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マガリーには本のタイトルを見直して欲しい
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私の婚約者は、とても子供っぽい人だ。私を名前で呼ばず、『お前』『おい』としか呼ばない。
また、態度が大変偉そうである。将来女子爵になる私に婿入りする立場なのに、何故かいつも踏ん反り返ってる。
でも、それは決して悪意があるわけではないのも知っている。素直になれない、不器用な人なのだ。
プレゼントはマメにくれるし、一応ちょっと探りは入れているけれど浮気する様子もない。むしろ、私のいないところで惚気話とかしてくれちゃってたりして、それで大いに恥ずかしい思いもした。嬉しかったけど。
だから、素直じゃないあの人を受け入れてあげるのも愛情だと思っていたのだけど。
『受け入れるばかりが愛情ではありません。躾も愛情の一つです』
暇つぶしに読んでいた本の一節に、私は愕然とした。そうか、そうなのか。
ならば、私の愛情は少し間違えていたのだろう。彼と同じだ。ならば共に成長するべきだ。
私は婚約者を躾し直すことにした。
「おい」
婚約者に呼ばれても返事はしない。あの本によると、間違った呼び方をしても返事をすると覚えてしまうといけないとのこと。
ならばちゃんと『マガリー』と呼んでくれるまで無視するしかない。
「おい、聞いてるのか?」
「…」
「お前に話しかけてるんだぞ」
「…」
「…ま、マガリー?」
名前を呼ばれて、笑顔で返事をする。
「はい、ジュール様」
よく出来ました、と褒めることも大事。婚約者の頭を撫でる。
「え、え、どうしたんだ?急に」
「うふふ。ちゃんと名前を呼んでくださいましたので」
「…そ、そうか」
真っ赤になってそっぽを向くのもまた可愛らしい。躾の最初の一歩は、順調だ。
あれからしばらくして、お前と呼ばれれば無視して名前を呼ばれれば微笑み頭を撫でていたら、自然と名前で呼ばれるようになった。躾の初歩は合格のはず。
次は、散歩の練習だ。
「ジュール様」
「なんだ?マガリー」
「少し一緒に、外を歩きませんか?」
私からのお誘いに、顔を真っ赤にしてそっぽを向くジュール様。
「ま、マガリーが望むなら行ってやってもいい」
「よかった!行きましょう!」
「そ、そんなにはしゃぐほど楽しみなのか」
私の喜びように、ジュール様も気をよくする。そして、少し散歩をすることになった。
…隣あって、歩く。が、ジュール様が少し前に行きすぎたのでその服の袖をくいっと引っ張る。
「ん?どうした、マガリー」
「先に行かないでくださいませ…」
悲しそうな顔で訴えれば、ジュール様は何故か「んんっ…!か、かわっ…!」とよくわからない声をあげた。
「わ、わかった。もうちょっと歩幅を合わせて歩くようにする」
そして隣をちゃんと歩いてくれるようになった。さすがはジュール様、飲み込みが早くて助かりますわ。
「ジュール様」
名前を呼んで、背伸びをしてジュール様の頭を撫でる。そうするとジュール様は、思わず、といった感じで私を抱きしめてきた。甘えん坊なところも可愛らしいジュール様に、頬がつい緩む。
あれからさらにしばらくが経ち、ジュール様が私を名前で呼ぶのも、歩幅を合わせて歩くのも当たり前になった。
でも、今でもちゃんと出来たら頭を撫でるのは継続中。愛情はきちんと示さないとね。
そんな私たちを、周りの人は微笑ましそうに見守ってくれる。時々「急に仲良くなってどうした?」と聞く人もいるが「お互いちゃんと愛を示すようにしたんです」と答えれば、ジュール様が私をぎゅっと抱きしめてきて、聞いた人が「はいはいご馳走さま」と笑って終わりだ。
なので躾も最終ステージに入ろうと思う。
「ジュール様」
「マガリー…」
最近ではジュール様と私は前よりすごく仲良くなり、躾の効果を実感する。そんな中で、スキンシップも増えた。抱きしめてくれるのはもちろん、キスも。でも。
「ジュール様、ちょっとお待ちくださいね」
「え?」
待ての訓練だ。
「…」
「…」
「えっと、マガリー?」
「…ふふ、はい、いいですよ。愛してます、ジュール様」
「いちいち可愛いんだよなぁ…」
私が良しと言えば、ジュール様は触れるだけのキスを一つ。そんなジュール様の方が、よっぽど可愛いと思うけれど。
「…マガリー、ありがとう」
「え?」
突然お礼を言われて驚く。なんの話だろうか。
「俺が素直になれないから、素直になれるよう誘導してくれていたんだろう?…なんとなく、気付いてた。気付いてて甘えてたんだ」
「…まあ」
お互いストレスにならないよう、極力隠してたつもりなのに。
「おかげでこうして、マガリーと仲良く過ごせるようになって幸せだ。愛してる」
「私も愛しています、ジュール様」
また一つキスを重ねる。ああ、やはり。受け入れるだけが愛情ではないのだと、あの本に心から感謝した。
