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第二章
No.32 友達
しおりを挟む「じゃあ、カレンが能力を使って探し出し、その化け物級の蜘蛛をリリィが蹴散らしたって事か?」
「そうだよ。それも操りを自分で解いたんだ!」
セルビリアの医療室よりもずっとずっと何倍も広いレイドールの医療室に、二人の話し声が響き渡る。
セルビリア、ティナンタート、ナルダの兵士達はそれぞれの国へ帰り、レイドールの殆どの負傷者達はもう仕事へと向かった。
ファルアロン国奪還任務に選抜された兵士達の中に負傷している者はギル以外いない。よって、この医療室にはギルとゾーイ以外誰もいなかった。
「へぇ、凄いな!リリィの奴。」
「ちょっと。僕も凄く頑張ったんだよ。」
「俺だってぶっ倒れるまで頑張ったよ!」
二人共、腹を抱えて笑った。
誰もいないのだからお構い無しだ。
笑いがやっと収まり、ギルは笑い涙を拭いながら何故か嫌な笑みを浮かべた。
「でも、リリィに助けられたんじゃあ、シンの心の内は穏やかじゃないだろうな。」
「え?どうして?」
「どうしてだって?おい、ゾーイ。」
呆れた様に首を横に振ってみせるギル。
が、ゾーイが自分同様に薄ら笑いを浮かべている事に気付き、両手の人差し指と人差し指を二、三度くっつけた。
そして二人はまた大きく笑い声をあげた。
何も解決はしていないし、本当に大変なのはこれからだと確かに理解はしていた。
今日の夜にはレイドールを出て、夜明けまでにはファルアロンにいる。またあの戦場がやって来る。
だが、ひとまずは平和になった。こうして志願者時代と同じ様に馬鹿みたいに笑い話をする時間が、二人には必要だった。
「もうだいぶ良いみたいだね、ギル。」
ゾーイが言った。昨日の夜中に目覚めた時、ギルはベッドから上半身を起こす事すら一人では出来なかった。
ギルは心配無用、と両足を布団の下で左右に動かしたり上げ下げしたりして見せた。
「絶好調とまでは言えないし、まだ能力を発動させるのも時間がかかるけど、身体は問題無く動かせるさ。」
「じゃあ出発までには絶好調だね。」
「そりゃあ、勿論。で、作戦会議は?」
「今日の早朝に終わったよ。」
その言葉にギルは目を見開いた。
終わっただって?自分は呼ばれていない。ずっとここで暇を持て余していた。
不満そうに口をへの字に曲げるギル。ゾーイはその反応に少し苦笑いした。
「君は安静にしておかないと。大丈夫だよ、こうやって僕がその作戦を教えに来たんだからさ。」
「ふーん。お前が来てからもう数十分は経ってるけど一切それらしい話はしてないぞ。」
「まあ確かにそうだね。でもだって、すぐに話を済ませて戻ったらその分働かされちゃうじゃないか。」
そのゾーイらしい理由にギルは思わず笑った。
ゾーイの噂は全ての兵士達に知られていた。きっとあの時にいた他の国の兵士達が広めたんだろう。
西の大陸出身者。アラン、キキと共に二年前の戦争時にセルビナ国へとやって来た、生を奪う死神のナーチャー。
ボスの養子である事を甘えにサボりまくる、最下ランクの超問題児。そう言われ続けた志願者時代からは想像も付かない程、今のゾーイは評価が高かった。
大蜘蛛の気配を探れるという事もあり、レイドール国はゾーイを過労死させんばかりに働かせた。
もう気配は感じないとどれだけ言っても、本部の周りをグルグル回って気配を探れと言われ、昨日は騒ぎが収まってから(途中で屋上へ逃げたが。)寝るまで、今日は早朝から今まで作戦会議以外は歩き詰めだったのだ。
わざわざギルに作戦を伝えに来たのは、ゾーイにとってサボる言い訳に過ぎないのだろう。
「で、どう動くんだ?」
「そんなに難しい事じゃないよ。ギルがカトレナさん率いるヒーリス隊と共にファルアロン軍の基地へ向かって派手に暴れる。その隙に僕がクラドさん率いるディスター隊、ウィンダ隊と共に大蜘蛛を探し出して始末する。」
そんな感じだと思う、とゾーイが首を傾げた。
ギルは曖昧な声を出した。簡潔過ぎないか?基地に行く移動手段は?派手に暴れるとは具体的に何を?本当にそっくりそのままクラドは言ったのか?
もし同じ事を目の前でクラドやカトレナが言ったのであれば素直に頷けるかもしれない。が、ゾーイに言われるとどうしても不安になる。
「まあ、出発したらもう一度詳しくクラドさんが説明してくれるよ。」
「お前なあ...」
ヘラヘラと笑うゾーイに、ギルは心底呆れた。
が、同時に安心した。
噂がギルの耳に入った時はかなり驚いた。
ゾーイが何だか凄い事は前から感じていた。だけど実際にその感じていた事が事実だとわかると、やっぱりそうだったんだ、とはならなかった。
が、どんな噂が流れようがどんな過去が暴かれようが、このゾーイという少年はやっぱり問題児でサボリ魔で適当な性格で、馬鹿な話をして笑い合える自分の親友なのだと。
ギルはそう確信出来た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よう、辛気臭いな坊主!」
「...何なんですか。」
いきなり肩を強く叩かれ、シンはよろけながらも後ろにいる人物を睨み付けた。
フルマスクにフード。顔は全く見えないが、こんな事を仕掛けて来る人物はガーディアンで一人しかいない。
「...マドズさん、警備中では?」
「息抜きだ、付き合え。」
「はい?嫌ですよ、仕事中です。」
「何言ってやがる、先輩の息抜きに付き合うのも後輩の仕事だろうが。」
「...はあ。」
シンは思わずため息を吐いた。
何故この人は無駄に絡んで来るのだろう。
そう思いながらも渋々身体を動かし、上機嫌なマドズの後ろへと着いて行った。
マドズとシンは屋上へ来た。
気配を確認し、誰もいない事がわかるとマドズはフルマスクを取り、被っていたフードを脱いだ。
「ガーディアンってのは本当に堅っ苦しいよな、顔を見せちゃいけないんじゃあ、そこら辺で気楽に飯も食えないし喫煙所で煙草すら吸えない。」
そう言いながら、両腕を空へ向けて伸ばすマドズ。シンもフルマスクとフードを取った。
確かにこの解放感は毎度毎度心地良い。
「お前もどうだ?」
煙草をシンの方へ向けながらマドズが言った。が、シンは盛大に眉を顰めながら、向けられた煙草を睨み付けた。
「俺は未成年ですけど。」
「ふん、優等生のクソガキめ。」
マドズがニヤリと笑いながら言った。
煙草の煙がレイドール国の空に消える。
様々な煙に侵され濁っている空気が、マドズの吐いた煙によって更に薄汚れて行く気がした。
二人共暫く無言を貫いた。
が、徐にマドズが口を開いた。
「お前のガールフレンドは中々凄い才能の持ち主だったようだな。悔しいか?ん?」
リリィの事を口に出す時は、本当にいつも人を小馬鹿にする様な嫌な顔をしている。シンはそのマドズの顔が死ぬ程不快だった。
勿論、今もその顔だ。
「まあ、悔しくないと言えば嘘になりますね。」
「ははは。ファルアロン国奪還任務が終了すれば今までの訓練が天国だったと思えるくらい厳しく教えてやるよ。お前のガールフレンドはもうカトレナを越える程の質を目覚めさせたからなあ。」
「...本当にそうなんでしょうか。」
シンが呟く様に言った。
マドズは片眉を上げた。舌打ちをするか、いつもの様に睨み付けて来るかしてくると思ったのだが。今のシンはとても暗い表情で俯いている。
「そんな良いものに感じませんでした。凄く嫌な予感がするんですよ。あれはリリィだが、リリィじゃない。」
その言葉にマドズは何も言わなかった。
煙を吐き、消え行く煙を目で追う。
暫くの沈黙。
限界まで短くなった煙草を地面に押し付け、マドズは話題を変えた。
「ゾーイの事、聞いたか?」
シンは少し間を空けてから頷いた。
勿論、耳に届いている。アラン、キキと共に戦争時に西の大陸からセルビナ国へ渡って来たと。
「で、どう思った?」
「...別に何も。何故ですか?」
シンは心から疑問に思い、言った。
ゾーイがセルビナ国出身者では無い事など志願者時代から知っていたし、あの特殊な能力もこの南の大陸では聞いた事の無いものだ。
無法地帯といわれる西の大陸出身と言われたが、ゾーイは志願者時代にそれらしき事を言っていた。
ただ、謎が解けただけだ。
それがどうしたと言うのだろう。
眉を顰めてマドズを見ると、何故だかマドズは心底満足した様に笑っていた。
「そうかそうか。うん、今の質問は忘れてくれ。何も無いならそれでいい。」
「何ですかそれ。聞いておいて...」
「...あいつは俺達が想像もつかん程の辛い思いをして生きて来た人間なんだと、そう俺は思う。それ故に周りから疑いや不信の目を向けられる事が多いだろう。」
「だがまあ...お前がそうやって変わらず友達だと思えるのなら、それが一番理想的だ。あいつのあの死んだ様な目もいずれ光を纏うだろうよ。」
シンは呆気にとられた。
ゾーイがどう、とかでは無い。
マドズが他人を考え、心配している発言に心底驚愕してしまったのだ。
「たまには良い事言うんですね。」
「殴るぞ。」
マドズは笑った。シンも少し笑った。
が、すぐにその笑みを取っ払った。
シンにはそれよりも、その話の中で気になる事があったのだ。
聞くか、聞かざるか悩んだが、マドズが出入り口へと向かいかけたので、意を決して口を開いた。
「あの、リーダーの...アランさんは」
そこで言葉を切った。
マドズが制止の手を出したからだ。
すぐにシンにも、その理由がわかった。
マドズとシンの無線が鳴ったのだ。
『全員今すぐ建物から出て外へ来てくれ。』
「了解。10秒で行く。」
クラドの声。珍しく焦りの見える声だ。
マドズはすぐさま短く返事を返し、他のガーディアン達も返事を返す。シンは一番最後に返事をした。
「話はまた今度だ。飛ぶぞ。」
「はい。え、飛ぶ?」
発言に疑問を抱いた時には、既にマドズは屋上の柵を飛び越えていた。
この建物は何十階建なのだろう。わからないが、シンもため息を吐きながらディスターを発動させ、一つ深呼吸をしてからマドズに続いた。
「本当に10秒で来たね、流石。」
地面に着地するなり、クラドが言った。
クラドの他にゾーイとギルがいた。
表情は見えないものの、三人から醸し出される雰囲気から察するに一大事らしい。
何があったのか、とシンが口を開く前に、また二つの着地音が聞こえて振り返った。
リアムとララだ。集まって来た者の中で誰一人ちゃんと出入り口を使っていない。
「カトレナは車を取りに行ってる。」
だから、これで全員集まった。
クラドは重苦しく口を開いた。
「セルビリア本部から連絡が来た。」
「リリィが操られていると。」
シンは驚愕に何も言えなかった。
マドズも、リアムもララもそうだ。
ギルとゾーイは既に話を聞かされていたらしく、ただ無言で地面を見つめている。
「首領室へ向かいボスを襲撃したが、ガーディアンにより今拘束されている。そして、ついさっき入った情報によると侵入者が一人現れたらしい。」
「俺達も今すぐ国へ向かおう。ギル、君はまだ体調が戻っていないから、リアムとララ、シンと共に車に乗って向かってくれ。」
「俺はもう大丈夫です!」
「クラドさん、俺も走って...」
「ギル、大丈夫じゃないよ。向かう為に能力を使って、いざリリィの操りを解く時にへたってしまえば意味が無い。それに狙われる可能性がある。何処でどう情報が回っているかわかったもんじゃないからね。」
「そしてシンはディスターのナーチャーの中で一番質が低い。セルビリアの警備を突破するなら侵入者はかなりのやり手だろうし、まず敵わない。ギルと一緒に車に乗り、警護するんだ。」
口答えは無しだよ。
クラドがそう厳しい声で言った。
「俺とマドズ、カトレナ、ゾーイは全速力だ。先に行って、カトレナがリリィの拘束に加わり、俺とマドズで侵入者を拘束する。ゾーイは大蜘蛛の気配を探り、見つけ次第排除。仮に見つけられない場合は俺とマドズに加わる事。いいね?」
全員、強く頷いた。
同時に、近くに車が停まった。そして降りてきた人物はカトレナ。既に青く鋭いオーラを纏っている。
クラドとマドズが色濃いディスターを発動し、辺りは熱気に包まれた。
そして、肉眼でやっと追える程の速さで四人はセルビナ国へと走り去った。
シンとギルも顔を見合わせ、車に乗り込んだ。
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