悪役令嬢、毎日虐める。…虐める?

下菊みこと

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悪役令嬢、良い方に誤解を受ける

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「ルビー、貴女は本当にどうしようもないグズね」

「あ、アメジスト様…」

「貴女の席は私の隣だといつも言っているでしょう」

そうしてアメジストはルビーを隣に座らせる。

「ところで貴女、今日の魔術学の課題はやってきたの?」

「す、すみません。実家の手伝いで忙しくて」

「本当にグズね。ほら、見せてあげるからさっさと写しなさい」

「アメジスト様…!ありがとうございます!」

そこに王太子サファイアがやってきた。

「やあ、アメジスト。今日もルビー嬢と仲が良いね」

「とんでもないですわ。私この子を虐めてますの。サファイア様はこの子を私から助けるべきですわ」

「そんな!虐めだなんて!アメジスト様にはいつも助けられています!」

ルビーはサファイアを見つめて言う。

「アメジスト様は私の父が病気で入院していて、治療費すら困っていると知ったら私の実家のパン屋のパンを全部買い取る形で援助してくださったんです!そして孤児院の子供たちにパンを配ってくれたらしくて、孤児院と提携してパンを下ろすようになって、治療費もなんとか払えて元々あった家の借金返済の目処も立って!」

サファイアはそれを聞いて頷く。

「アメジストは僕に対してもそうなんだ。虫や毒のない蛇を捕まえてきては無邪気に僕にプレゼントしたり、勉強で僕に勝っていることをすごい自慢してきたり、かと思えば僕が本気で落ち込んでいる時には一緒にどうすればいいか考えてくれたり、僕の弟の命の危機を命がけで救ってくれたり。誤解されやすい子なんだけど、とても良い子なんだ。君が理解してくれてありがたい。これからもアメジストをよろしくね」

なんだかいい雰囲気で握手しているルビーとサファイアの二人だが、そうではない。そうではないのだ。

『私はサファイア×ルビー派ですのに、どうして悪役令嬢ルートまっしぐらなんですのー!?』

アメジストは、サファイアとルビーをくっつけたいと思っていた。












アメジストが前世の記憶を思い出したのは、推しであるサファイアと婚約のための顔合わせをした時。サファイアの顔を見た瞬間膨大な記憶を取り戻し、その場で倒れてしまったのだ。そして、自分が大好きな乙女ゲーム『宝石の国の聖女様』の悪役令嬢に転生していると知った。

アメジストはその瞬間決めた。完璧な悪役令嬢ムーブをかまして、サファイアとルビーをくっつけると。しかし、根が善良なアメジストはサファイアのトラウマになることもルビーを虐めることも上手く出来なかった。先程のサファイアとルビーの発言の通りである。

『私はサファイアとルビーをくっつけたいのに!どうしたらいいの!』

そこでアメジストは、別の手段を取ることにした。

「サファイア様へのプレゼントを用意したいの。選びに行くのを手伝って」

「サファイア殿下の誕生日はまだまだ先では?」

「なんでもない日のささやかなサプライズのつもりなのだけど」

「なるほど。付き合いましょう」

アメジストはサファイアの側近、エメラルドという男性とプレゼント探しという名目のデートをすることにした。これを知ったらきっと、サファイアはアメジストに愛想をつかして可愛い可愛いルビーに惹かれることだろうと踏んだのだ。

今日はちょうどサファイアに口利きをしてルビーの勉強道具を二人で買いに行かせている。その先で「忙しいから」とサファイアとルビーだけをくっつけて買い物に行かせたはずのアメジストがエメラルドと共にばったり出会えば、浮気騒動になるだろう!と考えた。

そして買い物に行き、見事にサファイアとルビーとばったり出会ったフリをしたのだが。

「アメジスト…ダメだよ、そんなことをしちゃ」

『浮気を疑われてますのね!?いい傾向ですわ!』

「僕にサプライズでプレゼントをしたかったんだろう?なら、僕とルビーが来るお店に来ちゃダメだよ」

「えっ」

エメラルドを見る。私は告げ口してませんと首を振られる。

「ああ、エメラルドは告げ口していないよ。ただ、アメジストがしそうなことくらい見当がつく」

『見当違いです!浮気を疑われたかったんです!』

「それとも…エメラルド、他に理由があった?」

「いえ、サプライズでプレゼントをとアメジスト様自身がおっしゃっていました。一応保身のために魔道具で録音もしてますが聞きますか?」

「帰ったら聞こうかな。サプライズは失敗だけど、気持ちは嬉しいよ。ありがとう、アメジスト」

アメジストは心の中で叫ぶ。

『ちがーう!私はただ、サファイア様とルビーにくっついて欲しいだけなのにー!』

「はわわ。やっぱりアメジスト様とサファイア殿下は相思相愛ですね!素敵です」

「ふふ、まあね。こんなにいじらしくて愛らしい女性は他にいないよ」

『惚気るならルビーのことで惚気てー!』

サファイアはアメジストに近づいて、その頬を撫でた。

「愛してるよ、アメジスト。どうか、ずっと僕のそばに居て欲しい」

「わ、私はサファイア様には相応しくありません」

「まだそんなことを言うの?アメジストは充分頑張ってる。僕に相応しいのは君だけだ」

『そうじゃなくてー!』

そんな二人を見つめるルビー。

「アメジスト様とサファイア様、素敵…!」

「…では、ルビー嬢。私と素敵な恋をしてみませんか?」

「え?」

「いつも、貴女を見つめていました。私と交際していただけますか?」

「…!私でよければ!」

アメジストは愕然とする。

『サファイア×ルビーの野望が…潰えた…』

「では、一組のカップルの誕生を祝って僕の奢りでダブルデートでもしようか!」

「お言葉に甘えます」

「ありがとうございます、サファイア殿下!」

「アメジスト」

サファイアはアメジストを見つめて言う。

「愛しているよ」

アメジストは、サファイア×ルビーの夢が潰えてショックだったはずなのに何故かとてもときめいた。
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