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第12話
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野口らは大砲というものを直に触れる事も見る機会も余りなく、使用経験の無いものばかりであった。
上下縦横あらゆる角度から見ても当然の如く理解できよう筈もない。筒状になった部分の先端から込めた弾薬が発射される事くらいは想像できるものの、その発射に行き着くまでの作業が全くの未知であり彼等は途方にくれた。
その時である。砲兵の生き残りが炎上する営舎から城外へ逃れようと右往左往しているではないか。
隊士らはこれを逃すなと数人が兵士の下へ躍り出た。
「待て!」
「逃げれば叩き斬るぞ!」
怒声を発し迫り来る敵に、砲兵は遂に丸腰のままどうするも敵わず両手を上げて立ちすくんだ。
彼等は砲兵から大砲の装着を一通り聞き出して、今度は意気揚々歩兵営をめざしたのである。
「よし!この門を一気に砲撃で破り突破するぞ」
太田黒加屋両帥は大砲を運ばせると、怒号と共に営門目掛けて発射を命じた。ドン!と凄まじい轟音が響き中で敵兵達のざわめきとバリバリっと脆くも門が破れ朽ちる音が聞こえる。
太田黒は今こそと再び刀の切先を鋭く営内に向け突き出した。
「富永隊に後れを取るな!皆一丸となって鎮軍に向かえ!!」
これに続き加屋も天高く刃を向け、
「我等は神兵ぞ!何も恐るるにあらず!!続け!」
と先陣きって営内に攻撃を開始したのである。
この混乱状態に乗って再び大砲を打ち鳴らさんとした時、ふと問題が生じた。
火薬を詰め、手順通りに発射できる筈の大砲が先程と打って変わって沈黙したままになっている。砲手を勤めていた隊士もこれには首を傾げている。何故か。これを以って速やかな同志との合流を図るつもりでいただけに、動かぬのは痛手である。
「ええい!この鉄屑が無くとも我等には刀だけで十分!捨て置け!」
太田黒は大砲を蹴りだすと、刀や槍を持って再び馬上より攻撃を進めた。
この頃、歩兵営では敵は寡勢なりと冷静さを取り戻し、小銃部隊が着々と戦場へ台頭しつつあった。
熊本城二の丸歩兵営は敬神党一党の主力部隊と、鎮西鎮軍二千余の大部隊とが真っ向からぶつかり合う激戦区と化していた。
太田黒率いる本隊は富永隊にいち早く合流し、激しい斬りこみを断行していた。
烈士等の命を惜しまぬ武士道精神は鎮西の部隊を追い詰めていたかに見えた・・・しかし・・・。
『『敵は寡勢なるぞ』』
この怒声が響いたその瞬間、事態は急変する。
帯剣部隊はみるみる潮引きの如く後退して行ったのだ。
(これは・・・)
加屋は中軍に位置しながらも、戦況を常に見極めんと目を凝らし敵の動静を覗いっていた。
確かに、自軍は強固な意志の元敵兵を飲み込まん勢いを持つ強さがある。
然しながら、あれだけ大軍を擁し近代兵器を保有する鎮軍が情けなくも小銃一つ用いるも無く引き上げるのは何か不自然である。
何かあると思うも、この勢いを止めてしまえばそれこそ敵を勢いづかせ敗走の憂き目に遭いかねない。
後退するのが戦に於いて、如何に難しいものか・・・そう考えると到底この流れは崩せぬものになる。
已む無く、加屋は大小両刀を引っさげて只管に前進するのであった。
明治政府が抱える熊本鎮西鎮台・・・
彼等の擁する近代兵器は大砲、高性能の小銃など当時の最新鋭の装備である。
対する、敬神党一党は昔ながらの甲冑に刀槍に弓矢等を携えての井出たち。戦術はなく、ただ志と信奉する神慮に沿った極めて純粋な精神闘争である。
武力という点で見ても、攻撃力は鎮西軍に劣るものであった彼等がこれだけ敵勢力を追い込むには夜陰急襲と武士道精神に則った死を恐れぬ斬り込みを断行する他なし。
烈士等は、小銃に次々斃れ行く同志の屍を踏み越えて、尚その銃口の先を目指し突進していったのである。
「殺れ!!賊徒共は残らず掃討せよ!!」
鎮台の営兵達は、弾薬庫を開いては銃に弾を込め銃弾の雨を波状に仕掛けていく。
烈士らは次々と斃れ、そしてまたそれを乗り越え切込みを繰り返す。
戦が長引くにつれ、敬神党と鎮台の優劣が見え始めてきた。
それでも、烈士等は太田黒加屋両帥健在であり以前指揮はその強靭な精神を以って失われる事なく保たれていた。しかし・・・。
「・・・無念!!」
加屋は己が傍で戦い続けた同志の影が崩れるのが見えた。
白髪の老将であり、彼にとって一党の長老、大先輩である斎藤求三郎である。
首へ被弾した様で、大量の血が流れ出ている。
斎藤はもはや動くも話すもかなわず、口を開けばそこからむせ返るような血が滴り落ちるものであった。
「斎藤先生!」
加屋が名を叫ぼうとも、もはや斎藤からの返答は無く、その体は抜け殻の様に崩れ落ちるのだった。
