが処刑されるはずだった今日。タイスはまだ生きている。だが、とてもとても危ない立ち位置だ。
「王太子が、兄になるか弟になるかまだ決まらないなんて。お兄様は王妃の子。弟はお兄様より王に向いていると言われている。第一王子派と第二王子派でバチバチにやり合っていて、私もいつ巻き込まれるかわかりませんわ」
そして、第一王子である兄には聖女が付いている。そう、前回の人生で自分が処刑される原因だった聖女。
たくさんの貴公子を誘惑して逆ハーレムを作っていた彼女に嫉妬して虐めて、聖女ラブだった兄に断罪されたのだ。
「聖女が付いている兄の方が今は優勢。でも…逆に、聖女が付いているからダメだと主張すれば?」
そう、聖女は性に奔放だ。それは公然の秘密。しかしそんな女、王妃に相応しくない。それを突けばいい。
「シリル」
「はい、姫君」
タイスは自分の愛用の〝情報屋〟に声をかけた。
「聖女の性の奔放さを突いて、王妃に相応しくないと世論を誘導して。そんな女に誑かされる第一王子では王太子に相応しくないと」
「かしこまりました」
彼は金さえ払えばなんでもやってくれる。情報操作ならお手の物だ。
「その代わり、今夜は…」
「ええ、もちろんよ」
しかし、彼がタイスに求めるのは金ではない。温もりを求めるのだ。けれど、タイスはそんな彼を気に入っている。だって彼は由緒正しい侯爵家の第二子であり、見目もいい。そんな男に求められて、嫌だとは思わなかった。また、タイスの政治的な立ち位置が微妙なため婚約者も決まっていないのも大きい。
「愛してるわ、シリル」
「俺も貴女を愛しています…」
タイスを心から愛するシリル。可愛いシリルを、タイスは手放す気は無い。
結局。シリルの情報操作は上手くいき、世論は第二王子を王太子に推した。結果、タイスの弟が王太子となった。第一王子は、他所の王家の跡継ぎの姫君に嫁ぐことになった。
そして、タイスは。
「シリル、貴方との婚約が決まって嬉しいわ」
「俺も、貴女と一緒になれるのはとても嬉しいです」
「あらあら、うふふふふ」
処刑は回避して、自分に懐く弟が王太子となった。そして愛する可愛いシリルを婚約者にすることが出来た。
何もかもが思惑どおり。
「これからも側にいてね、シリル」
「はい、貴女の側が俺の居場所です」
タイスが嫁ぐ際シリルは王家直轄領を領地として賜り、侯爵に叙爵されることが決まっている。
「だけどその代わり…」
「なにかしら?」
「魂ごと、俺のモノになってくださいね。そして、俺の魂も貰ってください」
「…本当に可愛い子。良いわ、貴方のモノになってあげる。貴方も私のモノよ」
シリルの頬にキスをしたタイス。シリルは恍惚とした表情でそれを受け入れた。
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タイスが余りにも策を弄し過ぎた結果、両王子派の争いが収まらなくて王位が決まらずに心労から病に倒れた国王がタイスを跡継ぎに指名して亡くなるバットエンド(?)もあり得たのかしら?と思いました。
感想ありがとうございます。そんなifルートもあり得そうですね。