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第三章
No.37 謎
しおりを挟むそれから程なくして、アランが休憩所へと入って来た。
シン、ギル、カレンがソファから急いで(シンが何とも言えない表情をしている事に、マドズだけが気付いた。)立ち上がってクラド達の横へ移動した。
「待ってたよ。疲れているのにレイドール国まで行ってくれて悪いね。」
「...疲れているのは確かだが、仕方が無い。お前達は負傷しているからな。」
そう言いながら六人の横を通り過ぎ、空いたソファに崩れるように座り込んだ。
リリィとアルビノが去って行った後、とりあえずの安全を確認しアランはすぐさまレイドール国へと報告に向かった。
六人の視線を受けながら、ため息を吐いて凝り切った首をグルグルと回す。
カレンが飲み物を、と気を利かせて聞いたが、アランは掌を向けて断った。
「...それで、あっちは?」
「レイドールで同じく行方を眩ました男だが、リャンカの護衛部隊の一人だ。ナーチャーでは無いが、一般兵の中ではかなりの実力者で、信頼も厚かったらしい。」
護衛部隊。レイドール軍のトップシークレット機関の一つだ。という事は、レイドール軍の基地やレイドール国内の全てを把握しているだろう。
まずい事になった。クラドが表情を暗くした。
「そうか。ただ単に逃げ出しただけなのか?」
「いや、研究員が数人殺された。そしてあの大蜘蛛の死体をガン・キューブで木っ端微塵に吹き飛ばしたらしい。」
その言葉には、あまり驚かなかった。
ゾーイが殺した大蜘蛛は、騒ぎが収まってすぐにレイドールの研究所に運ばれた。そこで解剖され、解明に取り組まれていた。
自分がスパイか、又は操られているとすれば、去る前に必ず証拠隠滅の為同じ行動を取るだろう。
カトレナが小さく舌打ちをして口を開いた。
「大蜘蛛の事は何もわからず終いか...」
「いや。一つわかった事がある。」
全員の視線がまたアランに集まった。
それを確認し、アランは口を開いた。
「“あれ”はナーチャーだ。」
「えっ?」
思わず、ギルが間抜けな声を出した。
慌てて口を塞いだが、誰もそんな事に気を取られてはいない。誰しもが、ギルと同じく意味がわからなかった。
「どういう事だ?」
「言い方が悪かったな。正しくは、ナーチャーと同じ細胞の作りをしている、だ。」
手をヒラヒラさせて訂正するアラン。だが、正しい言い方に変えられても一向に理解不能だった。六人共眉を顰めたまま固まった。
「あの、人間以外の生き物にもナーチャーは存在するんですか?」
「...いや、聞いた事無いな。」
遠慮がちに発言するカレンに、マドズが首を振りながら答える。そう、皆そこに驚いているのだ。
人間以外に能力を覚醒させた生き物など、今まで聞いた事がなかった。あの恐ろしく異形な姿は、ナーチャーとして覚醒した為のものなのだろうか。
だが、それではまるでーーーー
「まるで幻獣だ。」
そうポツリと呟いたのは、シン。
全員の視線が、次はシンに向いた。
口に出すつもりは無かったらしく、あくまで心の中で呟いたつもりらしい。的となって少し焦ったが、すぐにその視線の全てが自分を否定するものでは無いと気付いた。
「...暗黒の時代が蘇りつつある。」
アランが静かに言った。
「支配者達と同じ力を持つ人間が各地で覚醒し始めているんだ、幻獣だって目覚め出していてもおかしく無い。ヒューラも言っていただろう、堅い脳味噌では到底考えられないような真実だとな。」
「...確かに、充分考えられるね。」
顎をさすりながらクラドが言った。
信じられない事だが、信じられない事ばかり起きているこの状況では、何だって信じてみるべきなのだろう。
「暗黒時代の事を少し調べる必要があるね。詳しく載っている本や資料は無いのかな?」
「あるにはあるが、俺達が既に知っている程度の事しか載っていないぞ。東の大陸の端にあるヴァレンシア小国は歴史を重んじ、幾つもの古書があるらしいが...」
「まあ、今からわざわざ行く用事でも無いな。ラギス国との戦いが終わった後でなら出向いてもいいだろうが。」
「まずは、ラギス国だ。その全ての謎も、ラギス国へ潜入しヒューラを捕らえればわかる事だ。」
話し込むクラド達の横で、ギルとカレンは顔を見合わせた。何だかとても壮大な展開になっている。到底話について行けない。
ふと隣にいるシンを見ると、睨んでいると捉えられても仕方が無い程の鋭い目線をアランへ向けていた。不思議には思ったが、ギルにはそこまで心に大きく残る事柄でも無かった。
「...あの、侵入者。」
不意に、クラドが言った。
「アルビノというガーロンの少女。君は知り合いだと言っていたね?あの能力は一体何なんだ?」
全員静まり返った。
クラド、マドズ、カトレナは何も言わずにアランの言葉を待ち、シン、カレン、ギルは驚いて何も言えないようだった。
知り合いだとは聞かされていなかったのだ。
アランは少し考え込むように目を伏せた後、ゆっくりと口を開いた。
「...あいつは西の大陸で知り合ったが、元はセルビナ国出身でヒーリスのナーチャーだ。」
「何?...ヒーリスだと?」
カトレナが思わず口を挟んだ。
それもそうだろう、ヒーリスの能力らしいものは何も使っていなかった。あのオーラは確かにヒーリスと似通ったものだったが、それでも全く別物だと思っていた。
「アルビノはヒーリスの突然変異者。お前達も目の当たりにしただろうが、あいつはオートで自分自身を治癒する。本来対象を治癒するものだが、他者の治癒は出来ない。そして今回わかった事だが、シールドは作れないが代わりに効かないらしい。」
「ヒーリスのナーチャーが限界を突破して死に至った場合、その死因は凍死だと知っているな?身体が凍え細胞が壊死する。だがあいつはそれを武器としており、その冷気を体内では無く体外へ放出するんだ。」
あいつを人間と思わない方がいい。
アランは最後にそう付け加えた。
不死身の少女の謎がやっと解けた。が、少女に対する策は何も思い浮かばなかった。
闇組織には様々なナーチャーが存在するという。今回初めてその中の一人を詳しく知る事が出来たわけだが、恐怖心がより強く芽生えただけだった。
そんな化け物がまだ何人もいるのか。ギルは無意識に身体を震わせた。
「セルビナ国から何故西の大陸なんかへ?どうやって知り合ったんだ。」
マドズが眉を顰めながら言った。
能力の事はよくわかった。残る疑問はそこだ。
アランは意外にもすんなり答えた。
「そこは詳しく知らないが...まあ、闇組織に攫われて来たんだろう。よくある事だ。出会った時は...」
そこで、アランは一瞬口を閉じかけた。
とても言い難い事の様に。が、誰かが催促の言葉をかける前に、アランは自ら続きを話した。
「俺が出会った時は、既にゾーイと一緒にいた。二人共かなり特殊な能力者だから気が合ったんだろう。ガキ同士で助け合って何とか生きていたようだ。そこから四人で行動するようになった。」
「え、ゾーイが...?」
「そうだ。あいつはアルビノと友人以上の、家族のような関係だった。」
ギルはかなりショックを受けたようだ。
ギル程では無くても、シンやカレンも同じように信じられないといった表情を浮かべている。
まあ、そうだろう。非情な闇組織の人間が、自分達の友人と過去に繋がりがあったのだから。
だがクラド、マドズ、カトレナはそこまで驚いてはいなかった。西の大陸とはそういう者達が集う場所だし、そこに少しでもいたのであれば、知り合いであってもおかしくは無いと流石に割り切れていた。
が、後の三人には無理だろう。
幾ら過去の事とはいえ、人もまだ殺めた事の無い彼等には到底受け入れられない事だ。
「まあ、過去がどうであれ、今や敵同士。」
三人の暗い顔を取っ払うように、クラドが言った。
「ゾーイ君は何も考えていないようで、全てをしっかり見据えている。潰さなければいけない相手だとちゃんとわかっているよ。」
「それはそうでしょうけど、でも...」
未だ暗い表情のギルが、クラドと床に視線を行ったり来たりさせながら口を開いた。
「昔の友達と、戦わなければいけないなんて。ゾーイは平気なんですかね...あいつは感情を全然表に出さないから、俺は心配です。」
少し、いやかなり、アランは驚いた。
アランだけでは無く、他の三人もだ。
てっきり、その暗い表情はゾーイの過去を受け入れられないが故のものだと思っていた。酷いだとか信じられないだとかいう言葉が出て来るものだと思っていた。
が、予想とは違いギルはゾーイを疑い責め立てるどころか、心から心配している。そして更に驚いた事に、シンとカレンも同じ考えの様だった。ギルの横でうんうんと何度も頷き、不安気な色を目に浮かべている。
その三人の様子に、クラド達三人は半ば呆れたような感心したような笑みを浮かべた。
「君達は優しいね。本当に、ゾーイ君は素晴らしい友達を持ったよ。だけどだからと言って二人を対峙させないわけには行かないんだ。」
「その通りだ。逆に、ゾーイ相手だと油断や隙が生まれるかもしれない。アルビノにはゾーイを当てさせるのが妥当だろう。」
クラドと、そしてカトレナの厳しい言葉。
それは三人もしっかり理解していた。何も反論はしなかった。
「して、リーダー。我らが宿敵ラギス国の喧嘩を買うのはいつ頃なんだ?」
その言葉を受け、アランは三人へ向けていた視線をマドズへと移した。
マドズは顔こそ楽しみで仕方が無いと輝いているが、目の奥底には殺気が見え隠れしていた。
そうだ、彼とカトレナにとっては、故国を潰した憎き相手でもあるのだな。
アランは全員の目が自分へと集まるのを待ち、そして答えた。
「五日後だ。各自準備しておけ。」
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