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第二章

No.20 希望

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ファルアロンはラギスの手に陥ちた。

その事実が全員に伝わった頃には時既に遅し。

ファルアロンの兵士達は武器を構えるわけでも攻撃するわけでもなく、ただ他の兵士達に話しかけるように肩に触れていった。それが始まりだった。

警備についた兵士達は大混乱に陥っていた。





六階。

会議室へと続く通路。
先程まで争いの音が鳴り止まず響いていたが、今は静けさに包まれていた。


「あちゃー、皆言いなりになっちゃって。」


ゾーイは困ったように頭をかいた。
目の前には、数十人の兵士達。その全てが無表情で武器を構えている。


「何だこの能力は...くそっ。」


ゾーイの前に立つナルダの兵士が舌打ちした。残ったのはゾーイと、この男の二人だけだった。

男は黒色のガン・キューブを前に構えるが、その手は情けなく震えている。どうやらナーチャーではなく、一般兵らしい。
男は何もせずただ眺めるだけのゾーイに苛立った目線を向けた。


「お前、ナーチャーだろう!?それもセルビリア、ガーディアンの!何やってる、少しは役に立ちやがれ!」

「あー、はい。」


ゾーイは気の抜けた声で返事をした。
その呑気な様に男は更に苛立ち、また何か言いかける。


が、その前に視界に黒い影が過った。

その影は襲いかかって来る兵士達の身体を縫うように通過して行く。すると、兵士達の身体はみるみる生気を失い、茶色く萎んでいった。



「な、何だこれは...」


構えていたガン・キューブを下げ、男はその恐ろしく異様な光景に目を見開いた。

まるで地獄絵図だ。
倒れた兵士達は皆、骨と皮だけになり、絶命していた。


突如、胸に冷たいとても嫌な感触。

男は自分の胸を見た。
あの黒い影が、自分の胸を通過したところだった。

その場所から、冷たく禍々しい“何か”がザワザワと手を伸ばし、身体全体を侵食する。

男は恐る恐る、後ろにいるゾーイを見た。
ゾーイはその黒い“何か”を身に纏い、マスクの下でにっこりと男に笑いかけていた。

その姿がだんだんと霞む。

そして真っ暗になった。




「んー、やっぱ反応しちゃったか。」


ガン・キューブとソード・レックって便利だなぁ、とゾーイは誰に言うわけでも無く呟く。

その声は静まり返った通路に響いた。


「ごめんね、殺しちゃったけど...」


横たわり、ミイラ化したナルダの男にゾーイが感情の無い声で話しかけた。


「でもまあ、君は僕に“必要ない人間”だから。」


そう言って、またあの笑顔を向ける。
息絶え、男は何も反応しない。
ゾーイは男から視線を外し、会議室のある方へ歩いた。





会議室は防音され、中の音は何も聞こえない。
ゾーイは会議室の重い扉を開けた。


「誰だ!!」


途端に向けられる殺気。
兵士達は首領の前に立ち、ガン・キューブ、ボウ・ウィンダをこちらに構えていた。

ゾーイは両手を頭の横に持って行った。


「わあ、おっかない。」

「...ゾーイ!?」


グランスの驚いたような声。
クラドの後ろに隠れていたグランスが前に出ようとしたが、クラドがそれを制止した。


「無事なんだね?操られては...」

「やだな、クラドさん。僕はそんなヘマしないですよ。六階にいた他の人達は操られちゃいましたが、鎮圧しました。」


外、見てみます?とゾーイが扉の外に手をやった。 

クラドは暫くゾーイを見つめていたが、やがてガン・キューブの発動を解いた。
それを合図に他の兵士達も警戒を解き、武器を下ろした。


ゾーイはゆっくりと扉を閉め、改めて中を見渡した。

息絶えて転がるファルアロンの者達。
そして自分の足元にはラグビズだったもの(頭から順に溶け、今は下半身だけになっていた。)と、頭のない女の死体。目の前にはアラン。
その奥に、グランス、クレガ、ベルと、それを囲む各国の兵士。

