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第二章

No.19 宣戦布告

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ファルアロン到着より少し前。

会議室の中は張り詰めた空気に包まれていた。

暗い色の壁には、大きな世界地図。
四つの大陸にわかれ、南の大陸にはレイドール、ナルダ、セルビナが並び、少し離れた地にティナンタートが。東の大陸にはファルアロンが。
そして北の大陸にはラギスの文字があった。

ラギス国には赤色のペンで印が付けられており、その周りにある五つの国、同じ大陸の少し離れた地にある三つの国にも、同じく赤い印が付けられている。


それぞれの国の首領の後ろで背を向けて立つのは、それぞれの国が誇る実力を持った兵士達。

真ん中に置かれた冷たいテーブルには、セルビナ国首領グランス、レイドール国首領リャンカ、ナルダ国首領クレガ、ティナンタート国首領ベルが着席していた。



「では次に、ラギス国の動きについて。」


手に持っていた資料を横に置き、レイドールの首領リャンカが言った。
横に立つリャンカの秘書らしき金髪の女が、次の資料を手渡す。他の三国の首領達にも順番に渡した。


「ジェルナ国も陥ちたか。」

「そのようで。」


クレガが低い声を出して頷く。
金髪の女が赤色のペンを持ち、壁の地図に近寄った。そして北の大陸の端っこの国に印を付けた。

その地図を全員が重苦しい顔をして見る。ラギス国はジェルナ国を含む九つの国を支配下に置いた。


「これで北の大陸の半分がラギス国の領土になった。昔から得体は知れぬとも、そんな事をするような国では無かったというのに。ヒューラが首領になってからどうもおかしくなった。あいつは世界征服でも目論んでいるのかね。」

「違いないだろう。こちらの南の大陸にはまだ手は出せないでいるようだが、それも時間の問題だ。このままではまた二年前の世界戦争が起きてしまう。」

「しかし、ラギス国は先進国ではあったが、我がレイドール国とさほど変わらんはずだ。何処にそんな戦力がある?それにあんなに離れた国にも手を伸ばしている。いったいどうやって...?」


三人の首領はグランスを見た。正しく言うと、グランスの後ろにいるアランをだ。
グランスは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「闇組織ガーロンを雇ったという情報は回っていますな?ガーロンは闇の世界を牛耳っている大組織。その力が加わった事がかなり大きい。が、不思議なのは陥ちた国に争いの跡が殆ど無い事だ。」


そこで切り、グランスは後ろにいるアランを見た。
アランはゆっくり前を向くと、マスクの下から覗く鋭い眼光を他の者達に向けた。


「俺は数ヶ月前、北の大陸、半年程前に陥ちた国フレグラへ調査に向かった。」

「ラギス国の兵士はいなかった。が、代わりにフレグラの兵士達がラギスの赤い軍服を着て、基地の旗もラギスの紋章に代えられていた。国民も何も無かったかのように生活していた。」


「そうか...やはりな...」


セルビリア以外の全員が眉を顰めた。
フレグラだけではない。これまでセルビリアのガーディアンが幾つかの国へ調査に出向いたが、全て同じ状態だった。


「一体どういうことだろうな。戦わず、完全に敵に屈したという事か?どの国も全てが?」

「それは無いだろう。ジェルナも他の国も、そこそこの戦力を持っていたはずだ。幾ら闇組織の力を借り、幾らラギス国が強大であっても、戦う前から屈する事はまず無いだろう。」


クレガの言葉に、ベルが返した。
暫く全員黙り込んだ。

国民までもが以前と同じように生活している。他国へと逃亡する者も、助けを求める者もいない。
皆、頭に浮かぶ答えは同じだった。が、それを認める事はどうしてもしたくなかった。