そうする間にも、野口知雄や福岡応彦、内尾仙太郎他多くの烈士らが銃弾に倒れた。
そして、ついに敬神党の指揮を左右する事変が起るのである。
上下縦横あらゆる角度から見ても当然の如く理解できよう筈もない。筒状になった部分の先端から込めた弾薬が発射される事くらいは想像できるものの、その発射に行き着くまでの作業が全くの未知であり彼等は途方にくれた。
その時である。砲兵の生き残りが炎上する営舎から城外へ逃れようと右往左往しているではないか。
隊士らはこれを逃すなと数人が兵士の下へ躍り出た。
「待て!」
「逃げれば叩き斬るぞ!」
怒声を発し迫り来る敵に、砲兵は遂に丸腰のままどうするも敵わず両手を上げて立ちすくんだ。
彼等は砲兵から大砲の装着を一通り聞き出して、今度は意気揚々歩兵営をめざしたのである。
「よし!この門を一気に砲撃で破り突破するぞ」
太田黒加屋両帥は大砲を運ばせると、怒号と共に営門目掛けて発射を命じた。ドン!と凄まじい轟音が響き中で敵兵達のざわめきとバリバリっと脆くも門が破れ朽ちる音が聞こえる。
太田黒は今こそと再び刀の切先を鋭く営内に向け突き出した。
「富永隊に後れを取るな!皆一丸となって鎮軍に向かえ!!」
これに続き加屋も天高く刃を向け、
「我等は神兵ぞ!何も恐るるにあらず!!続け!」
と先陣きって営内に攻撃を開始したのである。
この混乱状態に乗って再び大砲を打ち鳴らさんとした時、ふと問題が生じた。
火薬を詰め、手順通りに発射できる筈の大砲が先程と打って変わって沈黙したままになっている。砲手を勤めていた隊士もこれには首を傾げている。何故か。これを以って速やかな同志との合流を図るつもりでいただけに、動かぬのは痛手である。
「ええい!この鉄屑が無くとも我等には刀だけで十分!捨て置け!」
太田黒は大砲を蹴りだすと、刀や槍を持って再び馬上より攻撃を進めた。
この頃、歩兵営では敵は寡勢なりと冷静さを取り戻し、小銃部隊が着々と戦場へ台頭しつつあった。
熊本城二の丸歩兵営は敬神党一党の主力部隊と、鎮西鎮軍二千余の大部隊とが真っ向からぶつかり合う激戦区と化していた。
太田黒率いる本隊は富永隊にいち早く合流し、激しい斬りこみを断行していた。
烈士等の命を惜しまぬ武士道精神は鎮西の部隊を追い詰めていたかに見えた・・・しかし・・・。
『『敵は寡勢なるぞ』』
この怒声が響いたその瞬間、事態は急変する。
帯剣部隊はみるみる潮引きの如く後退して行ったのだ。
(これは・・・)
加屋は中軍に位置しながらも、戦況を常に見極めんと目を凝らし敵の動静を覗いっていた。
確かに、自軍は強固な意志の元敵兵を飲み込まん勢いを持つ強さがある。
然しながら、あれだけ大軍を擁し近代兵器を保有する鎮軍が情けなくも小銃一つ用いるも無く引き上げるのは何か不自然である。
何かあると思うも、この勢いを止めてしまえばそれこそ敵を勢いづかせ敗走の憂き目に遭いかねない。
後退するのが戦に於いて、如何に難しいものか・・・そう考えると到底この流れは崩せぬものになる。
已む無く、加屋は大小両刀を引っさげて只管に前進するのであった。
明治政府が抱える熊本鎮西鎮台・・・
彼等の擁する近代兵器は大砲、高性能の小銃など当時の最新鋭の装備である。
対する、敬神党一党は昔ながらの甲冑に刀槍に弓矢等を携えての井出たち。戦術はなく、ただ志と信奉する神慮に沿った極めて純粋な精神闘争である。
武力という点で見ても、攻撃力は鎮西軍に劣るものであった彼等がこれだけ敵勢力を追い込むには夜陰急襲と武士道精神に則った死を恐れぬ斬り込みを断行する他なし。
烈士等は、小銃に次々斃れ行く同志の屍を踏み越えて、尚その銃口の先を目指し突進していったのである。
「殺れ!!賊徒共は残らず掃討せよ!!」
鎮台の営兵達は、弾薬庫を開いては銃に弾を込め銃弾の雨を波状に仕掛けていく。
烈士らは次々と斃れ、そしてまたそれを乗り越え切込みを繰り返す。
戦が長引くにつれ、敬神党と鎮台の優劣が見え始めてきた。
それでも、烈士等は太田黒加屋両帥健在であり以前指揮はその強靭な精神を以って失われる事なく保たれていた。しかし・・・。
「・・・無念!!」
加屋は己が傍で戦い続けた同志の影が崩れるのが見えた。
白髪の老将であり、彼にとって一党の長老、大先輩である斎藤求三郎である。
首へ被弾した様で、大量の血が流れ出ている。
斎藤はもはや動くも話すもかなわず、口を開けばそこからむせ返るような血が滴り落ちるものであった。
「斎藤先生!」
加屋が名を叫ぼうとも、もはや斎藤からの返答は無く、その体は抜け殻の様に崩れ落ちるのだった。
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