死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食

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メレニア・メイジ編

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プリシラはメディチ家に仕える騎士に拘束されると、そのまま自室へと連行された。
そして自室へと戻されると、部屋の中に一人、廊下側の扉の前に一人と、騎士がプリシラを見張るために配置された。
だが、いずれの騎士もプリシラに同情的な視線を向けていた。

(それもそうよ)

プリシラは当たり前のようにその視線を享受する。
階段の周辺にいた人たちは、メレニアの気迫と、その場の周囲の雰囲気に呑まれてプリシラに険のある視線を浴びせてきたが、少し考えればプリシラがロザリーを階段から突き落とすはずがないことは誰にでも分かる。なぜなら、プリシラにはロザリーを害そうとする動機がないのだから。
逆行前なら、実の娘である自分が虐げられているというのに、家族から愛されているロザリーが許せないという嫉妬から動機づけは可能だろう。
だが、今回の時間軸ではプリシラは周囲の人たちから虐げられていないし、ロザリーを苛める母の責め苦にも参加していない。それに、ロザリーにしつこく声をかけられたとしても、困惑した様子を見せども、決してロザリーを虐げるような振る舞いはしなかった。だからどう考えても、プリシラがロザリーを害そうとする理由などないのだ。
それに、騎士は罪人を取り締まる憲兵のような役割を担っていると聞く。そういった経緯もあり、この騎士たちはプリシラが無罪だということをおおよそ察しているのだろう。

プリシラは騎士たちの憐憫の視線を受け止め、それから本を読むふりをして先ほど中断された考え事について再び思いを馳せた。

まずはロザリーが階段から突き落とされた時期が半年早いという点について考えこむ。

(私が逆行前とずれた行動をしてしまったからかしら?)

プリシラが逆行前とは異なる行為をしたことにより、逆行前と逆行後で、プリシラを取り巻く状況は大きく変わった。それにより、プリシラが歩むべきはずだった未来が大きく変わってしまったとしても、特段プリシラが驚くようなことは何もない。

(けれど、少し困るわね)

復讐するにあたり、プリシラは入念に計画を練っている。
今回の件は自分が一度体験していることだからあまり焦る要素は無い。
だが、もし自分の身に、予測不可能な何かが生じてしまったのなら——。
そこまで考えて、プリシラは小さなため息をついた。

(少し注意する必要がありそうね)

プリシラは、頭の片隅に、今の考えを留めておくように入念に意識する。
そして今後の計画には、いかなる出来事にも対処できるように複数のパターンを用意しておかなければと、自身に念を押しておく。

そして、次に考えたのは……

(なぜ、ロザリーは今回の時間軸であれほど酷い怪我を負っていたのかしら?)

前回の時間軸では、ロザリーはプリシラが犯人に仕立てられた後、ぴんぴんとした様子で「お義姉様が何もしていないと私は信じていますわ!」と発言してくれた。その言葉のおかげで逆行前はプリシラが罪を被る決め手となったというのに、ロザリーは今回そんな証言ができないくらいに酷い傷を負っている。

(はぁ……逆行前の私は気づかぬふりをしていたけれど、ロザリーの本性を知った今の私にならおおよその察しがつくわ……。どうせ前回の時間軸では、ロザリーとメレニアが結託して、私を貶めようとこの事件の犯人に仕立て上げたんでしょう?
けれど……なぜメレニアは、今回の時間軸ではロザリーにあれほど酷い怪我を負わせたのかしら? 何か二人の間に亀裂が生じるような出来事が起こったの?)

