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それは聖女の苦しみだった
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私は私に出来ることをしよう。
私はライン・グリュックリヒカイト。ゲシェンク国の男爵令嬢だ。うちはかなりの貧乏男爵家だが、優しい両親と頼りになる兄に囲まれて、領民達とも仲が良く幸せに暮らしている。
そして私が五歳になる今日、中央教会へギフトを授かりに来た。このゲシェンク国では貴族の子供は五歳になる時中央教会で神からギフトを授かるのだ。ギフトとは、才能、技術、魔法など様々な贈り物のことだ。私は両親と兄、領民達にとってよいギフトを授かることが出来れば嬉しいなと思っている。
「ライン様、前へ」
「はい」
「では始めます」
私の頭上から光が降り注ぐ。私のギフトは…。
「…せ、聖女!聖女のギフトが贈られました!」
「…!」
聖女!やった!当たりのギフトだ!
「よくやったな!ライン!」
「はい、お父様!」
私はすぐさま中央教会の司祭様に別室に通された。
「ライン様、まずはお誕生日おめでとうございます。そして、聖女のギフトを得られましたこと、まことにお喜び申し上げます」
「ありがとうございます!」
「ですが、聖女の力はこの国の宝。どうか、今日この時を持って出家し、この中央教会で数多の信者達に奉仕していただきたい」
「え?」
出家。つまり軽々しく家族達には会えなくなる。そっか。公爵家のような地位の高い方ならともかく、貧乏男爵家の力のない私は出家しなければいけないのか。
「もちろんただでとは言いません。中央教会から男爵家にお祝い金を支払わせていただきます。さらに、領民の皆様をしばらくの間支援させていただきます。具体的には、農業や漁業のアドバイスなど。中央教会には博識な者も多いのですよ。それに、中央教会で作って売れずに余ったポーションなども領民の皆様に無料で配りましょう。中央教会のポーションは知っての通り中央教会の収入源。効力も高いのですよ。いかがですか?」
ああ、なら私が出家したら両親と兄と領民達の役に立てるのか。
「…わかりました。お父様、私、出家する」
「ライン…すまない、ありがとう…」
お父様と顔を見合わせる。お父様は申し訳なさそうにしている。気にしなくていいのに。
「ではそういうことで。公爵様、よろしくお願いします。さあ、ライン様、お部屋へお通ししますね」
「ええ、よろしくお願いします」
そこで話は終わり、お父様と別れて中央教会の一番豪華な部屋に通された。窓を見ると、お父様が見たこともないような大金を持って馬車に乗り込んでいた。よかった。
「あの、手紙くらいは家族に出してもいいですか?」
「もちろんです。それと、明日から正式に聖女として発表し、仕事をしていただきますね」
「はい、わかりました」
「ライン様には早速世話係を付けさせていただきます。レン、ここに」
「はい、司教様」
「これからお前がライン様の世話をしなさい」
「はい。よろしく、ライン様。俺、レンっていうんだけど、中央教会が運営してる孤児院育ちだから、あんまり上手く出来ないかも。けど、頑張るから。仲良くしてくれると嬉しい」
「はい、よろしくね、レン」
こうして私の中央教会での生活が始まった。
ー…
「聖女様が降臨なされました。皆様、大いなる拍手を!」
「おおー!」
そして私は聖女として発表された。貧乏男爵家でしかなかった私の実家は、聖女を誕生させたことで子爵位に昇格するらしい。領地も少し広くなるそう。そして領民達は中央教会のサポートを受けられることが決まっているので、実家も領民達も安定した暮らしが出来るようになるだろう。
「では、聖女様。早速ギフトを使ってください。集まった信者達に祝福の加護を」
「わかりました」
祝福の加護を発動する。瞬間、胸がずきりと痛んだ。
「…!?」
苦しい。身体が痛い。熱い。息が苦しい。
「祝福の加護が発動されました!これで皆様に幸運が約束されました。それではまた一週間後にお集まりください。聖女様はこれで失礼させていただきます」
みんな私が苦しんでるのを見ても何も疑問に思わないみたい。何がどうなってるんだろう。
「ライン様、抱き上げるね」
レンが私を抱き上げて部屋まで連れて帰ってくれた。
「えっと、ライン様はもしかして司教様から何も聞いてないのか?」