やがてリャンカが口を開いた。



「ラギス国はミジュラのナーチャーが多く存在する国だと聞く。強力なナーチャーによって操られている説が一番濃厚だな。」

「ううむ...何か裏があるように思える。」


「...強大な力を持つ協力者の影か。だが、それはこちらも一緒ではないか?」


クレガの言葉。
全員一斉にクレガを見た。誰の事を言っているのか、誰を見ているのかはわかっていた。

アランだ。
クレガはアランを見て不敵な笑みを浮かべた。他の者達も次々とアランへ視線を向ける。
アランは無言、微動だにしない。
グランスは少々気難しい顔をした。


「我らが救世主よ。君が二年前の戦争の時に現れていなかったら、今頃どうなっていたことか。」

「君は西の大陸から来たと聞いたが、ディスター所持者という事はこの大陸の国出身だな?故郷の危機に出てきてくれた、そうじゃないのか?」

「君一人で数千の兵士分の戦力を持つと聞く。表の世界だろうが闇の世界だろうが、今までその名が轟かなかった事が不思議だ。」


「...クレガ様、ベル様。詮索は。」


クラドが頭を軽く下げながら、やんわりと言った。


「...これは失礼。」

「詮索はしない約束だったな。」
 

グランスに軽く頭を下げる二人。
だが口元は笑ったままだ。

グランスにはわかっていた。
レイドール、ナルダ、ティナンタート、そしてファルアロン国がセルビナ国に同盟を求めたのは、アランの力を求めての事だと。

その他諸々の事情はあるにせよ、アランの事が一番の理由だと。それ程にアランの力は絶対的なものなのだ。


「まあ、過去がどうであれ...」


リャンカが静かに言った。


「今現在、我々の為に力を貸してくれている。その真実だけで十分だ。ワケ有りの者はどの国のどの組織にもいるものだからな。」

「セルビリアのガーディアン。レイドールの技術。ナルダのディスター、ヒーリス。ティナンタートのウィンダ。ファルアロンのミジュラ。我々の結束した力も強力なものだ。ラギスには負けていられん。」


