【短めの連載モノ】姫様は姉姫様に敵対する者全部がお嫌い

下菊みこと

文字の大きさ
2 / 2

お姉様に絡むんじゃねぇクソ野郎

しおりを挟む
「…はぁ。本当に、救いようのないおバカさんですわね」

リュキア王国の第五王女、八歳の私ラーナは中庭の東屋で冷めた紅茶を口にしながら、小さくため息をつきました。

私の視線の先ではこの国の第一王女であり次期女王、つまり王太女である私の最愛の姉リーシェ姉様が婚約者のエリオット公爵令息に詰め寄られています。

「リーシェ! また公務にかこつけて私との時間を削ったな! 王太女だか何だか知らないが、女の幸せは男に寄り添うことだろう!」

…うわぁ。

本日三度目の、エリオット様による「僕を構え攻撃」…見ていて気持ちいいモノではありませんわね。

あの方は顔だけは良いのですが、中身が残念なことに、リーシェ姉様の優秀さが理解できない「プライドだけ高い木偶の坊」なのです。

「ごめんなさい、エリオット。でも、北部の飢饉の対策会議は、この国の未来に関わることなの」

リーシェ姉様は困ったように微笑んでいます。

ああ、なんてこと…。

聖母のように慈悲深い姉様は、こんな無能な男相手でも、決して声を荒らげたりはなさいません。天使。

でも、私は違います。

私はリーシェ姉様をはじめとした姉様たちみんなを愛しています。

姉様たちの笑顔を守るためなら、泥を被るどころか、泥沼に相手を沈めることだって厭いません。

「ちょっと、そこの失礼な殿方?」

私は愛らしく見えるような仕草でスカートを摘み、トコトコと二人の間に割り込みました。

「な、なんですか、ラーナ姫殿下。今、私はリーシェと大事な話をして…」

「大事な話? 姉様の貴重な時間を、あなたの個人的なワガママで奪うことが『大事』なんですの? 驚きましたわ。エリオット様は、リュキア王国の民の命よりも、ご自分の寂しさを優先されるほど、お心が…その、狭いのですか?」

小首を傾げて、あどけない子供の瞳で彼を見上げます。

こういう時、八歳という年齢は最高の武器になります。

「なっ…! 私はただ、婚約者として……!」

「婚約者、ですか。次期女王を支えるべき立場の方が、次期女王の仕事を邪魔する。…ふふっ、それってお仕事の『ボイコット』のお誘いかしら? それとも、公爵家は王家に楯突く準備ができたということ?」

私の冷ややかな声に、エリオット様の顔がみるみる青ざめていきます。

隣でリーシェ姉様が「ラーナ、そこまで言わなくても…」と私を宥めようとしますが、甘いですわ姉様。

ここで叩き直しておかないと、この男はつけ上がるばかりです。

私はエリオット様の足元に、わざとらしく扇子を落としました。

「拾ってくださる? あ、それとも、将来の『王配』になられるお方には、八歳の王女の頼みすら聞き入れられないほど、高いプライドがおありなのかしら?」

「ぐ…っ」

エリオット様は屈辱に震えながらも、私の冷徹な視線に圧され、膝をついて扇子を拾い上げました。

「…どうぞ、ラーナ姫殿下」

「ありがとうございます。…ねえ、エリオット様。姉様は優しいから許してくださるけれど、私は気が短いの。次、姉様の邪魔をしたら……お父様に言って、公爵家の領地を『厳しめ』に『審査』するようお願いしちゃおうかしら?」

にっこりと、最高に可愛らしい笑顔で告げると、彼は逃げるように去っていきました。

「もう、ラーナったら。エリオットも悪気はないのでしょうに」

リーシェ姉様が困ったように私の頬を撫でます。ああ、この柔らかな感触…最高です。

「いいのです、リーシェ姉様。姉様を蔑ろにする者は、私がこの国の外まで蹴り飛ばして差し上げますわ!」

…さて、次は二番目のルージュ姉様に無礼を働いている近衛騎士の鼻を明かしに行かなくては。

最近は目に余るというか、目障りなモノがよく現れるのです。

とっとと一つずつ潰さないと、姉様たちが舐められてしまいます。

私の忙しい一日は、始まったばかりです。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...