レンは優しく私をベッドに寝かせて、冷たい水の入った桶を用意してタオルを冷やし私の額に乗せてくれる。痛み止め用のポーションを飲ませてくれてから、質問された。
「聞いてないって…?」
「あ、そっか。中央教会の関係者や祝福を受けに来る熱心な信者以外は知らないんだった。あのね、ライン様。ライン様のお力は素晴らしいものだ。祝福の加護を発動するだけで、一週間は加護を受けた者に幸運が続くし、争いに巻き込まれることも病にかかることもない。つまりは国全体でも戦争や流行病の防止につながるんだ。本当にライン様のお力はすごい。素晴らしいものだ。本当だよ?ただ、代償があるんだ。それが、ライン様の胸の痛みや発熱、あと息苦しさかな。聖女本人は三日間苦しみ続ける。それを少しでも和らげるための世話係なんだ。ごめんね、もっと早くに教えてあげるべきだった。覚悟もなく痛みに苦しむのは辛いよね、ごめん」
レンはそう言って私の頭を撫でてくれる。そっか。そうだよね。ただで聖女になれるわけないよね。代償かぁ。辛いなぁ。でも、私が我慢すればみんな幸せになれるんだよね。私が頑張らないと。そう考えている間もレンは私の手を握ってくれたり、話しかけてくれたり、私の苦痛を和らげようと色々と頑張ってくれた。そして三日が過ぎると、元気になった私を連れて中央教会の庭を案内してくれる。
「ライン様、ライン様は好きな花はあるか?」
「百合が好きだよ」
「よかった!百合ならこっちに咲いてるんだ。ほら、見て!」
レンは私に百合の花を見せると得意げな表情になる。なんだか可愛い。
「可愛いね」
「本当に可愛い花だよね。ライン様はこういう花が好きなんだな」
「違うよ、レンが」
「…えっ」
顔を赤くするレン。可愛い。三日間付きっ切りで看病してくれたレンに私はすっかり心を許していた。
「ら、ライン様、からかわないでくれ!」
「本当のことだってば」
「ライン様!」
レンの方も私を聖女として慕ってくれている。聖女のお仕事は辛いけど、レンが居てくれれば耐えられる。
家族に早速手紙を書いて送る。手紙には、聖女として発表されたこと、無事最初の務めを果たしたこと、レンが世話係として頑張ってくれていることを書いた。代償のことは秘密にした。心配させたくないから。すぐに返事がきた。私のおかげで生活が楽になったと書いてあった。私を誇りに思うとも。そして、私の世話係であるレンに感謝するとも書いてある。私はレンに手紙を見せた。
「レン、見て。私の家族が、レンに感謝するだって」
「お、恐れ多いな…でも、うん。嬉しい。ありがとう、ライン様」
照れた表情のレンはやっぱり可愛い。レンといるとほっとする。
「うん、これからもライン様の世話係として頑張るな」
「よろしくね、レン」
ー…
十三年が過ぎた。出家していなければ婚約者がいて、そろそろ結婚する年頃だろうか?私は相変わらず信者に加護を与えては三日間代償に苦しみ、その後の四日間はレンと遊び惚ける日々を送っている。レンも出家している身なので「良い人」も居ない様子。正直嬉しい。これからもレンを独り占め出来るのだから。私は、いつからかレンを異性として意識するようになっていた。まあ、歳の近い異性なんてこの中央教会ではレンしかいないというのもあるけれど。レンも、おそらく私のことを良く思ってくれていると思う。たまにふとした時に顔を赤くしたりするし。そして、私の気持ちに気付いていると思う。多分、両片思いという奴だ。けれど、私達はお互いにそれを口にはしない。どうせ出家した身で結婚も出来ないのだ。今の関係を壊す理由がない。
「レン」
「どうした?ライン様」
「レンが居てくれて助かった。大好きだよ」
「俺もライン様が大好きだ」
口に出来るのはこれだけ。愛しているとは告げられない。けれど、私達は幸せだ。
私はライン・グリュックリヒカイト。ゲシェンク国の男爵令嬢だ。うちはかなりの貧乏男爵家だが、優しい両親と頼りになる兄に囲まれて、領民達とも仲が良く幸せに暮らしている。
そして私が五歳になる今日、中央教会へギフトを授かりに来た。このゲシェンク国では貴族の子供は五歳になる時中央教会で神からギフトを授かるのだ。ギフトとは、才能、技術、魔法など様々な贈り物のことだ。私は両親と兄、領民達にとってよいギフトを授かることが出来れば嬉しいなと思っている。
「ライン様、前へ」
「はい」
「では始めます」
私の頭上から光が降り注ぐ。私のギフトは…。
「…せ、聖女!聖女のギフトが贈られました!」
「…!」
聖女!やった!当たりのギフトだ!
