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母を亡くし心に傷を負っていた私に、そっと寄り添ってくれた女の子

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私はシャルル・コロンブ・ドナシアン。魔法師団長の息子だ。獣人族ではあるが、母は人族だった。

母は優しくて、温かな人だった。

お菓子を作るのが得意で、よくクッキーを焼いてくれた。裁縫が得意で、よくぬいぐるみを作ってくれた。花が好きで、よく庭の花を眺めながら一緒に散歩した。

色々な思い出がある。温かな思い出が。

けれど、それを語り合える相手はいない。今日も私は、一人で膝を抱えて三角座りをして泣くだけだ。


















そんなある日、珍しく私の部屋のドアがノックされた。みんな私を腫れ物扱いして、食事の世話くらいしかしないのに。

いじけて無視していたのだが、なんと相手は勝手に入ってきた。

そこには愛らしい女の子。誰?

「失礼致します」

「…誰?」

「お初にお目にかかります。エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌですわ」

ちらりと彼女を見て、私は目をそらした。わがまま令嬢で有名な彼女が何故ここに?

「わがまま令嬢って本当なんだね。そっとしておいてよ」

「そうはおっしゃいましても、私はわがまま令嬢ですから」

勝手にベッドに近づいて、私の隣に座って三角座りする彼女。

「…なんだよ」

「いえ、誰かさんが相手をしてくれなくて暇なので…いっそ真似してみようかと」

「なにそれ…」

僕は不貞腐れる。すると彼女が思いもよらないことを言ってきた。

「ねえ、貴方のお母様ってどんな方だったんですの?」

「今それ聞く!?」

みんな、母の話は意図的に避けてくるのに。

「だって、失ってそこまで落ち込むくらい素敵なお母様だったのでしょう?」

「…うん」

「思い出話、聞かせてくださいな」

そう言った彼女は、とても優しい表情で。私は、心のどこかで母の話をしたかったのだろう。優しくて温かな、母の思い出話を。私が語り始めると、彼女は優しく相槌をうって聞いてくれる。

「お菓子を作るのが得意だったんだ。よくクッキーを焼いてくれた」

「あら、美味しそう」

「すごく美味しかったよ。あと、裁縫が得意でさ、よくぬいぐるみを作ってくれたんだ」

「それはとっても素敵ですわね!羨ましいですわ。私裁縫は苦手ですのよ」

「へぇ。でも、母上も最初から得意だったわけではないらしいよ。いっぱい練習したんだって」

私の話を、彼女は楽しそうに聞いてくれる。そんな彼女の様子を見て、私は気分良く話すことができる。

「あと、花が好きでさ。よく庭の花を眺めながら一緒に散歩したよ」

「意外といい運動になりますわよね」

「そうなんだよ。庭中歩き回るとなんだかんだでヘトヘトでさ。で、東屋で休憩してお茶とお菓子を楽しむんだ」

「最高ですわね!」

「最高だよね」

母の思い出話をできるのは、すごく楽しい。大好きだった母のことを思い出して、すごく温かな気持ちになる。

けれど同時に、目に涙が溢れる。

「…もうちょっと、一緒に居たかったなぁ」

涙はやがて頬を伝う。エリアーヌは、そんな私を抱きしめた。

「…思いっきり泣いていいんですのよ。いつまでも未練を引きずっていては、お母様は心配で天国にいけませんわ。だから今、思いっきり泣いてすっきりしてしまいましょう?きっと、その方がお母様のためですわ」

「…うっ…ぅぅ…うわぁあああああ!」

エリアーヌは私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。涙が止まるまで、ずっと付き合ってくれた。

この日を境に、私は引きこもりを卒業した。

そして母が私に望んだ、優しく公平な侯爵様になることを目指して勉強と魔法に打ち込むようになった。
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