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終章
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しおりを挟む「……」
プリシラはユーリから与えられた本を捲っていた。古い本だが、どうやらこの本は他国の書物を翻訳した物のようだ。所々文章がおかしくて少し読みにくい。
本の内容は植物に関する物だ。植物の花言葉や生態、またそこから生成できるものなど、おおよそボナパルトの書物では一生蓄えられないであろう知識がこの本に詰まっていた。最初はユーリのプレゼントに悪態をついたプリシラであったが、どうやら撤回しなければならなそうだ。ユーリが授けてくれた指輪も、酢で錆を落とすと獅子を象った美しい指輪がそこに現れた。流石に指に嵌めるのは躊躇われたので、チェーンに通し、ネックレスのように首にかけることにした。
プリシラは本を捲ってっていくうちに、メディチ家の庭園で植えられている花々もこの植物図鑑に記載されていることに気付いた。そして、窓辺に近づき、庭に植えられている花々と図鑑の花を照らし合わせて……違和感を覚えた。もし、自分の直感が正しければ……これは、恐ろしいことだ。
プリシラは兄の元へ駆けた。
ダミアンは自室の椅子に座って、黙々と紙の束にサインしていた。
「……お兄様」
プリシラが掠れた声を出す。
「……お兄様は、知っていたのですか?」
プリシラの脈絡のない言葉に、ダミアンは眉を顰めた。
「急にどうした?」
「メディチ家がロートリンゲンと行っている交易のことですわ。お兄様は、お父様のお仕事を手伝っているでしょう? 我が家から宗主国に何が輸出されているのか知らないんですか?」
「……もちろん知っている。医療用の薬剤だろう? 痛み止めのはずだ」
「そうです……けれど……」
たしかにそういった一面もある。だが、ダミアンはアレのもっと恐ろしい側面を知らないのだろうか?
プリシラは兄の顔を見上げる。
だが、ダミアンは心底不思議だという顔を浮かべるだけで、彼が真実を知っているとは思えない。
「……いいえ、なんでもありません」
プリシラは唇を嚙み締めて、部屋から退出した。
後ろで兄が何かを叫んでいる気もするが、兄の声に応えようなんて言う気にはさらさらなれない。プリシラは聞こえないふりをして、廊下を速足で歩く。
(おかしいと思った)
数か月前、ロートリンゲン帝国とボナパルト王国の二国間で会談が開催された理由がようやく分かった。これでは、プリシラが復讐を果たす以前の問題だ。
「お父様!」
執務室の扉を開き、父の姿を視界に入れた途端プリシラは叫んだ。そして、驚いて固まっている父を気にも留めず、プリシラは父の目の前にある机に片手をつき、本のあるページを父の前にずいっと押し付けた。
「これはどういうことですか?」
それだけで、ダグラスにはプリシラが言わんとしたことが分かったらしい。
「……分かったのか」
ダグラスが言ったのは、その一言だけだった。
すぐに顔を下に向けると、元の作業に戻る。
「お父様、これでは……」
プリシラがごくりと息を呑む。
「先に話を持ち掛けてきたのは王族だ。私はメディチ家復興のために、協力したに過ぎない。……もうこれ以上お前と話すことはない。出ていきなさい」
ダグラスはプリシラを手で払うと、彼女は父の指示に従い、部屋から退出した。
(王族もグルだったのね!)
プリシラは頭を抱える。
人口も軍事力も世界トップクラスのロートリンゲン帝国に仇を成そうとするなんて!
事実、ボナパルト王国は100年以上前、ロートリンゲン帝国の圧倒的な軍事力を前に、赤子のようにしか抵抗できず従属国になったのは、ボナパルトに住む住人であれば誰でも知っているはずだ。しかも、その大戦により定められた条約で、ボナパルトの軍事力は他国から侵略された際の、自衛のための最小限のものしか認められていない。
この国は終わりだ。
「……」
でも……プリシラにはまだ成すべきことがある。
プリシラが決意を胸に面を上げたその瞬間
「捕えろ!」
と、プリシラの両腕は何者かに拘束され、「っ!」
頭に鈍い衝撃があり、プリシラは意識を失った。
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