悪役令嬢がグレるきっかけになった人物(ゲーム内ではほぼモブ)に転生したので張り切って原作改変していきます

下菊みこと

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我が妹がひたすら可愛い

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現代日本に暮らす女性の皆様。

突然ですが、もしお気に入りだった乙女ゲームの悪役令嬢の義兄に転生したら皆様はどうしますか?

しかもその義兄が悪役令嬢の人格形成に深く関わっていたとしたら?

そして自分の乙女ゲームで一番気に入っていたキャラが悪役令嬢だったとしたら?

まずTS転生に驚きますよね。私もそうでした。

でもその後は?

「もちろん原作改変一択ですよね」

元はただの世間知らずのお嬢様。

親の再婚で突然現れた義兄に虐げられるようになると性格がねじ曲がり、妬み嫉み嫌がらせのオンパレードな性格に。

そんなのはあんまりだ。

まして義妹は初めて会う私に笑顔を見せてくれて、それがとても可愛かったから。

原作の彼が何故こんなに可愛い義妹を虐めたのかさっぱりわからない。いや、家督を継ぐのに邪魔だったかららしいけど知るかボケ。

「ということで、悪役令嬢溺愛ルートに舵を切ることにしましょうか」

私十二歳、義妹八歳。

可愛い盛りの少女にたくさんの幸福を、必ずこの手で与えてみせる。














「ルーヴルナ、おいで」

「はい、兄様」

まだまだ幼い妹は、私が膝を叩くとその上にちょこんと乗る。

「今日もお勉強を頑張ったみたいだね。先生が意欲的で素晴らしいと褒めていたよ」

「もう、神童と謳われる兄様に言われてもお世辞にしか聞こえないわ!」

「おや、私は頑張ったこと自体を褒めているのに。結果ばかりが全てではないよ」

「むぅ…」

「それに、同年代の子たちより余程勉強は進んでいるんだろう?十分優秀じゃないか」

そう言って頭を撫でてやれば、頬をもっと膨らませる可愛い子。

「だって、だってまだ足りないの」

「どうして?」

「兄様の自慢の妹になりたいんだもの!」

なんて可愛らしいのか。

私は前世の知識のおかげでチート状態なだけで、本当に神童と呼ばれるべきはむしろルーヴルナなのに。

「ふふ、ありがとう。もう十分自慢の妹だけど、努力する姿がとても愛らしいからもっともっと頑張ってみせて。そしていつか理想の女公爵になるんだ」

「ふふ、もちろん!」

「けれど、無理をしてはいけないよ。努力と無茶は違うからね。しっかり食べてきちんと寝て、その上でやるべきことをこなす。約束だよ」

「はい、兄様!」

可愛い、可愛い。

きっとシスコンだと言われるだろうけど、こんなに可愛い妹がいてシスコンにならないはずがない。

「…ただね」

「うん?」

「兄様の方が、公爵に向いてるって言う人も多いでしょう?」

「その度に私が殴り込みに行ってるけどね」

「ふふ、知ってる。けど…兄様はいいの?」

気遣わしげな目。

優しい子だ。

自慢の妹。

「良いも何も、そもそも私は義父上の血を引いてないのにどうやって爵位を継承するのさ」

「その、あの…」

「…どうしたの?兄様にすら言いづらいことでも誰かに言われた?」

「そ、そうじゃなくて。私と兄様が婚約すれば、結婚すれば兄様が家督を継ぐこともできるかなって」

…なるほど、このまま婿養子になれと。

血の繋がりはないから結婚に問題はない。

けれど。

「ルーヴルナ」

「はい、兄様」

「私は、ルーヴルナに限らず誰かと結婚する気はないんだ」

「え…?」

「それはもう母上はもちろん義父上にも伝えてある」

なんたって中身は喪女とはいえ女の子のまんまだからね!!!

これから身体の性に慣れる可能性もあるけど今のところ無理!!!

「そ、そうなの…?どうして…?」

「ルーヴルナが嫌とかではないよ。ルーヴルナを心から愛しているのは伝わっているよね?」

「嫌という程知ってるわ」

「よかった。兄様は…うーん。ちょっと…恋愛感情がね…難しくて」

「恋愛感情が難しい」

だって前世喪女だし。

前世では二次元はともかくリアルの男にときめくこともなかったし。

乙女ゲームをプレイして一番のお気に入りキャラが悪役令嬢っていうなんともな感じだったし。

それで今世は男の身体だから女の子に惚れろと言われても余計に無理だよ。

「ただの政略結婚も相手を幸せにする自信がないから無理って断ってるのに、まして愛するルーヴルナを幸せにする自信がないまま婚約とか…兄様無理」

「私は兄様が婚約してくれた方が幸せになれると思うのだけど…」

「でも、ルーヴルナには侯爵家の次男との話もあるだろう?」

ルーヴルナはこのままいけば原作通りの相手と婚約する。

とある侯爵家の次男のシュペルノヴァという男は将来、女公爵となるルーヴルナのお婿さんとなる。

原作では大層性格を拗らせたルーヴルナを嫌っていたが、今のルーヴルナはちょっとお転婆だが愛らしい性格。もちろん見た目も文句のつけようがない。

だからこの婚約の邪魔をする理由は私にはない。

むしろルーヴルナが幸せになるのなら応援したいくらいだ。

「…兄様がそういうのなら、婚約のお話も受け入れるわ」

「ルーヴルナは世界で一番可愛いから、きっと大切にしてもらえるよ」

「…うん」

ぎゅっと抱きついてくるルーヴルナを抱きしめ返す。

「どうしたの?何か不安なのかな?」

「ううん、甘えたいだけ」

「ルーヴルナはいい子だね。そしてとても可愛い」

優しく抱きしめ返す。

どうかこの子が幸せになれますように。













「ルーヴルナ!貴様は公爵家の娘でありながらなんと卑劣な人間なんだ!」

どうしてこうなったと頭を抱える。現在私が二十二歳、ルーヴルナが十八歳。ルーヴルナが貴族の子女の通う学園を卒業する日になり、そんな妹の晴れの舞台を見に行くとシュペルノヴァがヒロインを抱きしめてそう宣った。

