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第二章
No.21 封印のナーチャー
しおりを挟む三階。
他と同じく、三階も混乱状態に陥っていた。
ファルアロンの兵士が触れた他国の兵士から、また他の兵士へと伝染が広がる。
気付いた頃には、半数以上が操られていた。
「うーん、ファルアロン軍は皆殺しにして良し。ってのは良いんだけどな~。」
振り下ろされたソード・レックを避けながら、マドズがのんびりと言った。
ファルアロンの兵士は、連絡があってすぐ全員皆殺しにした。そんな事は朝飯前だ。
が、問題はその後。
今、自分にソード・レックを振り下ろしたのはセルビリアの男だった。
「ま、しょうがないよな。」
赤黒いオーラを纏い、マドズは同じ色のソード・レックを発動させた。
もう一度振り下ろされた攻撃を受け止め、溶かす。そして相手の顔面に突き刺した。
マドズの後ろにいるギルはその光景にギョッとした。
倒れ、頭から溶け出す男。その人物はセルビリア本部でも何度か見た事のある者だった。
「餓鬼、ぼさっとしてるな。」
前にいるラジャーンが言った。
ギルはハッとして後ろを振り向いた。
丁度、ナルダの兵士がこちらに向かってガン・キューブを撃とうとしているところだった。
ギルは間一髪で横に避けた。
が、その場所にも操られた兵士がいた。
体制を立て直す前に、その兵士がギルの肩へと手を伸ばす。が、触れる前にその腕が吹き飛んだ。
マドズのガン・キューブだ。
兵士は腕から順に溶け出した。
「ど、どうするんですか?」
「連絡待ちだ。味方は出来るだけ殺すな。まあ会議室の方もヤバい事になってるんじゃないか?」
「そんな...でもこれじゃあ、俺達が操られるのも時間の問題ですよ!」
「餓鬼の言う通りだな。マドズ、残ってる奴らを連れて一旦近くの部屋に隠れるぞ。」
ラジャーンの言葉に、マドズが頷いた。
「残ってる奴はこっちへ!一旦部屋に隠れる!」
大声が通路に響き渡る。
マドズの声かけに反応したのは、たったの数人だった。
その数人が一斉に三人の方へと駆け出す。マドズが一番近くにある部屋の扉を開けた。
レイドール、ナルダの兵士二人が到着し、ギルと共に部屋の中へと入った。
あと二人。ティナンタートと、レイドールの兵士。
「いそげ!」
ラジャーンが近付いて来る操られた兵士達の足元にガン・キューブを撃ちながら、焦り声で言った。
ティナンタートの兵士が到着した。
その数メートル後ろにはレイドールの兵士。が、間に合いそうに無い。
「伏せろ!」
今し方到着したティナンタートの兵士が叫んだ。黄色いオーラを纏い、ボウ・ウィンダを構える。
レイドールの兵士が上半身を屈めた。
それと同時に、ティナンタートの兵士が突風の矢を放った。その矢はレイドールの兵士の上を通り過ぎ、後ろにいた者達が一斉に吹き飛んだ。
最後の一人が到着した。
マドズはレイドールの兵士とラジャーンを部屋の中に入れて、左右の通路の天井、壁にガン・キューブを撃った。
四方八方から破片が飛び、兵士達の動きが止まった。
マドズは部屋に入り、扉を閉めた。
「この扉も壁も頑丈だ。ガン・キューブを数発受けても穴は空かないだろう。」
「...通常のガン・キューブならな。だが、ディスターの攻撃には耐えられるかわからんぞ。」
部屋の電気を付け、ラジャーンが言った。
マドズとラジャーン、ギル、そして四人の同盟軍兵士。マドズ以外の全員が息を荒げ、汗だくになっていた。
マドズは扉に寄り掛かりながら、口を開いた。
「外にいる奴らの中にはナーチャーもいた。が、能力は使って来なかった。多分、行動は操られても個々の能力までは操れないんだろう。」
「同意見だ。連絡があるまで待とう。」
最後に到着したレイドールの男が言った。そしてそのまま、自分の横にいるティナンタートの兵士の方を向いた。
「さっきは助かった。ありがとう。」
「礼なんていいさ。ウィンダの威力は抑えたから、誰も死んではいないだろう。」
「...ウィンダ?」
ギルが眉を顰めて呟いた。
あれは見たことの無い能力だった。と言っても、ディスターとヒーリス(と、ゾーイの良くわからない嫌な能力)しか見たことは無いのだが。
そのギルの疑問には、ラジャーンが答えてくれた。
「ウィンダは風を矢として操る、突風のナーチャーだ。ティナンタート国に多く出現する。覚えておけ。」
「へぇ...凄い。」
ギルが感心の声を出した。
ティナンタートの兵士がギルに疲れ切った笑顔を向けた。
ガン・キューブで壁が抉られる音が聞こえる。
姿を隠した事によって他へ散らばってくれるかと思ったが、そう上手くは行かない。部屋の中にいる七人も取り込むまで諦めないようだ。
「ナーチャーはどれくらいいる?」
マドズが不意に言った。
「俺とお前がディスター、ティナンタートの兄ちゃんがウィンダ。と、あんたも使ってたよな?ヒーリスのソード・レック。」
ラジャーンが一番奥にいるナルダの兵士を指差した。
その男は全員の視線を受け、肩を竦ませた。
「ヒーリスのナーチャーか。じゃあ、この部屋にシールドを張れるだろう。」
「そ、それはそうだが...こう何度もガン・キューブを受けては一瞬で解けてしまう。意味が無い。」
レイドールの兵士の言葉に、ナルダの男は首を横に振って震える声を出した。
その情けない様に、マドズが嫌味ったらしく大きなため息を吐いた。
