7 / 8
やっぱり悪くない。
しおりを挟む
まだ日は落ち切っていなくて、僕たちは一緒に夕食をとることにした。
洋服の件もあったのでここは奢りたかったが、彼女がそれを頑なに拒否した もんだから仕方なく割り勘にすることにした。
そこでも彼女はカメラを回していたので僕は気を取り直して、わざとテンションを上げた。
「これから夕食でーす。私はハンバーグを頼みましたー」
「僕もハンバーグにしましたー」
「真似されましたー」
「してませーん」
彼女が先に食べると言うので僕が撮影をした。
鉄板の上で今もじゅうじゅうと後を立てている肉厚のハンバーグはデミグラスソースのいい香りを漂わせて、僕の腹の虫を刺激してきた。
ナイフで大きめに切ったハンバーグを口へは運んだ瞬間、
「んーーーー! おいしい! 最高!」
これは撮影用じゃない、彼女のリアルなリアクションだろう。
――早く食べたい。
二口目を食べた彼女の口から待ちに待った言葉が出てきた。
「次は君が食べる番だよ」
すぐさまカメラを彼女に手渡し、ナイフとフォークを握った。
「ちゃんとるアクションしてよー」
カメラが回ったことを確認すると、今にも破裂しそうなほどに膨らんだハンバーグにナイフを入れた。割れ目からはこれでもかという量の肉汁が溢れ出し、うまみを確信させる匂いが腹の虫に限界を与えた。
彼女にならい大きめにカットして口に放り込んだ。
「う、うま! やべぇ」
危うくカメラの存在を忘れて食べ続けるところだった。
「ほんとおいしいね」
そうカメラに向けてコメントすると、カメラの後ろに見える彼女の顔が我が子を見ている母親のように優しく微笑んでいた。
少し照れくさくなり、「もういいだろ」と言って撮影をやめさせた。
撮影を終え、残りのハンバーグを堪能することした。
「私、男の人とご飯食べたの初めて」
「へえ、意外」
「ちょっと、今君の言葉には二つの意味があるぞ」
「なに?」
「一つは私が誰とでもご飯に出かける軽い女。もう一つは私クラスの美少女なら彼氏とご飯なんて何回もしている」
「もちろん、軽いなんて思っていない。後者だよ」
彼女はえへへとはにかんだように笑った。
「言わせておいて照れないでよ」
「君って意外と素直だね」
「意外、とは?」
僕は仕返しのつもりで聞いてみた。
「もっとひねくれた意見を言ってくると思ったの」
「ひねくれてなんかいないよ。正しいことを言っているだけ」
彼女はまた頬を赤くしていた。
「それって、私を美少女って認めたってことだよ?」
「そうだね。君はかわいいよ。ペンギンには負けるけど」
むーっと彼女は頬を膨らませた。でもまたすぐに笑った。
この笑顔は卑怯だ。怒っていても例え泣いていてもこの顔をされたらなぜか安心してしまう。
「……ほんと、すごいね君は」
不覚にも声に出してしまった。
「何が?」
「君の口についているソースがだよ。高校生なんだから気を付けなよ」
え? どこどこ? と彼女はスマホで口元を確認した。
そして、えへへと笑ってナプキンでふき取った。
「君はどうしてユーチューブをやりたいと思ったの?」
「んー、何かを残したくて」
彼女の笑顔がほんの少しだけ曇る。
「どうして?」
「んー、芸能事務所入りたくてね。でも自分からオーディションを受けに行く勇気がないからスカウトしてもらいたいの。だから、世界中に流れているユーチューブならどこかの事務所が私を見つけてくれるかな思って」
そう言って彼女は笑ったが、どうも僕には作り笑いにしか見えなくて、何かを隠している気がした。
「そっか。でもそれならバズるまで続けた方がいいんじゃないの?一か月じゃとても……」
「いいの。私が一か月って決めたんだから。それに君も忙しいだろうしね」
「まあ、君がいいならいいんだけどさ」
そのあとしばらくの間、沈黙が流れスマホを見ると七時半と表示されていた。
「そろそろ帰ろっか。外もすっかり暗くなってるし」
「あ、ほんとだ」
駅までの帰り道と電車では特に何も話さなかった。それでも、そこに決まずさはなかった。
「昨日の動画、帰ったら投稿するよ」
「うん! 今日の動画は明日?」
「んー、今日編集できればね」
「わかった!」
最寄り駅に着き、僕は先に降りた。
電車の中から彼女が笑顔で手を振っていたので、僕も振り返し、自分が自然と笑顔になっていることに気付いた。
「やっぱり悪くないかもな。偽カップル」
洋服の件もあったのでここは奢りたかったが、彼女がそれを頑なに拒否した もんだから仕方なく割り勘にすることにした。