力強い声で、リャンカは言い切った。
ベル、グランスが大きく頷く。
だがクレガだけは、眉を顰めて難しい顔をした。


「...ファルアロンが我々と同じ想いかどうかはわからんがな。今日ではっきりさせなければ。」

「...そうだな。」


クレガの言葉に、部屋は沈黙した。

その時、兵士達の無線が鳴った。




「グランス。連絡が入った。」


アランが低い声で言った。
グランスは頷いた。他の三人の首領も同じく。
内容は聞かずともわかる。ようやくファルアロン軍、ヘルシェア首領が到着した。

ファルアロンの兵士は持ち場へ。ヘルシェアと少数の兵士はラグビズの案内の元、この会議室へ。

空気が張り詰める。
四人の首領は顔を見合わせた。



「ファルアロンは唯一東大陸にある国だ。情報が回りにくくなるのは惜しい。そしてミジュラのナーチャーも使える。同盟解約は避ける方向を取りたい。」

「...出来るだけ、争いを生まない方へ持って行きたいところだな。」






ノック音。声。そして扉が開いた。

まず、案内役のラグビズが。次にファルアロン国首領ヘルシェア、最後に九人の兵士。

四人の首領達は立ち上がり、兵士達はヘルシェアに敬礼をした。

だがヘルシェアはその全てを無視した。
何も見えていないように、少しも立ち止まらず真っ直ぐにグランスの横を通り過ぎ、(クラドが右腕を少し動かせた。)席に座った。

ファルアロン軍の兵士がそれを囲むようにして立つ。ヘルシェアは少しも顔を動かさない。ずっと前を向いたままだ。

四人の首領は眉を顰めた。
どうも様子がおかしい。


「...ヘルシェア?」


怪訝そうにリャンカが話し掛ける。
するとヘルシェアは少し肩を震わせた。

何の前触れも無く、いきなりヘルシェアが隣で立ち竦んでいるグランスの方を向いた。
誰かに頭を掴まれ、強引に向けられたような動きだった。


「グランス。」


ヘルシェアが言った。
グランスは無言で席に座り、ヘルシェアと目線を合わせた。


「君は戦争の後、養子を迎えたそうだが。」

「ああ、前に話したね。」


出来るだけ和かにグランスは言った。
リャンカ、クレガ、ベルは警戒しながらも着席した。
ヘルシェアは周りの事などお構い無しに、ただグランスだけを見ている。



「霞んだ青の髪の少年だったね?」

「そうだ。」

「赤い目の?」

「ああ。」

「その子はセルビリアに?」

「そうだ。」

「ここに来ているんだな?」

「...そうだが。」


単調に質問を並べて行くヘルシェア。
アランとクラドはそんなヘルシェアから目を離さなかった。二人だけでは無い、他の全員がそうだ。

ヘルシェアはグランスの答えを聞き、そうか。と小さく呟いて前を向いた。
その間、ファルアロンの兵士九人はまるで動かない。明後日の方向を向き、固まったままだ。

さすがに奇妙だ。おかしい。



「ヘルシェア、一体...」


リャンカが言いかけた。

が、勢い良くヘルシェアが立ち上がり、リャンカは繋がる言葉を飲み込んだ。
ヘルシェアの座っていた椅子が大きな音を立てて倒れる。

咄嗟にクラドはヘルシェアとグランスの間に立ったが、武器は構えなかった。

レイドールの兵士達はガン・キューブをヘルシェアとファルアロン軍の兵士に構えた。
ファルアロン軍の兵士九人も同じくそうしていた。



「レイドール、ナルダ、ティナンタート、そしてセルビナの諸君。」


ヘルシェアが言った。
強い声だが、棒読みだった。


「身の程知らずな者どもよ。お前達がどう足掻こうとも、この世界は私の物となる運命を辿っている。」


ヘルシェアの口は不自然に動かされている。
涎を垂らし、白目を剥いていた。
そのとても不気味な姿に、首領達は立ち上がり、兵士達が前に出た。



「誰だ貴様...!?」


ベルが言った。
ヘルシェアはベルの方を向いた。


「それはもう気付いているはずだ。」


そう言って笑みを向ける。
ベルは唇を強く噛んだ。
最悪の事態が起きた。リャンカ、クレガ、グランスもベルと同じく真っ青だ。


「ヒューラ...ラギス国め。」

「ご名答。」


楽しくて仕方が無いという様な声色だが、パチパチと短く拍手したその動作には一切感情がこもっていない。


「不気味な姿で悪いね。どうもヘルシェアが抗ってくるもんで、自然な動きが取れないのだよ。流石はファルアロン国を率いる者。“心”が強い。」

「...やはり我々の予想は当たっていた。操られている。ミジュラのナーチャーの仕業だ。そしてヒューラ、お前はナーチャーではないはずだ。闇の協力者がいるな。」


「それは近いようで、とても遠い。」


クレガの言葉に、ヘルシェアが首を横に振りながら答えた。随分早く振ったので、涎がテーブルや床に飛び散った。

ヘルシェアは続けた。



「貴様達の堅い脳味噌では到底考えられないような真実だよ。だがそれをわざわざ教えるつもりは無い。今日は挨拶に来たのだ。そして宣戦布告を。」

「宣戦布告だと?」

「ああ、そうだとも。」



リャンカ、クレガ、ベルが顔を見合わせる中、グランスが誰にも気付かれないように後ろにいるアランに視線を向けた。
アランは何も言わず、何も動じない目でヘルシェアを見つめている。



「蘇りし怨念の者よ。」


ヘルシェアは天を見上げ、両手を広げた。


「きっと目的は同じであろうが、それを手にするのはこちらの方だ。降伏するのであれば仲間に入れてやろうと親切に言ってやったというのに、お断りだと?私の力を甘く見るな。」

「この世界は私のものになる。戦力も土地も何もかも全て私の方が上だ。今はまだ完全体では無い為手出しは出来ないが、それも時間の問題。貴様はそこでただ見ているがいい。」



言い切り、ヘルシェアは両手を広げたまま止まった。

全員、固まったまま動かない。
言っている意味も何もかも理解できなかった。

ヘルシェアは両手をパタリと閉じた。
そして後頭部を思い切り押された様に顔を前に戻し、不敵な笑みを浮かべる。


「...それでは諸君、踊りたまえ。」


そう言ったと同時に、ファルアロンの兵士が一斉に動いた。

ガン・キューブを四国の首領に向けて撃つ。ソード・レックを手に四国の兵士達へと襲いかかる。


クラドが赤黒いオーラを纏った。
ファルアロンの兵士が使う武器は通常のもの。全てディスターの能力に取り込まれ、通らない。
その後ろでアランがグランスの肩を掴み、強引に後ろへ引っ張った。グランスは勢い良く壁にぶつかった。