ヒロインの学生服はびしょ濡れで、まあつまりはルーヴルナがそれをしたとシュペルノヴァは言いたいんだろう。

でもルーヴルナはそんなことをする子じゃない。

原作ならばともかく、今のルーヴルナは絶対にそんなことをしない。

「…なんの騒ぎかな」

「…魔術師団長様!」

「義兄上!」

私はいつか妹の役に立てればと魔術の腕を磨いて、結果的に現在王家直属部隊の魔術師団で歴代でも最年少の魔術師団長となっている。

まあつまり継げる爵位はなくともそれなりに偉い立場で、公の場でも発言権はあるのだ。

シュペルノヴァとヒロインに一方的に責められる妹の前に立つ。

妹は私の行動に驚いた様子だが何故だろう。

いつだって私はルーヴルナの味方だと伝えてあるのに。

「シュペルノヴァ。君は公の場で一方的に人の妹を貶して一体どういうつもりだい?」

「義兄上、その魔女に騙されてはいけません!」

「魔女?」

「はい!アカリが教えてくれたのです!その女は私を魅了の術で操っていたと!そして魅了を解いてくれて、私はアカリとの真実の愛に目覚めたのです!」

…ああ、はいはいそういうことね。

実際のところ、学園に入学するまでルーヴルナとシュペルノヴァは上手くいっていた。

ルーヴルナが可愛いいい子だったから当然なのだが。

しかしヒロイン…アカリがシュペルノヴァに掛かってもいない魅了の術を解くふりをして、魅了の術を掛けてメロメロにした。

結果ルーヴルナをこの窮地に追いやったと。嫌がらせとかは自作自演だろうな。学生服が濡れたのも自分でこっそりやったんだろう。

「じゃあ、私が本当の魅了の術の解除を見せてあげるよ」

「はい?」

指を鳴らして魔術を行使する。

するとシュペルノヴァは正気に戻った。

シュペルノヴァだけでなく、今までアカリの証言だけを真に受けて外野からルーヴルナを罵っていた奴らも正気に戻って青ざめていた。

「あ…あ、俺…」

「このことは許さない。魅了の術で操られていたとしても、我が妹に濡れ衣を着せ公の場で断罪しようとしたことは絶対忘れない」

「義兄上っ」

「私はもう、君にそう呼ばれる筋合いはないよ。それよりも…アカリと言ったかな」

青ざめるを通り越して土気色の顔のヒロインが逃げ出そうとするので声をかける。

「我が国では魅了の術の使用はご法度。覚悟はあるんだろうね?」

「あ、えっと、私…」

「悪いが拘束させてもらう」

魔術を行使して、アカリを縛り上げる。

魅了の術を使えないよう魔術封印の刻印も首筋に入れておき、治安部隊に引き取って取り調べをお願いする連絡もした。

「さて」

私はルーヴルナをお姫様抱っこする。

「え、兄様…」

「可哀想に。そんなに怯えるほどあいつらに酷いことをされたんだね。でも覚えてるだろう?兄様はいつだってルーヴルナの味方だと」

「…兄様っ!」

私の腕の中で泣くルーヴルナ。

ことがことなので学園の卒業パーティーは途中離脱して屋敷に連れて帰ってきた。

まあでもルーヴルナも卒業は出来たし、あれ以上あの場にいる意味もなかったからいいだろう。














あれからルーヴルナに学園での話を聞いた。

ルーヴルナは学園でアカリを虐めていると濡れ衣を着せられて逆に虐められていたそうだ。

これは魅了の術の被害者だとしても許せることではなく、厳重に学園やら生徒たちの保護者に抗議した。

シュペルノヴァは堂々とアカリと浮気していたらしく、それに関しても相手の家に抗議をして婚約破棄も伝えた。

アカリは禁固刑になったらしい。出てくる頃にはおばあちゃんだし、魔術封印の刻印もいれてやったのでもう悪さは出来ないだろう。

「ルーヴルナ、兄様は何かあったら真っ先に教えてとお願いしたのに」

「だって心配させたくなくて…」

「これからは何かあれば教えて。遠慮はいらないから」

「ごめんなさい…」

ルーヴルナはあれからしばらくは落ち込んだ様子だったが、今では前のように笑うことも増えた。

だが、私はついついそんなルーヴルナにこうしてお説教してしまう。

でもルーヴルナはそれを嫌がらずに受け入れている。叱られているのにどこか嬉しそうに見えるのは何故だろう。

「ふふ、でも兄様は魅了の術で操られなくてよかった」

「ん。まあね、これでも魔術に関しては防御力増し増しだから」

「助けに来てくれたのが兄様で嬉しかった。今もこうしてたくさん心配してくれて嬉しい」

にこにこの妹に、なんとも言えない気持ちになる。

嫌な思いをしたのだから好きにさせてやれという気持ちと、もしかしてもしかすると妹は私に懸想しているのではと焦る気持ち。

でもまあ、とりあえず気付かないふりでのらりくらりして…その後のことはゆっくり考えよう。うん。
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