デス・アイランド

汐川ヒロマサ

文字の大きさ
6 / 11

5-1

しおりを挟む
 「今何時だろう」
 由紀は外を見ながら言った。
 さあ、と言わんばかりに四人は首をかしげる。
 史帆がリュックサックを手に立ち上がったのを見て、卓也が言った。
 「どこ行くんだよ」
 「寝るの。ここじゃ監視されてて寝れそうにない」
 そう言って掛け布団を手に二階へと上がった。
 「あいつ良く寝れるな」
 そんな明の声を無視して史帆はリビングを出た。

 「なんで俺たちがこんな目に……」
 明が諭すようにつぶやいた。
 卓也もうなだれるようにうなずいた。
 「ほんとだよ。どうして……」
 「私たちが京吾を追い詰めたからでしょ。私たちに歯向かえる人は誰もいなかったから、止める人は誰も――」
 由紀はかっとなり遮った。
 「私たちは悪くない。ドーピングしてたんでしょ?あんなせこいやつ、嫌われて当然じゃん。ね?明」 
 明は苦笑いをして「おう」とだけ言った。
 その後誰も何も言わずしんとなった。
 
 史帆は階段を上ると、左に折れて一番奥の部屋へと廊下を歩いた。電気をつけるのを忘れてしまい、一番奥まで来ると闇にまぎれ扉に「5」の数字がついているのがかすかに見えた。
 扉を開けるのをすこしためらい、ドアノブををひねりさっと扉を開けた。
 部屋は六畳一間で、押入れが開いていた。きっと明たちが掛け布団を取りに来た時に閉め忘れたんだろうと思い気にはしなかった。小さなテーブと懐中電灯があるだけで他に家具や電化製品はなかった。
 史帆は電気をつけたまま座り込み壁にもたれて掛け布団をお腹のあたりまでかけた。
 ほっと一息つくとどっと疲れがくるのと同時に睡魔も襲ってきた。
 日が出るまではあと何時間かかるのだろ。そんなことを考えているといつに間にか眠りに落ちてしまった。
 目を覚ますとカーテンがうっすら光を帯びていた。 
 もう朝か。そろそろ空が明るくなる頃だ。
 史帆は嫌な夢を見たことを思い出した。
 まだ日が昇り始めの薄暗い朝に、目が覚めてリビングへ行くと血だらけの四人が倒れている。そこには薄暗くて顔は判別できないが人影が何かを振り下ろし誰かのどこかに指している光景が――。
 夢だとわかっていたが、気になってリビングに行くことにした。
 薄暗い廊下を歩き、階段を降りてリビングの扉に手をかけてそっと耳を澄ませた。
 静寂――。
 ゆっくりと扉を開き、顔を覗かせた。
 夢で見た人影はなく、ソファで掛け布団を肩まで掛けて寝ている姿があった。目を凝らして見ると史帆は変異に気付き、少しだけ近寄ると卓也、明、京子……、一人足りない。由紀だ。
 テーブルには新しく出された飲みかけのペットボトルが四本あった。
 三人を起こすのではなく、史帆は外へ出た。
 階段をゆっくりと降り、昨日カップ麺を作った場所へ行くと蓮の死体があった。そしてもう一つ、首のない死体が蓮の隣に転がっていた。服装で由紀だとわかった。
 「ひっ!」
 史帆は腰が抜けてしまい、よろめきながら数歩後ずさりして崩れ落ちた。
 ――早くみんなに伝えないと。
そう思い立ち上がろうとしたが下半身が言うことを聞かない。
 やっと立ち上がり、ふらつく足で何とか階段を上り玄関を開け、リビングに入った。
 ソファに寝ている三人を起こそうとソファの前に来たその時、べちょっと水を踏んだような感覚が履いている靴下越しに伝わった。
 一番手前に寝ていた京子の顔の所々と白いソファが黒く染まっており、視線をだんだんと下に向けると黒い何かは足元まで続いていた。
 嫌な予感がしてしばらく動けなくなった。
 昨日までは開いていたカーテンは閉まっており、そこから差し込まれる日の光に照らされて確信した。
 ――由紀の血だ。
 「京子!明も卓也も起きて!」
 肩を揺すられ目を覚ました京子はまだ眠そうな目をしていた。
 「京子、横」
 史帆に言われるがままに首を動かすと、京子は目を見開き絶句していた。
 「由紀。殺された……」
 京子はそのままの顔で史帆を見た。
 「由紀はどこ?」
 「外。蓮の横に並べられてた」
 明と卓也も目を覚ました。
 「もう朝か」
 そう言って立ち上がり、明は史帆と京子の方へ目をやると驚愕に目を見開いた。
 「血か?……誰の?」
 「……由紀。蓮のところで死んでいた」
 卓也も起き上がったがその光景に言葉が出なかった。
 「由紀。由紀!」
 名前を叫びながら京子はリビングから出て行った。その後を追うように史帆、卓也が出ていき明も続こうとして、ふとキッチンの方を見ると立ち止まり、すとんと尻餅をついた。
 「うわああああ!」
 そこには由紀の生首が置かれていたのだ。
玄関を出る寸前に悲鳴を聞いた京子、史帆、卓也は引き返した。
 「どうした⁉」
 明に駆け寄り、明の目線の先を見て卓也もまた尻餅をついた。
 「う、嘘だろぉおおお!」
 「きゃああああ!」
 次に駆け寄って来た京子も崩れ落ち、史帆は青ざめた顔をして言葉も出ず突っ立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...