そこでも彼女はカメラを回していたので僕は気を取り直して、わざとテンションを上げた。
「これから夕食でーす。私はハンバーグを頼みましたー」
「僕もハンバーグにしましたー」
「真似されましたー」
「してませーん」
彼女が先に食べると言うので僕が撮影をした。
鉄板の上で今もじゅうじゅうと後を立てている肉厚のハンバーグはデミグラスソースのいい香りを漂わせて、僕の腹の虫を刺激してきた。
ナイフで大きめに切ったハンバーグを口へは運んだ瞬間、
「んーーーー! おいしい! 最高!」
これは撮影用じゃない、彼女のリアルなリアクションだろう。
――早く食べたい。
二口目を食べた彼女の口から待ちに待った言葉が出てきた。
「次は君が食べる番だよ」
すぐさまカメラを彼女に手渡し、ナイフとフォークを握った。
「ちゃんとるアクションしてよー」
カメラが回ったことを確認すると、今にも破裂しそうなほどに膨らんだハンバーグにナイフを入れた。割れ目からはこれでもかという量の肉汁が溢れ出し、うまみを確信させる匂いが腹の虫に限界を与えた。
彼女にならい大きめにカットして口に放り込んだ。
「う、うま! やべぇ」
危うくカメラの存在を忘れて食べ続けるところだった。
「ほんとおいしいね」
そうカメラに向けてコメントすると、カメラの後ろに見える彼女の顔が我が子を見ている母親のように優しく微笑んでいた。
少し照れくさくなり、「もういいだろ」と言って撮影をやめさせた。
撮影を終え、残りのハンバーグを堪能することした。
「私、男の人とご飯食べたの初めて」
「へえ、意外」
「ちょっと、今君の言葉には二つの意味があるぞ」
「なに?」
「一つは私が誰とでもご飯に出かける軽い女。もう一つは私クラスの美少女なら彼氏とご飯なんて何回もしている」
「もちろん、軽いなんて思っていない。後者だよ」
彼女はえへへとはにかんだように笑った。
「言わせておいて照れないでよ」
「君って意外と素直だね」
「意外、とは?」
僕は仕返しのつもりで聞いてみた。
「もっとひねくれた意見を言ってくると思ったの」
「ひねくれてなんかいないよ。正しいことを言っているだけ」
彼女はまた頬を赤くしていた。
「それって、私を美少女って認めたってことだよ?」
「そうだね。君はかわいいよ。ペンギンには負けるけど」
むーっと彼女は頬を膨らませた。でもまたすぐに笑った。
この笑顔は卑怯だ。怒っていても例え泣いていてもこの顔をされたらなぜか安心してしまう。
「……ほんと、すごいね君は」
不覚にも声に出してしまった。
「何が?」
「君の口についているソースがだよ。高校生なんだから気を付けなよ」
え? どこどこ? と彼女はスマホで口元を確認した。
そして、えへへと笑ってナプキンでふき取った。
「君はどうしてユーチューブをやりたいと思ったの?」
「んー、何かを残したくて」
彼女の笑顔がほんの少しだけ曇る。
「どうして?」
「んー、芸能事務所入りたくてね。でも自分からオーディションを受けに行く勇気がないからスカウトしてもらいたいの。だから、世界中に流れているユーチューブならどこかの事務所が私を見つけてくれるかな思って」
そう言って彼女は笑ったが、どうも僕には作り笑いにしか見えなくて、何かを隠している気がした。
「そっか。でもそれならバズるまで続けた方がいいんじゃないの?一か月じゃとても……」
「いいの。私が一か月って決めたんだから。それに君も忙しいだろうしね」
「まあ、君がいいならいいんだけどさ」
そのあとしばらくの間、沈黙が流れスマホを見ると七時半と表示されていた。
「そろそろ帰ろっか。外もすっかり暗くなってるし」
「あ、ほんとだ」
駅までの帰り道と電車では特に何も話さなかった。それでも、そこに決まずさはなかった。
「昨日の動画、帰ったら投稿するよ」
「うん! 今日の動画は明日?」
「んー、今日編集できればね」
「わかった!」
最寄り駅に着き、僕は先に降りた。
電車の中から彼女が笑顔で手を振っていたので、僕も振り返し、自分が自然と笑顔になっていることに気付いた。
「やっぱり悪くないかもな。偽カップル」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※毎週火曜・金曜日の夜に投稿。作者ブル
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる