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第二章

No.31 アルビノ

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完璧だった。返り血は一つも付いていない。角度も距離も全て計算して自分は動いていたらしい。

リリィは混乱し、恐れ、震えていたが、その全てが表には出てくれなかった。本部の中を堂々と歩いても、誰もリリィの異変には気付かない。

まず、本当に自分は操られているのだろうか?リリィはそこも疑問に思っていた。
意識はハッキリとしている。それに身体も、言うことを聞かないというより行動を制限されている、と表現した方が正しそうだ。

自分が何処へ向かうのかわかっていた。
首領室だ。何故そこへ足を向けるのかはわからないが、そこへ行かなければいけないのだ。


「また感知シールドに揺らぎがあったとガーディアン本部から報告があったぞ。」

「またか?まあ、不具合だろうが...何処から?」

「西の方角だそうだ。それで西の支部へ連絡を入れたそうだが、繋がらないらしく...」


途中、そんな会話が聞こえた。
通路を進み、階段を上る。道は知っている。

ブロウィの姿が見えた。忙しそうだ。
が、リリィの姿に気付いて一瞬笑いかけてくれた。リリィもそれに応えて笑みを返した。

何故私は笑っていられるのか。
わからない。

そして遂に首領室が見えた。扉の前に護衛らしき男が二人いる。白い服。ガーディアンでは無い。


「ボスに何か用か?」


一人が言った。その表情は穏やかだ。
当たり前だ、相手は味方、それもガーディアン。まるで警戒心など抱いていない。
リリィは口を開いた。そうだ、報告するんだ。


「例の大蜘蛛の事で、気になる点が。」


リリィの口は勝手にそう言った。
勝手に?違う、私は言おうと思って言った。確かにそう言わなければと考えて口に出したはずだ。では、それで合ってるのでは無いのか?


「そうか、君が例のヒーリスの子か。」

「はい。中にリーダーも?」

「ああ、いるよ。少し待ってくれ。」


もう一人の護衛がそう言って、首領室の扉を叩く。数秒後に扉が開き、相変わらずフルマスクにフード姿のアランが姿を現した。


「失礼、彼女が大蜘蛛の件で報告があると。」


リリィとアランの視線が交わる。フルマスクから覗く金色の目が鈍い光を放ち、リリィは思わず身震いした。
アランは暫く無言のままリリィを見続けたが、やがて低い声で中に入れと言った。


「失礼致します。」


深々と一礼し、リリィは初めて首領室に入った。すぐ後ろで扉が閉まり、外の音が遮断される。という事は、中の音も遮断されるのだろう。

グランスはソファに座って資料を広げていた。気難しい顔をしている。が、リリィを見て優しい笑顔を浮かべた。


「やあ、リリィだね。座りなさい。」

「いえ、私はここで。」


やんわりと断り、リリィは向かいのソファの後ろへ立った。アランはグランスの後ろに立っている。丁度真向かいにいる形だ。


「元気になって良かった。本当に。」

「有難うございます。」


笑顔を浮かべながら、リリィは意識を集中させた。あのキキという世話係の女は出払っているらしい。この部屋には自分以外にグランスと、アランしかいない。

グランスが何か言っている。が、ただの耳障りな雑音でしか無く、言葉として聞き取る事は出来なかった。

リリィの鼓動が大きくなる。自分が今からする事をわかっていた。この位置に立った時から腕は後ろにやっている。ポーチから武器を取り出す事は容易だ。

リリィの手がポーチに触れた。
アランの肩が少し動いた気がしたが、変わらず無言で立ち竦んでいる。きっと気付いているのだろう。


「...グランス様、贈り物が。」

「贈り物...?誰からだね?」


グランスが不思議そうに首を傾げる。
アランの目が一段と強く光る。

そしてリリィの身体は実行した。


「ヒューラ様から。」


そう言うと同時にガン・キューブを発動し、グランスの胸辺りに向けて一発撃ち込んだ。

が、それと同時にアランも動いた。後ろからグランスの頭を乱暴に掴み、強引に横へ引っ張る。ソファは抉れ、グランスはソファから落ちて床を勢い良く転げた。

リリィはすぐに二発目を撃った。が、その時には既にアランが立ちはだかってディスターを発動させていた。


「ど、どういう事だ...!?」

「おい、隠れろ。」


動揺するグランスに、アランが鋭い声で言った。グランスの腕から血が出ている。どうやら一発目を掠めたようだ。

上出来だ。リリィは口角を上げた。


「グランス様!!」


扉が開き、外にいた二人の護衛の男が入って来た。流石にガン・キューブの発砲音は完全に遮断出来るものでは無かったらしい。
二人はガン・キューブをグランスとアラン目掛けて撃ち続けるリリィの姿に目を見開いた。


「まさか、まだ操られて...!?」


言い切る前に、リリィが片腕を二人の方向へ向けた。その手には武器も何も持っていない。
が、次の瞬間には二人の男の身体は吹き飛ばされ、壁にクレーターを作ってぺしゃんこになった。


「おい来るな、死ぬだけだ。ヒーリスのナーチャーを呼んでこい。それとクラドに連絡を、ギルをこちらへ寄越せと言え。」


騒ぎを聞きつけて来た者達にそう呼び掛け、アランは右手をリリィに向けた。あの時、ラグビズにやったように。
が、リリィに熱は届かなかった。自身にシールドを張っているようだ。

ガン・キューブを撃ち、シールドを張り、同時に拒絶までやってのけた。アランは小さく舌打ちをした。貰い物の能力を見事に使い熟しやがって、と。


「アラン、殺しては駄目だ!」


後ろからグランスが叫んだ。焦ったのか、隠れていた物陰から身を乗り出している。
リリィはその機会を逃さなかった。ガン・キューブを放り投げ、手を向けて意識を集めた。

凄まじい音と共に、赤と青が衝突した。
グランスに向けたリリィの拒絶を、アランがディスターで弾いているのだ。

ディスターでは拘束は不可能だ。
そう思った時、ようやくガーディアンが首領室へ到着した。


「リーダー!!」

「パメラ、ダン。こいつを拘束シールドに閉じ込めろ。有りったけの力でな。舐めてかかると殺られるぞ。」


豹変したリリィに二人は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いて行動した。リリィの左右へと素早く移動し、ヒーリスのガン・キューブを発動し、構え、そして撃った。

リリィはアランの攻撃を押し返す事に精一杯で、その攻撃には流石に手が回らなかった様だ。最も簡単に二つの青い閃光はリリィの身体を刺した。


「よし、閉じ込めた!」

「ぐっ...」


拘束シールドは、身体と同じサイズの入れ物に閉じ込められた様な感覚だった。外から身を守るシールドを、裏返した様なものか。

リリィはヒーリスを放出してみた。成る程、全て壁にぶち当たって返って来る。が、破けない事は無さそうだ。

リリィは更に意識を集中させた。


「この子、何処にこんな力が...!?」

「リーダー、これではすぐに破られる!」


拘束シールドがビリビリと嫌な音を発し、パメラとダンのガン・キューブを持つ手が震えた。


「だから言ったろう、何とか持ち堪えろ。クラド達が連絡後すぐに全速力で向かっていたとしてもあと40分はかかる。それまではこうするしか無い。」

「は、はい!」


さて、どうするか。アランは考えた。
とりあえずグランスを安全な場所に移動させなければ。そして拘束シールドにあと二人は追加したい。キキは丁度北の支部へ出た事になっている。

扉の方へ顔を向けると、見守る事しか出来ない凡人達が数十人ほど突っ立っていた。その間抜けな姿に苛立ちながら、アランは扉の方へ向かった。


「邪魔だ。何も出来ない場所に固まるな。そんな暇があるなら何か出来る場所へ行け。」


目の前に立って吐き捨てる様に言い放つと、群がっていた者達は一斉に退いた。

が、レイドールの時の様に、この状況を打破する事が出来る者は封印のナーチャーである彼しかいない。
大蜘蛛が何処かにいるかも、国の隅々まで調べろ、等といった声がアランの耳に入った。


が、その全てが手遅れだ。
アランは気付いていた。扉の前に立ち、ゆっくりと近付いて来る気配を待った。


「リーダー、ボスを安全な場所に...」

「そんな暇は無い。」


パメラの言葉にアランが短く言った。
二人は怪訝そうに眉を寄せたが、何が、と口を開く前に空気の異変に気が付いた。


「な、何だこれは...」


ダンが身震いした。首領室へと続く通路の先から痛い程の冷気が漂って来る。
パメラとダンはこの冷気を知っていた。ヒーリスを使い過ぎて限界を突破した際に、身体の芯に生じるものと同じだ。


「グランス、奥の部屋にいろ。」


何事だと物陰から顔を出すグランスに、視線を向けずにアランが言った。グランスは口を開きかけたが、アランの背中から溢れ出る殺気に当てられて声は出なかった。

グランスが奥の部屋へ入る音が背後から聞こえる。
そして前方からは、慌ただしい足音とガン・キューブの発砲音、幾つもの叫び声。

持ち場へ向かおうとしていた数十人が騒ぎに気が付いて首領室の前へと戻った。

冷気が更に濃くなる。来た。
通路の先に小さな人影。
アランは鋭く通路の先を睨みつけた。



「お人形さーん、無事?」


甘ったるい声が通路に響く。
現れた人物は可憐な少女だった。

構え、銃口こそ向けているものの、皆戸惑いを隠せないようだった。まさかこんな子供が現れるとは思ってもみなかった。
が、その後ろでパメラとダンは全身を震わせて怯えていた。あの異様な気配は同じヒーリスを持つ者にしか感じる事が出来ないのだろうか?と。


純白の、綿飴の様に柔らかいセミロングの髪。死人の様な白い肌に、濁りきった紺色の大きな目。
その目と同様の色の可愛らしいドレスに黒いコルセットを付け、その出で立ちは確かに警戒するに値しない。

が、アランは迷う事なくディスターを発動させ、ガン・キューブを前に構えた。


「その気配はお兄ちゃん?わぁ、久しぶり。」

「数年ぶりだな、アルビノ。」


そのやり取りに、他の全ての者達が驚愕した。
この謎の少女と知り合いなのか?

アルビノは嬉しそうに微笑みながら、軽い足取りで通路を歩き、近付いて来る。


「止まれ。」

「相変わらず怖いなぁ。」


アランの厳しい声色にも動じず、足を止めはしたもののアルビノはクスクス笑った。
よく笑っていられるものだ。すぐ側にいる自分達は鋭い殺気に当てられて、今にもへたり込んでしまいそうなのに。

アルビノは立ち止まったまま、アランに遮られた首領室の中を見ようと首を左右に揺らした。そして中を確認し、意識を集中させる為に瞼を閉じた。


「...ねぇ、私の愛しい彼はどこ?」

「ここにはいない。」


それが誰の事か全くわからなかったが、アランにはわかるらしい。アルビノはアランの素っ気ない答えに笑みを浮かべた。


「そう。でも、会えるんだよね。」

「お前がそれまでに生きていればな。」


その言葉に、今度は笑い声をあげた。
何が可笑しいのか。狂っている。薄気味悪い子供だ。

アルビノはようやく笑いを止めた。
アラン達を真っ直ぐに見据え、ゾーイ同様に一切の光を遮断した様な目を意地悪く歪ませた。


「じゃあ、それまで遊んでよ。お兄ちゃん。」












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