デス・アイランド

汐川ヒロマサ

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 「今何時だろう」
 由紀は外を見ながら言った。
 さあ、と言わんばかりに四人は首をかしげる。
 史帆がリュックサックを手に立ち上がったのを見て、卓也が言った。
 「どこ行くんだよ」
 「寝るの。ここじゃ監視されてて寝れそうにない」
 そう言って掛け布団を手に二階へと上がった。
 「あいつ良く寝れるな」
 そんな明の声を無視して史帆はリビングを出た。

 「なんで俺たちがこんな目に……」
 明が諭すようにつぶやいた。
 卓也もうなだれるようにうなずいた。
 「ほんとだよ。どうして……」
 「私たちが京吾を追い詰めたからでしょ。私たちに歯向かえる人は誰もいなかったから、止める人は誰も――」
 由紀はかっとなり遮った。
 「私たちは悪くない。ドーピングしてたんでしょ?あんなせこいやつ、嫌われて当然じゃん。ね?明」 
 明は苦笑いをして「おう」とだけ言った。
 その後誰も何も言わずしんとなった。
 
 史帆は階段を上ると、左に折れて一番奥の部屋へと廊下を歩いた。電気をつけるのを忘れてしまい、一番奥まで来ると闇にまぎれ扉に「5」の数字がついているのがかすかに見えた。
 扉を開けるのをすこしためらい、ドアノブををひねりさっと扉を開けた。
 部屋は六畳一間で、押入れが開いていた。きっと明たちが掛け布団を取りに来た時に閉め忘れたんだろうと思い気にはしなかった。小さなテーブと懐中電灯があるだけで他に家具や電化製品はなかった。
 史帆は電気をつけたまま座り込み壁にもたれて掛け布団をお腹のあたりまでかけた。
 ほっと一息つくとどっと疲れがくるのと同時に睡魔も襲ってきた。
 日が出るまではあと何時間かかるのだろ。そんなことを考えているといつに間にか眠りに落ちてしまった。
 目を覚ますとカーテンがうっすら光を帯びていた。 
 もう朝か。そろそろ空が明るくなる頃だ。
 史帆は嫌な夢を見たことを思い出した。
 まだ日が昇り始めの薄暗い朝に、目が覚めてリビングへ行くと血だらけの四人が倒れている。そこには薄暗くて顔は判別できないが人影が何かを振り下ろし誰かのどこかに指している光景が――。
 夢だとわかっていたが、気になってリビングに行くことにした。
 薄暗い廊下を歩き、階段を降りてリビングの扉に手をかけてそっと耳を澄ませた。
 静寂――。
 ゆっくりと扉を開き、顔を覗かせた。
 夢で見た人影はなく、ソファで掛け布団を肩まで掛けて寝ている姿があった。目を凝らして見ると史帆は変異に気付き、少しだけ近寄ると卓也、明、京子……、一人足りない。由紀だ。
 テーブルには新しく出された飲みかけのペットボトルが四本あった。
 三人を起こすのではなく、史帆は外へ出た。
 階段をゆっくりと降り、昨日カップ麺を作った場所へ行くと蓮の死体があった。そしてもう一つ、首のない死体が蓮の隣に転がっていた。服装で由紀だとわかった。
 「ひっ!」
 史帆は腰が抜けてしまい、よろめきながら数歩後ずさりして崩れ落ちた。
 ――早くみんなに伝えないと。
そう思い立ち上がろうとしたが下半身が言うことを聞かない。
 やっと立ち上がり、ふらつく足で何とか階段を上り玄関を開け、リビングに入った。
 ソファに寝ている三人を起こそうとソファの前に来たその時、べちょっと水を踏んだような感覚が履いている靴下越しに伝わった。
 一番手前に寝ていた京子の顔の所々と白いソファが黒く染まっており、視線をだんだんと下に向けると黒い何かは足元まで続いていた。
 嫌な予感がしてしばらく動けなくなった。
 昨日までは開いていたカーテンは閉まっており、そこから差し込まれる日の光に照らされて確信した。
 ――由紀の血だ。
 「京子!明も卓也も起きて!」
 肩を揺すられ目を覚ました京子はまだ眠そうな目をしていた。
 「京子、横」
 史帆に言われるがままに首を動かすと、京子は目を見開き絶句していた。
 「由紀。殺された……」
 京子はそのままの顔で史帆を見た。
 「由紀はどこ?」
 「外。蓮の横に並べられてた」
 明と卓也も目を覚ました。
 「もう朝か」
 そう言って立ち上がり、明は史帆と京子の方へ目をやると驚愕に目を見開いた。
 「血か?……誰の?」
 「……由紀。蓮のところで死んでいた」
 卓也も起き上がったがその光景に言葉が出なかった。
 「由紀。由紀!」
 名前を叫びながら京子はリビングから出て行った。その後を追うように史帆、卓也が出ていき明も続こうとして、ふとキッチンの方を見ると立ち止まり、すとんと尻餅をついた。
 「うわああああ!」
 そこには由紀の生首が置かれていたのだ。
玄関を出る寸前に悲鳴を聞いた京子、史帆、卓也は引き返した。
 「どうした⁉」
 明に駆け寄り、明の目線の先を見て卓也もまた尻餅をついた。
 「う、嘘だろぉおおお!」
 「きゃああああ!」
 次に駆け寄って来た京子も崩れ落ち、史帆は青ざめた顔をして言葉も出ず突っ立っていた。
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