その本のタイトルは『わんちゃんにゃんちゃんと仲良くなろう!~正しい躾と愛情の示し方~』。作者さんにはあとで、ポケットマネーから謝礼金を送ろうと心に決めた。
また、態度が大変偉そうである。将来女子爵になる私に婿入りする立場なのに、何故かいつも踏ん反り返ってる。
でも、それは決して悪意があるわけではないのも知っている。素直になれない、不器用な人なのだ。
プレゼントはマメにくれるし、一応ちょっと探りは入れているけれど浮気する様子もない。むしろ、私のいないところで惚気話とかしてくれちゃってたりして、それで大いに恥ずかしい思いもした。嬉しかったけど。
だから、素直じゃないあの人を受け入れてあげるのも愛情だと思っていたのだけど。
『受け入れるばかりが愛情ではありません。躾も愛情の一つです』
暇つぶしに読んでいた本の一節に、私は愕然とした。そうか、そうなのか。
ならば、私の愛情は少し間違えていたのだろう。彼と同じだ。ならば共に成長するべきだ。
私は婚約者を躾し直すことにした。
「おい」
婚約者に呼ばれても返事はしない。あの本によると、間違った呼び方をしても返事をすると覚えてしまうといけないとのこと。
ならばちゃんと『マガリー』と呼んでくれるまで無視するしかない。
「おい、聞いてるのか?」
「…」
「お前に話しかけてるんだぞ」
「…」
「…ま、マガリー?」
名前を呼ばれて、笑顔で返事をする。
「はい、ジュール様」
よく出来ました、と褒めることも大事。婚約者の頭を撫でる。
「え、え、どうしたんだ?急に」
「うふふ。ちゃんと名前を呼んでくださいましたので」
「…そ、そうか」
真っ赤になってそっぽを向くのもまた可愛らしい。躾の最初の一歩は、順調だ。
あれからしばらくして、お前と呼ばれれば無視して名前を呼ばれれば微笑み頭を撫でていたら、自然と名前で呼ばれるようになった。躾の初歩は合格のはず。
次は、散歩の練習だ。
「ジュール様」
「なんだ?マガリー」
「少し一緒に、外を歩きませんか?」
私からのお誘いに、顔を真っ赤にしてそっぽを向くジュール様。
「ま、マガリーが望むなら行ってやってもいい」
「よかった!行きましょう!」
「そ、そんなにはしゃぐほど楽しみなのか」
私の喜びように、ジュール様も気をよくする。そして、少し散歩をすることになった。
…隣あって、歩く。が、ジュール様が少し前に行きすぎたのでその服の袖をくいっと引っ張る。
「ん?どうした、マガリー」
「先に行かないでくださいませ…」
悲しそうな顔で訴えれば、ジュール様は何故か「んんっ…!か、かわっ…!」とよくわからない声をあげた。
「わ、わかった。もうちょっと歩幅を合わせて歩くようにする」
そして隣をちゃんと歩いてくれるようになった。さすがはジュール様、飲み込みが早くて助かりますわ。
「ジュール様」
名前を呼んで、背伸びをしてジュール様の頭を撫でる。そうするとジュール様は、思わず、といった感じで私を抱きしめてきた。甘えん坊なところも可愛らしいジュール様に、頬がつい緩む。
あれからさらにしばらくが経ち、ジュール様が私を名前で呼ぶのも、歩幅を合わせて歩くのも当たり前になった。
でも、今でもちゃんと出来たら頭を撫でるのは継続中。愛情はきちんと示さないとね。
そんな私たちを、周りの人は微笑ましそうに見守ってくれる。時々「急に仲良くなってどうした?」と聞く人もいるが「お互いちゃんと愛を示すようにしたんです」と答えれば、ジュール様が私をぎゅっと抱きしめてきて、聞いた人が「はいはいご馳走さま」と笑って終わりだ。
なので躾も最終ステージに入ろうと思う。
「ジュール様」
「マガリー…」
最近ではジュール様と私は前よりすごく仲良くなり、躾の効果を実感する。そんな中で、スキンシップも増えた。抱きしめてくれるのはもちろん、キスも。でも。
「ジュール様、ちょっとお待ちくださいね」
「え?」
待ての訓練だ。
「…」
「…」
「えっと、マガリー?」
「…ふふ、はい、いいですよ。愛してます、ジュール様」
「いちいち可愛いんだよなぁ…」
私が良しと言えば、ジュール様は触れるだけのキスを一つ。そんなジュール様の方が、よっぽど可愛いと思うけれど。
「…マガリー、ありがとう」
「え?」
突然お礼を言われて驚く。なんの話だろうか。
「俺が素直になれないから、素直になれるよう誘導してくれていたんだろう?…なんとなく、気付いてた。気付いてて甘えてたんだ」
「…まあ」
お互いストレスにならないよう、極力隠してたつもりなのに。
「おかげでこうして、マガリーと仲良く過ごせるようになって幸せだ。愛してる」
「私も愛しています、ジュール様」
また一つキスを重ねる。ああ、やはり。受け入れるだけが愛情ではないのだと、あの本に心から感謝した。
その本のタイトルは『わんちゃんにゃんちゃんと仲良くなろう!~正しい躾と愛情の示し方~』。作者さんにはあとで、ポケットマネーから謝礼金を送ろうと心に決めた。
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