上 下
16 / 18
第一章

しおりを挟む
《???視点》

 目の前の人が消えた。
 …………え!?
 どーゆーこと!?
 転移魔法?
 でも、術式を構築した気配がなかった。
 っていうか、転移魔法自体使える人は多くないはず。
 じゃあ、何があったの!?


 っていうことがあってからだいたい十分。
 なにやらわんさかいるオオカミたちが混乱している様子。
 でも、さっき1匹に「暫しお待ちを!!!」って言われちゃったから何にもできない。

 やっぱり、手伝った方がいいよね?

 うーん、でもなあ。

 出会ってからまだ1時間くらい。
 そんな状況、初めてだし……。

 あぁーっ、わからない!
 うん、とりあえず、オオカミに話しかけ──

 その瞬間。
 私の前に人が現れた。

「「うわぁぁぁぁ!!?」」


「ふうー。びっくりしたぁ」

「うぅ、ごめんなさい…………」

「あぁ、いやいや、君のせいじゃなくてね!?」

「……ふふっ」

 その人、ユータさんは、慌てていた。
 それがなんだか可愛くて笑ってしまった。

「あっと、そうだった。ちょっと話があるんだけど、きいてもらえるかな? 君たち、集合!!」

 ユータさんはなんだか慌てた様子でオオカミたちを集めると、さっきまで座っていた席にふたたび腰かけた。


 そこから始まった話は、私の想像の遥か上をいくものだった。

 ユータさんは他の星、世界から来た、とか、この世界が滅びかけている、とか。

 正直に言って、私の手に負える話じゃあなかった。

 それでも、私は話が終わったときに、叫んでいた。

「わ、私には──」

 なんでこんなことを言ったんだろう。

「何が──」

 それでも、ただひとつ、わかっていることがある。
 私は──。

「私には何ができますか!?」

 ユータさんの力になりたかった。
 私の故郷この星を救いたかった。

*********


         《ユータ視点》
えっと、それって、俺の手伝いをしてくれるってこと?
 うーーん、ありがたいんだけど、かなり危険なにおいがするし、正直に言って、あまりおすすめできない。

 それに、相手のことを、俺は何にも知らない……。

 あれ?
 なんにもって言うか、俺、名前すら知らなくない?

 逆になぜいままで気がつかなかったって感じなんだが……。

「うーーん、俺としては手伝ってくれるのはありがたいんだけど、危険だと思うし、正直あんまりお勧めできないよ。それに、俺、まだ君のこと何にも知らないし」

 途中、彼女は顔を輝かせたり、曇らせたり、最後には赤くなったりしてた。
 まあ、気持ちは分からんでもない。

「こ、これは失礼しました。私、ヤルタ王国第三王女、フレリア・リンガートと申します」

 そこからは直感だった。

「ユ、ユータ様!? なにをなさっているのです!?」

「え? あ、いや、だって王家の人間に対しては跪くのが当たり前かなあと思って……」

「止めてください。ユータ様は私の恩人なのですから、私こそ……」

 跪かれた。
 この状況はヤバイ。
 かなりヤバイ。

「おいお前! 王族の方に跪かせるとは何事だ! けしからん! 処刑する!」

「ひえーー! ご、ご容赦をーー!」

 何てことになりかねない。
 冗談抜きで。

「いやいやいやいやいや……。こちらこそ……」

「いえ、良いのです。それに、私は、もう王家の人間ではありませんので。」

「……え?」

「私の祖国、ヤルタ王国は、いまは軍部に乗っ取られているのです。しかも、民衆は、大部分がその事を知りません」

「なるほど……。クーデターというやつか」

「? くーでたー? 何ですか、それは?」

「いや、なんでもない。続けてくれ」

「私の父は軍の言いなり、母は消息すらわかりません。私は、そこから逃げてきたのです。ですから、私はもう王家の人間ではありません」

 彼女は、寂しそうだった。
 その表情が、強く印象に残った。

「君は、その国に戻りたい?」

 一瞬、ハッとした顔をしたものの、直ぐに真剣な表情に戻った。

「私は国を一度捨てた身です。戻る資格なんてありません。それに、戻ったところで、なにも……」

「……俺に協力してくれたら、国に戻れるかも、と言ったら?」

 我ながら悪役っぽいセリフだなぁ。
 しかも、何だかんだで言葉づかい敬語じゃなくなってるし。
 まあ、あそこまで言われたら、あまいっかってなっちゃう気持ちも分かって。

「だけど、俺はどうやらスキルをいまひとつも持ってないみたいなんだよ。なんとかなんないかなぁ。さすがにゼロはやばいと思うし」

「そうですね……。では、少し、特訓して、スキルとりましょうか」

 彼女の顔は、さっきとは比べ物にならないくらい、凄い顔だった。

「ひいっ」


しおりを挟む

処理中です...