そうしてプリシラは、この逆行後の半年間の生活を回想し、それから数十分後、「ああ」と、何かに気づいたように一人でに頷いた。

(そういえば、逆行してからロザリーはまだヨハネスに出会っていないものね)

プリシラはそれで辻褄が合う、と何度もコクコクと頷く。

実は、メレニアは幼い頃からダミアン……つまり、プリシラの兄に懸想していた。
そのことは誰の目から見ても明白で、幼心にプリシラはメレニアが義姉になるかもしれないと恐怖していた時期さえあったほどだった。まあ、今はメレニアの実家が貴族の爵位を剝奪されてしまったのでそんな心配は無いのだけれど……。

それで、この話になぜヨハネスが関係しているのかだが、ヨハネスと出会う前のロザリーとメレニアの関係は、決して良いものだとは言えなかった。

メレニアの想い人に、取り入るように近づくロザリー。
ヨハネスと出会う前のロザリーは、メレニアにとって恋敵だったのだ。
そして実際、ロザリーは兄に想いを寄せているかの行動や発言を何度も繰り返していた。
だが、これも、ロザリーがヨハネスと出会う前の話。
ロザリーはヨハネスという超優良物件と出会ってからというもの、彼女はダミアンとただの仲の良い兄妹の関係に戻り(兄はロザリーに想いを寄せていたが)、そしてご存じの通り、ヨハネスをプリシラから奪い取り、見事婚約者の座を手に入れた。
だが、ロザリーがヨハネスと出会うのは、ロザリーがメディチ家に迎え入れられてから8か月後……つまり、今から二カ月後の話である。

ロザリーが階段から突き落とされてプリシラを犯人に仕立て上げるというこの事件は、ミレーヌから苛めを受けて、自分の思い通りにいかない焦りから事を急いたロザリーが提案したのか、ロザリーとダミアンが睦み合っている姿を見て、その嫉妬からメレニアがロザリーに提案したのか分からないが、いずれにせよ、逆行前とは異なる様々な要因が重なって、嫉妬に駆られたメレニアが、ロザリーを階段から本気で突き落とし、ロザリーが怪我をするという事態に繋がったのだろう。

プリシラが一通り頭の中を整理していると、いつの間にか日は沈み、外の景色は月の光がはっきりと見える闇色へと染まっていた。

(もうこんな時間)

プリシラが物思いにふけてからどれほどの時間が経ったのだろう。
プリシラは窓の外から見える宵闇を見て(いつもならもう就寝している時間ね)と察し、寝間着に着替えようと、緩慢な動作で自分の衣服へと手をかけ……それから顔を赤らめて、部屋の扉の前に立つ騎士をおずおずと見上げた。

「あのお……」

プリシラが遠慮がちに声をかけると、顔から火が出てきそうなほど真っ赤に頬を染めた騎士が「女性の騎士を呼んで参ります! 失礼いたしました!」と、扉を思いっきりバタンッと閉めて部屋から立ち去った。ちなみにだが、廊下の前に立つ騎士も男である。

(なんで私の部屋で私を見張る騎士が男なのよ)

なぜ女性の騎士を娘の部屋に置いておこうとしないのか……そんな初歩的なミスさえ犯すメディチ家の人々に頭を抱えながら(まあ、プリシラにとっては都合が良かったのであえて指摘はしなかったが)プリシラは行動に移す。
騎士が女性騎士を呼びに行っているとはいっても、あまり時間は無いだろう。

プリシラは、まず自分がいつも使っている紙とペンが入っている机の引き出しを開けたが

(……やっぱりない)

家族はやはりプリシラが外部との連絡を図ることに感付いたのか、プリシラの自室には、紙の代わりになりそうな本はあっても、インクや文字を書くペンなどは既に押収されているようだ。

(こういう所は周到なのよね)

プリシラは家族の顔を思い出して、はぁと小さなため息をつく。
だが、カツカツカツ……と、騎士が階段を上ってくる音が聞こえて

(ああ、準備しておいてよかった)

プリシラは文鳥に「 」と告げ、そのまま鳥を窓から放した。
それから急いでプリシラは寝間着に着替えると、空になった鳥籠をクローゼットの奥深くにしまった。

だが鳥籠を隠し終えたその時、トントンと、部屋をノックする音が聞こえた。
プリシラは急いで忍び足でベッドに潜り、それから「どうぞ」と返事をする。

「失礼いたします。私は——」

そして間一髪部屋に足を踏み入れた女騎士に、どくどくと音を立てる心臓を押さえながら、何食わぬ顔で対応をするのだった。

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