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中編

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「ねえ。約束したじゃんか」

「…っ!」

「なんで、どうして、俺から逃げたの。…逃げられるわけ、ないのに」

声にならない声が漏れた。いや、わかってる。黙って出ていった、約束を破った私が悪い。とはいえ、ここまで怒るとは思わなんだ。

というか、なんで私一人しか住んでいない私の部屋にいるんだ。職場の寮なんですけど。
 
「約束を破るなんて、悪い子だね」

「いや、あの、なんでいるの」

私の言葉に、思い切り顔をしかめるアンリ。

「居ちゃ悪いの」

「悪いでしょ、ここ私の部屋…」

「もうお前の部屋じゃないよ。退職させることにしたから。お前はまた俺のところに戻ってくるの」

「…はぁ!?」

なんでそうなった!?バカなの!?バカだった!

「…勝手に何してくれてるの!?」

「うるさい、口答えするなよ。お前は俺のものだろ」

「私はものじゃないし、というかそんなこと言われても困る!」

私の言葉に、何を思ったのだろう。いきなり抱きしめられた。

「え、な、なに…アンリ…?」

「好き」

「え?」

「好きだよ」

…急になに?まるで、そんな、恋愛感情でも持ってるみたいな。

「愛してる、俺を見捨てないで」

「いや、あの」

「見捨てないでそばにいて」

「そうは言われても…あの」

「お前が周りの奴らに色々言われてたの、気付かなくてごめん。そいつらは全部とっちめたから。だから今まで通りそばにいてよ」

え。バレたんだ?私は誰にも愚痴ってないのに。

アンリが言ってるのは多分、アンリに恋した女の子たちが私のことを有る事無い事噂してたこと。

でも、そんなのを気にしてアンリのそばを離れたわけじゃない。お互い、離れた方がいいと思ったからで…。

「違うよ、アンリ。それで離れたわけじゃない。アンリの人生を、私が台無しにするのは嫌だったから離れたんだよ」

「…は?」

「私も、アンリといるとなんだか…甘やかされて、ダメになっちゃいそうだし。お互いのために離れた方がいいよ」

私がそう言うと、アンリが抱きしめていた身体を離してくれた。やっとわかってもらえた。そう思ったのに。

「ふざけるなよ…」

「アンリ?」

「台無しになんかならない。クレアがいてくれれば、それだけで俺は幸せでいられる。クレアが俺に甘やかされてダメになっても、俺はそんなクレアも好きだよ。なにも問題ない。離れる必要なんてない」

そう言って、アンリは私を床に押し倒した。
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