「よくやったな!ライン!」
「はい、お父様!」
私はすぐさま中央教会の司祭様に別室に通された。
「ライン様、まずはお誕生日おめでとうございます。そして、聖女のギフトを得られましたこと、まことにお喜び申し上げます」
「ありがとうございます!」
「ですが、聖女の力はこの国の宝。どうか、今日この時を持って出家し、この中央教会で数多の信者達に奉仕していただきたい」
「え?」
出家。つまり軽々しく家族達には会えなくなる。そっか。公爵家のような地位の高い方ならともかく、貧乏男爵家の力のない私は出家しなければいけないのか。
「もちろんただでとは言いません。中央教会から男爵家にお祝い金を支払わせていただきます。さらに、領民の皆様をしばらくの間支援させていただきます。具体的には、農業や漁業のアドバイスなど。中央教会には博識な者も多いのですよ。それに、中央教会で作って売れずに余ったポーションなども領民の皆様に無料で配りましょう。中央教会のポーションは知っての通り中央教会の収入源。効力も高いのですよ。いかがですか?」
ああ、なら私が出家したら両親と兄と領民達の役に立てるのか。
「…わかりました。お父様、私、出家する」
「ライン…すまない、ありがとう…」
お父様と顔を見合わせる。お父様は申し訳なさそうにしている。気にしなくていいのに。
「ではそういうことで。公爵様、よろしくお願いします。さあ、ライン様、お部屋へお通ししますね」
「ええ、よろしくお願いします」
そこで話は終わり、お父様と別れて中央教会の一番豪華な部屋に通された。窓を見ると、お父様が見たこともないような大金を持って馬車に乗り込んでいた。よかった。
「あの、手紙くらいは家族に出してもいいですか?」
「もちろんです。それと、明日から正式に聖女として発表し、仕事をしていただきますね」
「はい、わかりました」
「ライン様には早速世話係を付けさせていただきます。レン、ここに」
「はい、司教様」
「これからお前がライン様の世話をしなさい」
「はい。よろしく、ライン様。俺、レンっていうんだけど、中央教会が運営してる孤児院育ちだから、あんまり上手く出来ないかも。けど、頑張るから。仲良くしてくれると嬉しい」
「はい、よろしくね、レン」
こうして私の中央教会での生活が始まった。
ー…
「聖女様が降臨なされました。皆様、大いなる拍手を!」
「おおー!」
そして私は聖女として発表された。貧乏男爵家でしかなかった私の実家は、聖女を誕生させたことで子爵位に昇格するらしい。領地も少し広くなるそう。そして領民達は中央教会のサポートを受けられることが決まっているので、実家も領民達も安定した暮らしが出来るようになるだろう。
「では、聖女様。早速ギフトを使ってください。集まった信者達に祝福の加護を」
「わかりました」
祝福の加護を発動する。瞬間、胸がずきりと痛んだ。
「…!?」
苦しい。身体が痛い。熱い。息が苦しい。
「祝福の加護が発動されました!これで皆様に幸運が約束されました。それではまた一週間後にお集まりください。聖女様はこれで失礼させていただきます」
みんな私が苦しんでるのを見ても何も疑問に思わないみたい。何がどうなってるんだろう。
「ライン様、抱き上げるね」
レンが私を抱き上げて部屋まで連れて帰ってくれた。
「えっと、ライン様はもしかして司教様から何も聞いてないのか?」
レンは優しく私をベッドに寝かせて、冷たい水の入った桶を用意してタオルを冷やし私の額に乗せてくれる。痛み止め用のポーションを飲ませてくれてから、質問された。
「聞いてないって…?」