左腕を失ったリャンカは、レイドールのヒーリス所持兵に治癒され出血は止まっているものの、苦痛に顔を歪めていた。


「ゾーイ...グランスの息子だな?ガーディアンになったとは聞いていたが、なかなかの実力者のようだ。外の状況はどうなっている?」


リャンカが痛みに耐えた声で言った。


「他の場所はわからないです。でも六階と同じことになっていると思いますよ。不意にファルアロン兵が他の兵士達に触れて、そこから皆襲いかかって来ました。」

「だろうな...早く解決策を見つけなければ。」

「解決策だと?操られた者は全て殺す他無いだろう。」


クレガが言った。ベルも同じ考えらしく、その言葉に大きく頷いている。
が、リャンカとグランスは難しい表情を浮かべて黙りこくった。


「それではラギスの思う壺だ。出来るだけ同盟国の兵士達を助ける方向で...」

「ではどうすればいい?こうして考えている間にも被害は拡大している。仕方が無いのだ。」


グランスの言葉にベルが返した。
リャンカもグランスも何も言わない。
ベルとクレガの言う通りだ。未知の能力を相手に、何も打つ手は無い。


「...連絡を回せ。操られた者は味方であろうと殺せと。」

「了解。」


クレガがナルダの兵士に言った。
兵士が無線を入れる。

が、クラドがそれを止めた。


「ちょっと待った。解決策はある。」


全員、驚いてクラドを見る。
ベルが眉を顰めて口を開いた。


「ガーディアンの副リーダー。何かいい策が?」

「はい。」

「言ってみろ。」


リャンカが言った。
ゾーイとアランは顔を見合わせている。
クラドは強い声で話し始めた。


「今回ゾーイと同じくガーディアンに入った新人に、特殊なナーチャーがいます。彼の能力は他の能力を封じるもの。彼の力で、もしかしたら全て収められるかもしれません。」


ギルの事だ。
クラドの言葉に、四人の首領達は顔を見合わせる。希望が見え、淀んだ空気が少し晴れた。
が、アランだけは違うようだ。


「...あいつは未熟だ。今回が初の任務だぞ?そんな大役を任せられる身分ではない。俺は賛成しかねる。」


アランが厳しい声で言った。
テスト時は運良く発動出来たものの、今回ばかりはその運に任せる事など出来ない。
それにまだ成人もしていない子供。そんな大きなプレッシャーには耐えられないだろう。

だが、クラドの心は変わらなかった。


「でも、それはゾーイだって同じだ。だけど彼はこうして窮地を乗り越え、活躍している。ギルにも同じように活躍してもらわないと。」


俺は彼の力を信じるよ。と、クラドは言った。
アランはまだ何か言い返そうと口を開いたが、少し考えて口を閉ざした。

四人の首領が頷き合った。
取るべき方向が定まった。


「試す価値はある、決まったな。だが、その人物がもう操られているのでは話にならない。何処にいる?」

「三階です。大丈夫、強力なディスターのナーチャーが共にいますから。彼はそう簡単には操られないですよ。」

「ではクラド、ゾーイ。ここはアランに任せて三階へ加勢に向かえ。」

「ティナンタートからアルナンタ。お前も行け。」

「ナルダからはヴァンをやろう。」


ベルとクレガの言葉に、金色のおかっぱの若い女アルナンタ、黒に青のメッシュを入れた短髪の男ヴァンが小さく頷いた。
クラドと共にゾーイの元へと駆け寄る。


「では。」


四人は会議室を出て、三階のギルの元へと向かった。



「我々はここで連絡を待とう。基地にいる他のレイドール軍に連絡を回せ。この建物一帯を包囲し、誰も外に出すなと。伝染を食い止めなければ。」

「了解しました。」


リャンカの言葉にレイドールの兵士が頷き、部屋の奥へと走って行った。
他の兵士達も、作戦を無線で伝える。

そんな慌ただしい中、クレガが口を開いた。


「...蘇りし怨念の者。ヒューラの言っていた事は全く意味がわからなかった。」


そうだ。色んな事が一斉に起きて忘れていたが、あのヒューラの言葉は謎に包まれたままだった。

ベルとリャンカは静かに首を横に振った。
グランスもそうしたが、意味あり気にアランを見つめた。アランは何も言わずに見つめ返したが、その目には珍しくわかりやすい感情が見えた。