「何だ、情けない。やる前から諦めるとは。ああ~カトレナの青鬼がいてくれたらなあ。」
そのとても嫌な言い方にギルは少しムッとした。(ラジャーンは横で声を上げて笑った。)
ナルダの男は弱々しくマドズを睨み付けた。
「お、俺が使いこなせていないんじゃない。無茶苦茶なお前達ガーディアンと一緒にするな!」
「わかってる、わかってるよ。」
そう言いながらも、マドズはまたため息を吐く。
ああ、他から見てもこの人達は無茶苦茶なんだ。と、ギルは少し安心した。
そんな中、ティナンタートの兵士がギルに向かって言った。
「君もガーディアンの服を着ている。新米だな、何のナーチャーなんだ?」
「え、えっと...」
ギルは何と答えて良いかわからず、思わず後ろにいるマドズに視線を向けた。
「あー、こいつか?この餓鬼はディスターでもヒーリスでもない特殊なナーチャーでな、他の能力を封じることが...」
そこまで言って、マドズは止まった。
横でラジャーンが怪訝そうにマドズを見つめる。が、マドズの言葉を思い返し、目を見開いてギルの方を向いた。
他の者も同じく。
マドズは手を叩いた。
「そうだ、忘れてた。お前の能力で...」
ギルにはマドズの言いたい事がわかっていた。
そうだ、自分でも忘れていた。
ギルは他の能力を封じる特殊なナーチャーだ。
この事態に唯一対抗できるかもしれない。
だが、ギルはマドズが何か言い出す前に激しく首を横に振った。
『マドズ、ギル、聞こえるか?』
クラドの声。全員ハッとした。
マドズが無線トランシーバーを口元へ持って行った。
「クラド、待ちくたびれたぞ。」
『良かった、二人とも無事だね。何処にいる?まだ三階にいるかい?』
「ああ、三階の部屋に隠れている。俺とギルと、他五人でな。外は操り人形で溢れてるよ。」
この音聞いてみな。と、トランシーバーを扉の方へやった。ガン・キューブの発砲音がクラドの耳に入っているだろう。
『はは、結構ヤバイみたいだね。今そっちへ向かっているから踏ん張ってくれ。もう直ぐ全兵士に同時連絡が入ると思うけど、先に言っておくよ。この最悪の状況を打破する作戦を。』
その言葉に、全員息を潜めて耳を澄ました。
ギルは何と無くだが、その作戦の内容が少しわかった気がした。
そしてクラドはそのギルの予想通りの事を言った。
『ギルは“封印のナーチャー”だ。操られた者達を救えるのは彼しかいない。ギル、聞こえているね?君の力だけが頼りだ。』
「あっ、はい...」
ギルは弱々しい声を出した。
ラジャーン、他四人の兵士達がギルを見る。
マドズは笑っていた。フルマスクに覆われていようとも、その嫌な笑みはギルの目にしっかりと入った。
クラドは続けた。
『嫌だ出来ないなんて聞かないよ。やるんだ。テストでも医療室でも君は発動出来た。それなら今回だって同じように出来るはずだ。』
『想像してごらん。シンやリリィ、カレン、そしてゾーイが操られ、俺やマドズに殺される姿を。とても耐えられないだろう?そうさせない為に、君が頑張るんだ。』
ギルの脳裏に、血塗れで横たわる仲間の姿が浮かんだ。
背筋に嫌な汗が伝う。そんな事は絶対に許されない。
ギルの表情が変わった。
力強いものに。
『取り敢えず、俺達がそっちに着いたら全員でギルの援護をする。ギルの気力が持つ限り順番に...』
そこで声は途切れた。
切れたのではない、もっと大きな音が被さり、かき消されたのだ。
扉がとうとう突破された。
「くそっ!」
飛び散る扉と壁の破片にマドズが目を細める。
全員立ち上がった。
ナルダの兵士が反射的にガン・キューブを撃ち、部屋の中にシールドを張る。
操られた兵士達はそのシールドに弾き飛ばされた。が、ガン・キューブとソード・レックを手に持ち、次々とシールドに攻撃する。
シールドは悲鳴を上げた。
ティナンタートの兵士が黄色いオーラを纏い、ボウ・ウィンダを発動させた。ラジャーンとマドズはディスターを発動させ、ガン・キューブとソード・レックを構える。
「おい、糞餓鬼!!!」
マドズが叫んでギルを見る。
が、ギルの姿を捉える前に、眩い光が視界を覆った。
シールドが破壊され、幾つもの閃光がシールドの向こう側へ飛んだ。
「おお...」
レイドールの兵士が感心の声を出す。
閃光は全ての操られた兵士達の身体を通過した。
兵士達の動きが止まった。
マドズ達は警戒を解かず、息を潜めて次の行動を待つ。
やがて兵士達はもぞもぞと動き出した。
まるで、夢から覚めたように。
「こ、これは...?」
「一体何を...?」
手に持った武器を不思議そうに見つめ、驚いて周りをキョロキョロと見渡す兵士達。
操りから解かれたようだ。
マドズが後ろにいるギルを見た。
ギルは震える腕で白いガン・キューブを構えたまま固まっていた。
肩で息をし、目の前の光景に一番驚いているようだった。
マドズは急に笑い出した。
武器をしまい、ギルへと歩み寄る。
そして、ギルの頭に右手を乗っけた。
「やれば出来るじゃないか、“ギル”。」
そう言ってフードの上からギルの頭を数回叩く。
ギルはゆっくりとマドズを見た。
満面の笑みを浮かべているようだ。
ラジャーン、他の四人の兵士が歓声を上げた。
「はは...」
ギルは自分のやった事が信じられなく、乾いた笑い声を出した。
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