「あ、そっか。中央教会の関係者や祝福を受けに来る熱心な信者以外は知らないんだった。あのね、ライン様。ライン様のお力は素晴らしいものだ。祝福の加護を発動するだけで、一週間は加護を受けた者に幸運が続くし、争いに巻き込まれることも病にかかることもない。つまりは国全体でも戦争や流行病の防止につながるんだ。本当にライン様のお力はすごい。素晴らしいものだ。本当だよ?ただ、代償があるんだ。それが、ライン様の胸の痛みや発熱、あと息苦しさかな。聖女本人は三日間苦しみ続ける。それを少しでも和らげるための世話係なんだ。ごめんね、もっと早くに教えてあげるべきだった。覚悟もなく痛みに苦しむのは辛いよね、ごめん」
レンはそう言って私の頭を撫でてくれる。そっか。そうだよね。ただで聖女になれるわけないよね。代償かぁ。辛いなぁ。でも、私が我慢すればみんな幸せになれるんだよね。私が頑張らないと。そう考えている間もレンは私の手を握ってくれたり、話しかけてくれたり、私の苦痛を和らげようと色々と頑張ってくれた。そして三日が過ぎると、元気になった私を連れて中央教会の庭を案内してくれる。
「ライン様、ライン様は好きな花はあるか?」
「百合が好きだよ」
「よかった!百合ならこっちに咲いてるんだ。ほら、見て!」
レンは私に百合の花を見せると得意げな表情になる。なんだか可愛い。
「可愛いね」
「本当に可愛い花だよね。ライン様はこういう花が好きなんだな」
「違うよ、レンが」
「…えっ」
顔を赤くするレン。可愛い。三日間付きっ切りで看病してくれたレンに私はすっかり心を許していた。
「ら、ライン様、からかわないでくれ!」
「本当のことだってば」
「ライン様!」
レンの方も私を聖女として慕ってくれている。聖女のお仕事は辛いけど、レンが居てくれれば耐えられる。
家族に早速手紙を書いて送る。手紙には、聖女として発表されたこと、無事最初の務めを果たしたこと、レンが世話係として頑張ってくれていることを書いた。代償のことは秘密にした。心配させたくないから。すぐに返事がきた。私のおかげで生活が楽になったと書いてあった。私を誇りに思うとも。そして、私の世話係であるレンに感謝するとも書いてある。私はレンに手紙を見せた。
「レン、見て。私の家族が、レンに感謝するだって」
「お、恐れ多いな…でも、うん。嬉しい。ありがとう、ライン様」
照れた表情のレンはやっぱり可愛い。レンといるとほっとする。
「うん、これからもライン様の世話係として頑張るな」
「よろしくね、レン」
ー…
十三年が過ぎた。出家していなければ婚約者がいて、そろそろ結婚する年頃だろうか?私は相変わらず信者に加護を与えては三日間代償に苦しみ、その後の四日間はレンと遊び惚ける日々を送っている。レンも出家している身なので「良い人」も居ない様子。正直嬉しい。これからもレンを独り占め出来るのだから。私は、いつからかレンを異性として意識するようになっていた。まあ、歳の近い異性なんてこの中央教会ではレンしかいないというのもあるけれど。レンも、おそらく私のことを良く思ってくれていると思う。たまにふとした時に顔を赤くしたりするし。そして、私の気持ちに気付いていると思う。多分、両片思いという奴だ。けれど、私達はお互いにそれを口にはしない。どうせ出家した身で結婚も出来ないのだ。今の関係を壊す理由がない。
「レン」
「どうした?ライン様」
「レンが居てくれて助かった。大好きだよ」
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