(何も言うな。)
確かにそう言っていた。


「その者がいるせいで手出しが出来ないと言っていた。こちらで一番の実力者と言えばアラン、君だが?」


ベルが疑るような視線をアランに向けた。
リャンカ、クレガもアランを見る。
アランは三人に向かい合った。


「...知らんな。それにヒューラはもうその人物と話をした様な言い方をしていた。手を組もうと言い、そして断られたとな。俺はずっとお前達と共にいた。」

「ふむ...確かにそうだ。君を疑うのは失礼だったな。」

「南の大陸には四国以外にも沢山の国がある。強大な力を持った人物がいるのやも知れん。」

「...敵か味方かわかったもんじゃないがな。ナーチャーは各地で現れ続けている。今回の“封印のナーチャー”の彼の様に、特殊で強力なナーチャーは数知れず存在する。」


ベル、グランス、クレガが言った。

と、基地に連絡を回しに行ったレイドールの兵士が急ぎ足で戻って来た。
何やら血相を変えている。


「本部から大変な報告が入りました。」

「どうしたと言うのだ?」


兵士は青ざめ、四国の首領を見て震える声を出した。


「感知シールドに反応が。どうやら操られた兵士達が、建物の前に停めてあった車を奪ってセルビナ国とナルダ国の方角へ向かったようです。」

「何だと!?」


クレガとグランスが目を見開いた。
セルビナ国とナルダ国はレイドール国のすぐ隣にある。二国とも感知シールドを張っている為侵入者には気付くだろうが、同盟国の兵士であれば、警戒はしないだろう。

ここと同じ様に、伝染が始まる。



「今レイドール国のシールドに反応があったという事は、既に国境を越えている。急いで本部に連絡を回せ!」

「はい!」


クレガが声を張り上げ、グランスを見る。
グランスも青ざめてはいるものの、自分の様に慌ててはいなかった。クレガは眉を顰めた。


「セルビナ国は大丈夫なのか?アラン、早く国の本部に連絡を回さないと...」

「うちの心配はいらん。」


きっぱりと言い切るアラン。
クレガは驚いてグランスに視線をやった。グランスは静かに頷いた。
暫く考えるように黙ったが、やがてクレガは不敵な笑みを浮かべた。


「そうか、アランの存在が大き過ぎてすっかり忘れていたが、救世主はもう一人いるんだったな。」


眼鏡の下から鋭い眼光を飛ばすおさげの女を、クレガは脳裏に思い浮かべた。


「ナルダ国の本部にも連絡はついた。これでひとまず安心だろう。後は...」


彼の力を信じるだけだ。
顔も知らぬ少年に、四国の首領は希望を託した。














ーーーーーーーーーーーーーーーーー














「アランの馬鹿は何をしているのやら...」


キキが苛々しながら呟いた。

いきなり何の前触れも無く現れた女の姿に、二台の車は少し距離をあけて止まった。

中からレイドールの軍服を着た男三人が出て来くる。無表情だったが、キキの着る白い服がセルビリアのものだと気付き、三人とも不気味な笑顔を浮かべた。

近付いて来る三人を見て、キキはため息を吐いた。


「...全く美しくない。昔からあんたの能力は大嫌いだったのよ。それにゾーイ様に手を組もうなどと、無礼にも程がある。」


三人の一人がキキの目の前まで来た。
和かに、右手をキキの肩にやる。

が、触れる寸前で強力な力に吹き飛ばされた。
後の二人の間を通り過ぎ、車にぶつかる。車は大破し、更に数十メートル吹っ飛んだ。

残った二人の男が警戒し、ソード・レックを構える。

キキは流れるような動きで両手を前に出した。すると、二人の男の両側に目には見えないシールドが作られた。


「人間。己の無力さを知れ。」


冷たい声でそう呟くキキ。
そして両手を強く合わせた。
すると両側に張られたシールドの壁が素早く動き、キキの手と同じ様に一つに合わさった。

それに挟まれた二人の男は押し潰され、血を撒き散らしながら見るも無残な姿と化した。



「ああ、ゾーイ様...」


キキは空を見上げた。
薄暗い雲が晴天を覆っている。
雨が降りそうだ。


「この世界はあなたのものです。」

















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