レイドール、ナルダの兵士の数人は青色のオーラを纏った。ガン・キューブをリャンカ、クレガ、ベル、グランスに向かって撃つ。四人は小さなシールドに包まれた。


「...どうする?殺すか?」


襲いかかる攻撃を避けながら、アランが静かに言った。
その問いにグランスは顔をしかめただけだったが、ベルが代わりに答えた。


「ファルアロン国は手遅れだ。やむを得ん。」

「ティナンタート兵、ボウ・ウィンダを。」


その言葉にティナンタートの兵士達が頷いた。
黄色いオーラを纏い、武器を発動する。光り輝く弓だ。

それをまるで矢があるかの様に構え、放つ。
すると突風が飛んだ。目の前のファルアロンの兵士二人が吹き飛び、後ろの壁に激突して息絶えた。

レイドール、ナルダのナーチャーが前に出た。ディスターのオーラを纏い、ガン・キューブを撃ち込む。ソード・レックを振るう。
ファルアロンの兵士達はそれを避けたが、数人が避け切れずに傷を負った。


「クラド。俺は連絡を回す。お前がやれ。」

「了解、リーダー。」


クラドは袖に仕込んでいたソード・レックを最後の兵士に突き刺した。
腹に穴が空き、次第にそれが大きくなる。

倒れ、溶け出す兵士の横を走り抜けながら、クラドは通常のソード・レックを発動させた。


「ヘルシェア様、申し訳ございません。」


そう呟きながら、立ち竦むヘルシェアの腹に突き刺した。

ヘルシェアはゆっくりと、前のめりに倒れた。


「...大変なことになってしまった。」


部屋を見渡し、グランスが苦い顔をした。
ディスターの攻撃に溶かされ、肉の焼ける臭いが立ち込める。


「外はどうなっている?」

「大混乱のようですね。でも、四軍が集まっているのですし、すぐに片付くでしょう。」


リャンカの問いにレイドールの兵士が答えた。




「...違う...」


辛うじて聞こえた、弱々しい声。
全員、声の主を見た。

ヘルシェアだ。
力を振り絞り顔を上げ、目の前にいるクラドを見つめた。


「幻覚ではない...これは...」

「ヘルシェア様!」


レイドールのヒーリス所持兵がヘルシェアへと駆け寄った。
が、ヘルシェアは必死に首を横に振った。


「駄目だ...触ってはいけない。これは...」


最後は、言葉にならなかった。
ヘルシェアは絶命した。



「何だ?ヘルシェア様は何を伝えようと...」


駆け寄って来た兵士とクラドが顔を見合わせた。
それは誰にもわからなかった。






「ぐあっ!!」

「リャンカ様!!」


後ろから叫び声が聞こえ、振り返った。

シールドは既に解かれている。
秘書の女は頭が、リャンカは左腕が吹き飛んでいた。

そして攻撃した人物を見て、全員目を見開いた。



「ラ、ラグビズ!?」


無表情でガン・キューブを構えるラグビズの姿。
倒れ込むリャンカにレイドールの兵士が駆け寄り、急いで治癒に当たる。
もう一人が戸惑いながらもラグビズとリャンカの間に立った。

ラグビズはレイドールの兵士だ。だが、間に立った仲間に何の躊躇も無くまたガン・キューブを撃った。
兵士は咄嗟にヒーリスのソード・レックを発動し、その攻撃から身を守った。

が、シールドは不完全だった。
兵士の胸は浅く抉れ、血を吹き出しながら後ろ向きに倒れた。


「な、何故ラグビズまで!?」


ラグビズは銃口をベルに向けた。

が、アランがラグビズの前に立ち、攻撃はディスターのオーラによって取り込まれた。



「成る程、これでヘルシェアが伝えようとしていた事が明らかになったな。」


武器を持たぬまま、右手をラグビズの顔の方へ向ける。するとラグビズは一人でに、顔から溶け出して行った。

倒れ、もがき苦しむラグビズを見下げながらアランが言った。


「触ると伝染する。こいつはヘルシェアが到着した際、他の奴らと同じように握手をしたんだろう。」


「何...!?じゃあ外は...」



大混乱。
まさに、その通りの状態になっていた。
















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